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派遣専門家活動報告書

古橋敬一

                〈目次〉
1. はじめに
2. 活動の要約
3. 指導目的
4. 具体的な指導内容
5. 今後の見通し
6. おわりに

1.はじめに
 本文は、ハイチ共和国エンシュ市ボナビ地区において実施された「地域住民への利益還元を目
的とする農業指導及びソーラー発電建設プロジェクト1」に土壌改良事業を担当する専門家とし
て派遣された筆者による活動報告書である。2008 年 2 月 24 日〜3 月 13 日という日程は、プロ
ジェクトに求められた成果と比較すれば非常に短期間ではあったが、今後の持続可能な展望に
向けての意義ある土台を築くことができたのではないかと自負している。もちろん、そこには多
くの課題も残されているが、それらについては、この報告書においても指摘するので、今後の活
動を検討する上での参考資料に加えていただければ幸いである。
 ところで、筆者は今回土壌改良の専門家として派遣されているが、それを専門職とはしていな
い。筆者の専門分野2は、本来は国内外におけるコミュニティ開発のマネジメントや、種々のプロ
ジェクトにおけるチームビルディングである。そうした分野にたずさわる筆者が、なぜ今回のプ
ロジェクトに参加させていただいたのかについて、簡単な私見を述べておきたい。 
 今回のプロジェクトは、ボナビ地区におけるコミュニティの自立支援というハイチの会 3と
KFP( Kominote Familyal Peyizan「住民家族共同体4」)の共通のミッションを土台にしてい
た。また、特に筆者の担当した土壌改良事業においては、こちらの提案する農業指導の実践者や
組織のチームワークを育成することが事業を成功させる一つの要でもあった。人や組織、ひいて
はコミュニティの自立連帯性やチームワークを構築するということは、目には見えない無形の
インフラストラクチャーをデザインすることであるため、ある種の専門性が求められる。そうし
たデザインを描き、プロジェクトを成功に導くことは非常に難しい仕事であるが、形ある職能で
はないため、必要であることさえ認識されない場合が多いのが現状である。しかし、それなくし
ては、こうしたプロジェクトを実質的な成功に導くことは難しいのもまた事実である。今回の筆
者は、土壌改良の専門家という位置づけであったが、それを事業として成功に導くために、上述
したような視点からのアプローチをこころみることが、筆者の実質的な役割であった。
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本プロジェクトは、(社)国際農林業協働協会の専門家派遣支援事業からの助成を受けてい
る。
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こうした分野の専門性は、認識されていないわけではないが、いまだ職能として社会的位置づ
けは確立されているとはいい難い。
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ハイチの会は、1986 年に設立されて、貧しい子供たちの識字教育・生活指導等の諸活動を支
援することを目的とした種々の活動を行っている。
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KFP は、ハイチの会が、日本のアジア学院に招致した留学生が帰国後に立ち上げた団体であ
る。

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 筆者が、このプロジェクトの専門家として派遣されるにあたっては、当然のことながら、これ
までの土壌改良事業における実績が評価されているだろう。例えば 2005 年に行われた愛知万
博では、市民参加型のワークショップの手法を用いて半年間に計 7 回のガーデン作業を行って
赤土の表土に固められた土地を緑の広がるコミュニティガーデンに開拓したプロジェクトにた
ずさわっている5。筆者はこのプロジェクトにおいて、ガーデンのデザインプロセスから資材調
達、造園作業、維持管理に至るすべての行程に寄り添って、各種の専門家や多様な人々との協働
をマネジメントした。
 有形でハードのインフラストラクチャーを構築する事業プロセスにおいては、無形でソフト
のインフラストラクチャーを同時に構築していくことが重要であるが、特にその事業成果物を
組織やチーム構成員、そしてコミュニティの共有資産としていくためには、そうした視点が欠か
せないのである。ハードとソフトのバランス、有形と無形の両面があってこそ、共有資産は持続
可能に発展していく。それは、先住民社会におけるコモンズの歴史にも明らかである。
 このような考え方に従えば、今回のプロジェクトにおける各種事業への専門家の能力を最大
限に発揮させ、住民の方々の理解と納得を丁寧に導くことで、事業の成果物をコミュニティにと
っての持続可能な共有資産へとインキュベートすることも可能となるのだ。筆者としては、そう
したビジョンを描きながら今回の事業に邁進してきた。そうした意図が、どれほど達成されたの
かは評価しにくい部分が多分にあるが、本プロジェクトのまずもっての成功を支えた要因に加
えていただければ、筆者としては大変喜ばしいことである。
 今回の筆者の位置づけは、あくまでも土壌改良の専門家であるため、本報告書の内容は、土壌
改良事業に関することを中心にまとめている。土壌改良の専門的見地からすれば、不十分な報告
書にはなるかもしれないが、同種の事業を推進していくうえでは、各種の活動の参考にもなるユ
ニークな視点が提示できるかもしれない。その意味で、本報告書が、NGO/NPO をはじめとする
草の根の活動やそれを支援する方々にとっての一助になればと考えている。

