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ANSWER REPORT

コストハーフの進め方
COST-HALF Concept & Approach

2010年1月10日作成
著者 江口一海
Author Kazumi Eguchi

初出 1998年 アイデア・マネジメント・レビュー
目 次

第1章 限界にきた従来型コストダウン

1.視界ゼロの製造業
2.生き残りのキーワードは「殻を破る」こと
3.限界にきた従来型コストダウン

第2章 コストハーフの取組みの考え方

1.これからのコストダウン活動の取組みの考え方
2.事業の全体プロセスを通したコストの再設計
3.コストハーフのアプローチ

第3章 コストハーフの取組みのポイント

1.「仕事を変える」取組みのポイント
1.1. 組織的な研究開発への取組み
1.2. 販売、生産管理、物流の仕事の見直し

2.「製品を変える」取組みのポイント
2.1. 製品機能の見直しと生産プロセスの最適化
2.2. 必要最小限の銘柄、グレード数の適正化
2.3. 顧客視点の販売、開発、技術、生産の連携体制

3.「つくり方を変える」取組みのポイント
3.1. 生産プロセスの見直し
3.2. 作業の再設計
3.3. フレキシビリティーと生産性を両立する生産ラインづくりの
考え方と視点

第4章 コストハーフの進め方と計画の立て方

1.全体計画づくりの手順と位置づけ
2.全体計画づくりの体制
3.ステージ1 あるべき姿の策定
4.目的をつくる … PMD(目的と手段のダイヤグラム化)法の適用
5.目標/実態ギャップ分析
6.コンセプトをつくる … 戦略シナリオライティング法
7.ステージ2 基本構想策定
8.コンセプトを発展する … 将来イメージの展開
9.基本課題を展開する
10.課題を構想化する
11.目標ポテンシャルの算定
12.マスタープランの総合化
13.ステージアッププランをつくる
14.活動順位をつける … 3フェイズ・インプルーブメント・プラン
15.コストハーフ全体計画のまとめ
第1章 限界にきた従来型コストダウン
1.視界ゼロの製造業

今、日本の製造業は揺らいでいる。バブル経済後、それなりに各企業ともリス
トラ、コストダウンに奔走し、収益が一時は回復するかに見えたにもかかわらず、
にわかに暗雲が立ち込め、全く見えなくなってきた。金融システム不安、昨年以
来のアジア経済危機の混乱の長期化に伴い、日本の製造業の状況は、いまや不況
の荒波を被っている。まさに、視界ゼロなのである。多くの企業がこれからどう
なるのかの不安を強く抱いている。
それもそのはず、既にグローバル大競争時代に突入し、今までと競争環境は大
きく変わった。改めて日本の製造業の高コスト体質が問われているし、目先のコ
ストダウン程度では、到底生き残ることは出来ない。
どの企業も、今まで何もしなかった訳ではない。コスト、品質、納期と、いつ
の時も精一杯やってきたという自負がない訳ではない。否、むしろ、今までやっ
てきた方法、手法が通用しなくなってきたと言うべきであり、今までは今までと
ゼロクリアすることが大事である。これは、

①デフレ化の中で経済全体が縮小化してきている。必然的に需要が落ち込むの
で、生産性を高めて量を伸ばしてきた今までのやり方では通用しない。

②製造業の競争力は明らかに商品力に絞ってきている。差別化出来る商品機能
と技術がなければ、時間の差はあれ、やがて負け組になり、競争から脱落し
しいく。

③インターネット、情報インフラの充実により、地域、場所の空間制約を越え
て、価格、技術の全ての情報が常に最高のものを求めて、瞬時に動き廻る。
価格も、一夜にして最も安い価格の水準が基準化される。

というように、既に製造業を取巻く枠組み(パラダイム)が変化しているのであ
る。
日本の製造業のバブル経済崩壊の後の長い低迷は、新たな枠組みにチェンジ出
来ないで、殻を破れない企業、組織、人が硬直化し、身動きがとれない姿に似て
いる。
2.生き残りのキーワードは「殻を破る」こと

どの業種でも、少しずつ勝ち組と負け組がはっきりしてきている。10 年前は大
変元気な会社が、ここ数年来、赤字経営から抜け出せずにいる例が最近増えてい
る。この理由を辿っていくと、
・経営者、管理職の挑戦への意欲がなく、かつリーダーシップが不在である。
・保守化が進み、社員一人一人の自主性、自発性の活力がない。
・人のローテーションが進まず、十年一日のごとく変化に鈍くなっている。
というように、経営者、管理職、社員全体から挑戦の意欲と姿勢がなくなってい
る。
もし、この仕組み、この仕事のやり方、このルール基準が 10 年前と変わってい
なければ、赤信号である。ひとりよがりに安泰感の中で、保守化が進み、閉塞化
している証拠でもある。
このような状況にある負け組候補の会社では、
・もうコストは下がりません。限界です。
・そうは言っても、簡単には出来ません。
・以前、やったことがありますが、駄目でした。
という言い訳、あきらめ、無気力の話はタネ尽きず出てくるものである。
保守化、硬直化した多く企業の根源的な問題点がこのような所に由来している。
事態は、極めて深刻なのである。
それでは果たして、どうしたらよいのか。私達は、その鍵が「殻を破ること」
であると考えている。
それは、今までの仕組み、仕事のやり方を変えて、事業の構造を変えることで
あり、事業の競争優位な条件を今日的に見直し、再設定し、現在の硬直化した事
業構造を打破し、新たに創り直すことである。
ここで言う事業構造とは、新規事業ではなく、顧客を軸に営業、研究、開発、
設計、製造、物流の仕組みを指す。
・顧客の正しいニーズとその変化を理解し、
・事業の競争優位に立てる条件を明らかにし、
・それに効果的な事業の仕組みの見直しを図る。
ことが、殻を破る議論につながる、極めて重要なテーマである。生き残りの鍵は、
白紙に戻して競争優位な事業の再設計を図る、「殻を破る」にあるのである。
事業全体の構造と仕組みを大きくかき混ぜることにより、人の意識は目覚める
ものである。新たに目標、やることがはっきりし、役割が決まると人は意欲的に
なるものである。性善説に立って、駄目だ、駄目だと言うよりも、環境を整備し、
人のやる気、意欲に期待することである。
コストを大きく下げる考え方と取組みは、事業、組織、人、意識の「殻を破る」
ことから始まるのである。
3.限界にきた従来型コストダウン活動

今までのコストダウンは、大なり小なり対象が明確であり、製品なり、生産工
程なり、更に間接部門なりと対象がはっきりしていた。事業という全体から対象
を切り取った部分のコストダウンであり、又は事業を対象にとは言えども、アプ
ローチはその考え方に立っていた。
即ち、事業構造とか事業の競争条件といった議論と検討に欠けていた。コスト
ダウンは、儲けてかつ勝ち残るためにするのであり、目先のコストダウンが事業
の足腰を弱くし、明日への発展を阻害しては仕方がない。
また、従来型のアプローチは、一言で表現すると「限定的、可能性ありきの積
上げ型のコストダウン」と呼んでよい。枠を超えた、必要性ありきの戦略型のコ
ストダウンではなかった。
参考までに従来型コストダウンの特徴点を列挙してみると、

図表1.

● 従来型のムダ・ロス改善による積み上げ型のコスト削減
● 部門、個人レベルでの部分的な課題解決への取組み
● 戦略が不鮮明な中での活動
● トップの方針に基づいたコストダウン目標が提示されていない
● 実態に合わせた目標設定で、必要性からの目標設定でない
● QCD個別テーマ展開掘下げ型の活動
● 手法、運動ありきの改善活動
● 改善の積み上げ金額は大きいが、業績成果に直結していない

既に、日本の製造業の環境と枠組みは大きく変わった。今までのやり方も変え
なければならない。「個人、部門の枠を超えた必要性ありきの戦略型のコストダウ
ン」が不可欠のようである。
第2章 コストハーフの取組みの考え方
1.これからのコストダウン活動の取組みの考え方

これからのコストダウンの活動で優先される議論は、事業の競争優位な条件を
見直し、事業全体を再設計することであり、この事をコストを軸に見直すという
点である。
即ち、今日的な環境変化を考えるとコストだけでは不十分で、同時にバリュー
(商品、技術の差別化)とスピード(顧客満足、環境変化対応)を同時化するこ
とが大事である。

図表2.

