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特 集




秋・紅葉
[写 真]松浦 武志
(勤医協中央病院 内科医長)

2009年も終わりに近づいて参りました。新型インフルエンザの流行や、政
権交代など今年は歴史に残る1年になるだろうと思われます。当院は、近い将
来の病院のリニューアルに向けて、検討を開始しております。その一環として、
地域の医療機関の皆様からのご紹介患者様を確実に受け入れることが出来るよ
うに、救急病床の増床を行いました。また、札幌市のケガ災害救急病院に加え
て、第二次救急医療体制にも協力を開始し、循環器・呼吸器・消化器の二次救 勤医協中央病院 副院長
急を毎月数回担当することになりました。今後とも、地域医療に貢献できます (麻酔科)

ように、紹介しやすい病院を目指して改善を進めていきたいと考えております。 高桑 良平
感染対策
勤医協中央病院 副院長/院内感染対策委員会 委員長 高桑 良平

1 はじめに

2000年に大阪府堺市の病院でセラチア院内感染が発生し、
院内感染が、大きな社会問題としてクローズアップされまし
た。マスコミにも大々的に取り上げられ、院内感染対策が注目
されました。折しも、日本感染症学会や日本環境感染学会が中
心となり、インフェクション・コントロール・ドクター(ICD
ICT(感染対策チーム)会議メンバー
Infection Control Doctor:感染制御医師)の制度が2000年
より発足し、次々とICDの認定が始まりました。 専従職員の仕事に対する熱意とその活動のおかげで、私も今ま
私も初年度にICDの認定を受けました。また、病理科の医師 で活動を続けて来ることができました。それにしても、専従職
と呼吸器外科の医師も続いて取得し、3人で助け合いながら活 員の配置を決定した、当時の管理部の決断はすばらしかったと
動してきました。最近では、様々なテキストが出版され、参考 思います。
書が手に入り易くなりましたが、当時は良いテキストがなく、

3
インターネットで米国CDC*1のガイドラインをダウンロード
スタンダードプリコーション
し、原文を読みながら必死で勉強したものでした。
現在でも、感染対策の基本はスタンダードプリコーション
*1 CDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管
理センター)
(標準予防策)です。その内容を簡単に言うと、
「湿性生体物質
アメリカ合衆国保健社会福祉省所管の感染症対策の総合研究所、多くのエビデン (血液、体液、汗以外の分泌物、排泄物)には直接触れてはい
スに基づく方針を出し、世界共通ルール(グローバルスタンダード)とみなされ
るほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも活用されている。 けない。そのために、手袋やエプロンなどの個人防護具
(Personal Protective Equipment:PPE)を処置ごとに

2 「医療安全室」の設置と専従職員の配置
使い捨てで使用する。処置の前後に手を洗う(アルコール系擦
り込み式手指消毒薬でも良い)
。」というものです。
勤医協中央病院では2001年度より
「医療安全室」を設置し、医療安全対策
と院内感染対策を担当する専従の職員
を1名配置しました。始めてみるとそ
の業務は膨大で、翌年にはもう1名の
専従職員を配置し、1人は主に安全対
策、もう1人は主に感染対策の業務を
分担して仕事を行っています。当院の
安全対策と感染対策は、医療安全室の
設置とともに新しい時代を迎えました。

当院の安全対策と感染対策を担当しています
まだまだ職員全員にスタンダードプリコーションが徹底してい した。一人の患者様の下痢が発端
るとは言い切れません。日本全体でも、まだまだ、改善が必要で となり、次々と入院患者様と職員
す。つい先日9月のNHKの報道番組で、献血のための採血を行う に広がり、病棟を超えて他の病棟
シーンが放映されましたが、採血を行う看護師が、手袋も着用せ にも広がり、100人近い感染者を
ずに素手で行っていました。血液に接触する可能性のある業務で、 出しました。保健所の方にも大変
手袋を着用するのは、もはや常識と考えていましたが、採血のプ お世話になりました。
ロとも言うべき人達でもまだこのようなレベルです。 このときに問題となったのが、
当院では、検査室での採血も、病棟での採血も、患者様1人に ハイタッチサーフェス(多くの人 スイッチの掃除

