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天野絵里子
同志社大学総合政策科学研究科
技術・革新的経営専攻
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京都大学附属図書館
2010.5.29
本研究の目的
大学図書館員の心理的ストレスや職務に対する否
定的な態度に結びつく職務上の諸条件を,世代カ
テゴリ別に比較分析する中で,組織経営上の問題
点を明確にし,より健全な組織とするための改善
の方向性を示唆することにある。
方法
フレームワーク ← 組織心理学
定量的分析
アンケート調査
結果
仕事の不えられ方や,特に若手世代にとっては上
司の社会的支援,そして全世代にとって,仕事に
対して感じる意義が,仕事に対する態度に大きく
影響することがわかった。
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「3年で辞め」ないけど,元気のない若手。
シニカルな中堅~ベテラン。
この変化の時代,組織に活気がないと乗り切れないのでは?
図書館サービスをアップデートしていくためには,
中堅~ベテランが積み上げてきた仕事の上に,若手のイノ
ベーティブな発想を・・・組織あげての協働が必要では?
(様々な要因が考えられるが,なかでも)
組織に内在する職務上の条件が,
ネガティブな態度を引き起こしているのでは?
下手な想像より聞けばはやい。
そして,世代別に比べてみよう。
ネガティブな気持ちに悩まないで,
いきいきとまっすぐに働くためには?
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「ネガティブな態度」
心理的ストレス (抑うつ感) – Psychological strain
離転職意識 – Intention to turnover
職務(丌)満足度 – Job (dis)satisfaction
組織心理学
看護師,IT技術者等に関する先行研究多い。
司書に関しては,ほとんど無い。
図書館情報学
海外では多くの調査・分析がなされている。
辻,芳鐘他(2008)をのぞいてほとんど無い。
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正の効果
負の効果
職務条件(独立変数) 職務態度(従属変数)
心理的
役割行動
ストレス
職務特性 離転職意識
社会的支援 職務満足度
仮説1 : 不適切な役割行動は,心理的ストレス,離転職意識を向上させ,職務満足度を減退させる。
仮説2 : 適切な職務特性は,心理的ストレス,離転職意識を減退させ,職務満足度を向上させる。
仮説3 : 適切な社会的支援は,心理的ストレス,離転職意識を減退させ,職務満足度を向上させる。
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仮説4 : 仮説1-3の構造は,世代によって異なる。
心理的
ストレス ゆううつで何も手につかない。
気分が晴れず,仕事に差し支え
るといった状態
離転職意識
仕事を辞めたい,他の部署で働き
たいという態度
職務満足度
今の仕事に満足していて,仕事が
好きという態度
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役割行動
自分の仕事に対して,どこまで権限がある
役割曖昧さ のかわからない,はっきりした目標がない,
何を期待されているかわからないと感じる
度合い
自分の仕事に対して,こうするべきと思う
方法とは違うやり方で進めなければならな
役割葛藤 かったり,必要な援助がなかったり,矛盾
したことを要求されたりしていると感じて
いる度合い
自分の仕事に対して,すべてのことをやり
役割過多 とげる時間がなかったり,不えられている
仕事の量が丌適切と感じている度合い
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職務特性
資源の 仕事に必要な道具や資材を入手したり,必
適切さ 要な事実や情報を得ることの容易さ
自分の仕事に意味/意義を感じられる度合
意義
い
自分の仕事に対して何をするか自分で決め
自律性
られる度合い
仕事の手助けをしてくれたり,個人的なこ
とも気軽に話をできるかどうかの度合い
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正の効果
負の効果
職務条件(独立変数) 職務態度(従属変数)
心理的
役割行動
ストレス
職務特性 離転職意識
社会的支援 職務満足度
仮説1 : 不適切な役割行動は,心理的ストレス,離転職意識を向上させ,職務満足度を減退させる。
仮説2 : 適切な職務特性は,心理的ストレス,離転職意識を減退させ,職務満足度を向上させる。
仮説3 : 適切な社会的支援は,心理的ストレス,離転職意識を減退させ,職務満足度を向上させる。
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仮説4 : 仮説1-3の構造は,世代によって異なる。
設問の例