2. 活動の要約

2.1. 事業の背景
 ハイチ共和国は、中央アメリカの西インド諸島に位置するイスパニョーラ島の西側 3 分の 1
を占める島国である。その国境に接するのはドミニカ共和国で、カリブ海を隔てるとキューバが
ある。この地域は、一般にカリブ海地域と呼ばれ 13 の独立国家が存在している。カリブの国々は、
おおむね経済水準が低いが、その中でもハイチの GNI6は圧倒的に低く、440 ドルである。日本
の GNI が 34,300 ドルなのと比べても、想像をはるかに超える格差である。ハイチは世界でも2
番目に貧しい国といわれているが、日本では、残念ながらその実態を知る人の数も少ない。ハイ
チの国情もさることながら、ハイチがどこにあるのかさえ知る人は少ないのが現状である。
 ハイチは、熱帯海洋性気候で、本来であれば豊かな森林が生い茂る地域ではあるが、長年の乱
伐によって国土の大部分は禿げ山となっており、森林は国土の4%にも満たないという。森林の
伐採は、煮炊き燃料の確保や現金収入となる炭焼きのため行われてきた。こうした土地の土壌は
雨によって溶脱したラトソルや赤土からなる。これらの土は一般にやせており、森林がいったん
伐採されると、日光で土壌が固まり砂漠化する。また同時に、雨期には降水量が多いため洪水や
土砂崩れが発生することになる。こうした土地は、やはり農業には向かない土地なのである。そ
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筆者は、2005 に行われた愛・地球博の地球市民村パビリオンに設置された、ナチュラル・フ
ードカフェ&オーガニック・ガーデンのプロジェクトリーダーであった。
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国民総収入

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うした土地においての農業指導、土壌改良というミッションの遂行が困難であることはいうま
でもない。また、事業実施期間が 10 日間という短期プロジェクトでもあったため、私たちとして
も、いったい何をどこまでできるのかが予測不可能な状態であったといっていい。

2.2. 事前計画
 今回、筆者にプロジェクトへの参加の機会を提供してくれたのは、冒頭にも述べたハイチの会
である。近年ハイチの会では、20 年に及ぶ長期的な草の根の活動を土台にして、その経験をいか
した新たな取り組みが行われている。今回は特に「地域住民への利益還元を目的とする農業指導
及びソーラー発電建設プロジェクト」として、エンシュ市ボナビ地区に、それらの分野の専門家
が派遣されており、各種の事業が実施されている。そのうちの一つが筆者の担当した土壌改良事
業であった。
 近年のハイチの会の取り組みの中でも特徴的なのは、2001 年に日本に招致した現地の若者が、
帰国後に地域社会の発展を願って立ち上げた KFP への支援活動であろう。現在、KFP では、ボ
ナビ地区から 160 世帯を超える住民が加入しており、そうした住民の食料を援助するための農
業プロジェクトが行われている。そうした中で、現地では、より効率的な農法を学びたいとの声
が盛んである。
 今回の事業は、現地住民から①土壌改良と②近くで採取できる鉱物(硝石)を使った肥料開
発という2つの要請を受けていた。しかしながら、①に関しては、上述したように農業には適さ
ない土地の土壌をどのようにして改良していくのかが大きな課題であり、それを計画するにも
現地の土壌分析をはじめとした調査が必要であった。そして②に関しては、その後の調査の結果
から、その鉱物が硝石ではなかったことも判明したため、新たな肥料資材の調査を現地にて再度
執り行う必要があった。しかしながら、限られた範囲での情報から判断して、今回の土壌改良事
業では、地表を覆う緑肥を育てることを暫定の目標としていた。緑肥は、葉が地表を覆うことに
よって、地温の上昇や水分の蒸発を防ぐとともに、根が窒素固定を行って土壌に肥料効果をもた
らす。これによって、農作物に適する土壌に改良することが可能となるのではないかという判断
であった。また、硝石の代わりに、地域住民の暮らしから出る廃棄物や排泄物を利用した肥料開
発の可能性を探ることも予定していた。暮らしの中にある費用のかからないものを資材として
再発見することで、現地住民の方々の負担を軽減し、持続性のある活動を展開していただくため
である。以上のような事柄が、暫定的ではあったが、事業の事前計画であった。

