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炭 素 TANSO

2010[No.242]69-75

―新しく炭素材料実験を始める人のために―

高分子から作製される炭素・黒鉛材料
Carbon and graphite made from polymer

村上睦明 ❖
Mutsuaki Murakami❖

1.はじめに
近年, 高分子を原料とした炭素作製技術が注目されている。本
稿ではこれから高分子フィルムの炭素化・黒鉛化に取り組もう
とする人のために, 最初になぜ高分子から炭素なのか, 何が面白
いのかについて述べ, 次にその実験方法, 留意点, 物性測定法など
について記載する。また, 具体例としてポリイミド(PI)の炭素
化・黒鉛化反応を取り上げ, その熱分解・炭素前駆体・炭素化・
, 高分子からの高品質黒鉛フィルム製
黒鉛化過程を紹介し(図1)
図 1 高分子から炭素・黒鉛への反応
造技術の特徴を紹介する。 (a)本稿で取り上げる芳香族ポリイミド(PMDA-ODA)
の分子構造,(b)黒鉛(グラファイト)の結晶構造
2.なぜ高分子から炭素なのか

炭素材料の作製にはよく「生まれと育ち」が大切であると言わ 御することで, 従来の方法では考えられないような高性能炭素製


れる。炭素原料に高分子材料を用いる第一の特徴はその素性(生 品を作ることができるという点である。例えば, 炭素繊維の製造で
まれ)がはっきりしているという点である。これは単にその化学 は高分子の溶融を防止するための酸素処理, 熱処理過程で機械的
的組成が明らかであるというのみでなく, 各原子の結合の仕方や, な張力を加えるなどのプロセスが採用される。炭素繊維は現在
場合によっては高分子鎖の配向(結晶構造)まで明らかなことが 大きな産業になっているが, これは原料として高分子を用いるメリ
ある。炭素作製のための熱処理は化学反応としては比較的乱暴 ットを最大限活かし, 優れた機械的性質をもつ炭素材料を実現し
な反応であるが, 素性のはっきりした高分子原料を用いればその反 た典型例である。また, それ以外の第三, 第四の特徴として, 高分
応過程をある程度予測でき, 結果的に高分子の特性を反映した特 子原料の形状のままで生成物を得られること, 高分子によっては
徴ある炭素が得られることになる。不活性ガス中あるいは真空 炭素収率が高くできるという点を挙げることもできる。
中での高分子の熱分解は, ①ランダム分解または解重合によるガ 以上述べた特徴を本稿で取り上げるPI を用いた黒鉛作製の例
ス化, ②溶融物を経由する炭素化, ③固相のままでの炭素化, の3 つ でもう少し詳しく見てみよう。黒鉛は炭素同素体(黒鉛, ダイヤ
の機構で進行する。①の機構では高分子がガス化によって散逸 モンド, カルビン)の中では最も安定な形であり, その優れた耐熱
するので生成物は得られないが, ②および③の機構では何らかの炭 性, 耐薬品性, 高電気伝導性, 高熱伝導性などの性質により, 製鉄用
素材料が得られる。②の機構では一度溶融することで原料高分 電極, アルミ精錬用電極, Li 二次電池用負極などとして産業界に
子の性質が失われてしまうが, ③の機構は固相のままで進行する おいて広く使用される基幹材料となっている。しかし人工的に
ので原料高分子固体のもつ性質を炭素前駆体に反映させること 高品質・高配向性の黒鉛を作製することは意外に難しく, その作
が可能である。例えば, 高分子から得られる特異な炭素材料とし 製方法もきわめて限られている。ここで高品質・高配向性とは,
て, ガラス状炭素, 炭素繊維, 炭素微小球状体などを例示すること すべての結合がSP2 からなっており, さらにその構造もほぼ完全
ができる。ガラス状炭素はフルフリルアルコール樹脂を, 炭素繊維 な黒鉛構造になっているとみなすことができるものを言う。具
はレーヨン, アクリル繊維, ビニロン繊維などを, 微小球状炭素は 体的な高品質・高配向性の黒鉛としては, 液相(溶融金属)から炭
ポリジビニルベンゼンやベンゼン−スチレン共重合体の微小球状 素を再結晶して作製する Kish 黒鉛, 気相から作製する HOPG
粉体を炭素化して得られる。これらはいずれも熱硬化性高分子 (Highly Oriented Pyrolytic Graphite)1), ここで紹介する固相(高分
であり, ③の機構で炭素化が進行することが知られている。 子)から作製する高品質黒鉛が知られているに過ぎない。Kish
第二の特徴は「育ち」, すなわち炭素化, 黒鉛化のプロセスを制 黒鉛は燐片状の小さな形状としてしか得られず, HOPG は熱分解

❖ Corresponding Author, E-mail: Mutsuaki_Murakami@kn.kaneka.co.jp (平成 22 年 2 月 8 日受理, 平成 22 年 2 月 22 日採択)


