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アートの持つプリミティブな力を吹き込む
アーティスト イケヤシロウ
インタビュー
SHIRO IKEYA, Artist,
utte interview
Inspiring the Primitive Power in Art
July 2009
アートの持つプリミティブな力を吹き込む
この冊子は、クリエイター作品の販売ウエブサイト
「utte」に 掲載するクリエイター×ウッテリエ・インタビ
ューです。気 鋭のクリエイターの創作世界 観を、ウッテリ
エ(utte+sommelier=クリエイティブ界のソムリエ
の造語)が 2000 字から 2500 字でぎゅっと伝えます。
皆さまからのコメントが励みになります。お手紙は utte
の電子メールアドレスまでお願いいたします。
utte@utte.co.jp
utte ブックレット制作責任者 郷好文
同 村山桜子
イケヤシロウ utte ウエブサイト
http://www.utte.co.jp/joomla/content/view/960/54/
utte ウエブサイト
www.utte.co.jp
イケヤシロウ HP
http://www.whambamworld.com/
ブログ http://www.whambamworld.com/blog/
イケヤシロウ /アーティスト
自己紹介
イラストやファッション関係の活動や仕事を主にしている
自分ですが、最近新しい試みとして自分の制作活動の中に
アート雑貨としてハンドメイドの絵皿や陶器など、自分の
アート作品として実際に生活の中で楽しんで使ってもらえ
る作品などにも精力的に取り組んでいます。
経歴
アートの持つプリミティブな力を吹き込む
「毎日が冴えない日々でしたね」
デザイナーと呼ばれるのにちょっと抵抗があるそうで(そ
のワケは後で語ってくれた)、その作品イメージから“くら
しをブライトアップするアーティスト” と表現しておきた
い。そのイケヤシロウさん、のっけから、高校時代は冴えな
かったと語り出した。
「志が高くないティーンエイジャーというか、毎日冴えなか
ったなあ。自分がどんなヤツなのかとか、生きるってなんな
のか、どう生きようかとか、さっぱり考えないで。何かやり
たいとか、なかったんですよ」
へえ!そうなんですか?でも 100%真に受けられない。な
ぜって、イケヤさんのアートデザインに思い入れが深いフ
ァンは多いし、かくいうわたしたちも、彼が段ボールから出
した絵付けデザインの器や皿に惹かれました。シンプル&
プリミティブな 絵柄、すごく冴えています。
モチーフはアフリカンアートやメキシコ遺跡の手描きの絵
に通じるところがある。コウモリ、ネコ、オオカミ、ドクロ、
骨・・・。プリミティブなモチーフたちからは、感情をあら
わな表情は見えてこない。その代わり“生きているさ、オレ
たちは”という、じわっと生命力を内側からにじみだす。
【なぜグラフィックデザインを?】
今は伊豆の国市となった風光明媚な静岡県大仁町で、これ
といって欲望もなく冴えない日々を送っていたイケヤさん、
唯一力をイレこんだものがあった。それはバンド演奏。ベー
スギターを受け持ち、ビートルズやローリングストーンズ
など 60 年代の洋楽サウンドにハマった。 75 年生まれにし
ては、珍しいテイストでしょう。
レコードのピックアップを上げたのか、はたまた下ろした
のか、冴えない高校の日々から、米国ボストンのセーラム大
学に入学。
「日本にいても仕方ないなというぼんやりとした
思いでした」 わかるようなわからないような。1 年目の教
養コース後、メジャー(専攻)に選んだのが“グラフィック
デザイン”。なぜグラフィックデザインを?
