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ESRI Discussion Paper Series No.

119

日本の実質経済成長率は、なぜ 1970 年代に屈折したのか

by
原田 泰
吉岡 真史

October 2004

内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見
解を示すものではありません。
WHY DID JAPAN’S E CONOMIC G ROWTH RATE

DECREASE IN THE 1970S?

Yutaka Harada
(Chief Economist, Daiwa Institute of Research Ltd., Visiting Senior Research
Fellow, Economic and Social Research Institute, Cabinet Office)

Shinji Yoshioka
(Director, Cabinet Office Secretariat, Government of Japan,
Former Senior Research Fellow, Economic and Social Research Institute, Cabinet
Office)

(Short Abstract)

Even though Japan’s economic growth rate drastically decreased in the 1970s, only
few analyses behind this decrease have been attempted. This paper tries to explain
why the decline of the growth rate occurred, using a VAR model.

(Abstract)

Even though Japan’s economic growth rate drastically decreased in the 1970s, only
few analyses behind this decrease have been attempted. This paper tries to explain
why the decline of the growth rate occurred, using a VAR model.

First, we had doubts about the decline being caused by oil shocks, the shrinking of the
productivity gap between Japan and the advanced countries, and the decline in
population growth rate.

Second, we constructed a VAR model based on a neo-classical growth model. The


model shows that free and efficient inputs of labor and capital, along with
technological progress, were vigorous.

1
Third, we estimated the model by using variables such as private capital, public
capital, labor, money supply, internal migration, and productivity gap between
Japan and the United States, and oil prices. The results of estimation strongly suggest
that the decline was not explained by the shrink in productivity gap and oil prices, but
by the changes within the Japanese economy to respond to those variables. For
example, parameter of the productivity gap was 0.056 in 1955-75, but it became
negative in 1975-2003. Japan’s economy lost the ability to “catch up” to a more efficient
economy after 1975. This is the reason why the Japanese economy declined in the
1970s. Our analysis, however, cannot explain why the Japanese economy lost this
ability.

2
日本の実質経済成長率は、なぜ 1970 年代に屈折したのか
(要約)

原田泰・吉岡真史

1.問題意識
戦後の日本経済は 1970 年代と 1990 年代に 2 回の成長率の屈折を経験している。90 年代
の成長屈折については、それが何ゆえに生じたのかについての分析がある。しかし、70 年
代の屈折についてはほとんど分析がない。本稿は、そのギャップを埋めようとするもので
ある。

2.目的
本稿の目的は、70 年代の成長屈折が何ゆえに起こったのかということを明らかにするこ
とである。そのために、まず、石油ショックによって 70 年代の成長屈折が生じたという一
般の通説とよりアカデミックな通説を整理した後に、それへの疑問を述べる。次に、広く
認められる経済理論と計量分析手法で、成長屈折の謎に挑戦する。

3.分析手法
経済成長は資本と労働の投入と技術進歩によって説明されるという新古典派的成長論を
踏まえて、資本と労働の円滑な投入に錯乱を与える要因、公的資本ストック、技術進歩に
影響を与える人口移動、先進国経済との格差、原油価格を説明変数とした VAR モデルを計
測する。

4.結論
計測の結果、以下のようなことが分かった。1970 年代初まで日本の成長率が高かったの
は人口移動、技術格差への反応が大きかったからである。日本のキャッチアップ過程の進
展により技術格差が縮小したことが成長率を屈折させたとは思われない。70 年代までは、
民間資本の効率も公的資本の効率も高かったが、その後、低下した。成長率の屈折に関し
て、石油ショックの影響はほとんど見られなかった。金融政策のような資本と労働の円滑
な投入に錯乱を与える要因も成長率の屈折に影響を与えているが、これが屈折に永続的な
影響を与えたかどうかは分からない。
要するに、70 年代以降、成長率を屈折させたものは石油ショックや技術格差の縮小のよ
うな外的な要因ではなく、外的なショックに対して日本経済が反応する力の弱くなったこ
とにある。ただし、なぜそうなったかは、本稿の分析からでは明らかではない。

3
日本の実質経済成長率は、なぜ 1970 年代に屈折したのか

原田泰・吉岡真史*

はじめに
戦後の日本経済は 1970 年代と 1990 年代に 2 回の成長率の屈折を経験している。90 年代
の成長屈折著については、失われた十年とも大停滞とも長期不況とも呼ばれ、十分ではな
いにしても、それが何ゆえに生じたのかについての分析がある 1 。しかし、70 年代の屈折
についてはほとんど分析がない。本稿は、時系列分析の手法を用いて、戦後日本経済の成
長屈折が何ゆえに生じたのかを、70 年代の屈折に重点をおいて明らかにしようとするもの
である。
本稿の構成は以下のようである。1.では石油ショックによって 70 年代の成長屈折が
生じたという一般の通説に対して疑問を提示し、2.では、よりアカデミックな通説を整
理した後にそれへの疑問を述べる。3.では経済成長は資本と労働の投入と技術進歩によ
って説明されるという新古典派的成長論を踏まえて、資本と労働の円滑な投入に錯乱を与
える要因、公的資本ストック、技術進歩に影響を与える人口移動、先進国経済との格差、
原油価格を説明変数とした VAR モデルを計測した。計測の結果は、以下のようなことが分
かった。1970 年代初まで日本の成長率が高かったのは人口移動、技術格差への反応が大き
かったからである。技術格差や人口移動の大きさそれ自体が成長率の屈折を生み出したと
は思われない。70 年代までは、民間資本の効率も公的資本の効率も高かったが、その後、
低下した。成長率の屈折に関して、石油ショックの影響はほとんど見られなかった。資本
と労働の円滑な投入に錯乱を与える要因も成長率の屈折に影響を与えているが、これが永
続的な屈折に影響を与えたかどうかは分からない。要するに、70 年代以降、成長率を屈折
させたものは石油ショックや技術格差のような外的な要因ではなく、外的なショックに反
応する日本経済の弱くなったことにある。ただし、なぜそうなったかは今後の課題である。

1.問題の所在
戦後の経済成長において、成長率の屈折は、すべての先進工業国が経験したことである。

* 原田泰(大和総研チーフエコノミスト E-mail: y.harada@rc.dir.co.jp、内閣府経済社会総合


研究所客員主任研究官 )、
吉岡真史(内閣府官房参事官 E-mail: shinji.yoshioka@cao.go.jp 前内閣府経済社会総合研
究所上席主任研究官)
本稿を作成するにあたっては 2004 年 7 月 9 日の内閣府経済社会総合研究所のセミナーにお
いて、香西泰所長、コメンテイターをしていただいた太田清上席主任研究官はじめ多くの方々
より有益なコメントをいただいた。また、原田・江川[2001]の試論的バージョンには、2001 年
度春季金融学会において、同志社大学の北坂真一教授より有益なコメントをいただいた。以上
の方々に心から感謝したい。もちろん、残る誤りはすべて筆者の責任である。
1 例えば、浜田・堀内・内閣府 [2004]など。