㈱カネカ 先端材料開発研究所 新規事業開発部兼任 理学博士 大阪大学招聘教授:〒 566-0072 大阪府摂津市鳥飼西 5-1-1
Frontier Materials Development Laboratories & New Business Development Department : 5-1-1 Torikai-nishi, Settsu Osaka 566-0072, Japan

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炭素を高温(3000 ℃以上)
・加圧下で長時間(数週間∼ 2 カ月) 抵抗加熱炉としては, 例えばFe-Cr ヒーターを用いた最高処理
かけて黒鉛化するもので小型ブロックの形で得られる。これら 温度 1200 ℃の炉, MoSi2 を用いた1400 ℃の炉, 炭素(黒鉛)を用
に対して高分子から黒鉛を作製する方法は, 容易に大面積フィル いた2400 ℃の炉, などが一般的に市販されている。3000 ℃の超
ムや大型ブロックとして得ることができるという特徴がある。工 高温炉には黒鉛ヒーターに直流電流を流して試料を間接加熱す
業的にもきわめて優れた方法で多くの報告がなされており 2)-7), る方法と, 電極間にパッキングコークスを詰めてその媒体内に熱処
筆者も 20 年以上この技術の事業化に携わってきた。現在, この 理試料を埋め込み直接通電加熱する方法がある。直接通電加熱
方法で得られる高品質黒鉛はその価値が認められ重要な工業材 は大量処理に向いた方法で, 工業的に人造黒鉛を製造する方法で
料となりつつある。 もある。代表的な炉としてアチソン炉(AG 炉)
, 直接通電黒鉛化炉
(LWG 炉)があり, コークス中に試料を埋め込むのは断熱効果と
3.実験方法
酸素吸収による熱処理物の酸化防止のためである。しかしなが
3.1 高分子原料 らこの方法は炉全体の熱容量が大きいために精密な温度制御を
ここでは高分子を炭素化・黒鉛化する場合の実験法, 実験上の 行うことは難しく, 実験室向きではない。
留意点について記載する。原料の観点から見た炭素化・黒鉛化 一方, 間接加熱法は温度制御が比較的容易であるので, 精密な熱
実験における第一の注意点は, 炭素化・黒鉛化の反応が高分子の 処理プロセスの制御が必要な高分子の炭素化・黒鉛化実験には向
化学構造と熱処理プロセスのみでは決まらないという点である。 いている。先に述べたように3000 ℃の超高温炉は黒鉛ヒーター
反応は高分子の配向性, 結晶性, フィルムの厚さなどの多様な物 を用いた炉であるが, このような超高温の実現にはさらに多くの
理的因子によっても影響され, 極端な場合には試料の置き方など 工夫が必要で, 炉内材, 断熱材, 炉壁, 温度測定法, 温度制御方法
の条件にも影響される。したがって実験結果の厳密な評価のた などにそれぞれ特有の技術が必要になる。このようなノウハウ
めにはこれらの条件をすべて同じとすることが必要である。 をもった国内のメーカーは数社に限られており, 炉の導入にあたっ
芳香族ポリイミドを実験室的に合成する場合, ジアミンとカル てはそれらの専門メーカーと十分に相談することをお勧めする。
ボン酸二無水物との反応で得られるポリアミック酸をガラスな 3.3 炭素化, 黒鉛化の熱処理方法
どの基板上にキャストし, これをイミド化する。イミド化反応は熱 熱処理は炉内をロータリーポンプで真空引き後 Ar ガスに置換,
キュア法, 化学キュア法で行うことができるが, 実験室的には熱 Ar フロー中で行えばよい。ガスフロー中で行う理由は, 酸素の混
キュア法が便利である。イミド化反応は水が脱離する縮合反応 入を防止し熱処理過程で発生するガスを炉外へ流し出すためで
であって, 反応過程でのフィルムの収縮による応力で高分子は自 ある。超高温領域での温度測定は炉体に形成された石英板窓を
然に配向する。このとき, キャストフィルムに応力を加え配向度を 通して炉外部から間接的に赤外線温度測定器で行い, 測定器から
向上させることも可能である。PI の分子配向度は分子構造のみ の電気信号をヒーターの制御系にフィードバックする。石英窓
でなくフィルムの厚さによっても異なり, 一般には薄いフィルム を常に掃除してその透明性を確保しておくことも重要である。
のほうが高い配向性が得られやすい。高分子の分子配向は高分 炭素化・グラファイト化反応では試料処理に用いる容器も
子フィルムの複屈折率によって評価されるが, 本稿で取り上げる 3000 ℃に耐える必要があり, 例えば高分子フィルムを人造黒鉛製
芳香族 PI(PMDA-ODA)
(図1)は高い複屈折率をもった結晶性 の板に挟み, さらに黒鉛製容器(等方性カーボンブロックなど)
の高いフィルムであり, 製膜時の分子配向によって機械的強度に にいれて処理すればよい。高分子フィルムは一般に加熱・熱分
優れたフィルムとなることが知られている。現在高品質グラフ 解・炭素化・黒鉛化の工程で膨張・収縮することが多く, この間
ァイトになる芳香族ポリイミドとして 6 種類の PI が知られてお に黒鉛フィルムに皺が入ることがある。高分子原料を黒鉛製の
り, これらはいずれも平面性や配向性に優れたPI である 7)。 板に挟むことは生成物に皺が入ることを防止する意味があり, 高
3.2 超高温炉 分子フィルムを黒鉛製の板に挟むだけで生成物の物性が異なる
高分子から黒鉛に至る工程はすべて不活性ガス中(主にアルゴ ことはしばしば経験することである。
ン(Ar)ガス)で行うが, 黒鉛化には最終的に3000 ℃付近での超 3.4 超高温炉の安全対策
高温処理が必要になる。高温加熱の方法としては抵抗加熱法, 高 超高温処理炉では安全の確保に十分な対策を講じる必要があ
周波誘導加熱法, 燃焼加熱法, 赤外線集光加熱法などが知られて る。一般的に間接加熱法による炉では炉外壁は鉄で作製されて
いるが, 3000 ℃の超高温が実現できる方法は抵抗加熱法と高周波 いる。鉄の融点は 1700 ℃程度であるため, 黒鉛ヒーターと鉄外
誘導加熱法である。高周波誘導加熱法は比較的簡単に超高温が 壁の間には炭素繊維製の断熱材料が置かれ, 鉄の外壁には冷却の
得られる方法であるが, 基本的に実験材料の導電性に影響される ための冷却水が流されている。安全上での最も怖い事故はこの
という性質をもっている。高分子の熱処理の場合, 原料出発原料 冷却水が停止した場合である。冷却水が停止すると炉壁の溶解
は絶縁体であるが炭素化が始まると導電性が現れ, 黒鉛になると が考えられ, 密閉した炉内に水漏れした場合には炉の水蒸気爆発
導電体となるため, 特に高温領域で温度制御が不安定になる可能 の可能性もある。超高温熱処理では二重, 三重の安全対策(停電対
性がある。したがって, 個人的には実験室的に高分子の炭素化・ 策, 水漏れ対策, 温度の異常上昇の検知など)を講じる必要があ
黒鉛化を行うには抵抗加熱法が適当であろうと考えている。 る。超高温処理の危険性, 安全対策の重要性を十分に理解し, 安

