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Strategy and Economic Report

~海外情報~ 2010 年 7 月 16 日 全6頁

中国経済見通し 4~6 月は 10.3%成長


投資調査部
齋藤尚登、新居真紀
2011 年 1~3 月期のボトム後、成長の再加速を想定

[要約]
„ 中国の 2010 年 4~6 月の実質 GDP 成長率は 10.3%となり、1~3 月の 11.9%からスローダウンし
た。これは当局の思惑通りであり、2008 年 11 月の 4 兆元の景気対策発動以来、中国経済を牽引
してきた投資の勢いはやや鈍化し、消費がそれを補う構図へと変化の兆しが見え始めている。

„ 今後は、2010 年 1~3 月の 11.9%をピークに成長率は低下し、2011 年の 1~3 月にボトムを付け


ると想定している。不動産投資・投機抑制策の緩和が成長率再加速の契機となろう。その後、2011
年後半以降はアクセルが徐々に踏まれていくとみている。背景は来るべき「政治の季節」、すな
わち、2012 年秋と想定される第 18 回党大会での党人事と 2013 年春の国務院人事への備えである。
ちなみに、党大会開催年を基準とした実質 GDP 成長率の推移をみると、過去 6 回のうち 5 回で開
催年の実質 GDP 成長率が前年を上回っている。

2010 年 4~6 月の実質 GDP 成長率は 10.3%

投資の伸び鈍化と消 国家統計局によると、中国の 1~6 月の実質 GDP 成長率は前年同期比 11.1%であっ


費拡大の兆し た。四半期毎には 1~3 月の 11.9%から 4~6 月には 10.3%にスローダウンしている。
政府系シンクタンクへのヒアリングでは、中国政府は 1~3 月の成長率をやや出来過ぎ
(やや速過ぎる)と評価しており、4~6 月の 10.3%へのスローダウンは、概ね当局の
思惑通りといえよう。内容的には、2008 年 11 月の 4 兆元の景気対策発動以来、中国経
済を牽引してきた投資の勢いはやや鈍化し、消費がそれを補う構図へと変化の兆しが
見え始めている。

固定資産投資
投資の伸びは徐々に 1~6 月の都市部固定資産投資は前年同期比 25.5%増(1~3 月は 26.4%増)となり、
鈍化 拡大ペースは徐々に落ちてきている。そもそも 3 月の全人代では、4 兆元の景気対策の
肝となる中央政府公共投資を 2009 年の前年比 2.2 倍増(9243 億元)から、2010 年には
同 7.8%増(9927 億元)に抑制するとしており、固定資産投資の減速は想定通りである。

この他、4 月以降は、鉄鋼、セメント、有色金属など、エネルギー消費の多い産業や
生産能力過剰産業に対する選別的な投資抑制が進められていることなども効果を上げ
つつある。例えば、 黒色金属採掘・冶金・圧延加工業の投資は 1~3 月の前年同期比 22.7%
増から 1~6 月には 10.4%増へと伸びが鈍化している。

株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目9番1号 グラントウキョウノースタワー


このレポートは、投資の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を意図するものではありません。投資の決定はご自身の判断と責任でなされますようお願い申し上げます。
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不動産開発投資の伸 一方、1~6 月の不動産開発投資は前年同期比 38.1%増と、1~5 月の 38.2%増とほぼ


びもいずれスローダ 変わらずであった。4 月 17 日付けで発表された不動産投資・投機抑制策により、住宅
ウンへ 価格は 4 月をピークに上昇ピッチが鈍化しており(6 月の前月比は-0.1%と 2009 年 2
月以来のマイナス)、いずれ不動産開発投資も伸びがスローダウンしよう。

小売売上

1~6 月の小売売上は前年同期比 18.2%増だった。6 月は名目 18.3%増、実質 15.0%


増と、ここ数ヵ月の伸びはほぼ横ばいで推移している。

所得環境改善による しかし、小売売上はむしろ今後への期待が大きい。2009 年に引き上げが凍結されて


消費拡大期待 いた最低賃金は、2010 年に入って 2 年分が一気に引き上げられているイメージであり、
20%~30%の引き上げが行われるところも少なくない。地域毎には 5 月もしくは 7 月
以降、新たな最低賃金が適用されるところが多く、所得環境は大きく改善される見通
しである。また、各種消費刺激策については、古い家電と自動車の買い替えを促す「以
旧換新」のうち、家電は 6 月 1 日以降、対象地域が大幅に拡大され、5 月末での終了が
予定されていた自動車の以旧換新は、年末までの延長が決定されている。さらに、後
述するように、インフレ懸念が後退し、実質消費の拡大が期待されることもある。

物価と金融政策

1~6 月の消費者物価上昇率は 2.6%と全人代での抑制目標 3.0%を下回った。6 月単


月では 2.9%と、5 月の 3.1%から上昇ペースが鈍化した。これは、野菜や果物など生鮮
食料品価格の落ち着きによるところが大きい。

都市部固定資産投資の推移(単位:前年累計比、%) 小売売上伸び率の推移(単位:%)

