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utte interview vol.

好きなら見失うことはない

アーティスト 平田優介インタビュー
Yusuke Hirata, an artist,
utte interview
Live Your Life (if you like it)
March 2009
好きなら見失うことはない

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好きなら見失うことはない

この冊子は、クリエイター作品の販売ウエブサイト
「utte」に掲載するクリエイター×ウッテリエ・インタ
ビューです。気鋭のクリエイターの創作世界観を、ウ
ッテリエ(utte+sommelier=クリエイティブ界の
ソムリエの造語)が 2000 字から 2500 字でぎゅっ
と伝えます。

2009 年 3 月にとりまとめた画家平田優介さんとのク
リエイティブなインタビューです。彼の世界観、ヴィ
ジョンをしっかり伝える一文になりました。お楽しみ
ください。

皆さまからのコメントが励みになります。お手紙は
utte の電子メールアドレスまでお願いいたします。
utte@utte.co.jp

utte ブックレット制作責任者 郷好文
同 村山桜子

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好きなら見失うことはない

平田優介 utte ウエブサイト
http://www.utte.co.jp/joomla/content/view/816/54
/
utte ウエブサイト
www.utte.co.jp
平田優介ウエブサイト
http://www.flexible-art.com/

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好きなら見失うことはない

平田優介(ひらた ゆうすけ) 画家/アーティスト

自己紹介

時にファンタジーで時にミステリーで時にハードボイ
ルドに。
一つの世界に縛られないドラマチックな世界それが
flexible-art だ。

経歴
1977 年生まれ
2000 年 グラフィックデザインをメインに CD ジャケ
ットやポスターデザインなどを手掛ける。
2005 年以降 表現の場をキャンバスに変え油絵を再開。
現在も創作活動を続ける。
たまにサックスも吹く。

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好きなら見失うことはない

好きなら見失うことはない

 「アースガーデンだから、ああいう人も来るんだな」わ
たしはこう呟いた。

 utte はこの春先にイベント“アースガーデン冬 ”に出


店し、そこでクリエイター作品を販売した。ブースを離
れて会場内をうろうろしていたわたしは、入場ゲート近
くで“ああいう人”を見かけた。背が高くて細いシルエッ
ト。黒い帽子からずんずんと長い髪がおりて、ヒゲをた
くわえて、そこから身体もおりてきている。足元は編み
上げのブーツできゅっと。ちょうどこんな人だ。

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好きなら見失うことはない

 アースガーデンは地球環境保護やエコをテーマに、手
作りやクラフトを推進しようというイベント。良いこと
だけれど、一般的な世間サマからすれば“変わっている”
人が集うイメージがまだまだある。そこにこんな男性が
現れたので、図らずもわたしも世間サマの心武装をして
しまい、“ああいう人”と呟いてしまった。

 ところが-その彼は、入場ゲートからまっすぐ utte の
ブースにやってきた。

 実は彼は utte が登録のお願いをして、アースガーデン


冬で逢いましょう!と約束をしたクリエイターの平田
優介さんだった。別の日に場所を utte のオフィスに変え
て、お話をうかがった。

【パンとザリガニとキャバレーからの再出発】
 「2006 年に“絵”を再開したんです」今が生涯で一番髪
が短いという彼はこう話
しだした。

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 この作品『パンとザリガニとキャバレー』には平田さ
んの 2005 年までの半生が詰まっている。誕生、生きざま、
生活を一枚の絵に封じ込めた。パンは日常生活や“食い
ぶち”を表し、ザリガニは小石川植物園で釣り上げた幼
少時代の体験。キャバレーとは大人の男女だという。フ
ム、愛や結婚とはキャバレーなのか。たしかに売れっ子
は席から席に飛びまわって愛敬を振りまき、男は娘に熱
をいれて囲おうって思う。かなり似ている。

 この作品、発表も販売も前提ではない。かといって趣
味という雰囲気でもない。シュールな独自の世界観と表
現がある。なぜ彼は絵を再開したのだろうか?