対して、一組のプラスチック手袋を毎回使い捨てで使用していま が頻回に触れるものの表面)です。手すり、ドアノブ、電気
す。注射や清拭な のスイッチ、ベッドの柵などがこれに当たります。カルテや
ど患者様に接する 伝票などの紙類は、多孔質で乾燥が早く実際には消毒も困難
ほとんどの業務で なので、ハイタッチサーフェスには該当しません。これらの
手袋の着用を行っ ハイタッチサーフェスは定期的に消毒することが必要です。
ています。汚染物 当院では、清掃担当が毎日消毒をしています。ノロウイルス
が飛び散ることが の流行時期は、回
予想される場合は、 数を増やします。
エプロンやゴーグ ノロウイルス感染
ルも使用します。 の発生時は、看護
や介護のスタッフ

4 咳エチケット
も消毒を行い、さ
らに回数を増やし
咳やくしゃみによって生じる飛沫や飛沫核によって感染する ます。 清掃のポイント

疾患を予防するのが、咳エチケットです。飛沫は1メートル以
内に落下するもので、飛沫感染の原因となります。飛沫核は5
ミクロン以下の病原体を含む浮遊物で空気中に漂って、空気感
6 抗菌薬の適正使用

染の原因となります。どちらの場合も感染源の患者様が、きち 活動を始めた2001年当時、当院では予防投与に用いる薬剤
んとマスクをしていれば、予防効果が高くなります。 は、各科や各グループに任されていました。その結果、カテー
テル検査時の予防的抗菌薬投与や、手術の時の予防的抗菌薬投
与に第3世代セフェム系薬なども使用されていました。術後の
抗菌薬は手術終了後に投与を開始することがほとんどで、7日
前後使うことも珍しくありませんでした。
2002年から、予防的抗菌薬投与は通常はセファゾリン、大腸
の手術ではセフメタゾールに統一すること、執刀前に麻酔科医が
予防的抗菌薬を投与することなどを提案しました。すでに感染症
を発症している場合や、MRSA*2 のリスクが高い場合、免疫不
全がある場合などはこの限りではありません。各科の医師は、い
ろいろと意見を言いながらも、協力してくれました。
同時に、抗菌薬届出制度を開始しました。第3、第4世代セ
当院では、咳をしている患者様には、マスクを渡して着用す フェム系、広域ペニシリン、カルバペネム系、抗MRSA薬を
るようにお願いしています。受付窓口にも、看護師の問診コー 使用するときは届け出が必要ということにしました。許可制も
ナーにもマスクを常備しています。流行時期には、職員も必要 検討はしましたが、許可するためには、毎回抗菌薬の使用が妥
に応じてマスクの着用を行っています。 当かどうかの検討をして許可するというステップが必要にな
り、とても対応しきれないと判断しました。病名と予想される

5 ハイタッチサーフェス
菌名または「グラム陰性桿菌」などの菌の種類名に丸をつけ
て、おおよその使用期間を記入し、提出するものでした。
3年前に院内で、ノロウィルスのアウトブレイクを経験しま また、青木眞先生などの日本を代表する感染症治療の専門家
35000
勤医協中央病院 年度別 特定抗菌薬使用状況
30000

9432
25000

1317 12828 16585


20000 1699
934

9255 11551 7851 9312
15000
10014 2015
8072 2531.7
1648
10000
1274
1247 1608 1184 1818
1419 1100 1482 1189 883 2822 106 2078.8 看護学生に嘔吐物処理実習
1585 1202 1434
929 1316 1068 3227 494
3798 3038 2020 235 2957 117
5000 1544 3380
755 2417
3062 1828 4851 5135
4240 4354 3407
1196 2093 2534
0
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度