45 25
40 23
名目 実質
35 21

30
19
17
25
15
20
13
15
都市部固定資産投資 11
10 不動産開発投資 9
5 7

0 5
05/1 05/7 06/1 06/7 07/1 07/7 08/1 08/7 09/1 09/7 10/1 05 06 07 08 09 10
(出所)国家統計局資料などより作成 (注1)実質は名目値を物価上昇率で除して作成
(注2)旧正月の時期のずれの影響を排除するため1月と2月
    は平均値
(出所)国家統計局より大和総研作成
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インフレ圧力と利上 物価については、今後 1~2 カ月は伸びが高まるリスクが残る。①前年同月の水準が


げ懸念の後退 低いことによるベース効果の他、②大胆な金融緩和による貨幣要因(6 ヵ月先行させた
M1 と CPI の高い連動性。6 ヵ月先行させた M1 のピークは 2010 年 7 月)、③PPI 上昇
の CPI への転嫁の可能性、などがその背景である。1 年物定期預金金利-CPI 上昇率で
計算される実質金利は 5 ヵ月連続でマイナスとなっている。しかし、その後は①、②
の影響がピークアウトすることで利上げ懸念も後退しよう。DIR では、秋口までに 1
回の利上げ(0.27%)を想定するが、状況によっては、利上げは回避され、預金金利の
みが引き上げられる可能性もあろう。当局は「適度に緩和的な金融政策」の旗印を下
ろしておらず、貸出基準金利の引き上げを避けることで政策の維持を謳い、「預金者
保護」を名目とした預金金利の引き上げのみを行うとの見方である。

消費者物価上昇率の推移(単位:%) 卸売物価上昇率の推移(単位:%)

25 20
消費者物価 鉱工業製品出荷価格 原材料購入価格
15
20 食品
非食品 10
15
5
10
0
5
-5
0
-10

-5 -15
05/1 06/1 07/1 08/1 09/1 10/1 05/1 05/7 06/1 06/7 07/1 07/7 08/1 08/7 09/1 09/7 10/1
(出所)国家統計局より大和総研作成 (出所)国家統計局より大和総研作成

大和総研による中国経済見通し(2010 年 7 月)

(前年比、%) 2008 2009 2010(F) 2011(F)


実質GDP 9.6 9.1 9.5 9.0
都市部固定資産投資(名目) 26.1 30.5 23.5 20.0
小売総額(名目) 21.6 15.5 19.5 20.5
消費者物価指数 5.9 ▲ 0.7 3.0 3.5
貿易収支(通関ベース、億米ドル) 2,955 1,961 1,809 1,540
輸出額 17.2 ▲ 16.0 20.0 13.0
輸入額 18.5 ▲ 11.2 25.4 17.0
貸出基準金利(1年物、期末) 5.31 5.31 5.58 5.85
(出所)国家統計局、中国人民銀行。見通しは大和総研
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今後の成長率推移のイメージ

2011年1~3月をボト 今後の成長率推移については、2010 年 1~3 月期の 11.9%をピークに徐々に低下し、


ムに再加速へ 2011 年の 1~3 月期にボトムを付けると想定している。不動産投資・投機抑制策の緩和
が成長率再加速の契機となろう。

不動産投資・投機抑制 4 月 17 日付けで発表された国務院の「一部都市の不動産価格高騰を抑制することに
策 関する通知」では、①2 軒目の頭金比率は 50%以上(従来は 40%以上)、住宅ローン
金利は貸出基準金利の 1.1 倍とし、3 軒目以降の場合は頭金比率と金利を大幅に引き上
げなければならない、②特に、不動産価格が高過ぎ、上昇ピッチが速く、住宅供給が
不足する地域では、(1)暫定的に 3 軒目以降の住宅ローンの提供を停止する、(2)
当該地域で 1 年以上納税したことや社会保険料を納付したことを証明できない個人に
対しては住宅ローンの提供を停止する(非居住者が住宅を購入する際に住宅ローンを
提供しない)旨を通知。不動産投資・投機需要を直接的に抑制するものとしてその効
果が期待された。主要 70 都市の不動産価格の前年同月比は 4 月の 12.8%をピークに 6
月には 11.4%にスローダウンし、前月比は 4 月の 1.4%から 6 月には-0.1%と 2009 年
2 月(-0.2%)以来の下落となるなど、その効果が顕在化しつつある。

こうしたなか、上海市、江蘇省南京市、浙江省杭州市、北京市、広東省深圳市の一
部銀行が、2 軒目(頭金比率 50%、住宅ローン金利は貸出基準金利の 1.1 倍)に近い条
件で 3 軒目の住宅ローンを提供しているとの報道が相次ぎ、不動産投資・投機抑制策
がなし崩し的に緩和されているとの見方が広がったが、銀行業監督管理委員会や住
宅・城郷建設部は 7 月 12 日付けで、緩和は一切行われていない旨を発表している。
調整は深刻化せず ただし、上記②は「暫定」措置であると明記されていること、前回の不動産市場テ
コ入れ策の発表(2008 年 10 月)から今回の引き締めへの転換(2009 年 12 月)までの
期間が僅か 1 年 2 ヵ月であったことからすると、今後不動産価格が順調に低下してい
けば、2011 年の春先までには、不動産投資・投機抑制策の一部が緩和される公算が大
きくなろう。ブレーキペダルから足が放されるイメージである。