<市場環境> <企業の革新課題>

徹底したコストダウン

量が伸びない時代
バリュー
(商品、技術の価値向上、差別化)

価格破壊
スピード(CS、環境変化対応)

このため、これからのコストダウンの活動の取組みは、

①白紙に戻して、事業全体の仕組み、構造を変える。
・営業~企画~開発設計~生産~物流に至る、全ての企業活動を見直す。
・ 具体的には、そのために、仕事を変える/製品(機能)を変える/つく
り方を変えることを総合的に見直していかなければ、究極のコストダウ
ンは実現出来ない。

②事業の競争優位な条件を明確にして、具体的にあるべき姿を構想化し、実態
の変化点を顕在化する。
・ 市場、競合との競争条件の遅れが、競争力の弱さである。まず、斗える
水準、状態に実態を変革することが重要である。事業の戦略と方向を明
らかにする。このため、競争優位な条件とは何か、具体的にあるべき姿
を構想化することが必要である。
・ コストは、実態にぶら下がっている。実態の仕組み、構造、やり方の全
てが、今のコストを決定している。実態を変革しなければ、コストは下
がらない。
③課題の取組みを正しく層別化し、開発テーマから改善までを対象とする。
・既に、多くの管理手法(IE、QC、TPM、VE etc)が巷に溢れて
いる。これからのコストダウン活動で大事なことは、どの手法を使って
改善をするかではなく、コストを軸に事業の競争優位な条件を創り上げ
るために、何が課題かをハッキリすることである。課題が決れば、自ず
から課題を解決するのに適切な管理手法が決まる。管理手法が入口にあ
るのではない。

図表3.課題の取組みを正しく層別し、開発テーマから改善まで

経営競争力、競争条件

戦略課題の設定と展開

業務、管理 製品機能、構造 生産プロセス 設備 操業条件 作業

技術課題の設定

現場主導で改善、解決で 課題を展開し構想化すれ 問題そのもの がわからず 、


きる ば、条件、技 術の確証が で 機能、条件の 関連がわか ら
きる ない

IE、QC、PM etc. VE、VR、FBS 工学的解決法の適用


の管理技法の適用 の適用
私達の支援実績でも、大きく課題は3つに分けられると理解している。
・現場主導で改善する。
・設計的に機能条件を評価、適正化する。
・極めて難技術であり、工学的に解決する。

④設備投資を極力抑えた(発生させない)見直しを図る。
需要が低迷し、スローダウンしている現状でのコストダウンは、設備投資を
かけない取組みを優先しなければならない。しかし、「投資をしてコストを
下げる」という長年の考え方、やり方から抜け出せないのも事実である。
このため、
・既存プロセス、設備の徹底した限界追求を図る。
・目的と機能に戻した生産プロセスの根源的な議論と検討を行う。
・考え抜く姿勢と態度を貫く。
ことが不可欠である。
2.事業の全体プロセスを通したコストの再設計

コストハーフは、コストを軸に事業の競争条件を再設定し、事業構造全体を見
直し、再設計する考え方、方法である。そのためには、従来のように一部門に限
定した活動では十分ではない。事業の単位で、事業ごとにキチンと見直していく
ことが大事である。
この理由は、事業により、顧客、市場環境が違う。競合他社との競争水準も異
なる。必然的に、競争優位なコスト水準も異なってくる。事業の優位な競争条件
を実現することが最上位の目的であるからである。
また、事業の競争条件は、
・ 商品力を決定し、商品のコストを決める開発~生産化プロセス。(イノ
ベーションプロセス)
・ 顧客とのリードタイムを決め、商品のコストを発生させる販売~生産、
物流プロセス。(オペレーションプロセス)
の2軸の見直しを図ることが大事である。このため、営業から研究開発、設計、
生産、物流に至るまでの、全ての事業全体の仕組みを見直し、再設計を行うので
ある。それぞれの事業の競争条件と特性を正しく認識し、取組むことがコストハ
ーフの基本姿勢である。

図表4.事業の全体プロセスを通したコストの再設計

××事業
△△事業

○○事業 顧客

研究開発
開発~生産化

プロセス・ プロセス
設備設計

生産設備

販売・受 調達 生産 物流
注 プロセス プロセス プロセス
プロセス

販売~生産・物流プロセス
2.事業の全体プロセスを通したコストの再設計

究極のコストダウンを実現するには、「仕事を変える」、「製品を変える」、「つ
くり方を変える」ことが必要である。但し、どこに重点を置くかは、事業の置か
れた環境、状況、特性により異なる。
上記の3つの取組みを効果的に組み合せていくことが大事となる。コストハー
フが対象とするコストは製品総コストであり、事業総コストであり、直接コスト、
間接コストの両方の見直しの対象とする。
しかし、間接コストは正直のところ、簡単に解雇出来る訳ではないので、目標
を時間生産性、スピード(リードタイム)に置いて活動を進めることをお勧めし
たい。
図表5.
事業の競争条件

事業課題の設定

業務・管理系 製 品 系 生産・物流系
スピード コストパフォーマンス 生産性

仕事を変える 製品(機能)を変える つくり方を変える


コストを コストを コストを
改善する 改善する 改善する

① 研究開発の ① 製品機能 ① 生 産 プロセ


体制、プロセスを見直す を見直す スを見直
・コンカレント・エンジニアリング ② 製品機能 す
・チーム型組織 を簡素化 ② 内外作を
・フラットな組織 する 見直す
② 販売、生産 ・部品点数を減らす ③ 人、物、
管理、 ③ つくり易 設備のフレ
物流の仕事を変える い部品構 キシビリティと 生 産 性
・短サイクル化 造にする の両立
・在庫最少化
・一気通貫した組織
③ 工場間接業
務を見直

間接コストを下げる 直接コストを下げる
第3章 コストハーフの取組みのポイント
1.「仕事を変える」取組みのポイント

1-1.組織的な研究開発への取組み

多くの企業で、既に多くの商品が成熟しており、その結果、価格競争にさらさ
れている。必然的によりニッチの市場を狙うか、より上位の差別化商品を投入す
るかの選択が、研究開発の側からの議論となる。しかし、多くのケースが、ただ
コストの高い、今まである商品に似たものを一つ増やしただけで終わってしまう
ようである。コストハーフの取組みは、事業の優位な競争条件を創ることを第一
義的な狙いにしているが、このためにも、商品力を高めて売上げを上げる仕事の
やり方を、白紙に戻して進めていくことになる。
さて、では一体何が問題なのであろうか。理由を上げてみると、
・顧客のニーズを絞り込めない。よしんば「わかった」としても、正しく製品
機能に展開出来ない。
・製品機能を発揮するために、コストをかけて(高い原材料、部品、コンポネ
ント)実現させるため、結局コストの高いものになる。場合によっては、赤
字商品になる。
・製品機能にこだわる、優れた商品を開発するとなると、テーマそのもののブ
レイクスルーが難しく、結局中途半端なところで妥協してしまう。
というように差別化出来る魅力ある商品を出しきれない仕事のやり方と方法を刷
新化する。更に付け加えるならば、研究開発の硬直した組織そのものに風穴を開
けなければ、今までと何も変わらないということであろう。
私達は、最大の問題点は『製品機能を明確に定義出来ないこと、製品機能を発
現する生産方式、処方、条件への展開が体系的でないこと、いずれにせよ、この
点の見直しを含めて「一気通貫」した組織的な研究開発になっていないこと』で
あると指摘している。この考え方を図表6.に示す。
図表6.一気通貫できる組織的な研究開発

事 業 戦 略

営業 技術開発 研究 製造 管理

検討/操作変数
目的/製品機能

目標/物理特性

OUT
IN


ニーズ情報


顧客

生産

蓄 積 技 術

一気通貫出来る組織的な研究開発を実現する上では、次の点の見直しと取組み
が重要のようである。

①常時開発テーマの見直しと進捗管理を行う。
②テーマを共有化し、コンカレントで組織的な研究開発体制
③顧客ニーズを商品機能、物理特性に定量的にブレイクダウンし、テーマの目
標を明確化、共有化する。
④蓄積技術に上乗せした研究で短納期化を図る。(物理特性をキーワードと
した情報の共有化)
1-2.販売・生産管理・物流の仕事の見直し