4
戦争で破壊された経済が正常な状況に復帰する過程で高い成長を経験し、その後正常な状
態になって元の安定した成長率に戻るのはなんら不思議ではない。また、低開発国がキャ
ッチアップの過程で高い成長を遂げ、その後安定した成長経路になるのも数多く経験され
ている。これは所得収斂仮説、ないし条件付所得収斂仮説として繰り返し実証され、成長
論の教科書においても、確立された事実として記されている2 。
日本の成長率屈折も以上述べた2つの経験と同様に解釈できると考えられるかもしれな
い。しかし、日本の場合には、戦後のトレンドラインに戻った 1950 年代にではなくて、1970
年代に成長率が屈折した。また、一人当たり購買力平価 GDP で見て、日本のキャッチアッ
プは未だ終わってはおらず、アメリカと日本との 1 人当たり購買力平価 GDP の格差は 90
年代になって拡大した 3 。90 年代にアメリカの成長率がそれ以前と比べて低下せず、日本
に成長率が大きく低下したのであるから当然である。日本の成長率屈折は、経済学と常識
が示唆するところとは大いに異なっているのである。
もちろん 70 年代の成長率屈折は石油価格が 4 倍にも高騰した石油ショックのゆえである
という反論がすぐさま帰ってくるだろう。しかし、多くの国が 70 年代に低成長を経験した
のは事実であるが、日本ほど大きく成長率が低下した国は存在しない。また、石油価格高
騰が成長率屈折の理由であれば、石油価格が低下すれば日本の成長率は上昇しなければな
らないが、そのようなことは起こらなかった。日本にとっての実質石油価格は、インフレ
と円レートの上昇によって 90 年代には 60 年代の水準に戻っている4 。では、なぜ 70 年代
に成長率は屈折したのだろうか。

2.これまでの研究成果
1970 年代の成長屈折についての分析は限られるが、日本経済についての基本的な見方を
整理した南[1992]第 12 章では、戦後高度成長期以降の日本経済の成長率低下について、技
術革新の世界的停滞、先進国と日本との技術格差の消滅による技術導入機会の減少、先進
国における成長志向的経済政策の転換、石油価格の急騰による重化学工業の転換、労働力
不足の深刻化などを指摘している。
しかし、これらの説は必ずしも説得的ではない。技術革新の停滞が世界的であることが
事実としても、その中で日本だけが成長率が低下するとするのは説得的ではない。原田
[2003]図 1-1 の指摘するように、1 人当たり購買力平価 GDP で計れば、日本とアメリカの
技術格差は消滅していない。小峰[1995]はおそらく初めて、70 年代に成長屈折が石油ショ
ックによるものだという説に異を唱えたものだろう。石油価格が低下しても成長率は高ま
っていないと指摘したのである。失業率が上昇しているのに、成長率の低下が労働力不足
とは理解しがたい。政策の変化は重要だろう。原田[1998]も、70 年代の成長屈折の要因は、

2 例えば、バロー=サラ・イ・マーティン[1995]第 11 章など。
3 日本以外の国ではこのような現象は起こっていない。たとえば韓国では、ほぼ一貫してアメ
リカとの格差が縮小している。
4 これらの事実は原田[1998]第 1 章に整理されている。

5
石油ショックのゆえではなく、様々な規制の導入、規制の強化などによって日本経済の構
造が硬直化したことによると指摘した。原田は、成長屈折の要因を定性的また一部は定量
的に指摘しているが、それらの要因がマクロ的にどの程度の大きさであったのか、10%成
長を3%成長に引き下げる大きさがあったのかという点についての分析が欠けている。
成長屈折は石油ショックによるという通説に対して、飯田[2004]4 章 2 は、農村から都市
への人口移動の停滞が 70 年代の成長屈折をもたらしたとしている。これは、南[1992]第 9
章、速水[2000]第 3 章など、開発経済学における成長転換論を日本経済に援用した仮説で
ある。飯田は、人口移動の停滞を農村人口の減少という物理的な制約によるとしているが、
八田[2001]、増田[2002]は、農村から都市、衰退地域から繁栄地域への人口移動を制約する
ような政策が採用されたことが成長屈折の原因であるとしている。
原田・江川[2001]は、時系列分析の手法を用いて、戦後日本経済の成長屈折を分析しよ
うとしたものであるが、人口移動という重要な要因を考慮していない。そこで、本稿では、
新古典派の成長モデルを基礎に置き、投入要素の円滑な配分に影響を与える要因、全要素
生産性に影響を与える要因を考慮して、戦後日本の経済成長を分析することにした。

3.基本的考え方と VAR モデルの推計


経済は資本と労働の投入と技術進歩によって説明される。資本と労働が円滑に投入され
るかは賃金率の設定により、賃金率は金融政策によって錯乱される可能性がある。金融政
策は資本の投入にも錯乱的影響を与えるだろう。また、資本には公的資本ストックも考慮
すべきである。人口移動、キャッチアップの度合い、原油価格は、経済が利用できる技術
のストックを制約するだろう。
そこで、実質 GDP を、民間資本、公的資本、労働、賃金、マネーサプライ、人口移動、
原油価格、キャッチアップの程度で説明する VAR モデルを構築することとする。説明変数
の数を制限するために、実質 GDP、民間資本、労働、賃金、マネーサプライ、人口移動を
内生変数とし、公的資本、キャッチアップの程度、原油価格は外生変数とした。
生産関数は一次同次を仮定し、実質 GDP、民間資本、公的資本は労働人口 1 人当たりと
した。また、マネーサプライと人口移動も労働人口 1 人当たりとした。賃金、キャッチア
ップ、原油価格については労働人口で除していない。使用したデータの詳細は以下の通り
である。データは 4 半期、期間は 1955 年から 2003 年までである。ただし、計測期間は、
ラグのために 1957 年第 1 四半期から 2002 年第 4 四半期となる。

3.1 データの詳細
(1) 実質 GDP
内閣府の国民所得統計を取った。ただし、93SNA は 1980 年までしか遡及されていない
ので、それ以前については 68SNA の旧推計のデータを用いた。93SNA と 68SNA の連結は
1980 年第 1 四半期の比率で行なった。

6
(2) 民間資本ストック
内閣府の民間企業資本ストック統計から取った。全産業の取付けベースである。93SNA
は 1990 年までしか遡及されていないので、それ以前については 68SNA の旧推計のデータ
を用いた。93SNA と 68SNA の連結は 1990 年第 1 四半期の比率で行なった。93SNA への改
訂のポイントのひとつにソフトウェアが中間投入から固定資本形成に移行したことがあり、
固定資本形成に占めるソフトウェアの比率が 1990 年以前については 1990 年以降より高く
なかったとすれば、この遡及方法は過去の民間企業資本ストックを過大評価している可能
性がある。
(3) 生産年齢人口
労働人口は生産年齢人口とした。通常は 15-65 歳を採用するが、先進国の現状を考えて、
総務省 (2003b) の 5 歳階級別人口から 20-64 歳人口となるように合計した。このデータは
1977 年までは各年 10 月 1 日現在の人口を、それ以降は毎月 1 日現在の人口をレポートし
ているので、1977 年までは 10 月 1 日現在の人口を第 4 四半期の計数とみなし、年内の人
口増加率が一定となるように四半期分割した。1978 年以降については、それ以前と整合性
を取るために、各四半期の最初の月の 1 日現在の人口を当該四半期の人口とみなした。例
えば、第 1 半期は 1 月 1 日現在、第 2 四半期は 4 月 1 日現在の人口を取っている。
(4) 時間当たり実質賃金
厚生労働省の毎勤統計の 30 人以上の製造業事業所の賃金指数を同じベースの労働時間
指数で割り、さらに GDP デフレータで除して実質化した。
(5) 実質通貨供給
日銀統計から M2+CD をとり、GDP デフレータで割って実質化してある。新系列は 1998
年第 2 四半期から利用可能であるので、それ以前は旧系列を取った。1998 年第 2 四半期の
比率で連結した。なお、GDP デフレータについても GDP と同様に 93SNA と 68SNA を連
結した(以下、同じ)。
(6) 人口移動
総務省 (2003a) の自府県内と府県間移動の合計である。これを生産年齢人口で除したも
のを用いた。
(7) 公的資本ストック
内閣府 (2002) の pp.238 表 3-41 により 1998 年度までの年度データを取った後、93SNA
の公的固定資本形成(1980 年度から 1998 年度まで。ただし、電電公社と国鉄が民営化され
た 1985 年度と 1987 年度を除く)のフローと照らし合わせ、各年の除却率を各年の平均であ
る約 0.63 パーセントと推計し、2002 年度まで年度データを延長した後、内閣府の国民所得
統計の実質公的資本形成に基づき四半期化した。その際、年度内の各四半期で除却率が均
一となるようにした。
(8) キャッチアップ指数
1969 年までは Penn World Table を、1970 年以降は OECD 作成の購買力平価換算での一人

