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分科会Ⅲ

低炭素社会の実現に向けて
テーブルチーフ 菊山 文

➣はじめに
今回テーブル 3 のフィールドワークを引き受けてくださった東京工業大学の黒川教授、伊藤特任助教をはじめ黒川研究室と小長
井研究室の方々、テーブル 3 そして ISC55 を支えてくださった多くの方々に、第 3 分科会を無事開催できたことを心から感謝いた
します。本当にありがとうございました。

➣議題の背景
人類は 20 世紀の急激な経済産業発展を達成した一方で、地球規模での環境破壊と汚染という深刻な問題を抱えた。地球温暖化
はその典型的な表れである。原因は生活様式の大きな変化による大量生産、大量消費、大量廃棄が地球の持続可能なレベルを超え
て、地球全体の循環と調和が崩壊したことである。このまま環境破壊と汚染が放置されれば、人類の未来は深刻な事態に直面する
であろうと警告されている。
「低炭素社会」は、環境に負担をかけずに経済を発展させる、新しい社会のしくみである。オバマ政権が誕生したアメリカ合衆
国では、今まで州レベルなど個別で行っていた環境対策に国をあげて取り組む姿勢を示したことで、新しい社会のしくみを作り出
すシステムの構築を達成している。新たな雇用と需要をつくりだし、私たちの社会や暮らしを大きく変える革新的な環境対策が世
界的に始まった。

➣背景を受けて
これから進められていく環境対策は私たちの将来の暮らしを大きく変えていく。将来人類はどのような社会の中でどのような生
活を送っているのか、あるいは送っているべきか、という疑問は私たち学生に大いに関係しかつ重要な点である。「低炭素社会」
とは具体的にどのような社会なのか、またその社会を実現するために現在の社会はどう動き、私たち学生は何ができるかを模索し
た。
[目標]
将来実現されていてほしい理想の人類社会像を構築する。
[目的]
環境問題を「科学技術」
「経済」「情報」「地域社会」の4つの観点から議論し、その中で将来の
人類社会のあるべき姿、低炭素社会の実現に向けて私たちができることを模索する。ISC 後に議論したことを各自が活かせるよう
にする
科学技術 経済
➣事前勉強会内容
事前勉強会では次のことを目標に行った。
1) 第3分科会の目標決定 低炭素社会
2) 各分科会の内容・進め方決定
3) 議論に必要な知識、スキルの向上 情報 地域社会
4) 日本人学生メンバーの親睦
議論の題材
[流れ]
まずは1)と2)に重点をおき勉強会を進めた。本格的にディスカッションをするのが初めてというメンバーがいたので、議論
をどう組み立てていくかわかるようにすることで積極的にディスカッションに参加してもらうためである。同時に彼らが受動的に
なってしまわないように、自分たちでディスカッションの内容や進め方を決めさせることで、自分の中で目的と目標、役割をもっ
て主体的に参加してもらえるようにした。これらのおかげで、日本人学生メンバーは全員本会議に高い士気を持って臨むことがで
きた。
2)を検討しながら3)も行った。低炭素社会を4つの観点「技術」、
「経済」、
「情報」、「地域社会」から議論することに決定し
たので、メンバーに担当を決めて担当する観点についての調査を進めてもらった。その調査報告を勉強会で行い、情報の共有と軽
いディスカッションをすることでメンバーの知識やスキルなどの向上につながった。
[詳細]
▪苦労したことは、全分科会の方向性である。低炭素社会といっても幅広いので、議論が散漫になってしまわないようにどのよう
にアプローチするべきかを大切にした。そこで「低炭素社会」を中心にマインドマップをやり、4つ観点「技術」、「経済」、「情
報」、「地域社会」からアプローチすることに決定した。ひとつのテーマをひとつの分科会で議論し、最終的にそれぞれの要素をま
とめて低炭素社会がどのようなものなのか模索することになった(右図)。
▪メンバーの主体性ややる気を引き出す方法として、メンバーに担当の分野を持たせることにした。本会議前の調査、情報提供や
本会議でのプレゼンなど、一貫してある分野(このテーブルでは4つの観点のうちどれか)を担当させることによって責任を持っ
てすべてのメンバーが進めてくれた。自分が怠ると本会議での分科会がひとつうまくいかなくなる可能性があるためである。また
その分科会の詳細を決めていくときも、基本的に担当のメンバーが中心に決めていくことができるようにした。
これらのことから、担当の分野や分科会を責任をもって進行してくれた。
▪メンバーから意見を引き出すときは基本的にブレインストーミングを行った。白紙を使う方法や付箋紙を使う方法があるが、付
箋紙を使う方法が意見をまとめたり関連づけたりしやすい。