「絵を描くのが特別好きではなかったんです。そもそもグラ
フィックデザインとは、グラフ用紙のことかと思ってまし
た」(爆笑)。
何となく選んだグラフィックデザインだったが、1995 年前
後、パーソナル・コンピューティングがブームになり、そし
てインターネットの爆発前夜だった。他の授業は冴えなか
ったが、グラフィックデザインの授業だけはイレこんだ。そ
の自由さが気に入った。
【仕事とエゴ】
当時、目指したい“アート・プロダクション”があった。それ
は Jazz レーベルの『Blue Note』。数多くのアルバム、とりわ
けブルースの大御所 Jimmy Reed のジャケットの写真、レ
イアウト、タイポグラフィに惚れた。いやアルバム自体だけ
でなく、Blue Note という制作スタイルが凄いと思った。
「アートとしても仕事としても、エゴが高いレベルで一致し
ているのが凄い。アイデアも制作も、エゴイスティックにや
りつつ、商品として求められていることも実現している」
志は上がり、卒業後は NY ブルックリンを目指した。プラク
ティカルトレーニング(就職活動できるビザ)期間に広告
会社などで働いた。日本の仕事で『地球の 歩きかた』のフロ
リダ・ディズニーランドの地図を描いた。もちろん行った
こともなかった(笑)。NY と東京のカルチャーをバイリン
ガルで紹介するフリーペーパー『Educated Community』
にも参加した。
海外と日本を往復し、ファッションやデザインの仕事をす
るうちに、“単なる仕事以上”の自分の表現やアート的な欲
求を求めていくようになった。
依頼された仕事の中だけではなかなか本当の意味で 100%
自分の表現はむずかしいなと感じて、自身のブランド
Wham Bam をはじめ、数多くの著名ブランドとコラボ、個
展や作品制作活動を精力的に行う。その中での活動の一つ
として 2007 年には絵本『ロンとふしぎなスニーカー』(リ
トルモア)も出版。
【2 つの突破口】
「モノに、消耗品以上の思いいれを持つ人には、つらい時
代になりましたね」
08 年のリーマンショックのあと、ユニクロ、フォーエバー
21、H&M といった低コスト・ノン個性のカジュアルが幅
をきかせるようになった。少品種少量生産のアパレルはど
こかに消えた。時代はイケヤシロウさんにだけでなく、あら
ゆるアーティストに厳しいものになった。だが突破口は割
と身近にある。
「今後、自分がもっと本当に自由でより高い自分自身のテイ
ストとオリジナリティーを作品や商品に持たせていければ
と思っています。なおかつそれが世間のニーズや評価とク
ロスできれば最高です。
世の中のファッションやトレンドカルチャー、新しいもの
を飲み込んでは動いてゆく。トレンドを意識することもあ
るけれど、あえてそれは横目で見るくらいにして、夢はもっ
と根本的なところで、表現するスタイルのものを作ってい
けたらと感じる。
ひとつは自分が“デザイナーかどうか”考えること。
「いいデザイナーになるって自分には向いてないなってお
もったんです」
家を建てる大工のように、施主の要望を聞き予算をにらん
で上手に素材を組み合わせ、住まい手のために作るのが苦
手だと語る。
「自分がああしたい、こうしたいが先行してしまうんです。
自分の中ではいいものが作りたいっていう気持ちなんです
けどね。たぶん我がままなんでしょう(笑)」
ココチ良い住まいとは、住まい手のために作るもの。大工が
オモテに出ずに、誰かの役に立ちたいと思ってこそ、良い家
が建つ。そこまで思いきるのはあんがいむつかしい。だがイ
ケヤさんは、もっと原点を見据えている。
「ラスコーの壁画なんかをみるとすごいなって思うんです
けど、大昔の人も、生活や文化の全然違う現代の自分達も、
人間の根源みたいな部分で何かを感じるような気がしま
す」
そう考えなおして、シンプル&プリミティブなモチーフを、
いろいろなモノに展開し始めた。お皿の絵付けや可愛いテ
ープカッターに。ショッピングモールのオブジェはみんな
のために。
もうひとつの突破口は、ビートルズを聴き返すこと。
「ビートルズは今聴いても新しい発見がありますね」イケヤ
さんは言う。
“ ホワイトアルバム” “赤と青のアルバム” “リボルバ
ー”など、つい今どきオッつぁんしか知らないビートルズ話
に脱線したが、おっと待てよ、彼は思い出を語っているわけ
じゃない。新しい発見とは、いったい何だろう?初期のビー
トルズは R&B のカヴァーバンドに過ぎなかったが、オリジ
ナルの曲づくりに移り、やがて独自の音楽世界を創った。
好きなことといえば音 楽、と語る。子供のころに初めてビー
トルズを聴いて以来、現在もバンド活動や作曲をする。それ
は彼の作品の中のプリミティブなリズムに出ている。ポッ
プスとアートの境目に立って、日常ヘンテツもないモノ
(シャツ、器、カップ)に、ヒトの持つプリミティブな力を
吹き込む。アートの持つ根源の力となる。
2009 年 7 月 1 日
文・郷 好文
写真・村山桜子