7
当たり GDP データを用い、日本がアメリカに比べて何%小さいかを示す数値を作成した。
年データであるので、等差級数となるように日米の値を四半期分割した上でこの数値を作
成した。ただし、指数の値を他の対数値の値と合わせるために 100 で除してある。
(9) 実質原油価格
IFS よりブレントのドル価格を取り、米国の GDP デフレータで除して実質化した。
なお、これらのデータはすべて原系列であるので、推計に当たっては季節ダミーを用い
た。
これらのグラフは図1の通りである。なお、推計に当たって、生産年齢人口当たり人口
移動とキャッチアップ指数を除いて対数値を取ったので、以下のグラフは対数値のもので
ある。生産年齢人口当たり人口移動とキャッチアップ指数については対数値を取らなかっ
たので、グラフは指数そのものである。

1. 使用変数のグラフ
生産年齢人口当たり実質 GDP(対数値) 生産年齢人口当たり通貨供給(対数値)

8 12

11
7

10

6
9

5 8
1955Q1
1958Q1
1961Q1
1964Q1
1967Q1
1970Q1
1973Q1
1976Q1
1979Q1
1982Q1
1985Q1
1988Q1
1991Q1
1994Q1
1997Q1
2000Q1
2003Q1

1955Q1
1957Q4
1960Q3
1963Q2
1966Q1
1968Q4
1971Q3
1974Q2
1977Q1
1979Q4
1982Q3
1985Q2
1988Q1
1990Q4
1993Q3
1996Q2
1999Q1
2001Q4

時間当たり賃金(対数値) 生産年齢人口当たり民間企業資本ストック
(対数値)

5 17

16
4

15

3
14

2 13
1955Q1
1958Q1
1961Q1
1964Q1
1967Q1
1970Q1
1973Q1
1976Q1
1979Q1
1982Q1
1985Q1
1988Q1
1991Q1
1994Q1
1997Q1
2000Q1
2003Q1

1955Q1
1957Q4
1960Q3
1963Q2
1966Q1
1968Q4
1971Q3
1974Q2
1977Q1
1979Q4
1982Q3
1985Q2
1988Q1
1990Q4
1993Q3
1996Q2
1999Q1
2001Q4

8
0
1
2
3
4
5

0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9

0
1955Q1
1955Q1
1958Q1
1958Q1
1961Q1
1961Q1
1964Q1
1964Q1
1967Q1
1967Q1
1970Q1
1970Q1

3.2. 単位根検定
1973Q1
1973Q1
1976Q1
1976Q1
1979Q1
1979Q1
1982Q1
1982Q1
1985Q1
1985Q1

キャッチアップ指数(比率)
1988Q1
1988Q1
1991Q1
1991Q1
1994Q1
1994Q1
1997Q1
1997Q1
2000Q1
2000Q1
2003Q1
生産年齢人口当たり人口移動(パーセント)

9
6
7
8
9
10

0.5
1.5
2.5

0
1
2
3
1955Q1
1957Q1
1957Q4
1960Q1
1960Q3

とキャッチアップ指数については対数を取っていない。
1963Q1 1963Q2
(対数値)

1966Q1 1966Q1
1969Q1 1968Q4
1972Q1 1971Q3
1975Q1 1974Q2
1978Q1 1977Q1
1979Q4
1981Q1
1982Q3
1984Q1
1985Q2
1987Q1
1988Q1
1990Q1 1990Q4
実質原油価格(円建て、対数値)

1993Q1 1993Q3
1996Q1 1996Q2
1999Q1 1999Q1
2002Q1 2001Q4
生産年齢人口当たり公的資本ストック

この計測に当たっては、各変数は基本的に対数を取ったが、生産年齢人口当たり人口移動
ついては最大 12 期を許容して AIC2 基準により決定した。結果は表2の通りである。なお、
ケースを列挙したが、タイム・トレンドのみを含める場合は推計していない。ラグ次数に
項、タイム・トレンド、それぞれについて含めるケースと含めないケースの表の通りの 3
これらのデータについて、ADF により単位根検定を行なった。ADF 検定において、定数
表2 AFD 検定の結果
定数項なし・トレンドなし 定数項あり・ トレンドなし 定数項あり・トレンドあり
t値 確率 ラグ t値 確率 ラグ t値 確率 ラグ
生産年齢人口当たり log(Y) 1.10463 0.92990 12 -3.20756 0.02110 10 -2.01347 0.58980 8
実質GDP Δlog(Y) -1.12323 0.23710 12 -1.60622 0.47730 12 -20.17411 0.00000 0
生産年齢人口当たり log(M) 1.80273 0.98280 12 -2.64851 0.08520 8 -2.34154 0.40910 12
実質通貨供給 Δlog(M) -1.76746 0.07330 12 -2.59313 0.09620 12 -3.67894 0.02610 3
log(W) 1.96050 0.98820 6 -1.57306 0.49440 6 -1.16722 0.91350 5
時間当たり実質賃金
Δlog(W) -1.14129 0.23060 11 -18.47917 0.00000 0 -18.43243 0.00000 0
log(K) 0.55544 0.83530 8 -3.66526 0.00540 9 -0.73428 0.96850 9
生産年齢人口当たり
Δlog(K) -0.67477 0.42360 8 -1.13877 0.70010 7 -3.39018 0.05580 7
民間資本ストック
ΔΔlog(K) -30.64167 0.00000 0 -30.56203 0.00000 0 -30.52654 0.00000 0
生産年齢人口当たり T -1.10426 0.24400 11 -0.66911 0.85050 11 -3.57504 0.03470 8
総人口移動 ΔT -16.41255 0.00000 0 -16.37302 0.00000 0 -16.33009 0.00000 0
log(S) 1.20420 0.94130 9 -2.13530 0.23120 9 -1.81377 0.69430 9
生産年齢人口当たり
Δlog(S) -0.60361 0.45480 8 -1.88322 0.33970 8 -2.14295 0.51810 8
公的資本ストック
ΔΔlog(S) -16.77394 0.00000 0 -16.73019 0.00000 0 -16.69224 0.00000 0
U -2.08303 0.03610 9 -2.32792 0.16440 9 -1.18223 0.91050 9
キャッチアップ指数
ΔU -2.19527 0.02750 8 -2.42890 0.13530 8 -3.15983 0.09600 8
log(O) -0.73440 0.39720 5 -1.75600 0.40140 5 -1.72598 0.73590 5
実質原油価格
Δlog(O) -13.40712 0.00000 0 -13.37032 0.00000 0 -13.33599 0.00000 0