2.3. 実施した活動
 現地入りした筆者たちは、KFP のリーダーであるエグジル(Exil Deslandes)から、その活動内
容や施設設備のインストラクションを受けた後、今回の事業に協力してくれるメンバーたちと
協働作業を開始した。土壌改良事業に関して、全行程は①農園の土壌分析、② KFP メンバーの家
庭訪問、③農業指導プランニング、④ KFP のグループリーダーの方々とのワークショップとい
うのがおおよその流れであった。ここでは、その概要を簡単にまとめる。
 まず、現地住民の方々とのコミュニケーションや聞き取り調査、土壌分析調査の結果から、土
壌に対して新しい肥料を加える必要性よりも、水が得られる雨期のタイミングを逃さずに作物
を植えられるような、スケジューリングやプランニングのサポートが必要であることがわかっ
た。これは、当初の暫定の予測とは違う新たな発見であったが、重要な視点であった。もちろん、
土壌改良や肥料開発が必要ないというわけではない。しかしながら、土壌分析からは、日本の土
壌と比較しても質の高い可能性を伺わせる結果も得られていた。また、肥料開発には水分コント
ロールが重要であるが、水不足の現地ではそれが困難であること、そして現地住民の現在の生活
状況からは、資金のいらない適当な肥料資材を発見することも難しかった。そうした状況の中で、

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それらに時間を割くよりも、年間の作付けのスケジューリングやプランニングを丁寧に行い協
働作業の効率を上げる指導を行う方が、収穫率を上げるには効果的と判断したのだ。肥料につい
て考えるのは、それからでも遅くはない。
 また、乾期の飢えを乗り切るためには、各家庭が持つ家庭菜園が潤えば、自給自足にはことた
りることも聞き取り調査の結果でわかってきたことであった。そこで、地域の中で共同使用する
ことが可能な溜め池を施工計画を提案し、それと合わせた小規模の点滴灌漑システムを考案し
た。このシステムを用いることで、共同の溜め池を有効に使って家庭菜園を潤すことが可能とな
るのだ。
 そして、最後にこれらの計画を現地住民と共有するために、エグジルと KFP の6つのグルー
プリーダーに参加してもらい、ワークショップを行った。これは、こちら側の計画を現地住民と
共有することだけでなく、その手法についても学んでもらうことが、ねらいであった。アイデア
をトップダウンではなく、ボトムアップによって個々のメンバーから吸い上げて協議、検討、共
有というプロセスを経て、メンバーの納得のもとに組織的な活動が進められる手法を学ぶには、
それを体験する「場」が必要なのである。
 専門的な立場からの調査を行い、その結果を分析することで見えてきた視点を押し付けるだ
けでは現地住民の納得は得られない。現地に新しいアイデアを伝え、実践を引き出すためには、
現地住民の中に主体性を育てなければならないのだ。それにはまず現地住民の意見を積極的に
引き出して、私たちも一緒になってそちらの側にたち、目指すべき課題を同じ方向から見つめて
いくことが重要であろう。そして、同時に専門家としての客観的な眼差しをもって、課題解決へ
のアドバイスを行っていく必要がある。ワークショップという手法を用いたのには、そのような
意図があったのだ。