■プランジン ■バンコマイシン ■チエナム   ■バクフォーゼ
■フルマリン ■モベンゾシン  ■ロゼクラート

届出制にして適正使用が進みました

をお招きして講演会なども行いました。
それらの活動の結果、抗菌薬全体の使用量が減少し、抗菌薬 近隣小学校のPTAでノロウィルス学習会を開催

の種類も、スペクトラムの広域なものが減少しました。
振り返ると、劇的な効果があったのは、はじめの数年でし *2 MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン
た。以後はカルバペネムの使用に歯止めがかからず、届出制度 耐性黄色ブドウ球菌)
抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌、実際は多くの
が形骸化している傾向があります。現在は制度の再検討を行っ 抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌

ています。透析を受ける患者様や、ステロイド・免疫抑制薬の

7
投与を受けている患者様が多数通院している当院では、重症感
教育活動や研修環境に関して
染症を引き起こし、集中治療室に入室するような場合も多々あ
り、広域の抗菌薬の使用がやむを得ない現状もあります。その 最近 ICT(Infection Control Team:感染対策チーム)では、
ような中でできる限りお願いしているのは、抗菌薬の投与前 地域の学校や老人保健施設、お茶の間相談会などに講師を派遣
に、肺炎であれば痰の培養を提出し、尿路感染であれば尿を提 して、院外でも活動を行っています。ノロウィルスやインフル
出し、髄膜炎であれば髄液を提出し、重症感染症では血液培養 エンザなどの話題は非常にニーズがあるようです。
を2セット必ず提出することです。また、検査室に検体を出す ICTには1年目、2年目の初期研修医にも参加してもらって
だけではなく、自分でグラム染色を行って、原因菌を予測する います。若いうちから、院内感染を巡る様々な問題に触れてい
ことを推奨しています。原因菌が判明したときは、十分効果が ただき、問題意識を持ってほしいと考えています。また、関東
あり、できるだけ狭いスペクトラムの抗菌薬に切り替えること の有名施設で、感染症科のトレーニングを経験してきた若手の
を推奨しています。 医師が、ICTに加わりアクティブに各科の医師の相談に乗る活
2001年当時、医師はひとりもグラム染色をしていませんで 動を開始しています。他にも若手で、総合診療科や呼吸器科を
した。私は、病理科から顕微鏡を1台もらって、集中治療室の 目指しながら感染症診療でがんばる医師が現れているのは何と
一角でグラム染色を始めました。肺炎球菌や、ブドウ球菌など も心強い限りです。
がくっきりと見えて感動したこともありました。わかりやすい 現在当院では新たに、感染症専門医や感染症学会認定施設の
グラム染色のテキストも 取得に向けて努力しています。
作成しました。現在では、

8
救急外来や、総合診療病
啓発活動
棟でたくさんの指導医・
研修医が自分でグラム染 感染対策は、職員だけでも約800名、委託業者の方を含め
色をするのが当たり前に るとさらに多くの人たちを対象にした壮大な仕事です。毎年新
研修医にグラム染色を指導 なっています。 入職員が入り、病院間の異動もありかなりの人が入れ替わって
いきます。教育や啓発は地道ですが大変重要な活動です。しか
し、「スタンダードプリコーション」ひとつをとっても、勉強 いくかということです。
会などをして全員に伝えていくのは大変なことです。まして その点 ICNは、看護師
や、同じ講師の学習会となると、「去年聞いたから今年はもう の目線で様々な院内の
いいです」といった反応も起こります。 状況を把握し、それ故
昨年の秋、ノロウィルスの感染が始まる時期の前に「ノロ対 に指導も非常に実践的
策スタート集会」を開催しました。ICTのメンバー5人が「ICT です。今後ますます感
レンジャー」と銘打って手製の仮面をかぶり、赤・青・黄・ 染対策が定着してゆく
木村理恵ICN
緑・ピンクの服を着てマントを着けて、ノロウィルスをやっつ ことを予感しています。
けるというパフォーマンスを行いました。それに引き続いて、
「ノロウィルス○×クイズ」を行い、最後まで勝ち抜いた職員
に景品を差し上げました。明るく楽しく学ぶこともこれからの
10 終わりに