多品種化とタイムリーな商品供給を可能とするには、需要変動にいかにレスポ
ンスするかであり、このため、生産のサイクルを短くし、市場への供給スピード
を上げていくことである。生産計画が販売情報と連動して迅速に策定することで、
例えば、デイリーの販売実績をもとにした短サイクルな生産計画が可能となる。
つまり、マーケット要求に応えるための流通在庫をミニマムにし、流通、物流
及び生産を統合する生販情報の仕組みが必要で、このためには、受注~生産~出
荷・供給・管理の一元的な仕組みと、情報の共有化、情報展開の一貫化が必要で
ある。この点の抜本的な業務の見直しと再組立を合わせて図ることがポイントと
なる。
生産と顧客を短プロセスで直結化することが、リードタイムだけでなく、品質、
コスト、サービスを向上する競争力につながる。
しかし、元々、販売と工場には相克した議論が存在している。即ち、工場は販
売に「もっと販売予測精度を高めろ」と言っているし、販売は工場に「もっとき
め細かい顧客の要求に安く応えろ」と言っている。販売は「相手はお客様だから
仕方がない」ということになるし、工場は「操業効率を落とす切替は増やさない」
ということで、いたずらな在庫を増やす理由につながる。現在のように需要が不
透明で、スローダウンしている経済状況下では、在庫は常に最小化しなければな
らない。少々乱暴な言い方をすれば、「品切れでお客様に迷惑をかけることがあっ
ても倒産した会社はないが、在庫が増えて不良在庫が滞留し、倒産する会社はい
っぱいある。」と考えた方がよい。キャッシュフローで評価すれば、在庫が増える
ことは直接に収益を損なうが、現在の原価計算では在庫は資産として計上される
ので、在庫を増やして生産効率を上げた方が一個あたりの生産コストが下がり、
見かけ上の原価低減になるという矛盾もある。不要な在庫は持たない、必要最小
限の在庫を確保するという共通理念で取組むべきである。
一方、マーケットスピードの効果は在庫だけではなく、本来、総原価の削減に
もつながる。理屈はこうである。業務のコスト(オペレーションコスト)は、大
半が固定費であるということは、期間(時間)に比例していると考えた方がよい。
もし、より早くマーケットに供給するもの、短い期間でやれる仕事のサイクルを
作ることは、期間が短くなった分、オペレーションコストは下がると考えた方が
よい。マーケットスピードを上げることは大きなコスト削減になる。いずれにせ
よ、それが顧客のニーズ、サービス条件であるのだから、競争力としてどうして
も達成しなければならないという競争原理が優先する話であるが。
私は、10 年以上前にアメリカの自動車部品メーカーを中心に、数社工場診断を
したことがあり、その際に生産性の高さに驚くと同時に、一方で在庫が多いこと
に問題点を感じ、その事を指摘したら、「在庫を減らしたら生産性が落ちる。在庫
は減らす必要はない。日本とアメリカの考え方(フィロソフィー)の違いだ。」と
一蹴されたことがあった。しかし、最近のアメリカ企業の繁栄の鍵は、リエンジ
ニアリング、ECR(Efficent Customer Response)、サプライチェーンマネジメ
ント(Suplly Chain Management)どれを取っても、顧客、市場とのマーケットス
ピードを目的にしており、それが効果的に実現出来る仕組みの再設計にあるし、
そのことをIT(Information Technology)ツールで実現していくところに共通
のコンセプトがある。既に 20 年以上前から、JIT、カンバン方式で定着させて
きた日本企業が、更に部門全体をブレイクスルーする仕組みの議論に進化出来ず、
生産効率の議論で留まったことが残念と言えば残念である。
さて、話を戻すと、受注、生産管理、物流の見直しにあたっては、一貫した業
務の見直し、システム化と、キチンと目的的に管理方式と流し方の見直しを行う
ことが大事である。
顧客の要求リードタイム、仕様変更度、製品・生産特性(品種・量、バラエテ
ィ発生構造、工程数・能力 etc.)などを考慮し、顧客~製品構造~生産工程(外
注、購入品を含む)全体の総合的な関連による一貫化した見方で検討を行なう。
この考え方に立ち、原材料~仕掛かり~製品の持ち方、生産方式の全体構想づく
りをする。
この中で、製品在庫を持って顧客要求に応えるが、生産サイクルは短くする短
サイクル生産(例えば、旬、週)方式、注文をもらって生産を行う確定生産方式
にするかの議論は極めて大事である。化学系企業では、生産数量の大きい品種の
月2回の分割生産が現実的なところであろうが、この2回をサイクルにして生産
計画、生産を行う場合は、短サイクル生産であるが、大事な事は、本来、販売と
同期させるところである。私達の日本企業の実態研究でも、既に販売の本来ノル
マ的な販売計画を基に工場の生産計画を立てるやり方は過去の方法になりつつあ
り、むしろ、販売実績、実需といった「今、何が売れているか」に基づく生産計
画にシフトしているようである。その上からも、短サイクル生産又は確定生産の
議論と検討は大事なところである。確定生産は言うまでもなく、製品在庫はゼロ
になるが、確定生産と先行計画生産のインターフェイスをどこに設定するか、確
定生産領域での切替え、信頼性、品質、能力等のリードタイムを保証する物的条
件の改善課題は何か。各工程の指示、管理、フィードバックの仕組み、やり方を
どうするかについての総合的な見直しが必要である。確定生産についての仕組み
の概念を、図表7.に示す。
化学系企業での一貫原料プロセスにこの考え方が適用できるとは思わないが、
後工程にいくほど、顧客ニーズバラエティ(サイズ・荷姿)に応えていく必要の
ある製品・工程特性にあるものに向いているが、本来的には、ディスクリート型
の工程に適している。
図表7.確定生産の仕組み

● 確定生産方式
● 受注情報の精度・確度、
スピード向上 物流

部材マスター CPU

ホスト 工程情報
在庫情報 確定注文情報
先行計画情報
確定指示(出荷情報展開)
原料・資材
仕入先

ピッキング
受 処 処 加
梱包
出 物流
入 理 理 工 荷 センター

確定生産に基づく在庫補填型生産 確定生産範囲

効率追求 リードタイム・フレキシビリティ追求

整流化、同期化、小ロット化、
工程能力向上、
切り替え時間短縮
1-3.間接業務の見直し

間接業務は、人それぞれのやり方、スタイルに依存し、標準化されていないこ
とが情報を大きく遅らせている。また、定型的・反復的な仕事であるにもかかわ
らず、元々、分業化され、部門・課の壁があることが情報のよどみと重複作業を
多く生んでいる。
間接業務の再設計は、標準化を基準に業務を一貫するプロセスで再構築し、組
織、人、基準ルール、IT化の総合的な検討と見直しを図ることが大事である。

1)情報の整流
「必要な情報が、必要な時に、必要な人に供給される。」
このための、仕事の体制、指示系統の流れと意思決定、及び業務の標準化の
見直しを図る。

2)価値を生む仕事の連鎖、連結化
正しい仕事の手順と流れをつくることにより、効果的、効率的でスピーディ
ーな仕事の再組立を図る。
このための方法として、図表8.に示すステップリストマネジメントの活用
は有効である。

3)業務の完結サイクル化
仕事の目的、目標と実績までのサイクル化により、小回りある責任の持てる
仕事の再組立を図る。責任と共に進化、改善できる達成感のある仕事の見直
しを図る。

4)複数任務性の導入
一人の人が多くの仕事を兼務又は協業し合うことにより、開放的な裁量のあ
る仕事のやり方を追及する。

5)業務そのものの標準化、基準化とシステム化(IT化)
人に依存しない仕事の見直しと無駄、ロスの排除と標準化、基準化を通して
ITの活用により省人化を図る。
図表8.ステップリストマネジメント

見直しの方向
Input Output

付帯事項

Job


活動 事前 活動 事前
項目 保証事項 項目 保証事項

商品企画

商品設計

試 作
2.「製品(機能)を変える」取組みのポイント

2-1.製品機能の見直しと生産プロセスの最適化

本来、製品機能と生産プロセスの関係は、製品機能の目標、条件をつくり込む
生産過程が生産プロセスであり、生産プロセスで製品の付加価値への変換が行わ
れる。しかし、元々は、製品機能と言えども、顧客ニーズを満足かつ充足させる
ために、製品に与える魅力、働きをどういう材質、組成、構成(処方と呼ぶ)で
発揮させるかという考え方と方法により決まってくる。
更に、開発・設計者の考え方(匙加減)でその考え方と方法もバリエーション
を持つ。
実際、個別ニーズにあまりにも偏った機能設計になっていたり、機能そのもの
が冗長的、過剰になっており、このことがコストアップの原因を作っていること
も多いようである。何でもニーズ主義で、特徴と自己主張を失ってしまうと、顧
客から見て魅力のない製品になってしまう。前述した、担当レベルの商品開発に
依存して、組織的ではないということにも理由はある。
このため、コストハーフの考え方に立つと、
・ 顧客ニーズの原点に戻して、果してこの製品機能が最も有効なのかどうか。
・ 改めて、製品機能そのものを評価、再設定し、製品機能を物理特性で表現
してみる。
・ 物理特性を効果的に発揮、発現出来る生産プロセスの処方、条件の最適化
を行なう。
・ 更に、顧客ニーズの変化に追導する製品機能の適正な発現を、生産プロセ
スでフレキシブルに作り込む。
という手順と方法で、製品機能そのものを顧客ニーズに戻して見直し、生産プロ
セスの最適化を行うことにより、大幅な機能向上とコスト削減の両立化を実現す
ることが出来る。
このためには、顧客ニーズから生産まで、製品機能に立って、製品物理特性~
生産機能~処方条件の見直しを一貫して行うことが不可欠のようである。図表9.
に一貫した見直しの考え方を示す。
図表9.顧客ニーズに立った製品機能から生産までの一貫した見直し