3.指導目的
 作物の収穫率をあげるためには、乾期に備えて根を地中深くに成長させることが重要である。
大切なのは、その成長のタイミングを絶対に逃さないことである。また、それと同時に緑肥によ
って地表をカバーし、落ち葉などを使って土壌に効果的に有機物を加える作業なども重要とな
るだろう。溜め池の施工にあたっては、より専門的な知見から雨期には氾濫せずに、乾期には十
分に農地を潤してくれる設備を整えなくてはならない。
 しかしながら、こうした知識や技術を示したところで、それが実行に移されなくては、その効
果は得られない。しかも、それが継続されていくためには、現地住民の主体的な努力や、ルールや
規範づくりが不可欠になってくる。それなくしては、将来に起こり得る各種の問題を解決するこ
とはできない。そのときには、専門家は傍にはいないのである。その意味で、筆者らの指導目的は
自立の支援なのである。ただ自立と孤立を違えてはならない。自立とは、自ら立つことであると
同時に、その前提に関係性の構築を必要としている。つまり、人もコミュニティも、ある種の関係
性を前提にすることで、その相互補完性によって自立、もしくは自律していく存在なのだといえ
よう。
 それでは、そうした関係性はどのように築き上げるのかといえば、そこにコミュニティの構成
員が本当に必要としているインフラストラクチャーを協働で整備していく今回のようなプロジ
ェクトの本当の意味合いが浮かび上がってくる。つまり、こうしたコミュニティ事業の協働の機
会を通じて、持続可能な発展を支える無形のインフラストラクチャーとしてのコミュニティ構
成員の絆や関係性を再構築していくことができるのである。
 言葉をかえれば、今回の土壌改良事業の作業行程は、開拓そのものといってもよかったかもし
れない。開拓は、英語で Cultivate であるが、それは「文化(=Culture)」の語源でもある。こうした
開拓的な作業に、コミュニティのメンバーが協働で関わることで、ルールとロールが文化や社会

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的規範として同時に育まれていくのだ。そのインキュベーションプロセスを巧みにマネジメン
トすることが、事業を成功に導く重要なポイントにもつながるのだ。

4. 具体的な指導内容
 KFP には、現在2つの農園がある。ボナビ地区にある農園は、既に豚舎や鶏小屋、そして管理
棟なども設置された総合農園としての活動を開始している。また、新たなに購入されたセルペッ
ト地区にある農園は、現在はまだ未開拓の箇所が多い。筆者らは、この2つの農園に対して、総数
37 カ所の土壌サンプルを集めて、土壌分析を行った。これによって、2つの農園の各箇所に相応
しい作物や、必要とされる肥料の種類や分量を導きだすことができた。
 しかし、上述したように、それらの結果の総合的な判断からすれば、結果の詳細を伝え、この肥
料がこれだけ必要だと伝えても、現地住民には、それを入手する資金も手段もない。また、その詳
細を理解することは不可能に近いといっていい。しかしまた、土壌分析の結果から、それらが農
作物を育てるのにも十分な可能性をもった土壌であることもわかっていた。そこで、筆者たちは、
それよりも現状で可能な範囲の農法を、より効率よく実施できる仕組みづくりへの働きかけを
中心にした農業指導計画をたてて、KFP のグループリーダーと、ワークショップを開催するこ
とにした。
 ワークショップでは、まず、エグジルをはじめ6人のグループリーダーの要望を聞きながら、
どこに何をいつ植えるのかという検討を行って、それを年間スケジュールに落とし込む作業を
おこなった。今回のワークショップでは、ボナビ地区の農園についてのみ行って、次回は、セルペ
ット地区の農園の計画を策定するように指導を行った。ワークショップでは、6人のグループリ
ーダーが、それぞれの経験を発揮して闊達な意見交換が行われた。それを統括するエグジルも、
それに応じるように KFP の活動プランをまとめるリーダーシップを発揮していたように伺え
た。お互いが、頭の中にあるアイデアをどのように提示し、共有するのか、その単純なことがなか
なか難しいものである。ルールとロールを確認し合いながら、こうした協働作業の中で、細かな
やり方が身に付いていくのである。
 また、ワークショップの後半では事前の調査で判明した溜め池を設置するのにふさわしい地
形を有する土地を示して、その方法を説明した。現地住民は、溜め池の施行には莫大な資金や機
械の力が必要であると考えていたようであるが、こちら側の提案は、地形を活かした無理のない
手法による効率的なデザインであった。しかしながら、ボナビ地区に限らないことであるが、そ
うした可能性のある土地を手に入れることは、資金に限らない様々な課題を乗り越えなくては
ならないようであった。今後の奮闘が期待される。
 この溜め池の施行が実現すれば、点滴灌漑システムの設置も実現可能となるだろう。この点滴
灌漑システムについては、実際に現地で筆者らによって実験済みのものである。このシステムは
非常に簡単なもので、資材はすべて現地で調達可能であり、現地住民の創意工夫によっては改良
も可能である。その効果を確認するためには、まずはボナビ地区の農園の一部で実験を行って、
有効なシステムであることが現地住民の方々の間で認識されるのではないかという提案も行っ
てきた。これは溜め池と合わせた一つの仕組みの提案であるが、やり方によっては、これが一つ
の運動としても広がっていく可能性は十分にあるという期待もあるため、今後の展開が楽しみ
である。
 溜め池と点滴灌漑システムを組み合わせた仕組みもまた、コミュニティの共有資産になりう
る可能性を秘めているといえる。そして、再三述べるが、その仕組みを育むことが、コミュニティ
そのものを育んでいく重要な機会になるのだ。
 近年の地球温暖化の影響は、世界の各地に様々な影響を及ぼしている。ここボナビ地区におい
ても、これまでの農法では立ち行かない問題も発生している。また、燃料や現金収入とはいえ、計