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高分子から作製される炭素・黒鉛材料 2010[No.242]

全確保のために努力していただきたい。また, 日常的に超高温 り, 放出ガス量からカルボニルの炭素はほぼ完全に失われることが


処理をしていると, 通常は十分注意を払うはずの温度(例えば わかっている。したがって, 熱分解はPMDA-ODA 中のベンゼン
200 ∼ 300 ℃程度)が安全な低温のように錯覚し火傷することが 環炭素の90 %以上が炭素・黒鉛となる機構で起きることがわか
ある。少し考えればわかることであるが, 慣れは超高温処理実験の る。このように簡単な考察でもある程度まで熱分解機構から炭
最大の敵であることを十分認識して欲しい。 素前駆体に至る過程を推察することができる。
3.5 分解物の処理 一般に高分子炭素前駆体は不溶不融であり, その分析手段がき
高分子の炭素化・黒鉛化反応は熱処理により, 有機化合物から, わめて限られていることからその構造や大きさ(分子量)を正確
窒素, 酸素, 水素などを除去し炭素だけを残す方法である。した に知ることは非常に困難である。現実には, 元素分析, XPS 分析
がって熱処理に伴い必ず何らかの分解物が発生する。熱処理試 による炭素, 酸素, 窒素の存在状態の推定, TEM 観察などによっ
料が少量である場合には炉の排気口をドラフトなどにつなぐだ てその構造を推定するしかない。表1 には過去のいろいろな論文
けでもよいが, ある程度の量の試料を熱処理する場合には必ず分 から抜粋した各種の高分子分解生成物(炭素前駆体)の電気伝導
解物の処理装置を付ける必要がある。一般的に分解物として考 度の値をまとめて示した。電気伝導度の値で見れば10 10 倍以上
えられるのはCO ガス, CO2 ガス, H2 ガス, HCN ガスなどであり毒 に上る大きな差異が認められる。表 1 に示した結果は熱処理条
性の面からも十分な安全対策が必要である。また, 高分子によっ 件が同じではなく, またこの領域ではわずかな処理温度の違いによ
てはより分子量の大きいタール状の分解生成物が生じる場合も って電気伝導度が大きく変わるので単純な比較はできないが, 少
ある。このタール状分解物が炉内の排気弁や温測用ガラス窓に なくとも高分子の種類によって多様な炭素前駆体が生成し, その
付着すると, 温度制御が不正確になる, 掃除に時間を要する, 作業 性質が大きく異なることがわかるであろう。このことは逆に言
者の健康に悪影響を与える, などの問題を生じる。タール成分は
何らかのトラップを設けて集め, 排ガスやタールの処理には都市 表1 各種高分子熱分解物(炭素前駆体)の電気伝導度。注は
ガスや電気炉による処理装置を設けることが好ましい。処理装 出発高分子の推定構造。