(顧客) 製品機能 物理特性 機能法則 生産プロセス 状態変数の (生産)


状態変数 最適条件

要求される挙 挙動を f(製品構造→ 製品構造 要求にしたが


動、これを市 表わす って、製品が
製品物性→
= 適正な機能を
場では何と呼 物理特 使用の場→ 製品物性
ぶか。 性 発揮するため
= f ポリマー構造 には生産プロ
製品機能とは ある構造、物 樹脂組成・構造 セスの諸変数
物理特性を 性を持つ製品 原材料物性 (処方・条件)
表わす挙動の が、使用の場 は、どうあれ
生産プロセス
である物質・ ばよいか。
仕方である の場
エネルギー・
とも言える
力の下で、ど
んな挙動をす
るか。
生産対象
ある原材料構造、構成、
物性を持つ生産対象が、
生産プロセスの場でどん
な挙動をするか。
2-2.必要最小限の銘柄・グレード数の適正化

顧客の多様なニーズに応えながら、効率的に製品(機能)と生産プロセスの再
構築を行い、コストダウンを図らねばならない。そのために㈱日本能率協会コン
サルティングで開発された手法が「バラエティ・リダクション(VR)」である。
既に、1970 年代に開発された方法であるが、多品種化に効果的な方法として自
動車、家電等の業界で導入され、大きな実績を上げてきている。
化学、食品等のプロセス型企業と言えども、多品種化は進んでおり、装置特性
にフレキシビリティがないため、多品種化は在庫を増やしたり、格外品ロスを発
生させる原因になっている。お客様のニーズを損なうことなく、銘柄、グレード
が適正化出来るのならば、まず、この議論を優先させることをお勧めする。私達
の支援事例でも、グレードを適正最小化すると共に、仕向開発を効率化するばか
りか、インターネットを使った新しい販売方法に挑戦している会社もあり、販売
そのものの革新につなげている。
バラエティ・リダクションの5つのコンセプトを以下に示す。

①固定/変動/準変動
・製品の多様化と標準化の対立をとるために、製品の中の客先ニーズまたは、
製品仕様によって、変わらない固定部分を分ける。
・また、変動部分も準変動という見方を入れ、基本材料を見直し、フレキシブ
ルな対応が出来るようにする。

②モジュール化
・少ない基本材料や添加剤の組合せで、製品多様化に対応させる。

③多機能化
・出来るだけ一つのグレードや添加剤に多機能を持たせ、総グレード数を極力
減らす。
・このための製品機能の仕様拡大(ベース、処方、添加剤機能)をつくり込む
生産条件範囲を決める。

④レンジ化
・生産設備能力限界(レンジ)を考え、個々の製品機能をつくり込む生産条件
範囲を決める。

⑤系列化
・性能等の数値を決まった数列からとり、総合秩序づけをする。
この5つのコンセプトを用いながら、銘柄、グレートを適正化し、かつ効率的
に生産プロセスを見直す方法がVRである。その適用の考え方例を図表10.に
示す。

図表10.VRの5大コンセプトの適用の考え方例

顧客からみると必然ニーズ 顧客のニーズを満足させる製品群構造

構造のバラエティを
多品種 増やして多様化 ④系列化
一品化 変動要素 に対応 ⑤レンジ化

最大限の
固定要素 ● 構造の簡素化
製品反復
*バラエティの圧縮
~多機能化
対応


固定/変動
不要な ③ ②
バラエティ 多機能化 ユニット
を排除 モジュール化
2-3.顧客視点の販売、開発・技術、生産の連携体制

分業化された縦割り組織の中で、顧客視点に立って、課題を部門を超えて再設
定することの意味は大きい。顧客が求めるニーズ、条件をどこが、どこで、キチ
ンとつくり込むのかが明確になってくるし、部門を越えた議論と取組みにより、
問題のタイプと質を極めて簡単に出来ることもよくある話である。
また、源流から見直すことにより、より本質的な解決を図れるし、開発設計時
点でコストの 80%が決まることも事実であるので、生産工程に限定した問題と捉
えることは正しくない。源流段階で起こり得る後工程の問題を予測し、事前にキ
チンと手を打つことが大事である。
このため、顧客が求めるニーズに総合的に応え、しかも機能、性能、品質と価
格を両立した、パーフェクトな対応を図っていくには、顧客視点に立った、販売、
開発・技術、生産の連携による顧客要求へのキチンとした事前での課題の顕在化
と要件、条件の明確化が必要である。このような見直しを仕組みとして体質化す
るだけでも、企業の姿勢は変わってくる。企業内で他部門への愚痴を言い合って
いる余裕はどこにもない。
顧客視点の販売、開発・技術、生産の連携体制の販売の役割は大きい。
図表11.

製品(機能)

・機
・性
・形
・信頼性
・安全性

・価



製品(機能)
情報

(開発・技術)
・知る

・使用する


・廃棄する

混 合
(均一性) ↓
成 形

顧客情報 (強度、かたまり) ↓
熱処理

(販売) ↓
加 工

組 立

製造情報

(製造)
3.「つくり方を変える」取組みのポイント

3-1.生産プロセスの見直し

生産プロセスを見直すことがコストを大幅に下げることにつながる。どの企業
でも、生産プロセスは今まで何度となく見直してきた経緯があるが、私達の支援
実績でも見方、考え方を変えることにより、生産プロセスの見直しはまだまだ可
能である。
さて、生産プロセスとは「付加価値を生む製品の変換プロセス」と定義するこ
とが出来る。人、設備、物、情報はこの変換を行うための Input と考えられる。
生産プロセスを見直すことにより、人、設備、物、情報の統合的な改善が図れる。
コストを大幅に下げていくには、生産プロセスを見直すことが早道である。
一方、これからの競争条件にとって商品価値を上げるための生産機能、品質の
向上は極めて重要な課題の一つである。商品価値の向上とコストの削減の両立し
た取組みを行うためにも、生産プロセスの見直しは極めて有効なのである。
このためには、生産プロセスを「生産機能」として捉えることが大事である。
「生産機能」とはワーク(生産対象)の変換の単位であり、初期状態から目的状
態にワークが変換されることと定義している。生産プロセスの見直しとは、生産
機能に立って、生産機能そのものを見直すこと、更に、生産機能を向上し最適化
するために、物、人、設備、情報全体を見直し、製品機能の向上とQ、C、Dの
ダントツな競争条件を実現することである。
図表12.に生産プロセスの見直しの考え方と関連を示す。また、図表13.
に生産プロセスに立った「つくり方」の抜本的見直しの考え方を示す。

図表12.
製品機能の高度化

ワーク

工 法 つくり易さ

生産機能

設 備 操業条件

品質設計

標準化、共有化
圧倒的なQ、C、Dの向上 (ノウハウ、スキル継承化)
図表13.生産プロセスに立った「つくり方」の抜本的見直し、高度化

・ ○○ppm タンニン
目 的 製品機能 (例) おいしいお茶を飲む ・ ◇◇ppm CL 2
:

カルキを抜く

生産機能展開 水中CL 2 濃度を下げる

◇◇ppm CL 2 以下

真空にする 水の温度を上げる

平衡濃度を下げる 気体溶解度を下げる

出 力

製法・処方
プロセス 生産対象(ワーク)
・プロセス条件
変 換
→□→□→□→ 初期状態 目的状態

設備(方式 ) 入 力
手 段

設備
処理条件、操業条件、作業条件 入力 媒体

入 力
原材料費 労務費 設備費 エネルギー費
3-2.作業の再設計

「生産量を落とさずに、作業者を 1/2 にした生産体制の再構築を行う。」という


場合が多い。しかし、それでなくても作業改善、生産性向上には、ムダ、ロスを
顕在化した改善を徹底して行い、積極的な自動化の推進を進めてきた結果が現在
の作業人員規模、編成の姿であるので、言うは易く、大変なことである。このた
め、従来の取組みの延長では無理なことも明白であるので、白紙に戻して、作業
の再設計を行うことが必要となるのである。量を一定として、作業者を 1/2 で生
産するには、結果として生産性を2倍にすることに等しいが、
・生産的な作業をする時間を長くする。
・作業速度は速いほどよい。
・また、製品1単位を完成するための工数(負荷)を少なくする。
・人作業をツール化、機械化する。
といったことを、それぞれ今よりも改善し、また効果的に組合せた改善により、
改めて作業の再設計をすることが求められる。従来の作業負荷見積りの精緻なア
プローチでは、作業が必要であるという前提で取組むので、この評価は最後にす
ることが賢明であろう。
むしろ、積極的に 1/2 の作業者で仕事をするには、
・製品を変える。
・つくり方を変える。
・レイアウト、設備を変える。
・治具、ツールの利用、機械化をする。
・多能工化、多台持ちによる作業の効率化を図る。
といった作業のやり方の今までの常識を打破し、トータルな作業の与件を再設計
することが本質である。
さて、作業の再設計をする場合に、何をどう見直し、どのレベルに引き上げて
いけば良いかを正しく目標化しておくことは大事なことである。このための方法
として、松野茂夫氏「企業の体質改善計画」で詳述されている生産性倍率の公式
が有効なので紹介する。生産性を向上するために、現在の水準との余地を顕在化
し、現場の作業管理、工程管理、設備管理などのあらゆる生産管理関係の見直し
と改善を目標に立って活動化することが不可欠である。また利益は、固定費、変
動費(比例費)の原価と売上げ価格・数量によって決まるが、生産性と利益との
関連も明確にされている。
図表14.に作業設計の余地、目標化を決める生産性倍率の考え方を示すが、
例えば、稼働率(ε)を 1.1%up し、機械化率(α)を 10%up し、工数排除率(λ)
を 20%改善し、レーティング(R)を 10%改善すると、生産性倍率は、現在の
1.66 倍になる勘定である。ミクロに捉えるのではなく、全体的に見直すことが肝
要である。

図表14.作業再設計の余地、目標化

ε′ 1+α 1 R′
生産性倍率 q= × × ×
ε 1 1-λ R

現在の仕事の方 現在の人手の 工数の中に含 作業速度(レ


法を変えない 作業の一部又 まれる潜在的 ーティング)
で、除外工数(非 は全部を機械 な余地(機会損 を改善する
に置き換える 失)を変えるこ ・正しい作業
稼動要因)を減
改善 とにより改善 の導入と習
らし、生産への
・加工、組立 ・作業改善 熟
寄与を高める改 作業の自動 ・工程編成 ・関連作業の
善 化 ・治工具導入 改善・スピ
・待ち時間、歩 ・ハンドリン …… ード化
行時間の低減 グ、運搬作 ・量産処理、
業の機械化 確認作業の
・設備故障の減
自動化 排除
少、3S……
・検査の自動

3-3.フレキシビリティと生産性を両立する生産ラインづくりの考え方と視点

バブル経済崩壊後の価格破壊の時代に入っても、多品種化は進行しているとい
う事実がある。フレキシビリティは相変わらず今日的課題なのである。
フレキシビリティと生産性・コストを両立する生産ラインづくりを行うには、
・ 将来の品種数、品種仕様の変化や多品種・量変動対応など、フレキシビリテ
ィの条件をまず目標化することが先決である。
・ この順序を逆にすると、即ち生産性、コストの条件を先に目標化すると生産
ラインはいたずらに硬直化し、製品変化に容易に陳腐化してしまい、結果と
して生産システム全体の効率を落としてしまう。
・ フレキシビリティの条件を目標化すると、工程・設備・作業の負荷が増大す
るポイントが顕在化できる。
・ 例えば、切替回数・生産準備業務・運搬回数・検査回数が増える…と言うよ
うに、現在「見えない所、作業」に負荷がかかってくるのである。
・ このため、作業の負荷がかかる所を事前に顕在化して改善、見直し、自動化、
システム化の手を打つ事が重要なことである。
図表15.にフレキシビリティと生産性を両立するラインづくりの考え方、要
件について一覧化する。
図表15.フレキシビリティと生産性を両立するラインづくりの考え方、要件

● 工程間同期化 ● 弾力的な作業編成
・ ネック工程の工程能力向上 ・ 作業編成・要員の適正化
・ 工程連結化・ライン化・一貫化 ・ 要員の From-To 管理
(バッチ加工から連続加工) ・ 多能工化、スキルアップ
・ 素材、包材供給の同期化・順位化 ・ 多台待ち
● 整流化 ● 運搬、ハンドリン
・ レイアウト、系列化 グ、ピッキング
・ 工程内物流 改善
・ 不良手直しゼロ ・ 運搬・荷姿方式、方法検討
● 小ロット化 ・ 運搬距離の近接化
・ 処理・加工・運搬の小ロット化 ・ 搬送系の自動化
● 工程能力向上 ・ 現品(ロケーション)管理
・ 段取切替時間の短縮 ● 汎用化・共通化・
・ 故障、トラブル停止削減 標準化
・ 処理・加工スピード向上 ・ 設備の汎用化
・ 仕込み量・積載効率・取り数向上 ・ 型・治工具の共通化・汎用化
・ 無人化運転 ・ 部品・包装・梱包・荷姿の簡素
● 工程短縮 化、共通化、標準化
・ 複合同時処理・加工 ● 計画管理
・ 工程統合・削減(工法、材料変更) ・ 需要予測の精度向上
● オ ペ レ ー シ ョ ン レ ・ 販売情報のスピードアップ
ス化 ・ 受注~生産展開のスピードアップ
・ トラブルレス、調整レス ・ 短サイクルな生産計画
・ 検査頻度削減、検査レス、自動化 ・ 確定生産方式
・ 測定監視の自動化、インライン化 ・ 投入順序計画(ダイナミックシュ
ミレーション)
・ リアルタイムな工程管理
第4章 「コストハーフ」の進め方と計画の立て方
1.全体計画づくりの手順と位置づけ

コストハーフの取り組みは、競争優位な事業を実現するために、コストを軸に
経営資源をどう組み立て直し、経営競争力につなげていくのかの活動であり、事
業の全体プロセスを通したコストの戦略的な再設計が必要である。このため、事
業単位でまず構想計画を立て、やるべき事のしっかりしたマスタープランづくり
を行うことが重要である。この事を全体計画を策定すると呼んでいる。この際に、
環境変化、競争条件を正しく捉えて、そのために何をすべきかを白紙に戻って検
討する。やることをしっかり共有化、共通化すること。コンセプトをしっかり設
計して仕組み、構造からして何を変革すべきかを明確にする。変革に対して、段
階的な活動をどう行うか。段階的な活動に対し、経営期待効果と投入すべき投資
はどうあるべきか。期待効果の最大化と投資の極小化を行うために探究すべき課
題は何か。推進体制はどうあるべきか。について構想し計画を策定する。
私たちの支援実績を通じてもはっきり断言出来ることは、全体計画で策定した
成果以上に実際の成果を達成することはあり得ないということである。究極のコ
ストハーフを実現するには、究極の議論と検討を通してそれにふさわしい課題作
りが是非とも全体計画で必要なのである。コストハーフの成果は全体計画で決ま
ると言っても過分ではない。概ね、全体計画の策定には約3ヶ月を要する。図表
15.に全体計画の進め方を示すが、それぞれのステージが1ヶ月というところ
である。
図表15.全体計画の策定手順

ステージ1 ◆ 目的の明確化
フェーズⅠ
【PMD(Purpose Measure Diagram)法】
あ るべ き姿 の策 定
◆企業環境変化の認識
◆ 現状把握・調査分析
【キーワードによる主要分析展開】
◆商品別コストの把握

◆ 戦略シナリオライティングによる
コンセプトづくり
◆コンセプトの設定・体系化

ステージ2 ◆コンセプトの展開
◆戦略課題の設定
基 本構 想策定

◆ 基本機能要件の展開
【現状と将来の仕組みの明確化、

機能/課題の構造化】
◆全体スコープの策定
◆将来構想づくり
◆技術課題の展開

ステージ3
マ スタープラン /
総合化

◆マスタープランづくり
【ステージアップシナリオ、
3フェーズ・インプルーブメント・プランによる実施計画】
◆コスト削減目標、概算投資
◆推進計画と体制づくり
2.全体計画づくりの体制

コストハーフの全体計画づくりは、次の点を明確にして取り組む必要がある。

・コストハーフは事業戦略そのものであり、企画部門が参画すること。
・事業の全体プロセスを通したコストの再設計が必要であり、営業、開発設計、
生産技術、購買、製造、品質保証の各部門から参画する。
・「仕事を変える」「製品を変える」「つくり方を変える」見直しを徹底して行うた
め、分科会を設置し、ワーキングメンバーを設定する。
必ずしも専任メンバーでなくてもよいが、実務とコストハーフの活動とパワー
アップした取り組みが必要である。全体計画以降の具体化段階では、コアメン
バーが分科会のリーダーとなり、さらに関係部門、関係者を参画させ、機能的に
進めていく。関係者を巻き込むことがコストハーフの進め方のキーワードである。
このため活動段階に合わせて推進体制はどんどん進化させていくのが、コストハ
ーフ活動の特徴である。
推進の取組み、体制は以下の形態が望ましい。