※日本人メンバーと違い外国人メンバーは事前の準備や勉強会に参加できない。そのため本会議での分科会の詳細を事前に完全に
把握してもらうのは困難である。また、外国人メンバーの方が英語力が高いことが多いために本会議での議論に日本人メンバーが
あまり参加できなくなることも考えられる。これの対策として、日本人メンバーの中で議論がどのような方向に行くのかある程度
確認しておき、本会議でその方向にさりげなく持っていくことである。これは議論が散漫になってしまわない対策にもなる。
ただしこうした方法がすべての場合に正しいとは限らない。レールの敷かれた議論を嫌がる外国人メンバーもいるし、斬新なア
イデアや議題が制限される可能性があるからだ。事前勉強会の時点で議論の方向性を作っておくかどうかは日本人メンバーの英語
力、発言力や意思による。

➣本会議内容、成果
[スケジュール]
分科会 NO. 分科会内容
分科会① イントロダクション
分科会② 技術
FW 東京工業大学 黒川研究室見学(技術)
分科会③ 経済
分科会④ 情報
分科会⑤ 地域社会、まとめ
分科会⑥ サマリー作成
分科会⑦ サマリー準備
サマリー発表 テーブル成果発表
[分科会をするにあたって]
テーブル 3 では事前に日本人メンバーで方向性を作っておいて議論することになった。日本人メンバーの英語力が务っても全員
参加の議論をしたいと強く希望したためだ。そのため分科会②~⑤の4つの観点について議論するときは右のディスカッションプ
ロセスに従ってワークシ
ートを用意して行った。

Discussion Process
• 良い点/悪い点を発見
発見

• 議論する点を選択
選択

• 理由・原因の模索
模索

• 良い点の促進方法/悪い点の改善方法
改善

まとめ
• 分科会の目標を達成

[分科会①~イントロダクション~]
この分科会ではメンバーが仲良くなり意見を言いやすい雰囲気を作ることと、メンバー全員が第 3 分科会を開催する意義や目標
をきちんと共有しあうことに重点を置いた。
最初の議論として外国人メンバーが興味深かった京都議定書を題材に、環境問題、環境対策をどう考えているのか、自分の国で
はどのような環境問題が深刻なのかということを交わした。
[分科会②~⑤]
各分科会における流れ
1)プレゼンテーション:数国のメンバーに自分の国に関してプレゼンテーションを行ってもらい、情 報と知識を共有し、質疑
応答の時間を設けて理解を深めた。
2)グループディスカッション:1)をもとに上のディスカッションプロセスに従って議論を行った。グループは 1 グループ 5 人
の 3 グループ作った。
3)発表:グループディスカッションの結果を発表し、分科会の目標の達成を図った。