置から出る排ガスは専門の大気測定業者に依頼し安全を確認す
高分子 熱分解物の伝導度(S/cm)
る必要があることは言うまでもない。高分子の熱分解反応を行 ポリイミド(KAPTON H) 20(800℃),160(1000℃)
う際にはあらかじめどのような熱分解物が生成するかを必ず確認 ポリオキサジアゾール(POD) 40(800℃),340(1000℃)
して欲しい。 ポリアミドイミド(PAI) 60(1000℃)
BBM(ラダーポリマー) 0.2(H2SO4ドープ) 注1
4.高分子の熱分解反応と炭素前駆体 BBL(ラダーポリマー) 0
2×10(H2SO4ドープ) 注2
BBB(ラダーポリマー) 1.0(H2SO4ドープ) 注3
熱分解機構の解明には, 発生ガス分析, 生成物や分解物の成分
ポリ(Cu-フタロシアニン) 8×10−1
分析, 熱天秤(TGA)分析, 赤外分析などの化学者にはおなじみの ポリアクリロニトリル 5(435℃),20(900℃)
分析手段が有効である。PMDA-ODA 型 PI は熱処理温度(HTT) シアノアセチレン重合物 1900(1200℃) 注4
が500 ∼ 600 ℃の温度領域で熱分解を起こし, 透明黄色である外 ジアノジエン重合物(ファイバー) 2300(800℃) 注5

観は不透明黒色に変化し800 ℃付近ではガラス光沢をもつ黒色と ジシアノアセチレン重合物 ― 注6


セルロース 100∼10−6
なる。この間溶融することはなく固相のままで炭素前駆体が生
ケイ素樹脂 100∼10−6
成する。1000 ∼2000 ℃の間では外観上の変化はほとんどないが
ピロメリットニトリル 8×10−5
この間に炭素化は完了する。熱分解温度領域(500 ∼ 600 ℃)で 無水フタル酸, ヒドロキノン縮合物 2×10−5
フィルムは面方向に76 ∼ 77 %の大きさまで収縮し, 厚さ方向は フマロニトリル 1×10−5
94 %に収縮する。その後フィルムサイズ2000 ℃付近までほとん シリコンゴム 10−6∼10−11
フッ素化炭化水素 10−7∼10−11
ど変化しないが, それ以上の温度領域で面方向のサイズが初期値
ノボラック型エポキシ 10−9∼10−13
に対して87 ∼ 88 %に戻り, 一方で厚さ方向は初期値に対して約
注1 注4
60 %に縮む。すなわち, この領域で面方向と厚さ方向で異方的寸
法変化を示す。2000 ℃以上でのこのような特異な寸法変化は炭
素化フィルムが黒鉛化する際の特有な変化である。
熱分解反応機構を考えるうえで炭素収率を計算することが有 注2 注5
効である。例えば, PMDA-ODA の場合 HTT = 1000 ℃における
固体残さは58 %であり, 最終的に得られる炭素・黒鉛の重量は
ほぼ出発原料の50 ∼ 53 %程度である。PMDA-ODA の繰り返し
単位(C22O5N2H10)の分子量は382, 炭素成分の分子量は264, ベ 注3 注6
ンゼン環の炭素の分子量は216(C18)であり全体の分子量の56.5 %
に当たる。一方, ガス分析により分解はイミド結合の部分で起こ