主要 70 都市の不動産価格(前年同月比、前月比)(単位:%)

14 2.0

12
1.5
10

8 1.0

6
0.5
4

2 前年同月比(左目盛) 0.0
前月比(右目盛)
0
-0.5
-2

-4 -1.0
06/1 06/5 06/9 07/1 07/5 07/9 08/1 08/5 08/9 09/1 09/5 09/9 10/1 10/5
(出所)国家統計局資料より作成
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2011年後半以降はア その後、2011 年後半以降はアクセルが徐々に踏まれていこう。この背景は来るべき


クセル 「政治の季節」への備えである。

中国共産党の最高組織は 5 年に 1 回開催される全国代表大会(党大会)であり、こ
政治の季節に備えた
こで党の主要人事や国家の重要な方針・政策などが決定される。さらに、その翌年に
「政績」向上
は全国人民代表大会(全人代=議会)や国務院(政府組織)の主要人事が決まり、そ
2012年秋の党大会 の後 5 年間の指導体制が固められる。地方を含めた党・政府幹部にとって、党大会や
2013年春の全人代 全人代は、昇進の大きなチャンスであり、政績(政治的得点)の向上が最優先課題と
なるのである。2012 年秋と想定される第 18 回党大会での党人事と 2013 年春の国務院
人事が注目される訳だが、胡錦涛・総書記と温家宝・国務院総理(首相)の引退が既
定路線となっている今回は、5 年に 1 度ではなく、10 年に 1 度のチャンスが巡ってく
るのである。
共産党大会開催年に
下表は、1982 年以降の中国共産党・党大会開催年を基準とした実質 GDP 成長率の推
成長率が高まるジン
移である。2009 年までの実績をみると、開催年の実質 GDP 成長率が前年を上回るケー
クス
スが過去 6 回のうち 5 回、開催年を起点とする 5 年間で開催年の成長率が最も高くな
るケースが 4 回あった。ちなみに、開催年の実質 GDP 成長率が前年より低下したのは
97 年のみであり、これは 92 年以降の経済過熱をクールダウンするための引き締め策の
継続を余儀なくされたためであった。

中国共産党・党大会開催年を基準とした実質 GDP 成長率の推移(単位:%)

1982 1987 1992 1997 2002 2007 平均


当年 9.1 11.6 14.2 9.3 9.1 14.2 11.3
2年目 10.9 11.3 14.0 7.8 10.0 9.6 10.6
3年目 15.2 4.1 13.1 7.6 10.1 9.1 9.9
4年目 13.5 3.8 10.9 8.4 11.3 9.6
5年目 8.8 9.2 10.0 8.3 12.7 9.8
(注1)濃橙色は党大会開催年を含む5年で、最大の伸び率であることを示す。
(注2)薄橙色は前年から伸び幅が拡大したことを示す
(出所)国家統計局資料より大和総研作成

5 月 13 日付け海外情報「第 11 次 5 ヵ年計画の成績表と今後の注目点」では、2006
地方政府の成長志向
年 7 月の「科学発展観の具現に要求される地方の党・政府幹部の総合評価審査のテス
は健在
ト方法」の発表により、地方幹部の「政績」評価が、従来の経済成長率や財政収入を
中核とするものから、①資源消耗と安全生産、②社会保障、③人口と計画出産、④耕
地など資源保護、⑤環境保護、⑥一人当たり GDP とその伸び率、⑦都市と農民の収入
とその伸び、⑧基礎教育、⑨都市部の就業、⑩科学技術投入と刷新、⑪一人当たり財
政収入とその伸び率、⑫文化的な生活、といったよりバランスの取れたものになり、
さらに 2007 年後半以降は、省エネ・省資源と環境保全に重点が置かれるようになった
と指摘した。ただし、2010 年に終了する第 11 次 5 ヵ年計画の途中経過を見る限り、経
済成長率など量的拡大目標は大幅超過達成となっている一方、省エネや環境は、目標
達成に黄信号が灯っている。地方政府の成長志向は未だ健在である。2012 年には中国
経済は再び 2 桁成長となり、その準備段階として 2011 年後半にはアクセルが徐々に踏
まれていこう。このように、2011 年は 1~3 月期が成長率のボトムとなり、2010 年と
は真逆に、期を追う毎に成長率が高まっていくとみている。
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実質 GDP 成長率(四半期ベース)の推移とその後のイメージ(単位:%)

14

11.9
12
10.7
10.3
10
9.1
8.1
8
6.5

0
05 06 07 08 09 10 11 12
(出所)国家統計局資料より作成、予測は大和総研

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