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画性のない森林の乱伐のような悪習慣は改正していかねばならない。農園をデザインする際に
も乾燥が激しい気候なので、なるべく今ある森林や木そのものを大切にして、その周囲に果樹を
植えるなりして、森林を広げるようにして農園をデザインしていくことが重要である。そうした
やり方については、指導をおこなったが、実際には長期にわたる継続的な取り組みなしでは成功
し得ない。しばらくは、継続的な支援が必要であるといえるだろう。

5. 今後の見通し
 土壌の豊かさは、その土地に暮らす人々の豊かさを決めるひとつの指標ともいわれる。すなわ
ち、土壌改良事業とは、その土地に暮らす人々の豊かさを生み出す創造的な事業ともいえるだろ
う。そして本報告書で再三述べてきたように、その豊かさとは、たんなる経済的な豊かさだけで
はなく、文化や社会的規範といったコミュニティの関係性の豊かさの醸成にもつながる事業と
いえる。
 農園作物の収穫率をあげるためには、長期的な計画のデザインと継続的な実践が必要といえ
る。現地住民が、目に見えないものの価値を見つめて努力を行うことは、なかなか難しいことで
ある。特に、お腹を空かせていることが当たり前であり、飢えという現実が毎年のように存在し
ている現地の生活状況の中で、そうした長期的な視点に立った取り組みを継続させていくこと
は大変難しいといえる。しかし、だからこそ確かな実践を指導し、継続的な実践の中から納得の
できるビジョンを現地住民の方々の中に内発的に構築していくことが重要といえるだろう。
 いずれにしても、確実な努力を持続的に重ねていくことができなければ、土壌改良をはじめと
する農業プロジェクトの成果を築き上げることはできない。定期的なフォローアップによって、
現地の状況を把握しながら、適切なアドバイスを根気強よく続けていくことが重要である。

6. おわりに
 ボナビ地区では、KFP のメンバーである現地住民、そしてその家族への聞き取り調査を行っ
た。実際に、5件の家族の自宅を訪問し、生活の様子や畑の様子を丁寧に伺った。たとえ貧しくて
も、自分たちの生活を知ってもらえることが嬉しい様子が伝わってきた。たった5件の家庭訪問
では、情報量としては少なすぎるだろう。また、一度や二度の訪問で、住民の本音が聞けるとも思
っていない。しかしそうした生身のコミュニケーションを通してお互いを知り合う機会を重ね
ることは大変意義深いことでもある。実際に筆者は、そうした現地住民との交流から多くのこと
を学ばせてもらった。ボナビ地区の生活は確かに苦しいかもしれないが、そのたくましい暮らし
ぶりにはいつも感激させられた。それらは、本当の豊かさとは何か、生きるとは何かを、改めて自
分自身に問い直す貴重な機会となった。こうした貴重な機会を与えてくださった JAICAF(社
団法人国際農林業協働協会)、ハイチの会をはじめ、プロジェクトをサポートしていただいた多
くの方々に感謝申し上げたい。

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