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えば炭素前駆体構造が原料高分子の性質を反映していることを , および制限視野回折(SAD)の測定結果を示す。TEM 測
(TEM)
示しているとも言える。高分子の分子構造のみでなく熱処理条 定では炭素縮合多環構造の存在が観察できるが, その構造や大き
件や原料の物理的条件(フィルム厚さ, 結晶性など)まで同一に さまではわからない。しかしながら, SAD 測定ではフィルム面方
した実験が望まれる所である。 向にハローが観察され, 1000 ℃付近の温度領域における炭素縮合
PMDA-ODA の場合, 熱分解反応を経て得られる生成物は700 多環構造は全体としてはフィルム面方向に平行に配向している
∼ 1000 ℃の領域では炭素以外に窒素, 酸素が含まれた炭素前駆 ことが確かめられた 3)。このような炭素前駆体の配向は黒鉛化反
体である。元素分析では HTT = 1000 ℃での炭素前駆体は C : 応の起こしやすさを決めるきわめて重要な因子である。
95.20 %, H:0.56 %, N:2.16 %, O:1.62 %, であると報告されて
5.炭素化・黒鉛化反応
いる 8)。一方, XPS 分析からC, N, O 元素の存在状態が明らかに
なっている。これらの分析の結果から想定されているHTT =700 ℃, 5.1 黒鉛化反応に影響を及ぼす因子
800 ℃, 1000 ℃における推定炭素前駆体構造を図 2 に示す 9)。 通常炭素化過程では, 外見的にも物理的な特性にも大きな変化
PMDA-ODA から作製された炭素前駆体は高い伝導度を示す一群 は観察されないが, 黒鉛化反応に大きな影響を与える重要な過程
, このことは得られる炭素前駆体の分子量が大
に含まれるが(表1) である。一方, 黒鉛化は特定の温度で急激に進行し電気伝導度,
きく, 前駆体中の共役二重結合も発達していることを示唆してお 熱伝導度などの物性値が劇的に変化する。したがって, それらの
り, 推定構造に一致する。ただし, この前駆体のサイズ(分子量) 物性を測定することで黒鉛化の進行状況がわかる。
や形状はあくまで推定であり実際の前駆体構造はよくわかって 表 2 には各種耐熱性芳香族高分子をそれぞれ, HTT = 1000 ℃,
いない。 2500 ℃, 3000 ℃で熱処理(HTT までの昇温速度 20 ℃/min)した
写真1 にはHTT =1000 ℃処理フィルムの断面透過電子顕微鏡 場合の電気伝導度(フィルム面方向, または繊維の長さ方向)を
示す。この表にはPI 以外にポリアミドイミド(PAI)
, 分子構造の
異なる2 種類のポリアミド(PA-1, PA-2)
, POD, ポリベンゾイミ
ダゾール(PBI)の実験結果を示している。また, PA-1 について
は分子構造はまったく同じで試料の形状が異なる(繊維状, フィ
ルム状)2 種類の試料の実験結果を示している。ここに示した高
分子はいずれも1000 ℃処理炭素としては高い電気伝導度をもつ
範疇に属するものであるが, HTT = 2500 ℃, 3000 ℃で得られる
炭素の電気伝導度は原料によって大きく異なっており, 黒鉛化反
応の特徴をよく示している。例えば, PI ではHTT = 2500 ℃での
電気伝導度は520 S/cm に過ぎないが, 3000 ℃では20000 S/cm に
達する。これに対してPAI は3000 ℃でも電気伝導度は380 S/cm
に過ぎず, 高配向黒鉛ができていないことを示している。2 種類

表 2 各種芳香族耐熱高分子の熱処理温度(HTT)と電気伝導度

Conductivity(S/cm)
Name Structure
HTT=1000℃ 2500℃ 3000℃

PI
160 520 20000
図 2 炭素前駆体の推定構造 8) (KAP)

PAI 60 150 380


(HI)

PA-1 Fiber 280 1200 2040


(KEV)
Film 300 10400 14800

PA-2
(MX) 270 1000 1100

POD 340 7000 18000

PBI 250 2800 7300


写真 1 HTT = 1000 ℃処理, PMDA-ODA フィルム断面の透過電
子顕微鏡写真(TEM)と制限視野回折(SAD)3)

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高分子から作製される炭素・黒鉛材料 2010[No.242]