図表16.全体計画策定の推進体制

Top

評価委員会
各関連部門長

コアメンバー
・全体計画を策定し、
営業、開発設計、生産技術、
各分科会の指針をつくる。
購買、製造、品質保証

分科会①
「仕事の変革」
⇒販売、物流分科会

③ ・具体的な設計と実施展開を
図る。
「製品の変革」

「つくり方の変革」
⇒生産プロセス分科会
3.ステージ1 あるべき姿の策定

コストハーフを通して、経営競争力を実現する活動の目的、方向を明確にし、
その取組み活動のあるべき姿の概念(コンセプト)をつくり、実態の仕方、やり方
をどう変革していくかを明確にすることにより、経営の期待値、水準に応える枠
組みをつくる。

◆ 目的、やることの明確化 …… PMD(Purpose Measure Diagram)法に


よる目的、やることの共存化

◆ 企業環境変化の認識 …… 市場、顧客、競合分析

◆現状把握、調査分析 …… PMD手法のメインキーワードに立った
目標/実態ギャップ分析

◆商品別コストの把握 …… 商品機能とプロセスコストの評価

◆活動コンセプトの策定 …… 戦略シナリオライティング法による
コンセプトづくり
4.目的をつくる … PMD(目的と手段のダイアグラム化)法の適用

コストハーフとを通して、競争力のある事業の全体プロセスの再組立を行うに
際して、環境変化を正しく認識し、将来のあるべき事業システムと各ビジネスプ
ロセスの姿、方向を共通化、共有化しあうことほど難しいものはない。
将来のあるべき姿、方向とは、関係する者にとって「共通の思想」であり「共通の
言葉」である。しかし、このことを「共有化」し合うことは容易ではない。立場・専
門性・個人的条件により、理解・問題意識・方策への考え方が異なる。また「状況認
識」と「将来の環境変化への革新性」への受け止め方と取組み姿勢によっても異な
る。経営の期待する競争力のあるコストハーフの条件づくりを組織的に行うため
に極めて重要な事は、期待の納得である。よく我々は「腑におちる」という。変革
にあたっては「身体で納得する」事が重要である。この時エネルギーの集中化が的
確な方向に正しく行われる。この事を実施する方法として「PMD法」(Purpose
Measure Diagram:目的と手段のダイアグラム)がある。PMD法は、現在、旭
大学教授の江崎直彦氏により開発された方法である。
PMD法は課題を与えて、
a.要するに「われわれは、それで何をしようとしているのか?」
b.要するに「われわれは、それで何をどうすればいいのか?」
について「……を……する」という表現で各自、紙に書き出し、それを目的―手段
に階層に並べ直し、体系化したものである。このようにして改めて「何をするこ
となのか」ということが共有化できるものであり、これをメインキーワードとい
う。メインキーワードを導出して「目的とやること」を体系化する。

図表17.

課題(テーマ):

目的系
(何のために)

改めて、「何をする事
メインキーワード
なのか」の共有化

手段系
( 何をどうする)
5.目標/実態ギャップ分析

多くの改善活動が分析的アプローチをとるが故に実態分析に多大な労力をかけ
ている。分析を始めるとなんでも分析したくなり、実態分析で1~2ヶ月あっと
いう間に過ぎてしまう。その結果、データの山となってその使い道に困ると同時
に、もっと問題なのは、本格的な仕組み、構造についての理解ができなくなると
いうことである。仕組み、構造、やり方を変えないとコストは下がらないという
姿勢にコストハーフは立っている。実態分析は目的的に、短期に(一般には一週
間しか要していない)最小限を実態について情報収集し共有化することが大事で
ある。このため、「目的とやること」の共有化(これをメインキーワードと呼ぶ)
から実態把握をしていく進め方をとる。
目的とやることが明らかになると、次にこれを実現していくために実態の仕組
み、やり方、水準をどう変えてレベルアップしていけばよいかを考察していくこ
とになる。それには目標と実態のギャップの認識が必要である。
特に、新規設備の開発にとって、現行設備の運用によって得られた不具合改善
のノウハウはきわめて重要であり、この条件を設備設計に組み込んでいく必要が
ある。これを探索的条件という。
このようにして探索的条件を実態に立って裏づけていき、設計すべき機能要件
を明らかにするわけである。その際に役立つ設計情報もこの過程で汲み上げるこ
とができる。
実態と目標のギャップを分析するやり方は次のようにするとよい。

①PMDで導き出したメインキーワードからサブキーワードを抽出する。

たとえばメインキーワードが「高収益を目指した高効率、高信頼性の生産
システムの構築」ということならば、ここでは、高収益、高効率、高信頼性
がサブキーワードということである。
メインキーワードすなわち共有化された狙いを通して以下の作業を行って
いくと、実態把握にしても改善方向にしても絞り込みが効率的にできるので
ある。
②サブキーワードを確立するための構成内容を展開する。

たとえば次のように展開する。

サブキーワード 構成内容

高効率 ①設備稼働率
②作業効率
③自動化
④スペースの効率
⑤管理の効率

③各構成内容について実態認識を行う。

現状の仕組み、方法、水準などを調査して実態を把握する。

④改善の方向、機能要件(リクワイヤメント)を出す。

「狙い」に立った改善の方向、機能を考察し、設計への機能要件(リクワイ
ヤメント)を展開する。ここでは要するに何を変革していけばよいかを考察
するわけで、個別の改善点としてとらえるのではない。

⑤評価、付帯事項

そのリクワイヤメントは設計に組み込むべき内容かどうか、どのように取
り扱うかを評価する。関連する付帯事項があれば落ちなくあげておく。
図表18.に目標/実態のギャップ分析の例を示す。
図表18.目標・実態のギャップ分析

キーワード サブ 内容構成 実態(仕組み、方法、 変革、改善の方向 付帯事項


キーワード 水準)状況

高収益を目 高効率 設備 ① 設備稼働率 75% ○ 設備診断、自主 診断技術の導入


指した高効 稼働率 ② 故障件数 点検の体制化 ・データ化と
率、高信頼 50 件/月 ○ オペレータの 解析技術
性の生産シ スキルアップ ・傾向値管理
ステムの構 多品種少量ライ ○ 段取時間の短縮 生産技術改善に
築 ンの稼働率が低 と品質バラツキ よる切替え
く改善の余地が のゼロ化 品質の向上
大きい ・ワンタッチ
段取
・調整レス化
・治具、型の
標 準化

作業効率 ①多品種少量ライン ○ 人の効率を ○ 編成効率の


の編成効率は 100%にする 最大化
75% ・作業品質の ○ 配膳作業の
②多能工化が遅れ、 バラツキを システム化
作業者のスキルに なくす
依存している ・物の取置き
時間を減らす
・切換え変動
ロスをなくす
自動化
6.コンセプトをつくる …… 戦略シナリオライティング法

コストハーフの課題づくりの方法は、あるべき姿を具体的に構想化し、実態と
のギャップを顕在化させ、コストを削減する課題の設定を行うというアプローチ
を取る。
コストは実態にぶら下がっており、実態を変えなければコストは下がらないか
らである。このため、課題をつくるためにコンセプトを策定することになるが、
コンセプトをつくる方法が戦略シナリオライティングである。
コンセプトとは、「構築すべき事業システムの目的」であり、構築された事業シ
ステムの「姿」でもあり、実現のための「機能要件」でもある。重要なことは、
実態の何を変革して、何を具備すべきかの概念をつくり上げることである。
現状アプローチとデザインアプローチの総合的組合せが、コストハーフ計画の
立案に重要である。このことは、コストハーフ計画を立てるにあたって、経営の
目標に戦略的視点から設計を進めることと、実態システムの上に立って、現場で
の改良、改善すべき課題を明確に取組むことが有効だからである。

(注)ここでいう事業システムは、製品、生産プロセス、管理、業務、設備、操
業の全体を対象として意味する。
図表19.デザインアプローチと現状アプローチを組み合せた
コンセプトづくりの方法