時代では重要と考えます。 感染対策は一朝一夕でできるものではありません。一人一人
の職員の意識や行動を変えていくのは気の遠くなるような時間
がかかります。院内では8年間かけて、やっと手袋を着用する
ことが特別なことではなくなってきたような気がします。
今後の私の仕事は、充実してきたスタッフの力を借りて、カ
テーテル感染を減らすこと、術後感染を減らすこと、抗菌薬の
適正使用をさら
にすすめること、
感染症科を築き
あげていくこと
などを通して若
いメンバーに確
ノロウィルス○×クイズにチャレンジする職員 実にバトンを渡
していくことだ
と考えています。
病棟ラウンドをするICT

筆者プロフィール
勤医協中央病院 副院長
高桑 良平(たかくわ りょうへい)
1983年旭川医大を卒業、勤医協就職。消化器外科医として10年間
勤務後、麻酔科に。1999年4月より麻酔科指導医、2000年よりICD、
2009年4月から勤医協中央病院副院長。院内では感染対策委員会、輸
血療法委員会の委員長。趣味はアクアリウム、ハーフマラソン、卓球、
ICTレンジャー参上
温泉、カラオケなど。家族は妻と大学生、中学生、小学生の子どもと犬。
今年度は、4月末の豚インフルエンザの出
現以来、新型インフルエンザに翻弄されまし

9 ICN(Infection Control Nurse:感染管 た。この通信の発行時までに相当な数の市民


理認定看護師)を迎えて の皆様が新型インフルエンザに罹患し、多く
の診療所や病院で受け入れにご苦労されてい
最近の当院の感染対策で、もっともうれしい出来事は、長年 ることでしょう。当院でも、保健所に協力し
て発熱外来を行ったり、新型インフルエンザ
待ちに待った ICN(Infection Control Nurse:感染管理認
を発症した患者様の入院を受け入れたり、は
定看護師)を迎えることができたことです。切望していた ICN じめての経験をしています。今年の冬は再度
新型インフルエンザが流行すると予想されて
でしたが、実際に一緒に活動をしてみて、今まで ICNが居ない
おります。インフルエンザ対策は、日頃の地
状態で、よく感染対策をやってきたものだと思うほどです。そ 道な感染対策の積み重ねと考えております。
地域の医療機関の皆様と連携して、何とか乗
の力は非常に大きなものです。感染対策で最も重要なことは、 2007年はじめての
り越えていきたいと考えております。 ハーフマラソン
現場で働く看護師さんが、如何に感染対策を理解して実行して
バックナンバー紹介
社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック

スプリング・エフェメラル 赤いひまわり 紅葉と陽光 仲良し

外科的 総合診療部 ホスピスケア


[写 真]小泉 茂樹(伏古10条クリニック院長代理) [写 真]小泉 茂樹(伏古10条クリニック院長) [写 真]小泉 茂樹(伏古10条クリニック院長) [写 真]小泉 茂樹(伏古10条クリニック院長)
 この度、広報誌『勤医協中央病院・病院報』を創刊いたしました。これまでも広報用
の誌紙を作成してまいりましたが、読者対象が曖昧であったりして廃刊された苦い経 特 集 特 集 特 集
験がありました。今回、医療機関との連携を主な目的として再出発し、当勤医協中央

内視鏡治療 (緩和ケア)
病院の診療案内、診療内容などを紹介し、ご利用しやすいよう努めてまいります。ま
た当院で開設している「救急外来」につきましても随時紹介し、医師会の「夜間急病セ
ンター」を地域レベルで補完する活動をしていることもお知らせし、ご利用をお願いい
たします。多くの病院が医療連携室を設置し、医師会がホームページで患者紹介サイ
トを開設し、病診連携、医療連携は新段階に入ってきたと思います。こうした時代に (腹腔鏡下手術)
遅れぬよう当院もいっそう努力してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。 勤医協中央病院副院長 勤医協中央病院副院長
医 療 連 携 室 長 内沢 政英 (内科、リウマチ科) 田村 裕昭 勤医協中央病院院長 伊古田 俊夫
特 集
医療連携室は、患者様と勤医協中央病院をつなぐ窓口です。他の医療機関とつなが 日本の医療費は、対GDP比で先進諸国の中で最低レベルにあると言われています。このま 新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