の PA-1 を比較すると繊維状の試料では HTT = 2500 ℃で 1200


S/cm, 3000 ℃でも2040 S/cm に過ぎないが, フィルム状試料では
HTT = 2500 ℃ですでに1040 S/cm に達する伝導度を示す。しか
しこの試料を3000 ℃処理しても14800 S/cm でありPI には及ば
ない。この例は黒鉛化反応が分子構造のみでなく, その試料の形
状(フィルム状か繊維状か)によっても影響されることを示して
いる。また, POD はHTT = 2500 ℃での電気伝導度は7000 S/cm,
3000 ℃では18000 S/cm でありPI とともに優れた黒鉛に転化でき
る高分子である。表2 の結果は黒鉛化の起こりやすさはそれぞれ
の高分子によって異なり, 低温で黒鉛化反応を起こすことができ
ても必ずしも最終的により高品質な黒鉛が得られるわけではな
いことを示している。黒鉛化の起きる温度は熱処理条件によっ
ても影響され, その条件によって黒鉛の品質も異なる。例えばPI
の場合, 分子構造や配向性, 昇温プロセスなどを制御することで 図3 HTT = 1000 ℃, 2000 ℃, 2600 ℃, 3000 ℃処理 PMDA-ODA
黒鉛化の起きる温度を2000 ℃まで下げることも可能である。 フィルムの透過 X 線回折図(X-RAD)
黒鉛化反応の物理的な影響を示すほかの例として, 同じ分子構
造をもつPI を用い, 一方は製膜時に延伸することでフィルム内部
の分子を配向させた試料とそのような処理を行わなかった試料
について炭素化・黒鉛化を行った結果が報告されている 3)。延伸
処理フィルムは HTT = 3000 ℃でフィルム面方向に高い伝導度
(13400 S/cm)を示し, 一方, 無延伸フィルムでは430 S/cm に過ぎな
かった。この実験から, 高分子から高品質・高配向性黒鉛を作製
するためには出発高分子の分子配向が重要であることがわかる。
多くの PI についての黒鉛化の研究がなされており 5),7)PMDA-
ODA 型よりもさらに剛直性を向上させたPI を用いた黒鉛化の研究
や分子の平面性との関係が議論されている。このようなPI では
黒鉛化反応はPMDA-ODA よりも低温で起こる場合もあるが, 最
終的に得られる黒鉛の品質は期待したほどではないことが多い。
この辺りが高分子の黒鉛化現象の一筋縄では行かない所である。
写真 2 TEM 観察によるPI フィルムの断面での黒鉛構造の様子。
5.2 黒鉛化反応の機構 (a)HTT = 2600 ℃,(b)HTT = 3000 ℃処理した試料。
黒鉛化反応の機構解明には X 線回折測定(X-RAD)と透過型 乱れた黒鉛構造が整っていく様子がわかる。
電子顕微鏡測定(TEM)が有効である。通常, 反射法 X-RAD が
黒鉛の品質を評価するのに用いられるが, 高分子フィルムの黒鉛 フィルム面に対して平行な配向が発達していく様子がわかる。
化反応を追跡するのには通常の反射法での測定と同時に透過法 写真 2 はPMDA-ODA の例ではないが, ある芳香族 PI のTEM に
X-RAD を測定することが有効である。試料がフィルム状である よるフィルムの断面での黒鉛構造であり,(a)はHTT = 2600 ℃,
ので透過法測定は容易に行うことができる。黒鉛の(002)回折 (b)はHTT = 3000 ℃の結果である。2 枚の写真を比較・観察す
線は黒鉛化反応の進行状況を特徴的に表す回折線で, 反射法測定 ればグラファイト構造が形成されていく様子がわかる。最終的
では非常に強い回折線として観察されるが, 黒鉛の層構造がフィ な黒鉛構造に至る過程はこのようなTEM 観察によってその変化
ルム面方向と完全に平行ならば透過測定では出現しない。した を直接観察することができる。
がって, この(002)回折線の出現の有無, 強度, 位置を測定し, ほか
6.得られる製品と応用
の回折線との強度を比較すれば, 黒鉛構造の発達の様子や配向の
変化を推定することができる。図 3 には PMDA-ODA の透過 X- 6.1 黒鉛フィルム(GS)
RAD の測定結果を示す。1000 ℃で観察される(002)回折線は 高分子を原料とした各種黒鉛製品の例を写真 3 に示した。そ
(10)回折線に比べて2 倍程度の強度に過ぎず, 1000 ℃付近で形 れぞれ(a)は柔軟シート,(b)はX 線モノクロメーター,(c)はベ
成される炭素前駆体は全体としてフィルム面方向に配向してい ント型X 線集光素子,(d)は中性子線フィルターである。PMDA-
ることがわかる。このことは先に示したSAD 測定の結果と一致 ODA などの PI からは優れた物性, 柔軟性, 弾力性に富む高品質
する。これに対してHTT = 2000 ℃, 2600 ℃, 3000 ℃の回折像か GS が製造できる 3),4),10)。㈱カネカでは原料高分子PI シートの分
らは(002)回折線が消失する傾向にあり, 炭素多環構造が発達し 子構造, 配向性制御, 炭素化・黒鉛化などの製造プロセスの制御

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写真 3 高分子を原料とした各種黒鉛製品の例。 (a)柔軟シート,
(b)X 線モノクロメーター,(c)ベント型 X 線集光素子,
(d)中性子線フィルター