デザインアプローチ
目的、やることの ・ 経営期待目標
目標システム
共有化 ・ 利益

(メインキーワード)
・ 規範的/探索的な
解決キーワード
解決の手がかり

・ キーワードの発展
課題の展開

解決のシナリオ ・ コンセプトの導出
解決すべき方向、方策→
コンセプト
現状アプローチ

・ 実態の改善方向
現状の問題展開
・ 実態の本質的構造
理解
・ 実態の悪さ、不具合
実態システム
の顕在化
・ 現状水準
実態シナリオからコンセプト抽出まで

工場の実態 問題展開 解 決キーワード 課題の 改善 コンセプト


シナリオ の抽出 展開 シナリオ の抽出

(1)月 間 組 立 ・計画生産 変動に対応し 確定生産範 市場の短納 管理の一


は、月1回 体制の確 得る一元生産 囲の拡大 期化・多機 元化と確
立てられ 立 管理体制 種化ニーズ 定生産範
るが欠品 ・工場内確 に対応し、 囲の拡大
が多いた ・確定生産範 定生産指 かつ在庫削
め、計画変 囲の拡大 示 減を図るた
更が発生 ・生産の Plan ・リードタ め、各工程
し、組立指 -Do-Check イムの短 別にリード
示は毎日 の集中コン 縮 タイムを短
現場に出 トロール 縮し、工場

される。 内確定生産
(2)各 加 工 工 を目指す。

程の日程 ・計画~指
計画は組 示~納入 生産 Plan 確定組立計

長以外に 進捗管理 -Do-Check 画に基づく


はわかり の仕組の の集中コン 加工指示及

にくい。 見直し トロール び外注購買


(3)営 業 が 情 納入指示の
報を入手 ・問題部品 ・生産計画 一元化、迅
してから について 加工指示 速化を図
現場へ指 の生産能 の一元化 る。欠品等
示するま 力の強化 ・生産状況 による工場
で、手続き の把握 混乱をなく
に時間が すため、生
かかって 産進捗管理
いる。 ができるシ
ステムを構
築する。

(設備能力) ・段取時間 市場ニーズに 多品種対応 フレキシブ フレキシ


(1)マシニングセンタ 短縮によ 対応し得る低 生産ライン ル生産ライ ブル・コス

ーに工程集 る多品種 コスト、フレキ の確立 ンを確立す トミニマ


約している 化 シブル生産ラ るため、VR ム生産
ためネックマシン ・ロボットの イン ・段取時間 (バラエティ・

となり、系 有効活用 の短縮 リダクション)の


としての設 を図る。 ・多品種対応 ・設備の汎 考えによ
備能力を下 ・部品毎に 生産ライン 用性向上 り、治工具
げている。 最適設備 の確立 の共通化を
(2)専用自動 編成を 図
化ラインを
7.ステージ2 基本構想策定

設定したコンセプトごとに、将来の事業システムの変革の仕組みを展開し、現
状の仕組みとの違い、変革すべき要件を明確にすることにより、コンセプトの具
体化と関連するスコープの確定を行う。
コンセプトの展開により、構築すべき事業システムの姿が、具体的な仕組みの
構造図化により、言葉から具体的なイメージに変換されることになる。構想づく
りを行う上での基本的要件の指針化と言える。
特に、現状の仕組みのどこに環境変化への矛盾、限界があって、これをどう再
構築して求める将来の姿を仕組みとしてつくり上げることが出来るかが重要なこ
とである。

◆ コンセプトの展開 …… コンセプトの現状/将来イメージの点展開

◆将来構想づくり …… 将来構想づくりと基本課題の設定

◆基本課題の展開 …… 製品、生産プロセス、管理、業務、設備、操業
の基本課題の方向設定

◆課題の構想化 …… 考え方の枠組みと手順をつくり、体系的に、組
織的に豊富な着想の展開を得る(FNBS法)

◆ 目標ポテンシャルの算定 …… 目標ポテンシャルの算定、評価と実現の条件
設定

◆課題の層別と取組み方向 …… 課題を層別し、対象、範囲、難易度に合せ、最
適な取組み方向を検討する。
8.コンセプトを発展する …… 将来イメージの展開

策定したコンセプトを「言葉」だけで共有化するのではなく、具体的な考え方
とやることの「イメージ」として共有化するために、各コンセプトをこれからの
姿(仕組み、構造)を展開し、現状の仕組みとの違い、変革すべき要件を明確に
することにより、設計すべき枠組みを確定する。
現状とこれから(将来)を比較出来るようにしながら、
①現状の仕組みの限界とこれから(将来)の対応の考え方
②現状の仕組みの構造図化とこれから(将来)の仕組みの構造図化とその相違
点の明確化
③現状の経営指標、状況の実態とこれから(将来)の経営指標、状況の展望の
見込みについて指数化してその差異を明確にする。
についてまとめる。
特に、現状の仕組みのどこに環境変化への矛盾、限界があって、これをどう再
構築して求める将来の姿の仕組みとしてつくり上げることが出来るかが重要なこ
とである。
9.基本課題を展開する

課題とは、将来のあるべき姿を抗そう化し、実態とのギャップ(変化点)を顕
在化し、「実態をどう変えていくか」について総合的、網羅的に捉えてつくり上げ
る。
このための条件は、
・将来のあるべき姿についてより広く、より深く、より関連づけて構想力を高
めること。
・仕組み、構造として何をどうするかの具体的な検討と構想を深めること。
・部分から入らず、部分から限定せず、全体の関連と関係で捉えていく。
ことが大事である。
具体的に基本課題を設定するために、コンセプトの展開を元に基本嘉課題を設
定する。
基本課題とは、「全体的に捉えた課題の抽象的表現」と言ってもよいであろう。
また、コンセプトを実現するために、実態をどう変革するかの「課題の全体的表
現」と言ってもよいであろう。これからの議論の基本テーマの位置づけである。
このため、「何々をどう見直す」というくらいの表現でもよい。基本課題は、コ
ンセプトの展開を元に、網羅的、全体的に摘出する。ここで洩れてしまうと、そ
の領域の議論と検討が抜けてしまうので、出来る、出来ないの判断はしない方が
賢明である。
図表20.に基本課題展開のイメージフォーマットを示す。

図表20.基本課題づくり

コンセプト 基本課題の 基本課題の 実態の水準 取組み課題 評価


展開 目標 ・やり方

① [定量的に [目標に到 [実態はど


表現] 達するため うなってい
に何をどう るか]
する]


10.課題を構想化する

基本課題が設定されると、次に基本課題を入口にして、考える着想を摘出し、
最も有効な着想を絞り込んでいく。このための考え方の筋道を立てて、豊富な着
想を得る方法とやり方が、私達の開発した手法であるが、FNBS(Function
Needs Breakdown Structure)法である。基本テーマ自体がもやもやしており、ま
だ、海のものとも山のものともつかない時点で用いると有効である。と言うのも、
得てして、この時点のテーマの位置づけは重要とは思われるが、
・テーマの与件そのものが、実は明らかではない。
例えば、スケールの物質そのものがわからないとか、多分ポリエステルかも
もしれないとか、スケールの場所が特定出来ず、調べてみなければわから
ないとか、議論そのものが曖昧なものである。
・色々なアイデアはそれなりにあるが、根拠、つながり、重要性が明確でない。
というふうに、捉えどころがなく、どこにでも飛んで行ってしまう心もとないも
のである。このため、このことが重要とは知りつつも先送りしてしまったり、わ
かることだけを限定して議論してしまうというように、枠をはめてしまいがちで
ある。
課題の構想化にあたっては、そのような制約と落とし穴にはまり込まず、自由
な考え方の上で、自在に考え方を組み立てて、しかし工学的な道理と考察の上で
発展させていきたいものである。
次に、課題の着想化の手順と順序を示す。

①取組みテーマを基本テーマに展開する。
・ 成果、取組みが、基本的にはバッティングしないことが望ましい。
②基本テーマの単位で、FNBS(Function Needs Breakdown Structure)法
により、正しい考え方の手順と着想を得る。(図表21.参照)正しい考え
方の着想とは、
・ 規範的に考え方の列挙を行う…レベル1
・ 観点を事前に展開し、枠組み化する…レベル2
・ 考え方と観点を組み合せてアイデアの抽出を行う…レベル1×レベル2
アイデアには制約を与えない。考え方として成立出来るかどうかが大事で
ある。評価・検証は後ですればよい。
図表21.F.N.B.S法の構成と枠組み