「私はここで働くのが好き
だ。 」
アンケート調査
1.全く違う
時期:2007年11月 2.かなり違う
方法:REAS(リアルタイム 3.どちらかといえば違う
評価支援システム);直接 4.どちらともいえない
のメールやメーリングリス 5.どちらかといえばあてはまる
トへの呼びかけによる 6.だいたいあてはまる
7.大いにあてはまる
対象:全国の大学図書館員
分析対象
常勤職員 272名 (総回答者数 373名中)
世代カテゴリ
35歳までの「若手」(105名)
36歳から45歳までの「中堅」(86名)
46歳以上の「ベテラン」(81名)
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職務条件
(従属変 役割行動 職務特性 社会的支援
数)
職務態度
役割 役割 役割 資源の
(独立変 意義 自律性 上司 同僚
平均値 曖昧さ 葛藤 過多 適切さ
数)
心理的
若手 1.79 .34* -.32** -.27** .20* -.32**
ストレス
ベテラ
3.51 -.22*
ン
職務満足
若手 4.82 -.27** -.22* .38** .40** .39** .20*
度
ベテラ
5.13 -.34** -.27** .34** .45** .39**
ン
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資源の
若 役割 上司
適切さ 意義
曖昧
手
自律
性
役割 資源の
中 曖昧 適切さ
堅 役割 意義
過多
ベ
役割 ●正の効果
テ 役割 過多
意義
●負の効果
ラ 曖昧 有意確率
ン 濃:p<.01 薄: p<.05
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若 役割
資源の
手 適切さ
葛藤
意義
資源
の適
役割
中 曖昧
切さ
同僚
堅 意義
役割
葛藤
ベ
●正の効果
テ 意義
●負の効果
ラ 有意確率
ン 濃:p<.01 薄: p<.05
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役割
若 葛藤 役割
資源の
上司
手 過多
適切さ 意義
同
僚
資源
の適
中 切さ
堅 同僚
意義
ベ 役割
テ 曖昧 役割 自律性
同僚
ラ 葛藤 意義
●正の効果
●負の効果
ン 有意確率
濃:p<.01 薄: p<.05
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仕事に対するネガティブな態度とその要因の構造
は,組織の問題点を映し出しているのでは。
すべての職務態度について若手世代の平均値が最
もネガティブであるということは深刻。これから
の大学図書館の担い手,若手世代のために・・・
さまざまな仕事を抱えているのに資源が不えられない
といった状況が「辞めたい」という気持ちを誘発し,
満足度を低下させるなど,仕事に対してネガティブな
態度を引き起こしている,と説明できる。
上司からの適切で納得できる業務の指示があり,かつ,
人間的なサポートや良好な人間関係の構築が必要であ
る。
ただし,離転職意識については社会的支援の効果がな
い。まずしっかりと意義を感じられる仕事を不えるこ
とが,若手をつなぎ留めるのに効果が高い。
若手世代の部下を持つ中堅以上の世代には,研修等に
より,リーダーシップや,マネージャとしての資質の
向上が望まれる。
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資源(情報とモノ)が重要
若手世代と中堅世代で特に態度との関係が顕著。
仕事に必要な情報や資源は,直接には上司や他部署
から得られる。
部署や組織階層の壁を越えて,コミュニケーション
を促進し,公平な資源配分をおこなう仕組みづくり
が重要であるといえる。
仕事に意義を感じていたい
全世代を通じて,仕事に感じる意義の高低が,仕事
に対するすべての態度と深く関連。
組織的に,かつ,職業コミュニティのレベルで,仕
事に対する意義を再構築し,再定義する世代を超え
た活動が,緊急に必要なのではないだろうか。
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大学図書館員は,外部労働市場がほとんど存在
せず,同じ職での離転職が難しいが,そのこと
は離転職意識に影響を不えているはずである。
しかしながら,今回の調査ではそれをふまえて
考察する十分な材料を収集していない。離転職
の可能性をも考慮した調査が今後必要であろう。
また,今回利用した調査結果は,網羅的なサン
プルではなく,メール等を通じて配布され,収
集された便宜的なサンプルであることから,解
釈を日本の大学図書館員に一般化することには
問題があるかもしれない。今後は,網羅的なサ
ンプルの収集に基づく分析を視野に入れ,大学
図書館の人と組織を対象に研究を深めたい。
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amanoeriko
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