図 4 (a)携帯電話に現れたヒートスポットの例。 (b)裏面筐体
表 3 KSGS(㈱カネカ)と膨張黒鉛シート(NAGS)の物性比較 にKSGS を貼り付け, 熱源とKSGS を熱伝導ゴムで接続し
た場合。
PI焼成法シート 膨張グラファイトシート
(KSGS) (NAGS)
密度(g/cm3) 1.0−2.0 1.0−1.8 囲に広げることによるヒートスポットの緩和, 放熱効率の向上を目
電気伝導度(S/cm) a-b面 10000∼16000 1000 的に使用されるものである。
c面 2∼7 2∼6
熱伝導度(W/mK) a-b面 1000∼1600 100∼400 一般に高分子材料の場合はその熱伝導度は小さく(0.1 ∼ 0.4
c面 4∼6 2∼6 , 高い熱伝導度をもつことで知られる金属材料の熱伝導
W/mK)
引っ張り強度(Kgf/cm2) 2.0 0.2 率はFe:80 W/mK, Al:237 W/mK, Cu:398 W/mK, などであ
圧縮率(%) 71.3 44.4
る。先に述べたNAGS は比重が小さく(Cu のおよそ1/9)単位重
復元率(%) 76.6 34.2
量当たりの熱輸送能力はCu シートよりも大きくなるために放熱
吸水率(%) 0 49
熱膨張率(1/K) a-b面 0.93×10−6 1×10−6 シートとして使用されているが, 熱伝導率のみを比較すると Cu
c面 32×10−6 30×10−6 の1/2, 理想的なグラファイトの熱伝導率の1/8 に過ぎない。一方,
製造(量産)可能な厚さ(µm) 10∼100 40∼400
KSGS のa-b 面方向の熱拡散率は1000 ∼1600 W/mK である。これ
は銅の熱伝導の3 ∼4 倍, 単位重量当たりの熱輸送能力では20 ∼
によって高熱伝導性 GS(KSGS)を開発した。KSGS と膨張化黒 30 倍であり, 実用的な熱伝導シートとしては最も優れた特性のシ
鉛の圧延処理法(黒鉛フィルムの製造方法として一般的な方法) ートである。また, c 軸方向の熱拡散率は4 ∼ 6 W/mK であり, こ
によって得られた市販黒鉛シート(NAGS :ナチュラルグラファ のような大きな異方性は熱の拡散, ヒートスポットの解消には最適
イトシートの略)11)の物性とを比較して表 3 に示す。KSGS は な特性である。
NAGS と比較して, 電気伝導度, 熱伝導度, 柔軟性, 引っ張り強度, 携帯電話のヒートスポットの緩和に KSGS を利用した場合の
圧縮率, 復元率, などの点ではるかに優れた物性を有しており, 例 効果をシミュレーションによって検証した。図 4(a)はKSGS を
えば伝導度や引っ張り強度は10 倍に, 熱伝度率は4 ∼ 10 倍も大 , および筐体表面の熱分布
使用しない場合の筐体断面(上段図)
きい。KSGS においてこのような優れた特性と柔軟性が実現でき (下段図)を示している。シミュレーションを行った機種では発
た理由は, 原料やプロセスの制御によって黒鉛シートの結晶子 熱体の温度は 93.7 ℃であり, 筐体表面には 2 カ所にそれぞれ
(La)を大きく成長させていること, さらにLc が6 ∼ 7 nm(黒鉛 40.6 ℃, 43.7 ℃のヒートスポットが, 裏面には46.9 ℃および45.2 ℃
16 ∼ 20 層程度)程度のきわめて薄い良質の黒鉛薄膜の集合体と (b)はKSGS を筐体に貼り付け熱
のヒートスポットが存在する。
なるように制御していることによっている 12)。 源との間を熱伝導性シートで接続したときの温度分布である。
6.2 GS の熱拡散シート応用 KSGS の利用で発熱源の熱はスムーズに拡散し発熱源の温度は
近年, マイクロプロセッサの高性能化・高速化に伴う発熱量の 48.1 ℃に低下する。その結果キーパット側のヒートスポットは
上昇や電子機器の小型化により, 携帯電話, パソコン, PDA, ゲーム 31 ℃台, 裏面のヒートスポット温度は 35.1 ℃にすることができ
機などの電子機器における熱対策が重要になっている。その対 る。現在, KSGS は携帯電話を始めとする電子機器の熱対策部品
策として, 発熱源の熱を速やかに広範囲に広げる熱伝導シートが として広く使用されており, さらにLED 照明の熱拡散用途など広
注目されている。熱伝導シートは, CPU などの発熱源の熱を広範 範囲に広がりつつある。

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高分子から作製される炭素・黒鉛材料 2010[No.242]