[分科会②~技術~]
この分科会では、環境に優しい既存ツールを具体的に挙げ問題点や改善方法を探っていくことにより、ある技術が社会に出たと
きにどう対応していくべきか抽象的に考えた。
具体的な例として日本の次世代自動車とトルコのゴミ処理場を取り上げた。ともに二
酸化炭素の削減に貢献する技術だが、さらに有効活用するためには様々な問題点と改善点が見つかった。共通する問題点は
・社会に普及させるのにコストがかかること
である。コストをいかに下げられるかが新しい技術を社会に普及させられるかどうかを左右する。
コストを下げる方法は、
・行政の支援、政策
・さらなる研究、R&D(Research&Development)
などが考えられた。補助金制度により商品の価格を下げたり、研究を進めることによ
りさらに安価な製品を実現できるからである。同時に
・市民の教育
・市民の支援によるキャンペーン
も必要である。環境対策に貢献したしたいという思いや、新しい技術を取り入れたい
という考えを育成できるのは教育であり、市民の支援を受けたキャンペーンによりそ
ういった思いが周りに普及していくからである。

[分科会③~経済~]
この分科会では、環境対策を実現しながら経済活動を促進する対策を具体的に挙げ
問題点や改善方法を探っていくことにより、経済と環境の相乗効果をどう果たしてい
けるかを模索した。
具体的な例として、日本のエコポイント、オーストリアのバイオマス産業と台湾の自転車産業を取り上げた。それぞれ経済を刺
激しながら環境対策にも貢献するものである。問題点は様々だが、共通する改善方法は、
・産官学の連携
・社会のシステムの有効的な利用
・他国との経験交換
・研究への投資
である。
市民の購買欲や行動を促進するためにはまず利用しやすいシステムづくりを目指さなければならない。一度上手に回り始めたら
相乗効果が働き波に乗ることができるだろう。実際に成功している地域がたくさんあり、そういった地域の経験を聞いて取り入れ
ることもひとつの方法である。

[分科会④~情報~]
この分科会では、行政・企業・学校という枠でいかにして送り手として環境に関する情報を受け手に発信すべきかということを
考えた。方法、受け手はそれぞれ
行政→(制度や法律)→国民
企業→(商品 PR や企業戦略)→消費者
学校→(教育、授業や教科書)→生徒
である。
ここで挙げられた問題点は、
・情報の適正さ
・情報の他目的利用
・環境問題の捉え方の差異化
である。こうした問題を改善する方法は、
・情報の受け手が送り手の姿勢や情報が正しいかどうかよく考える
・送り手と受け手で情報や意見が双方向に行き交う
であると考えた。送り手、受け手がともに正しい知識と正しい姿勢を身につけ、情報が一方方向ではなく双方向に流れることが、
環境問題をどう捉えていくべきかをお互いに確認し合いながら行動していくことができるからである。
[分科会⑤~地域社会~]
この分科会では、それでは私たちが暮らす社会そのものはどうであるべきか、どう変わっていくべきかということを、環境に対
する意識の高い日本とフィンランドの環境モデル都市を例に考えた。同時に分科会②~④で議論してきた「技術」、 「経済」、「情報」
を社会を構成する要素として、今までの議論のまとめ、第 3 分科会の目標の達成を目指した。
まず、地域社会が取り組める主な二酸化炭素排出量削減対策は、 行政 産業
・家庭
・交通
・産業活動 人々
・自然
である。こうした対策をとるための方法は、ひとつのコミュニティの中で一丸となって行動す
ることである。フィンランドは循環可能性が非常に高く、 技術
フィンランドの成功から学べることはすべての分野が
ともに取り組んでいることだ。
右図は、 「技術」 、「経済」、
「情報」がコミュニティを
構成している要素であることを示すとともに、その要素を動かし発展させる主体である行政、 コミュ
産業界、人々が重要であることを表している。フィンランドでは、EU の提示した二酸化炭素削 ニティ
減目標よりもさらに高い目標を設け、環境的な利点だけでなく経済にも社会にも利益があるよ
うな win-win の状況を作り出そうとしている。そうした状況を作り出すために行政、企業が資 情報 経済
金を出し合い、行政、企業、そして人々すべてが
参加する環境活動を起こしている。その連携とシ
ステム構築が上手にいっているおかげで、フィン コミュニティの姿
ランドは循環可能性が高く環境対策の進む国として認識されている。