(注) 影をつけた部分は単位根棄却 5 パーセントを満たしているもの。

ADF 検定の結果、生産年齢人口当たり民間企業資本ストック、生産年齢人口当たり公的
ストックの 2 データを除き、対数値の階差系列において 5 パーセント有意水準で、単位根
を棄却出来ることから、I(1)過程に従うことを確認した。なお、キャッチアップ指数につい
ては階差を取らない系列でも単位根を棄却できることから I(0)過程に従っていると解釈す
ることも 出来る。対数値の階差系列 で単位根を棄却出来なかった 2 データについて、
Banerjee, Lumsdaine and Stock (1992)が指摘するように、構造変化が起きた場合には ADF 検
定などの単位根検定の検出力が低下することが知られていることから、ドリフトの構造変
化を加味した ADF テストの逐次検定を行なった結果、生産年齢人口当たり民間企業資本ス
トックのデータについては構造変化をダミーにより除去すれば単位根を棄却出来ることを
確認した。この検定結果は図3に示してある。生産年齢人口当たり公的ストックのデータ
については I(2)過程に従うと結論せざるを得ないが、公的資本ストックの 2 回の階差が実
質 GDP の 1 回の階差に影響を与えると考える根拠もないので、対数値の階差を取った系列
で VAR プロセスを組んだ。
すなわち、キャッチアップ指数以外は 1 回の階差で推計することとした。

10
図3 生産年齢人口当たり民間企業資本ストック
逐次検定前の ADF テスト結果 逐次検定による ADF テスト結果

10 4

8
2
6
0
4

2 -2

0
-4
-2
-6
-4

-6 -8
25 50 75 100 125 25 50 75 100 125

なお、この逐次検定による ADF 検定の臨界値は Banerjee, Lumsdaine and Stock (1992) に示


されているが、ここにはサンプル数が 100 と 250 の場合しかなく、今回の分析ではサンプ
ル数が 196 であるため、臨界値は 100 と 250 の臨界値の直線補完により補正した。

3.3 2 変数 VAR プロセスによるグランジャー因果の測定


以下、インパルス応答関数を計測するが、VAR モデルは変数間の関係に制約を課さない
コレツキー分解による誘導型とする。これは、そもそも 70 年代に成長率屈折がなぜ生じた
かについての分析が少ないなかでは、まずファクト・ファインディングを重視することに
意味があると考えたからである。コレツキー分解では、配列順によって結果が異なるので、
配列順を変えることによって結果の頑健性をチェックすることとする。
ただし、最初の配列順は、pairwise の 2 変数 VAR プロセスによるグランジャー因果によ
ることとした。まず、この 2 変数 VAR プロセスのラグ次数を AIC2 基準により決定する。
なお、AIC の計測に当たっては、12 四半期までのラグを許容した。また、このラグ次数に
従った 2 変数 VAR プロセスによる pairwise でのグランジャー因果を計測した。表4の通り
になる。

11
表4 多変数 VAR プロセスによるグランジャー因果
from
生産年齢人口 生産年齢人口 生産年齢人口
生産年齢人口 時間あたり実質
当たり実質通 当たり民間企 当たり人口移
当たり実質GDP 賃金
貨供給 業資本ストック 動
生産年齢人口当たり
n.a. 0.00932 0.43401 0.96577 0.80466
実質GDP
生産年齢人口当たり
0.02941 n.a. 0.00533 0.41008 0.00846
実質通貨供給
to 時間あたり実質賃金 0.00000 0.00000 n.a. 0.00748 0.00000
生産年齢人口当たり
0.00001 0.01919 0.31230 n.a. 0.40100
民間企業資本ストック
生産年齢当たり 0.00137 0.00101 0.23163 0.38879 n.a.
人口移動

インパルス応答関数を推計する際の配列順として、本稿では、明示的に被説明変数と説
明変数を区別していることから、まず、被説明変数である実質 GDP を最後にした。また、
外生変数と内生変数についても区別しているので、ショックを与えられるのは内生変数に
限られることから、グランジャー因果の計測結果を踏まえて、以下の順を想定する。

総人口移動 ⇒ 民間企業資本ストック ⇒ 時間当たり実質賃金 ⇒ 実質通貨供給 ⇒ 実質


GDP
また、頑健性を確認するため、説明変数の順を以下のように逆にしたインパルス応答も
計測した。
実質通貨供給 ⇒ 時間当たり実質賃金 ⇒ 民間企業資本ストック ⇒ 総人口移動 ⇒ 実質
GDP

この順序の経済的意味づけは必ずしも明確でないが、後述するように、配列順はインパ
ルス応答関数の結果に大きな違いをもたらさない。

3.4 多変数 VAR プロセスによるインパルス応答関数


まず、多変数 VAR プロセスのラグ次数について、実質 GDP、実質通貨供給、時間当た
り実質賃金、民間企業資本ストック、人口移動を内生変数とし、また、生産年齢人口( 生
産年齢人口でスケーリングしない場合)、公的資本ストック、キャッチアップ指数、実質原
油価格を外生変数として推計する。外生変数については、VAR プロセスは誘導型であるこ
とを考慮して、内生変数と同じ次数のラグを取った。また、定数項と季節ダミーもラグを
取らずに推計式に入れた。ラグは 12 期まで許容し、AIC 基準によりラグ次数を選択するこ
ととした。 結果は 5 期ラグ の多 変 数 VAR プロセスが選 択されるが、Friedman and
Kuttner[1992]の指摘するように、過去 1 年分のデータを利用することに意義があると考え、

12
4 期を選択した。なお、AIC 基準での 4 期と 5 期に大きな違いはない。

この多変数 VAR モデルのインパルス応答は図5と図6の通りである。なお、インパルス


応答は 48 四半期、正順と逆順、累積でレポートしてある。インパルス応答のグラフの点線
は 95%信頼区間を示している。

図5 インパルス・レスポンス (48 期、正順、累積)


全期間
人口移動 資本ストック 賃金 通貨供給 実質GDP

A ccumulated Response to Chole sky One S.D. Innovations ± 2 S. E.


Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(T) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (T) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( T) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (T) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(T) to D(Y)
.10 .10 .10 .10 .10

.08 .08 .08 .08 .08

.06 .06 .06 .06 .06

.04 .04 .04 .04 .04

人口移動 .02

.00
.02

.00
.02

.00
.02

.00
.02

.00

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02

-.04 -.04 -.04 -.04 -.04


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Acc umu late d Re spo nse of D(K) to D(T) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(W) Accu mu la ted Res po nse of D (K) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(K) to D(Y)
.04 .04 .04 .04 .04

.03 .03 .03 .03 .03

.02 .02 .02 .02 .02

.01 .01 .01 .01 .01

資本ストック .00 .00 .00 .00 .00


-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

造 Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D(T) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( K) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( W) Acc um ulate d Re spo ns e of D(W ) to D(M ) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D (Y)


.04 .04 .04 .04 .04

.03 .03 .03 .03 .03


.02 .02 .02 .02 .02

賃金
.01 .01 .01 .01 .01


.00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01


-.02 -.02 -.02 -.02 -.02
5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Accu mula ted Res po nse of D (M) to D (T) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( K) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( W) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(M ) t o D( M) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( Y)
.06 .06 .06 .06 .06

.04 .04 .04 .04 .04

.02 .02 .02 .02 .02

通貨供給 .00 .00 .00 .00 .00

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02

-.04 -.04 -.04 -.04 -.04


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(Y) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (Y) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( Y) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (Y) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(Y) to D(Y)
.020 .020 .020 .020 .020

.015 .015 .015 .015 .015

.010 .010 .010 .010 .010

実質GDP .005

.000
.005

.000
.005

.000
.005

.000
.005

.000

-.005 -.005 -.005 -.005 -.005

-.010 -.010 -.010 -.010 -.010


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

図6 インパルス・レスポンス (48 期、逆順、累積)


全期間

13
通貨供給 賃金 資本ストック 人口移動 実質GDP

A ccumulat ed Response to Cholesky One S. D. Innovat ions ± 2 S.E .