内科的
昨年は、長年の課題であったホスピスケア病棟をオープンすることができました。多
りあい、患者様の紹介・逆紹介をすることが日々の仕事です。その内容は、患者様の情 ま高齢化社会に突入して行くならば、格差社会の進行、医療・福祉の崩壊は避けがたいので
くの病院から患者さんの紹介をいただき、順調に運営されています。また地域FM局さっ
報のやり取り、入院・検査の依頼、お願いなど多岐にわたっています。 はないでしょうか。今こそ、地域の医療機関の総力を上げて、医療崩壊から地域社会と患者
ぽろ村ラジオ(81.3MHz)にレギュラー番組「健康と医療の広場」を開設いたしまし
東区の地域で安全・安心でかかりやすい医療機関となるために、また医療の一貫性 さんを守らなくてはなりません。当院では、地域の在宅介護、社会福祉施設、第一線の医療
た。私ども病院と市民の距離が少し縮んだのではないかと思っています。

内視鏡治療
を実現できるように私たちは努力しています。 機関の皆さまの期待に沿えるように、様々な整備を進めてきました。救急診療部、そして総 今年も地域医療に役立つ様々なことに挑戦したいと思っております。同時に医療費を
勤医協中央病院院長 医療連携室一同、目標達成のため奮闘してまいります。各医療機関の皆様、今後と 合診療病棟、各科専門病棟に加え、この10月にはホスピスケア病棟を開設しました。是非と 含む社会保障費を削減しつづける自民・公明両党による政府の横暴としっかりと闘う活
伊古田 俊夫 もご指導ご協力お願いいたします。 も患者さん中心の癒しと命を慈しむマインドに満ち溢れた病院作りを推進したいと思います。 動にも力をいれたいと考えるものです。どうぞよろしくお願いいたします。

社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古1 0条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック 社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック

特 集

肺癌
治療
爽やかに夏 幻想の秋
[写 真]鈴木 隆司 [写 真]鈴木 隆司
(勤医協中央病院循環器内科副科長) (勤医協中央病院循環器内科副科長)
生命の力

乳癌診療の進歩と課題 リウマチの診断と治療
[写 真]鈴木 隆司
(勤医協中央病院 内科副科長)
特 集 特 集
春ゆらり
[写 真]鈴木 隆司

循環器疾患の診断と治療
(勤医協中央病院 循環器内科副科長)