[分科会⑥、⑦~サマリー準備~]
分科会⑥、⑦では第 3 分科会の成果のプレゼンテーションを作成したり、適宜議論
をして、全分科会のまとめ、振り返りを行った。

[フィールドワーク~東京工業大学 黒川研究室/小長井研究室 見学~]


(分科会②~技術~ の後に訪問)
ここを訪問させていただいた理由は、今後社会の中で活躍するであろう環境技術、
特に先進エネルギーシステムの開発、実証を日本で率先的に行っているからである。
二酸化炭素削減に大きく貢献すると期待されている自然エネルギーの研究、開発が私
たちの分科会のテーマと大きく関係があり、分科会の目標を達成するのに貴重なステ
ップアップとなった。
前半は黒川教授からスライドを使って自然エネルギーや研究のことについて説明を
いただいた。後半は黒川研究室と小長井研究室を見学し、太陽光パネルや太陽光発電、
電気自動車など、これから私たち市民に普及していく最新の技術を見せてくださった。
全メンバーが最先端の技術のすごさに圧倒されながら、これから私たちの社会に普
及し環境に大きく貢献するのだろうという大きな期待を持ち、非常に有意義で貴重な
体験をさせていただいた。
協力してくださった黒川教授、伊藤特任助教をはじめ、ふたつの研究室の方々には、今回の訪問を快く受け入れてくださって私
たちに最高の時間を提供してくださったことを、全メンバー心から感謝しております。本当にありがとうございました。
低炭素社会
➣結論
全分科会を通して、現在の社会から低炭素社会を
どう実現していくか、第 3 分科会が出した答えは
技 経 情
右図の通りである。 術 済 報
社会を構成する要素である技術、経済、情報と
その他の要素からそれぞれアプローチするととも
に、すべての要素が相互作用しながら全体として 現在の社会
ひとつのコミュニティで低炭素社会を目指していく
ことで、二酸化炭素削減と循環する社会を実現することができると考える。
では私たち市民そして学生としては何ができるだろうか。
先に述べたように、正しい知識と姿勢で行政と産業界が進める対策に参加していくことは必然である。環境問題が深刻であるこ
とを認識し、フィンランドのように市民が高い意識を持つことは、これから私たち自身が暮らす社会を変えていけるかどうかに大
きく影響する。
人々の意識を高めるのは作用する力である。ひとりが環境問題に関心を持ち、行動し始めると、その情熱がその人の周りの人に
伝わり彼らを動かす。そしてまたその周りの人たちを動かし、どんどん伝搬してい
く。これの繰り返しでひとつのコミュニティが、地域が、国が、世界が変わってい
く。
最初のひとりになるのは私たちの世代である。この会議のような学生や市民が意
見交換する場が設けられることで、最初のひとりは生まれる。
Think Global, Act Local
これが第 3 分科会が社会に発信したいメッセージである。

➣個人の感想
テーブルチーフという立場でありなが
ら私はテーブルメンバーに数え切れない
ほど助けられた。全メンバーがとても協
力的で、主体的に積極的に分科会を作り
上げてくれて、メンバーには本当に感謝
している。
この分科会で私は多くのことを学び経
験した。海外の学生の賢さや環境に対す
る姿勢、知識の高さを実感した。そんな
彼らとともにこの分科会を開催できたこ
と、最後までやり遂げられてサマリー発表をできたことは一生の財産だと感じてい
る。また東京工業大学で初めて間近に最先端の研究・開発を体験できたことは、工
学部の私にとって刺激的で輝いて見えた。自然環境の未来に強い希望を持つことが
できた。
最後に、ISC55 の実行委員ができたこと、テーブルチーフを務めることができたことをとても幸せに思う。私をずっと支えてく
れた実行委員のメンバー、そして実行委員長の鶴島君には心から感謝しています。ありがとう。

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