Accu mula ted Res po nse of D(M) to D(M ) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) t o D( W) Acc um ulate d Re sp ons e o f D(M ) to D( K) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(M ) t o D( T) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(M ) to D( Y)
.04 .04 .04 .04 .04

.03 .03 .03 .03 .03

.02 .02 .02 .02 .02

.01 .01 .01 .01 .01

通貨供給 .00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D( M) Accu mu lated Re spo nse of D(W) to D (W) Accu mula ted Res po nse of D (W) t o D( K) Accu mu lated Res po nse of D (W) to D (T) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D (Y)
.06 .06 .06 .06 .06
.05 .05 .05 .05 .05
.04 .04 .04 .04 .04

.03 .03 .03 .03 .03


.02 .02 .02 .02 .02
.01 .01 .01 .01 .01

賃金 .00 .00 .00 .00 .00


-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


-.03 -.03 -.03 -.03 -.03
5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

造 Acc umu lated Re spo nse of D(K) to D( M) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(W ) Ac cum ulate d R esp on se o f D( K) to D(K) Accum ulat ed R esp on se o f D( K) to D(T) Accu mula ted Res po nse of D( K) to D(Y)


.06 .06 .06 .06 .06
.05 .05 .05 .05 .05
.04 .04 .04 .04 .04


.03 .03 .03 .03 .03
.02 .02 .02 .02 .02

資本ストック .01 .01 .01 .01 .01


.00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01


-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


-.03 -.03 -.03 -.03 -.03
5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Acc um ulate d Re sp ons e of D(T) to D( M) Accu mu la ted Res po nse of D (T) to D(W ) Accum ula ted Res po nse o f D( T) to D(K) Accum ulat ed R esp on se o f D( T) to D (T) Accu mula ted Res po nse of D( T) to D(Y)
.10 .10 .10 .10 .10

.08 .08 .08 .08 .08

.06 .06 .06 .06 .06

.04 .04 .04 .04 .04

人口移動 .02

.00
.02

.00
.02

.00
.02

.00
.02

.00

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02

-.04 -.04 -.04 -.04 -.04


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Acc um ulate d Re sp ons e of D(Y) to D( M) Accu mu la ted Res po nse of D (Y) to D(W ) Accum ula ted Res po nse o f D( Y) to D(K) Accum ulat ed R esp on se o f D( Y) to D (T) Accu mula ted Res po nse of D( Y) to D(Y)

.02 .02 .02 .02 .02

.01 .01 .01 .01 .01

実質GDP .00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

インパルス応答の正順と逆順については、ほとんど差がないので図5(正順の場合)に
ついてのみ説明する。実質 GDP について説明すると、人口移動の GDP に対する影響はな
い。民間資本の GDP に対する影響はあるが有意性は小さい。実質賃金の上昇は GDP を減
少させる影響があるが有意ではない。実質マネーサプライは GDP に有意に影響を与えてい
る。

定量的評価
以上のインパルス応答関数の結果は 1 標準偏差に対する反応を表している。これは各変
数の影響を定性的に見るには良いが、定量的な影響は分からない。そこで、1 単位の変化
に対する影響の 48 期の累積値を示したものが表7である。変数は差分であるので、この累
積値は各変数の1%の変化に対する弾性値となる。表7にはインパルス応答の累積値(正
順)と VAR モデルを推計したときの外生変数の係数の累積値を示してある。これによって
各変数の GDP に対する定量的な影響の大きさを見てみよう。

表7 説明変数の定量的評価(全期間)
(1) ユニット・ショックに対するインパルス応答 (48 期の値)

14
全期間 人口移動 資本ストック賃金 通貨供給 実質GDP
人口移動 0.409255 1.390031 -0.153643 0.733436 0.549060
(0.08393) (2.20817) (0.32973) (0.61200) (0.61020)
資本ストック 0.010218 3.003652 0.095340 -0.044355 0.412036
(0.02806) (0.99098) (0.13129) (0.30573) (0.31767)
ユニット 0.017242 2.656093 0.521402 -0.293147 0.588966
賃金
ショック (0.04326) (1.41323) (0.21878) (0.40462) (0.38609)
0.050334 1.866034 -0.028225 1.661157 -0.110769
通貨供給
(0.04673) (1.53305) (0.16698) (0.47000) (0.42169)
実質GDP 0.019450 0.201750 -0.029770 0.494113 0.673119
(0.02680) (0.72692) (0.09378) (0.26427) (0.26776)
( )内は標準偏差

(2)外生変数のパラメータ(実質 GDP に対するもののみ)


ラグ 公的資本ストック キャッチアップ指数 原油価格
-0.333042 -0.002307 0.000673
1 (0.46219) (0.00252) (0.00964)
[-0.72058] [-0.91501] [ 0.06973]
-0.446690 0.003408 0.002037
2 (0.48938) (0.00483) (0.00966)
[-0.91278] [ 0.70537] [ 0.21080]
1.567787 -0.003914 -0.002607
3 (0.46245) (0.00504) (0.00951)
[ 3.39020] [-0.77657] [-0.27426]
-1.158950 0.005578 0.001368
4 (0.51745) (0.00471) (0.00959)
[-2.23972] [ 1.18322] [ 0.14255]
0.398905 -0.002479 0.006080
5 (0.43041) (0.00240) (0.00984)
[ 0.92681] [-1.03254] [ 0.61801]
パラメータ合計 0.028010 0.000286 0.007551
(注) カッコなしはパラメータ値、( )内は標準誤差、[ ]内は t 値である。

(3)外生変数についての F 検定の結果
全期間 F値 p-value
公的資本ストック 1.149484 0.335744
キャッチアップ指数 2.728983 0.031466
実質原油価格 3.195924 0.015009
(注)影を付けている変数は5%有意である。

生産年齢人口当たり人口移動の1%の変化の GDP に対する影響は 0.019%である。1%


の民間資本の増加は GDP を 0.2%上昇させる。推計期間の中間点である 1980 年の民間資本
ストックが GDP とほぼ同じであることを考えると、GDP の1%分の資本ストックの増加
が GDP を 0.2%上昇させることになる。実質賃金の 1%の上昇は GDP を 0.03%減少させる。
実質マネーサプライの 1%の上昇は GDP を 0.49%上昇させる。ただし、以上の変数のうち