レベル0 基本テーマ
目的、狙い

レベル1 考え方1 考え方2 考え方3

1.反応 2.反応 3.流れ 4.熱伝達 5.特定


レベル2 機構 条件 条件
例えば、
付着

なお、レベル2の観点の枠組みは、厳密にはテーマによって異なるが、ある程
度共通化するものである。例えば、次のような観点の与え方でも十分であろう。

1.反応機構 A+B Cn

2.反応条件 濃度/温度/圧力/触媒/溶解PH/滞留時間

3.流れ 層流/乱流
速度分布(よどみ)… 容器/流路形状、撹乱方式

4.熱伝達 外部加熱/冷却
内部発熱/吸熱(反応熱)
熱伝達係数… 流れ

5.個別条件
(例えば、付着) 物理付着
化学付着
更に、少々わかりにくいが(考え慣れていないため)、レベル1の考え方とは次
のように捉えるとよい。

「目的」に立って、「その事象」が成立する考え方を、簡潔に考究することによ
り、規範的に表現すること。

「○○事象」…… ①その事象の成立そのものを見直す なくす、やめる、戻す


ゼロ化

②その事象の成立過程そのものを ずらす、小さくする、
遅らせる 減らす
ミニマム化
大きくする、増やす
マキシマム化

③その事象が発生したとしても 変える、加える、
後処理により影響を与えない 分ける
プラス化

④事象を発生させる要因(変数)
を組み合せて最適化する
11.目標ポテンシャルの算定

アイデアレベルの段階でコスト削減の効果算定を行うことは難しいことである。
・ アイデアそのものの実現性が不透明であり、何にどう効いてくるかの関連
がつかみにくい。
・ 効果が 100%なのか、50%なのか、その効き方について定量的に表わしに
くい。
・ 人により、効果の考え方がばらつくのが普通である。
このため、全体計画段階では、ザクッとその余地を大づかみに捉えて評価する
のが賢明であり、一般にはポテンシャル(可能性)として認識することが正しい。
それは、効果をそれなりに把握して、取組みのレベル、深さ、やり方、優先順序
等について正しく計画化することが狙いだからである。
コストハーフはキャッシュフローを高めることを目的の一つにしているので、
投資をしてコストを下げるテーマは後回しに考えるようにしている。
目的、機能に戻して、最小投資又は処方条件を変更して、大きな効果を高める
テーマを、たとえそのブレイクスルーの壁が高かろうと優先化するようにしてい
る。このため、テーマを挙動が未知か、既知かに分けて、挙動の因子が判明して
いるかどうかで工場操業テーマ、パイロット実験テーマ、更に難技術テーマとし
て、工学的に解決するテーマの三つに分けている。
工学的に解決するとは、機能そのものの関連と条件がわからず、どこから手を
つけてよいのかわからないテーマと認識してもらいたい。このようなテーマが山
ほどあることが、実はプロセス型企業の製造工程の特徴でもある。この点をどう
ブレイクスルーするかが、他社との競争力のポイントである。
12.マスタープランの総合化

全体目標で策定したコスト削減を実現するには、2~3年かかるのが一般であ
るが、このため、2~3年待ってくれという訳にはいかない。活動の時間軸に合
わせてコスト改善を進めていかねばならないし、活動全体を正しく組み立てて、
整合性を持った進め方もしなければならない。
更に、コストハーフは戦略そのものであり、事業の中長期的計画の中に正しく
組み込んでいくことが効果的な活動につながる。
この点を事業の経営計画に立って、活動全体を明らかにしていくことを「マス
タープランの総合化」と呼んでいる。
課題構想づくりを元に、活動全体の段階的な取組みの考え方と、いつまでに、
何をやるべきかの活動の内容と範囲、経営的な期待値と水準及び投入資源、更に
解決すべき課題について体系的に整理することにより、事業部の中長期計画とリ
ンクしたコストハーフ活動のマスタープランを作成する。
マスタープランの作成にあたり、目標システムに対して段階的にステップアッ
プすることが望ましい。要求される目標システムの高度化、高水準化を考えると、
解決すべき技術的課題も相応に大きいものになる。課題解決の戦略的取組みと経
営期待、成果と整合化を図るためにステップアップすることが有効である。
このことにより、
①環境の変化や市場、競合他社の動向、変化を組み込んで推進できる。
②経営の全体の最適性に立って、活動の優先を評価する。
③投入資源の戦略的最適化を図る。
ことが出来る。
特に、経営に立った活動の判断、意思決定と評価を正しく行うため、各段階で
の期待成果/投資が見えるようにする。

◆ステージアッププランづくり …… 段階的活動の計画化

◆経営成果と総合評価 …… 経営の期待成果と投入資源の策定、評価

◆活動体制と活動計画 …… 実施展開の体制とアクションプラン
13.ステージアップ・プラン

競争優位なあるべき姿(目標システム)を、コストを軸に実態を変革し、実現
することが、コストハーフの狙いであるが、あるべき姿に到達するために、実態
システムをどう変革していくのかについて、ステージアップの考え方を明らかに
したものがステージアップ・プランである。
どうせ究極のコストを実現するためにしんどい活動をやるのなら、その活動の
トンネルを抜け出た時には、業界一、世界一クラスを目指したいものである。夢
が大きければ、少しの大変さはかえって大きな喜びにつながる。このための活動
の筋道をつくることが、このステージアップ・プランの狙いである。手順を踏ん
で、整合性を取って、しかし着実にステージアップするプランがしっかり共有化
されることは、コストハーフを進めていく上で、極めて好影響を与えるようであ
る。コストハーフのスタート時点は、世界一水準の目標が関係者にとって何かこ
そばゆいものであったが、時間も経って成果が見えてくると、かえって世界一水
準とのこだわりも大きくなり、関係者の大いなる意識変革にもつながるようであ
る。
図表22.にある化学系企業のステージアップ・プランの例を示す。このケー
スの場合、目標が明確にされたことが、関係者の集中化した取組みにつなかった
ことが明確である。

図表22.にある化学系企業のステージアップ・プランの一例
PHASE-4
世界市場 No.1
の事業体質の
確立

PHASE-3
経営期待

世界に誇れる
事業への変革

PHASE-2
円高に左右さ
れない事業体
PHASE-1 質づくり

競争に耐える
ものづくりの
革新基盤づく


14.活動順位をつける …… 3フェイズ・インプルーブメント・プラン

言うまでもなく、色々なテーマが出て来て、優先順序が必要であるが、得てし
て、難しいテーマが議論の対象になり、時間が先送りされがちである。
中には、担当をハッキリさせて、今日からでも出来るテーマもあり、すぐ着手
することが利口なことは言うまでもない。このようにテーマの活動順序を、
(Ⅰ)すぐ実施出来ること
(Ⅱ)準備してやること
(Ⅲ)十分に評価し、試験、試作(吟味)してやること
に分けて、計画化することが効率的である。この方法を3フェイズ・インプルー
ブメント・プランと呼ぶが、活動順位の区分と達成条件及び担当の明確化を行う。
関係する部門、担当を全員巻き込んでいくことが大事である。

図表23.3 Phase Improvement Plan

(Ⅰ)すぐやること (Ⅱ)準備してやる (Ⅲ)十分に評価、試


こと 作してやること

活動 達成 担 活動 達成 担 活動 達成 担
項目 条件 当 項目 条件 当 項目 条件 当
15.コストハーフ全体計画設定のまとめ

●経営資源をどう組み立て直し、経営競争力につなげていくかの活動であり、

●事業の全体プロセスを通したコストの戦略的な再設計が必要である。

●このため、事業単位でまず構想計画を立て、

●やるべきことのしっかりした全体計画づくりを行うことが重要である。

●この際に、環境変化、競争条件を正しく捉えて、

●そのために何をすべきかを白紙に戻って検討する。

●やることをしっかり共有化、共通化すること。
●コンセプトをしっかり設計して仕組み、構造からして何を変革すべきかを
明確にする。
●変革するための課題を正しく設定し、具体的な着想に展開する。

●着想を総合評価し、究極のコストを実現する効果的なテーマの設定を行う。

●期待成果の最大化を行うために探究すべき条件は何か。

●全体の活動を効果的、効率的に進めていくマスタープランはどうあるべきか。

●推進体制はどうあるべきかについて構想し、計画を策定する。

著者紹介
株式会社アイデア
経営コンサルタント
江口 一海

1949 年生まれ
1947 年、慶応義塾大学機械工学科修士課程卒業
1977 年、株式会社日本能率協会コンサルティングに入社。以来、経営コンサル
タントとして、省エネルギー、製品コストダウン、FA、生産システムの領域
を中心に 50 社以上に及ぶ企業の改善、課題解決支援のコンサルティングを行う。
CIM 本部長、開発・技術本部長などを経て、1997 年 5 月、株式会社アイデアを
設立する。
現在は、コスト 1/2、生産システム戦略のコンサルティングを主なテーマとし
ている。
受賞歴:「日本機械学賞」(1977 年)
著書:「FAエンジニアリング」(共著)
「生産システムのリエンジニアリング」 他

謝辞
本全体計画の中で使われている PMD 手法等は、江崎通彦氏が開発した方法であり
その有効さは特筆すべきものがある。改めて掲載の許可に同意賛同頂いたことに感
謝するものである。
アンサー・リポートの著作権は、アンサー・コンサルティングLLPと著作者に
帰属します。
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