北海道の短い夏が始まりました。暑い日もありますが最も過ごしやすい季節ではな 東区、そして札幌市内の医療機関の皆様、常日頃の診療場面でのご協力に誠に感 特 集


いでしょうか。 謝申し上げます。このたびは当院の「たまねぎ通信」を手に取ってごらん頂き当院
さて私このたび副院長を拝命致しました。当院は100名を超える医師集団が勤務 で行っている医療内容についてご理解頂ければ幸いと存じます。すでに内科では消
しておりますが、東区の区民の皆様をはじめ、開業医の先生方、そして広く全道にお 謹んで新春のご挨拶を申し上げます。昨年4月に勤医協中央病院は新管理体制に移行し、あっという間に
化器科、循環器内科、呼吸器科、リウマチ膠原病内科など主要各専門科、外科、整
このたび、勤医協中央病院の新たな院長に就任することになりました。 住いの勤医協社員・友の会の皆様に今まで以上にお役に立てるように、微力ながら邁 形外科などへ多くの医科の皆様からご紹介いただいております。 1年近くが過ぎようとしています。この間賜りましたご指導、ご鞭撻に心から感謝申し上げ、厚く御礼申し上
絶対的貧困層の増大と格差社会の深刻化、後期高齢者医療制度という人権 進して参りますので、引き続きご支援・ご指導のほど宜しくお願い申し上げます。勤 げます。昨年は地球規模で金融危機が生じ、生活や健康にも先行き不安がよぎるような1年でしたが、地域
当院では開院以来、関節リウマチをはじめ膠原病を主体とする多くの難病患者様
無視の医療保険制度の押し付け、医療費削減と医療崩壊、そして医療経営の 医協中央病院が開設されてから早くも30年を過ぎ、至らぬ点も御指摘を受けながら の多くの医療機関、福祉施設の皆様との交流を通じ、視野を広げることで新たな希望を持つこともできまし
を診療し専門医の研修指導施設として認定されています。またリウマチ内科医と整
困難……そんな時代だからこそ、地域の多くの医療機関や福祉施設の方々と 日々改善に努め、地域や患者様に愛される病院、役に立つかかりやすい病院を目指し た。本年も地域の二次救急医療機関、ガン治療認定医養成施設にふさわしい整備を進め、一層皆様のお役に
力を合わせて、地域住民の健康を守り、安心して住み続けられるまちづくり 努力していく所存です。新たに緩和ケア病棟を備え、24時間体制で手術や救急患者 形外科医が連携して同一医療機関内で治療を進められる道内でも数少ない治療施設
と自負しております。私も一員である整形外科グループも長年にわたり多くのリウ たてる病院づくりを推進して参ります。旧来にも増して、当院医療連携室、救急診療部、各種専門病棟への入
を推進していきたいと思います。また、微力ではありますが、率直なご批判 勤医協中央病院 副院長 を受け入れ可能となっております。また生活困窮者のための無料・低額診療や差額ベ 勤医協中央病院 副院長
マチ患者様の人工関節置換術や手・指の手術、さらには頚椎手術などに関わらせて 院など、お気軽にご利用いただければ幸いです。 勤医協中央病院 院長
もいただきながら、今まで以上に、皆様にとって利用しやすい病院づくりを 河島 秀昭 ッドをとらないことも当院の特長といえるでしょう。 堺 慎
すすめて参ります。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。 勤医協中央病院院長 田村 裕昭 困ったときには是非、当院をご指名下さい。 いただいてきました。地域医療機関として利用していただければ幸いです。 田村 裕昭

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認知症の診断と治療

特 集

夏・旭岳
[写 真]松浦 武志

バックナンバーご用命は勤医協中央病院 医療連携室へ
(勤医協中央病院 内科医長)

春・満開

病理診断について
[写 真]松浦 武志
(勤医協中央病院 内科医長)
特 集

今後の医療のあり方を考えていく上で、「地域医療連携」が重要なキーワードであることは言うまでもあり

電話 011-787-7037(直通)
 4月から新しい研修医13名を迎え、医局全体・病院全体で育てようと様々な取り組みが始まっておりま
ません。しかし最近はネット上に「地域連携室」を作り、患者や要介護者のやり取りを行い、1ケ月の無料お試
す。大都市とは言え、もっと東区の「地域」を見て感じてもらおうと、病院の友の会員にも協力していた
しサービスもあるという、ビジネスまがいのものまで出現しています。地域の実情に合致した本当の医療連
だいて健康相談会にもどんどん参加する予定です。2004年から始まった研修制度が、充分な評価もされ
携を構築するためにはお互いの顔が見えることが必要です。ぜひこの「たまねぎ通信」を活用いただければと
ずに、医師不足・医療崩壊をきっかけに見直されようとしていますが、当院では引き続き、プライマリケ
思います。
アの診療能力を身に付け、患者さんの立場に立てる医師を養成するため、さらに質の高い研修プログラム
勤医協中央病院 副院長 さて本号の特集は「病理診断」です。病理は十分な臨床情報がないと診断がつかなかったり、時には誤診し
へとバージョンアップすべく取り組みます。どうぞよろしくお願いいたします。 (検査部長)
てしまうことさえあります。病理診断が臨床診断と異なる時は、主治医と病理医の間で討論し、正確な診断に