15
図5から見て 5%有意なのはマネーのみである。
表7(2)で外生変数の係数の累積値を見ると、公的資本の 1%の上昇は GDP を 0.028%上
昇させる。公的資本が 1980 年で GDP の 8 割程度であることを考えると、GDP1%の公的
資本の増加は GDP を 0.035%増加させることになる。これは小さな値ということになろう。
キャッチアップ指数の1%ポイントの拡大(これは日本がアメリカとの差が拡大すること
を意味する)は、GDP を 0.00028%上昇させる。これはまた、日本がアメリカに追いつく
には 3571 年間(1÷0.00028)かかるということになる。キャッチアップ型の成長で日本が
成功してきたという通説からすれば信じられない結果だが、これは 70 年代以降成長率が大
きく低下したことによって正しい係数が推定できていないということを示すのかも知れな
い。石油価格の1%の上昇は GDP を 0.0075%上昇させることになる。これも信じられない
結果だが、パラメータは一般に有意ではない。表 7(3)に見るように、以上の外生変数のう
ち、F 検定で 5%有意なのはキャッチアップ指数と実質原油価格である。ただし、これら
の外生変数を含めることによる予測力の改善はわずかである。
以上の係数で、実質マネーの係数が大きいことが特徴的である。マネーが本来長期的に
は中立であるべきとすると説明の難しい結果であるが、推計期間に 70 年代初期と 80 年代
末期の金融緩和による高成長とその後の停滞という時期を含んでいることの影響かもしれ
ない。また、この結果だけから、70 年代の成長屈折を理解することも難しい。そこで、期
間を分割することにする。

3.5 期間分割した推計結果
前節は 1957 年第 1 四半期から 2002 年第 4 四半期までの推計であったが、ここでは、1975
年第 4 四半期までの前半と 1976 年第 1 四半期からの後半に期間を分割した推計結果を示す。
インパルス応答関数の結果は図8、図 10 である。配列順は結果に影響を与えなかったので、
正順の累積の場合のみを報告する。
なお、インパルス応答については、有意水準が低く、95%信頼区間の破線を入れると見
づらくなるので省略し、48 期の正順の累積のみを示した。

3.5.1 1957-75 年の結果


インパルス応答
まず前半のインパルス応答の結果(図8)について説明する。実質 GDP について説明す
ると、人口移動、民間資本ストック、マネーサプライは GDP に正の影響がある。実質賃金
の上昇は GDP に負の影響がある。これらの影響は、後掲表9から判断して、いずれも有意
ではない。

図8 前半推計期間のインパルス応答 (48 期、正順、累積)

16
人口移動 資本ストック 賃金 通貨供給 実質GDP

Accumulated Response to Cholesky One S .D. I nnovations


Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(T) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (T) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( T) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (T) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(T) to D(Y)
.10 .10 .10 .10 .10

.08 .08 .08 .08 .08

.06 .06 .06 .06 .06

.04 .04 .04 .04 .04

人口移動 .02 .02 .02 .02 .02

.00 .00 .00 .00 .00

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Acc umu late d Re spo nse of D(K) to D(T) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(W) Accu mu la ted Res po nse of D (K) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(K) to D(Y)
.016 .016 .016 .016 .016

.012 .012 .012 .012 .012

.008 .008 .008 .008 .008

.004 .004 .004 .004 .004

資本ストック

.000 .000 .000 .000 .000

-.004 -.004 -.004 -.004 -.004


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

造 Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D(T) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( K) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( W) Acc um ulate d Re spo ns e of D(W ) to D(M ) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D (Y)


.020 .020 .020 .020 .020

.015 .015 .015 .015 .015


.010 .010 .010 .010 .010

賃金
.005 .005 .005 .005 .005


.000 .000 .000 .000 .000

-.005 -.005 -.005 -.005 -.005


-.010 -.010 -.010 -.010 -.010
5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Accu mula ted Res po nse of D (M) to D (T) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( K) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( W) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(M ) t o D( M) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( Y)
.03 .03 .03 .03 .03

.02 .02 .02 .02 .02

.01 .01 .01 .01 .01

通貨供給 .00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(Y) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (Y) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( Y) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (Y) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(Y) to D(Y)
.020 .020 .020 .020 .020

.016 .016 .016 .016 .016

.012 .012 .012 .012 .012

実質GDP .008

.004
.008

.004
.008

.004
.008

.004
.008

.004

.000 .000 .000 .000 .000

-.004 -.004 -.004 -.004 -.004


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

定量的評価
インパルス応答関数の 1 単位の変化に対する影響の 48 期の累積値を示したものが表9で
ある。表9にはインパルス応答の累積値と VAR モデルを推計したときの外生変数の係数の
累積値を示してある。ここから各変数の GDP に対する定量的な影響の大きさを見てみよう。

表9 説明変数の定量的評価(前半)
(1) ユニット・ショックに対するインパルス応答 (48 期の値)
前半 人口移動 資本ストック賃金 通貨供給 実質GDP
人口移動 0.625278 7.292632 -0.012957 2.646121 0.822965
(0.32211) (16.5443) (0.83119) (2.41657) (2.21676)
資本ストック 0.098160 5.749646 -0.054453 0.576042 0.520450
(0.09704) (5.22720) (0.22943) (0.76077) (0.68818)
ユニット 0.072601 3.702127 0.360095 0.426174 0.908251
賃金
ショック (0.13314) (6.42795) (0.42837) (0.94478) (0.93591)
0.104286 7.675271 -0.077922 1.710887 -0.100703
通貨供給
(0.15232) (8.27294) (0.37151) (1.19830) (1.09599)
実質GDP 0.073548 3.268675 -0.270097 0.934200 0.676792
(0.09651) (4.95624) (0.24639) (0.72368) (0.67148)
( )内は標準偏差

(2)外生変数のパラメータ合計 (4期の合計)

17
ラグ 公的資本ストック キャッチアップ指数 原油価格
-0.243611 -0.555554 -0.006154
1 (1.20746) (0.55509) (0.02616)
[-0.20176] [-1.00084] [-0.23523]
1.389738 0.506544 0.017673
2 (1.41964) (1.03308) (0.02719)
[ 0.97894] [ 0.49032] [ 0.64986]
-2.449069 0.205738 0.012094
3 (1.55828) (1.02296) (0.02652)
[-1.57165] [ 0.20112] [ 0.45596]
2.904248 -0.065987 0.041864
4 (1.59421) (0.53295) (0.03108)
[ 1.82175] [-0.12381] [ 1.34677]
パラメータ合計 1.601306 0.090741 0.065477
(注) カッコなしはパラメータ値、( )内は標準誤差、[ ]内は t 値である。

(3)外生変数についての F 検定の結果
前半 F値 p-value
公的資本ストック 1.437230 0.240531
キャッチアップ指数 0.983325 0.428205
実質原油価格 3.293071 0.020625
(注)影を付けている変数は5%有意である。

生産年齢人口当たり人口移動の 1%ポイントの変化の GDP に対する影響は 0.07%である。


1%の民間資本の増加は GDP を 3.26%上昇させる。これはきわめて大きな値である。実質
賃金の 1%の上昇は GDP を 0.27%減少させる。実質マネーサプライの 1%の上昇は GDP
を 0.93%上昇させる。ただし、データ数が十分でなく、いずれの変数も5%有意ではない。
表 7(2)で外生変数を見ると、公的資本の 1%の上昇は GDP を 1.60%上昇させる。これも
大きな値である。キャッチアップ指数の1%ポイントの拡大は、GDP を 0.091%上昇させ
る。これはまた、日本は 11 年間(1÷0.091)でアメリカに追いつくような成長をしてきた
ことを示す。石油価格の1%の上昇は GDP を 0.065%上昇させるという意外な結果とにな
る。ただし、係数はいずれも 5%有意ではない。表 9(3)に見るように、以上の外生変数の
うち、F 検定で 5%有意なのは実質原油価格のみであるが、この変数を追加することによ
って得られる予測力の改善はわずかである。したがって、係数自体の信頼性も弱い。
以上の係数で、民間資本ストックと実質マネーと実質賃金と公的資本とキャッチアップ
指数の係数が大きいことが特徴的である。石油価格の上昇はむしろ成長を高めるという解
釈の難しい結果になったが、その係数の信頼性は弱い。