表4 PI 焼成法によって得られる黒鉛ブロック(GB)と黒鉛単 処理(炭素化)工程, 本処理(黒鉛化)工程, アニーリング工程を


結晶の物性比較 経て作製される。各工程での印加圧力の大きさや加圧のタイミ
ングを制御し最適化することにより, MS 値が0.4 °台の特性をも
特 性 値
項  目 つシングルベント型結晶が得られており, 平板型結晶に比べて約
PI焼成法 単結晶
半価幅(MS) 0.3° − 5 ∼10 倍の集光特性が得られる。さらに, X 線を集光する方法とし
電気伝導度 a-b面 23000 25000 てトロイダル形状ができれば, X 線の入射角度を常に一定に保っ
  (S/cm) c軸 5∼6 1∼10 てブラッグ反射を起こし X 線の単色化とともに一点に集光する
熱伝導度 a-b面 1600 500∼1900
ことができる。精密な圧力・温度の制御によってトロイダル型
  (W/mK) c軸 5 4∼80
集光素子が開発されており, 直接 X 線強度に対し213.7 倍の集光
(002)面の格子定数(nm) 0.3354∼0.3356 0.3354
ヤング率(Gpa) 750 − 率が得られている 13)。すなわち, この素子により200 倍程度の強度
音速(m/s) 18000 − をもつX 線が容易に得られ, X 線測定の効率化が実現できる。
密度(g/cm3) 2.20∼2,25 2.267
熱膨張係数 a-b面 −1.0×10−6 −1.5×10−6 7.終わりに
   ( /K) c軸 27×10−6 27×10−6
本稿では高分子を原料とした炭素化・黒鉛化反応の面白さ, 実
験を行う際の注意点, その応用展開について述べた。現在, 21 世
6.3 黒鉛ブロック(GB) 紀の素材としてフラーレン, カーボンナノチューブ, グラフェン
複数枚のPI フィルムを加圧しながら高温処理し, 高品質・高配 などの黒鉛材料が注目されている。黒鉛の化学は縮合多環化合
向性黒鉛結晶を作製する方法が開発されている 3), 13)。この方法 物の化学であり分子性固体の研究分野につながっている。また,
はHOPG の作製法に比べてはるかに簡易で, 優れた分光・回折特 黒鉛は無酸素雰囲気中では3000 ℃の高温に耐え, その面方向は
性を有する放射線光学結晶が得られるために, X 線のモノクロメ 25000 S/cm の高い電気伝導度をもっている。すなわち, 黒鉛は
ーターや中性子線の波長フィルターとして広く使用されている。 耐熱性高分子材料の最終目標であり, 導電性高分子の1 つの極限
GB の作製工程は次のとおりである。まず, 厚さ25 µm のPI フ モデルでもある。高分子を用いた新規な高付加価値炭素材料の
ィルム400 ∼ 4000 枚を所望の大きさに切断して重ね合わせて黒 創生に多くの人が興味をもっていただけることを望んでいる。
鉛製の容器に収納し, 予備焼成と炭素化を行う。次にHTT =2800
文 献
∼ 3000 ℃で本処理を行い, 黒鉛化を進行させる。このとき同時
にフィルム間を密着させ配向性を向上させるため加圧処理をあ 1)A. W. Moore, Highly Oriented Pyrolytic Graphite, Chemistry and
Physics of Carbon, Vol.11(1973)Marcel Dekker, Inc.
わせて行うが, 加圧中の昇温速度, 圧力の大きさ, 加圧のタイミン
2)M. Murakami, K. Watanabe and S. Yoshimura, Appl. Phys. Lett. 48
グなどが配向性能に大きな影響を与える要因となる。得られた [9] (1986)1594-1596.
GB の物性値を単結晶黒鉛の物性と比較して表 4 に示す。得られ 3)M. Murakami, N. Nishiki, K. Nakamura, J. Ehara, T. Kouzaki, K.
た黒鉛結晶の面間距離, 電気伝導度はいずれも単結晶黒鉛と同等 Watanabe, T. Hoshi and S. Yoshimura, Carbon 30(1992)255-262.
4)村上睦明,「ポリイミドを原料とするグラファイトの物性と応用」,
の値であり, きわめて高品質・高配向性であることがわかる。
(独)日本学術振興会 炭素材料 第 117 委員会,『炭素材料の新展開』東
6.4 GB の光学応用 京工業大学応用セラミック研究所(2007)pp.343-351.
黒鉛の(002)回折線はほかのX 線分光結晶に比べて非常に高 5)M. Inagaki, T. Takeichi, Y. Hishiyama and A. Oberin, Chem. Phys.
い反射能力を有しているのでX 線のモノクロメーターとして広く Carbon 26(1999)245-333.
6)羽島浩章, 山田能生, 白石 稔, 資源環境技術総合研究所報告 No.17,
使用されている。X 線分光結晶としての黒鉛の良否はa-b 面の配
1-63(1996) .
向性で決定されるが, その配向度はモザイクスプレッド値(MS : 7)鏑木 裕, 菱山幸宥,「芳香族ポリイミドフィルムからの黒鉛フィル
)で評価され, 優れた光学結晶ほ
ロッキングカーブの半価幅( °) ム」,(独)日本学術振興会 炭素材料 第117 委員会,『炭素材料の新展開』
どその値は小さくなる。PI フィルムの積層によって得られる結 東京工業大学応用セラミック研究所(2007)pp.49-57.
8)S. D. Bruck, Polymer 6(1965)49-61.
晶のMS 値は0.3 °であり, 得られたGB がHOPG と同等の優れた
9)S. D. Bruck, Polymer 6(1965)319-332.
高配向性を有していることを示している。このGB モノクロメー 10)西木直巳, 武 弘義, 村上睦明, 吉村 進, 吉野勝美, 電学論 A 123
ターは, ① HOPG よりもX 線反射強度が高い, ②結晶内部のX 線 (2003)1115-1123.
回折強度の均一性が良い, ③反射(ロッキングカーブ)特性が良 11)広瀬芳明,「膨張黒鉛シート」,(独)日本学術振興会 炭素材料 第117 委
員会『炭素材料の新展開』東京工業大学応用セラミック研究所
い, ④製法が簡単で湾曲結晶などの特殊な形状が得られるという
(2007)322-331.
特徴がある。例えば, GB の反射強度はCu-Kα 線の場合 HOPG の 12)西木直巳, 武 弘義, 渡辺和廣, 村上睦明, 吉村 進, 吉野勝美, 電学論
1.2 倍であり, GB は現在 X 線回折装置, 蛍光 X 線分析装置などの A, 124(2004)812-816.
分光結晶として広く使用されている。 13)西木直巳, 川島 勉, 村上睦明, 吉村 進, 吉野勝美, 電学論 A, 124,
1059-1064(2004) .
GB を湾曲型に成型できればX 線の単色化とX 線の集光が同時
に可能となる。一軸的に湾曲したシングルベント型素子は, 予備

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