FAX 011-784-2735(直通)
勤医協中央病院 副院長
(内科・総合診療)
佐々木 豊 近づけることが必要です。ささやかですが、これも医療連携の1つでしょう。
尾形 和泰

【基本方針】
勤医協中央病院「医療・福祉宣言(理念)」
1)東区の地域に根ざして、患者さんの要求に応え、急性期医
2003年1月31日作成  2007年8月 2日改定 療を中心に保健予防から在宅医療まで総合的に医療・福祉
を担う地域中核病院として発展していきます。
私たち勤医協中央病院は、地域の人々に支えられ、 2)患者さんとの信頼関係を大切にしながら、より良質で安全
この地域になくてはならない病院として発展してい な、そして安心できる医療を「共同の営み」として提供で
くことを目指し、ここに「勤医協中央病院 医療・ きる病院をめざします。
福祉宣言」を発表し、「勤医協綱領」に基づき、その 3)臨床研修病院として、民主的な集団医療の実践をめざし、
実現に努めます。 人間としての尊厳および権利を尊重できる医療人を育成し
ます。
1.安全・安心で納得のいく医療・福祉をすすめます。
4)子供から高齢者まで安心して住みつづけられるまちづくり、
2.地域・友の会とともに健康で住みやすいまちづく 憲法と平和が守られる国づくり、医療改善の運動をすすめ
りをめざします。 ます。
3.互いに学び成長する職場・病院づくりに努力しま 5)勤医協綱領に基づき「いつでも、どこでも、だれもが安心
す。 してかかれる」無差別平等の医療の実践をめざします。
シリーズ検査紹介

細菌検査室 第2検査科 技師長 高橋 司

患者様に下痢や嘔吐・発熱などの症状があり、細菌が原 定検査)。
因の感染症と疑われた場合に「細菌検査」を行います。細 2つ目は、感染症の原因となる細菌にどの種類の抗菌薬が
菌検査の検体は尿・便・喀痰・膿などの排泄物や血液、穿 効き、どの程度の効力があるのかを調べる検査(薬剤感受性
刺液(髄液・胸水・腹水)
、組織など、患者様に由来するあ 検査)です。最近では多剤耐性緑膿菌やMRSAなど、多くの
らゆるモノが検査の対象となります。 種類の抗菌薬に効果がない細菌が見られ、病院感染等で問題
細菌検査室の仕事は大きく3つに分けられます。 になっています。
1つは感染症の原因となっている細菌を見つけ出すこと 3つ目は、病院感染対策です。病院に来院・入院された患
です。検査材料をスライドガラスに薄く塗り、染色を行っ 者様より検出された細菌やその薬剤感受性検査の結果を基に、
て顕微鏡で観察して、細菌の有無や形態などから菌の名前 医師・看護師・薬剤師などと連携をはかりながら感染対策チ
の推定を行います(塗抹検査)
。同時に、検査の対象となる ーム(ICT)の一員として日々、感染制御活動をおこなって
材料を培地(細菌が増えるために必要な栄養分が入ったも います。
の)に塗り、孵卵器に一晩入れ(培養)
、細菌が肉眼で見え このように、細菌検査室では検査結果を出すだけではなく、
るくらいまで増殖させます。そして、細菌が作り出す物質 病院感染対策を遂行する上で、重要な役割を担っています。
や、増える時に必要な物質から菌の名前を決定します(同