3.5.2 1976-2003 年の結果


インパルス応答
後半のインパルス応答の結果(図 10)について説明する。実質 GDP について説明する

18
と、人口移動の GDP に対する影響がない。民間資本の GDP に対する影響がある。実質賃
金の上昇は GDP を減少させる影響がある。実質マネーサプライは GDP に影響を与えてい
る。これらの影響は、後掲表 11 から判断して、いずれも有意ではない。

図 10 後半推計期間のインパルス応答 (48 期、正順、累積)

人口移動 資本ストック 賃金 通貨供給 実質GDP

Accumulated Response to Cholesky One S .D. I nnovations


Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(T) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (T) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( T) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (T) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(T) to D(Y)
.06 .06 .06 .06 .06

.05 .05 .05 .05 .05

.04 .04 .04 .04 .04

.03 .03 .03 .03 .03

.02 .02 .02 .02 .02

人口移動 .01 .01 .01 .01 .01

.00 .00 .00 .00 .00

-.01 -.01 -.01 -.01 -.01

-.02 -.02 -.02 -.02 -.02


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Acc umu late d Re spo nse of D(K) to D(T) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( K) to D(W) Accu mu la ted Res po nse of D (K) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(K) to D(Y)

.012 .012 .012 .012 .012

.008 .008 .008 .008 .008

資本ストック .004 .004 .004 .004 .004

構 .000

5 10 15 20 25 30 35 40 45
.000

5 10 15 20 25 30 35 40 45
.000

5 10 15 20 25 30 35 40 45
.000

5 10 15 20 25 30 35 40 45
.000

5 10 15 20 25 30 35 40 45

造 Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D(T) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( K) Acc umu late d Re spo nse of D(W) to D( W) Acc um ulate d Re spo ns e of D(W ) to D(M ) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(W ) to D (Y)


.012 .012 .012 .012 .012

.010 .010 .010 .010 .010

.008 .008 .008 .008 .008

ョ 賃金
.006

.004
.006

.004
.006

.004
.006

.004
.006

.004

ッ .002

.000
.002

.000
.002

.000
.002

.000
.002

.000


-.002 -.002 -.002 -.002 -.002
5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Accu mula ted Res po nse of D (M) to D (T) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( K) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( W) Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(M ) t o D( M) Ac cum ulate d R esp on se o f D( M) to D( Y)
.020 .020 .020 .020 .020

.015 .015 .015 .015 .015

.010 .010 .010 .010 .010

通貨供給 .005 .005 .005 .005 .005

.000 .000 .000 .000 .000

-.005 -.005 -.005 -.005 -.005


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

Ac cum ulate d Re sp ons e o f D(Y) to D(T) Accu mu lated Re spo nse of D (Y) to D(K) Accum ula ted Res po nse o f D( Y) to D (W) Accu mu la ted Res po nse of D (Y) to D(M ) Accu mu lated Re spo nse of D(Y) to D(Y)
.016 .016 .016 .016 .016

.012 .012 .012 .012 .012

.008 .008 .008 .008 .008

実質GDP .004 .004 .004 .004 .004

.000 .000 .000 .000 .000

-.004 -.004 -.004 -.004 -.004


5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45 5 10 15 20 25 30 35 40 45

定量的評価
インパルス応答関数の 1 単位の変化に対する影響の 48 期の累積値を示したものが表 11
である。表 11 はインパルス応答の累積値と VAR モデルの外生変数の係数の累積値を示し
ている。ここから各変数の GDP に対する定量的な影響の大きさを見てみよう。

表 11 説明変数の定量的評価(後半)
(1) ユニット・ショックに対するインパルス応答 (48 期の値)

19
後半 人口移動 資本ストック賃金 通貨供給 実質GDP
人口移動 0.354652 -0.801146 0.065591 0.170724 0.409197
(0.13131) (1.47318) (0.74692) (0.81728) (0.48910)
資本ストック -0.033200 1.955480 0.007270 -0.127002 0.282251
(0.03452) (0.89859) (0.15171) (0.44954) (0.25614)
ユニット -0.030719 0.459548 0.483220 0.107773 0.119751
賃金
ショック (0.05263) (0.41475) (0.31737) (0.27231) (0.16108)
0.023963 -0.777826 0.101113 1.705383 0.321376
通貨供給
(0.05147) (1.32959) (0.22623) (0.66441) (0.37931)
実質GDP -0.007281 0.207601 -0.054355 0.271803 0.820421
(0.03853) (0.81325) (0.19856) (0.41463) (0.23780)
( )内は標準偏差

(2)外生変数のパラメータ合計 (5 期の合計)
外生変数のパラメータ
後半
ラグ 公的資本ストック キャッチアップ指数 原油価格
0.726480 -0.306520 -0.001650
1 (0.53083) (0.26921) (0.01090)
[ 1.36858] [-1.13859] [-0.15139]
-1.077478 0.684345 0.013453
2 (0.65622) (0.53161) (0.01074)
[-1.64195] [ 1.28730] [ 1.25252]
0.977991 -0.672945 -0.003933
3 (0.66759) (0.53532) (0.01086)
[ 1.46496] [-1.25708] [-0.36219]
-0.690161 0.322986 0.002698
4 (0.52439) (0.26848) (0.01046)
[-1.31611] [ 1.20301] [ 0.25801]
パラメータ合計 -0.063168 0.027866 0.010568
(注) カッコなしはパラメータ値、( )内は標準誤差、[ ]内は t 値である。

(3)外生変数についての F 検定の結果
後半 F値 p-value
公的資本ストック 1.297387 0.278790
キャッチアップ指数 0.695275 0.597571
実質原油価格 0.450290 0.771860
(注)影を付けている変数は5%有意である。

生産年齢人口当たり人口移動1%ポイントの変化の GDP に対する影響は-0.007%と小さ


いがマイナスとなる。1%の民間資本の増加は GDP を 0.21%増加させる。実質賃金の 1%
の上昇は GDP を-0.054%減少させる。実質マネーサプライの 1%の上昇は GDP を 0.27%上
昇させる。ただし、いずれの変数も有意ではない。
表 11(3)で外生変数を見ると、公的資本の 1%の上昇は GDP を 0.063%下落させる。ただ

20
し、係数は 5%で有意ではない。キャッチアップ指数の係数は 0.028 となった。これは、日
本は 36 年間(1÷0.028)でアメリカに追いつくような成長をしてきたことを示す。石油価
格の1%の上昇は GDP を 0.011%上昇させることになる。ただし、いずれも係数も 5%有
意ではない。表 11(3)に見るように、いずれの外生変数も、F 検定の結果でも 5%有意では
ない。
以上の係数で、民間資本と実質マネーと実質賃金と公的資本の係数が大きく、人口移動
の係数はマイナス、キャッチアップ指数もマイナス、石油価格は GDP に影響をほとんど与
えていない5 。キャッチアップの余地が小さくなるにつれて、キャッチアップ指数への反応
が弱くなるのはやむを得ないが、その変化は大きすぎるような気がする。ただし、石油価
格の高騰が経済にマイナスの影響を与えるが、石油価格が低下しても経済は回復しないと
いうヒステリシスな影響をもたらせば、推定した結果、石油価格の係数は小さく、有意性
も低いものとなるとしても、現実には影響があったということになる。
以上、前半と後半の推計結果の違いから、以下のように言える。1970 年代まで日本の成
長率が高かったのは人口移動、キャッチアップ指数への反応が大きかったからである6 。民
間資本の効率も公的資本の効率も高かった。成長率の屈折に関して、石油ショックの影響
はほとんど見られなかった。ただし、係数の標準誤差が大きいので、係数の大きさの違い
に統計的に有意な差がない場合がほとんどである。以上述べたことは、そのことをあえて
無視している。
実質マネーや実質賃金が成長率に影響を与えているのは、70 年代の過剰流動性と 80 年
代末のバブルとその崩壊という時期を含んでいるからだろう。金融政策の失敗が資源配分
をゆがめて成長率に影響を与えたということだろう。これは短期のショックの影響を見る
VAR モデルの結果であるので、これが数十年間の成長率を低めたとは言えない。しかし、
70 年代と 90 年代に一定の期間にわたって成長率を引き下げたのは確かだろう。
実質賃金の上昇は、成長率を低下させているが、賃金が硬直的になるような制度変化が
成長率を低下させたと言えるかどうかは分からない。少なくとも、労働組合の参加率など
は 1960 年代以降、長期的に低下しており、賃金を硬直的にするような制度変化が起こった
と主張することは難しい。金融政策の失敗が、実質賃金をかなりの期間にわたって高めた
ことが成長率を一定期間にわたって低下させたと解釈すべきかもしれない。賃金上昇につ