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 「アタマのアトリエの在庫から溢れて、追いつかない
から」

 描く題材が在庫から溢れだしてくる。だから“在庫処
分”するしかない。処分するには“手”で描かないととて
も追いつかない。

 
 手で描く前に彼は電子ペンで絵を描いていた。2000
年頃から CD ジャケットのデザインを多数手がけた。ジ
ャズの独立系レーベルからの依頼。絵筆ではなくパソコ
ンとペンタブレットを使って描いた。“デジタルはキレ
イ過ぎる”から、わざと曖昧な線を作ってアナログテイ

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ストを出した。それが彼なりの音楽絵画表現だった。

 だがペンタブレットでは手間がかかり、アタマのアト
リエの“在庫処分”にとても追いつかなくなった。これは
もう手を使って描くしかない。だから再び絵筆を握った。

【花のウラに見えるもの】
 モノ心ついた頃からずっと絵を描いていた。ぐれてい
た中学時代でも美術クラブだけは真面目にやった。ある
とき課題が出された。花の写生。植物を描くのは美術の
イロハ、静物画の入門だ。クラブの生徒たちは細密に描
いたり、自由に描いたりいろいろだったが、共通してい
たことがあった。みんな花を斜めであろうと正面であろ
うと、前から観ていた。だが平田さんだけ違った。

 彼は花をウラから描いた。

 裏側から写生した花の作品は、クラブの先生から褒め
られて、コンクールに出品された。日本国内のコンクー
ルを勝ち抜き、海を越えてドイツのコンクールまで運ば
れた。作品は戻ってこなかったが手元に賞状が届いた。

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 そこから彼の絵画観、いや世界観が変わった。“Vision
を変えよう”。視点を変えて独自の絵画世界を創る。注目
したのが地べたを這うアリだ。アリの眼から世界を観る
とまったくちがう vision が生まれるはずだ。

【奇遇な構図とスラムダンク】
 作品『メアリ』の女を見つめよう。見つめられてみよう。
すると眼に見えてきたのはアリだった。

 『メアリ』(部分)

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 『メアリ』(部分)

 眼とアリの“奇遇”な組み合わせ。あるキツいマスカラ
の女の“眼ヂカラ”に圧倒された。まばたきからアリがこ
ぼれてくるのが観えた。だが眼以外の部分では、割と緩
やかに描かれている。肌、髪、口元、あご・・・全体がイエロ
ーのストリームで緩やかに描かれ、眼の部分で急にタッ
チが変わる。ジャズやロックの演奏の転調のように聴く
者を揺らす効果。

緩やかなタッチの流れに、奇遇な組み合わせ。平田
Vision を構成するポイントがありそうだ。余談ぽく聴き
だしたが余談ではなかったのが、彼が漫画『スラムダン
ク』信者だったことだ。この All Time masterpiece(時
代を超えた傑作)には、バスケットプレーヤーたちの斬

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新な構図が多数ある。余談の余談だが、主人公桜木花道
のデビュー戦に、“ 桜木ビジョン”というエピソードがあ
る。彼が試合で緊張のあまり、小さな視界しか見れなく
なった状態。

“平田 Vision”は桜木ビジョンとちがって、アリの眼で人
間世界の構図を再構成する見通しの広さがある。

【好きなら見失うことはない】
 そして作品『愛情の縫合』はかなり大胆だ。

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 『愛情の縫合』

 雄鶏におっぱい!シュールだなあ。黄身は旨そうだと
呟いてもいい。待てよ、雄鶏は“うふふな結合”なのか?
有精卵は子どもだな?と頷いてもいい。どう解釈しても
いいけれど、卵のカゴと雄鶏を結ぶ“赤い糸”を見逃すと
まずい。“親子のつながり”や“親のエゴ”に想いをはせ、
結合とは何なのか?とだんだん平田ワールドの深みに
ハマっていく。

 ワケがあり、美大などの美術教育コースには進まなか
った。だが彼の場合、肩書きや世間ウケ、師弟ヒエラルキ
ーを気にすることはない。ちょいと遠回りをしたけれど
溢れることを描きだしたのだから。

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好きなら見失うことはない

 「好きなら見失うことはない」

 平田 Vision のまなざしで、彼はそう語った。

   

2009 年 3 月 10 日
文・郷
写真・村山

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