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T. ソウェル著
<2007 年版への序文>
本書は私がこれまで書いてきた本の中でもお気に入りの一冊の改訂版である。なぜお気
に入りなのかといえば、本書が基本的な問題―もっと注意が支払われてしかるべきである
にもかかわらず、ほとんど注目されることのない問題―と取り組んでいるからである。そ
の基本的な問題とは、「現代において、激しい対立を見せているさまざまなイデオロギー上
のヴィジョンが拠って立つ仮定は何なのであろうか?」との問題である。本書の目的は、
どのヴィジョンがヨリ妥当であるかを判断することにはなく、むしろさまざまなヴィジョ
ンに内在する論理(logic)とそれらが拠って立つ仮定(assumptions)からどのような議論
が派生してくることになるかを明らかにすることにある。異なるヴィジョンの持ち主が、
具体的な現実問題に対して全く異なる結論に至ったり、また「正義 justice」や「平等
equality」、「権力 power」といった基本的な用語に対して全く異なる意味合いを込めるに
至る理由は、ヴィジョンに内在するそれぞれに特有の論理と仮定とを明らかにするによっ
て理解することができるであろう。本書はある意味で思想の歴史(history of ideas)の研
究として位置づけることができるけれども、同時に我々が生きる現代を対象とするもので
もある。それというのも、過去 2 世紀と引けを取らないほど、今日においても、ヴィジョ
ンの対立は依然として鮮明なものであるからである。
本書以降に執筆した『The Vision of the Anointed』と『The Quest for Cosmic Justice』
との 2 冊は、異なるヴィジョンの妥当性を検討したものである―先にも触れたように、こ
の点は本書が課題とするところのものではない―。どの本も独立して書かれたが、これら 3
つの著書は一種のトリロジー(trilogy)を形成していると位置づけることができるかもし
れない。(以下略;謝辞が続く)