一晩培養後の大腸菌 細菌培養状況が自動で判定される機器(血液培養) 細菌拡散を防ぐために安全キャビネットでの細菌検査作業

表紙の写真
今回の写真は、日本で最も紅葉が美しいとされる、大雪高原沼です。9
月中旬が紅葉のピークで多くの登山客で込み合います。しかし、このあ
たりはクマがよく出没する地域でもあり、頻繁に立入禁止規制が行われ、
この日、入山できたのは運がよかったと思います。緑岳や高根ヶ原の尾
根を覆い尽くす紅・黄・橙の紅葉も素晴らしいですが、静寂の緑沼にひ
っそりと浮かび上がる控え目な紅葉も、空の青と沼の蒼との対比ともあ
いまって、大変美しいです。
北海道旅行をするうちに、山登りにはまっていったことは前回お話し
しましたが、同時期に北海道を自転車で旅行するようになり、それ以来、
自転車の魅力にもとりつかれています。右の写真はツール・ド北海道の
市民レースに参加した時のものです。下りが多いコースでしたが、40km
を平均時速39km/時で駆け抜けます。車やバイクにはない爽快感が最高
です。
総合診療部 内科医長 松浦武志

秋・紅葉
委 員 会 紹 介

感染対策委員会 事務局長 森下 浩子(臨床検査技師・医療環境管理士)
感染対策委員会は、院内における病原体の感染を防止し患者
様・職員の安全を守るために、院長の諮問委員会として設置さ
れています。委員は各部門の代表で構成され、会議は月1回、
定例で開催されています。2009年度、管理部をはじめ各セ
クションから選任された代表は合計43名です。委員会では、
毎月の各種感染報告、インフルエンザや中心静脈カテーテルに
よる血流感染などの各種サーベイランス(監視)の報告、厚生
労働省や保健所などの通知の案内、結核接触者健診の取り組み
状況、その他院内で起こっている課題について討議します。こ
感染対策委員会メンバー
の委員会の事務局がICT(感染対策チーム)を兼務し、日常的
に活動しています。 達する役割があります。感染対策の知識を若いときから吸収し
ICTは医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務員から構 てもらい、医師集団全体の底上げをすることが目的です。
成されています。2009年度は医師6名(ICD:感染制御医師 さらに各部門には、感染対策委員会と診療現場を結び、感染
3名)、看護師3名(ICN:感染管理認定看護師1名、ICS=感 対策が日常的に円滑に行われることを目的として、リンクスタ
染制御スタッフ2名)
、薬剤師1名(BCPIC Board Certified ッフが任命されています。2009年度、看護・事務・技術部
Pharmacist in Infection Control:感染制御認定薬剤師)、 門の各セクションから選任されたリンクスタッフは63名、ICT
臨床検査技師2名(医療環境管理士1名)
、事務員1名、研修医 のコアメンバーも含めて合計69名です。会議は月1回、定例
6名(1年目2名、2年目3名、3年目1名)の合計19名です。 で開催されます。会議の前半には、ICNによる感染対策の各種
会議は週1回、定例で開催されるほか、必要なときには随時行 講義があり、スタンダードプリコーション(標準予防策)、感
われます。ICTは、感染対策マニュアルの作成、院内巡視、院 染経路別予防策(接触感染・飛沫感染・空気感染)などについ
内感染の監視・調査、感染予防対策の実施などを行います。 て学んでいます。会議の後半には、各セクションで困っている
ICTの研修医には、ICTの中で学んだ事を同世代の研修医に伝 事などの事例について質疑応答し、感染対策について知識を深
めています。
ICTでは、当院で働く全ての職員(パート・派遣・
委託含む)に感染対策を周知したい場合に、院内ニ
ュ ー ス 「 ICT Info」 を 発 行 し て い ま す 。「 ICT
Info」は病院ホームページに公開していますので、
どうぞご活用下さい。

リンクスタッフ会議 院内ニュース「ICT Info」

個人的なことだが、高いところが好きだ。どこに行っても高いところをみつけると
必ずチャレンジする。恐怖感がないわけではない、でもそれにも増した爽快感があ
る。が、まわりには不得意な人が多い。なぜ好きか私なりに考えてみた。多分その
見晴らしのよさなのだと思う。見渡せることで、自分の位置を理解でき安心できる。
これは業務でも人生でも同じだろう。長期展望ができると小さなことにとらわれず
目標を見失うこともない。さて、この夏の選挙で政権がかわった。チェンジと叫ぶ BigBoy
だけでなく、国民が安心できる見通しのよい政治を期待したいものである。
(k)

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