5 これまでの推計では、原則として差分の変数間の関係を VAR モデル で見てきた 。しかし、一


般に、トレンドを持つ変数間では共和分ベクトルを推計することが望ましい。まず、準備段階
としてこれまでに用いた内生変数のレベルでの変数でヨハンセンの方法で共和分ベクトルを推
計してみたが、経済的に意味のある結果は得られなかった。これは同じような動きをしている
説明変数が多いからであろう。
6 これは資本や労働ではない TFP(全要素生産性)の変化が成長率の変化の大きな部分を説明

することになる。成長会計の研究によれば、70 年代の日本の成長率低下は、TFP によって説


明される(たとえば経済企画庁[1994]は、TFP 成長率 は 1966-73 年で 4.3%、73-90 年で 1.6
∼2.0%であるとしている) 。ただし、90 年代の低下について TFP の説明する部分は小さい(た
とえば、浜田・堀内[2004]344 頁、参照)。いずれにしろ、成長会計は、なぜ TFP が低下した
かを説明しない。本稿の目的は、なぜ TFP が低下したかを明らかにすることである。

21
いては別の解釈も可能である。実質賃金の上昇は農村の過剰人口が工業部門に吸収しつく
されたことを意味しているのだから、賃金上昇が成長率屈折と同時に起こるのは前述の転
換論から考えて当然であるという解釈である。しかし、この解釈が正しければ、賃金上昇
と成長屈折は 70 年代に一回だけ起きなければならない事象である。ところが、賃金上昇と
成長屈折は推計期間の前半と後半にともに起きている。これは転換論では説明できないこ
とである。

結論
本稿では、まず、1970 年代の成長屈折の要因とされていることを整理した後に、それら
の説への素朴な疑問を述べた。次に、経済成長は資本と労働の投入と技術進歩によって説
明されるという新古典派的成長論を踏まえて、これらの説明要因を VAR モデルで計測した。
計測の結果分かったことは以下の通りである。
1970 年代まで日本の成長率が高かったのは人口移動、キャッチアップ指数に反応するよ
うな柔軟な経済構造を持っていたからである。民間資本の効率も公的資本の効率も高かっ
た。成長率の屈折に関して、石油ショックの影響はほとんど見られなかった。実質マネー
や実質賃金が成長率に影響を与えているのは、70 年代の過剰流動性と 80 年代末のバブル
とその崩壊という時期を含んでいるからだろう。金融政策の失敗が資源配分をゆがめて成
長率に影響を与えたということだろう。実質賃金の上昇は、成長率を低下させているが、
この理由はおそらくは金融的錯乱のゆえである。
要するに、1970 年代以前の日本経済は、成長と人口移動が相互に促進的に働き、海外と
の技術格差に敏感に反応し、民間資本も公的資本も高い効率で投資されていた。ところが、
70 年代以降、日本はそのような効率的な経済システムを失ってしまった。石油ショックで
はなく、システムの変化そのものが成長率を低下させた。金融政策の失敗がこの変化を劇
的なものにしたとのは確かだろうが、金融政策そのものが長期的な変化をもたらしたとは
言えないかもしれない。
では、効率的なシステムを失わせたものはなんだろうか。それはここでの説明変数から
は解釈できない。説明変数のショックに対応する係数値の変化をもたらす要因を探求しな
ければならないが、それは今後の課題である。しかし、その一部は原田[1998]、八田[2001]、
増田[2002]でなされている。
ただし、係数の標準誤差は大きいので、前半と後半での係数の大きさに統計的に差がな
い場合がほとんどである。成長屈折についての結論は、係数の点推定値に依存している。
したがって、本稿は、1970 年代の成長屈折についてのアカデミックな分析の集大成とされ
るもの‐戦後高度成長期以降の日本経済の成長率低下は、技術革新の世界的停滞、先進国
と日本との技術格差の消滅による技術導入機会の減少、石油価格の急騰などの理由‐を実
証的に否定しているが、私たちの積極的な主張‐70 年代の成長屈折は、人口移動、キャッ
チアップ指数に反応するような柔軟な経済構造を失ったからである‐を実証したとは言え

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ないかもしれない。しかし、私たちは、広く信じられていることを実証的に否定しただけ
でも十分な意味があると考えている。

邦語文献
飯田泰之『経済学思考の技術』ダイヤモンド社、2003 年
経済企画庁「平成 6 年度 年次経済報告」大蔵省印刷局、1994 年
小峰隆夫「戦後日本の経済成長」
『経済セミナー』95 年 5 月号、
『最新|日本経済入門』日
本評論社、1997 年、第 2 章として所収
八田達夫「構造改革と都市再生」『エコノミックス』第 6 号、2001 年秋
浜田宏一・堀内昭義・内閣府経済社会総合研究所『論争 日本の経済危機』日本経済新聞
社、2004 年
速水佑次郎『新版 開発経済学—諸国民の貧困と富』創文社、2000 年
原田泰『1970 年体制の終焉』東洋経済新報社、1998 年
原田泰『日本の「大停滞」が終わる日』日本評論社、2003 年
原田泰・江川暁夫「90 年代の日本経済の停滞と金融政策」2001 年度春季金融学会報告 2001.
5. 26 mimeo
バーロ、R.J.、X.サラ-イ-マーティン『内生的経済成長論』I、II、九州大学出版会、1997 年
(R.J. Barro and X. Sala-i-Martin, Economic Growth, Mc-Graw-Hill, Inc. 1995)
増田悦佐「都市再生こそ日本経済活性化の王道」『エコノミックス』第 7 号、2002 年春

英語文献
Banerjee, Anindya, Robin L. Lumsdaine and James H. Stock (1992) “Recursive and Sequential Test
of the Unit-Root and Trend-Break Hypotheses: Theory and International Evidence,”
Journal of Business and Economic Statistics 10(3), 1992 July, pp.271-287

データ出所
総務省 (2003a) 『住民基本台帳人口移動報告年報』、総務省統計局、2003 年 5 月、及び各
年版
総務省 (2003b) 『わが国の推計人口 -大正9年∼平成 12 年-』、総務省統計局、2003 年 9
月、及び各年版
内閣府 (2002) 『日本の社会資本』、内閣府政策統括官(経済財政−経済社会システム担当)、
2002 年 7 月、財務省印刷局

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