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レアアース(希土類)の需要・供給・価格動向等
シ
希少金属備蓄部 企画課 課長代理 リ
minami-hiroshi@jogmec.go.jp 南 博志 ー
ズ
はじめに
本シリーズは、現代産業に必要不可欠なレアメタルのうち、JOGMEC が動向を注視し、次の備蓄の可能性を検討
レ
している 7 鉱種(プラチナ、レアアース(希土類)、インジウム、ニオブ、タンタル、ストロンチウム、ガリウム) ア
について、順次需給動向等をとりまとめていくものです。 メ
タ
本号では、第 2 回としてレアアース(希土類)を取り上げています。 ル
<レアメタル備蓄制度についての詳細は、レアメタル備蓄のページ 2
(http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g3/index.html) 0
0
からご覧になることができます。> 7
(2)
レアアース(希土類)とは、元素周期律表第Ⅲ族に と呼ぶようになったものである。なお、研究によりレ
レ
属する原子番号 57 番から 71 番のランタノイド 15 元素 アアースの個々の元素がすべて発見されたのは 20 世紀 ア
(ランタン〈La〉 、セリウム〈Ce〉、プラセオジム〈Pr〉、 半ばであり、最初の発見から約 150 年の歳月を要して ア
ネオジム〈Nd〉、プロメチウム〈Pm〉、サマリウム いる。 ー
ス
〈Sm〉、ユウロピウム〈Eu〉、ガドリニウム〈Gd〉、テ レアアース元素は、それぞれの化学的性質が類似し ︵
ルビウム〈Tb〉、ジスプロシウム〈Dy〉、ホルミウム ており、高融点で熱伝導性が高い。また、原子核を周 希
〈Ho〉、エルビウム〈Er〉、ツリウム〈Tm〉、イッテル 回する電子の軌道が特殊なため他の金属にはない独特 土
類
ビウム〈Yb〉、ルテチウム〈Lu〉)に、同じ第Ⅲ族の の機能を発揮する。そのため、用途は、永久磁石(希 ︶
21 番のスカンジウム〈Sc〉及び 39 番のイットリウム 土類磁石)、ガラス研磨剤・添加剤、触媒、蛍光体等と の
〈Y〉の 2 元素を加えた 17 元素の総称である。 幅広く、最先端産業、特に日本の技術優位性を生かし 需
要
レアアースは、1794 年にフィンランドの学者 ているハイテク産業分野で用途が拡大している。 ・
J.Gadolin が、1787 年に発見されていた新しい鉱物中に また、レアアース 17 元素は、その発見された経緯や 供
未知の元素の酸化物の“新しい土”を発見し、それを 元素ごとに分離する際の状況によって、軽希土(ラン 給
“希な土 → rare earth”と名付けたことが語源となっ タン、セリウム、プラセオジム、ネオジム)と中重希 ・
価
ている。この酸化物は 1797 年にイットリヤと名付けら 土(サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テル 格
れ、また、1803 年には同じくスウェーデンでセリヤと ビウム、ジスプロシウム、イットリウム、他)に分類 動
呼ばれる新しい土が発見された。これらの新しい土は、 されている。 向
等
最初のうちはそれ自体純粋な元素の酸化物と考えられ
ていたが、その後の研究の結果、実はそれぞれ非常に 1. 需要・供給
化学的性質の似ているいくつかの元素の混合物である 1-1. 世界の需給状況
ことがわかってきたので、このような化学的性質の似 表 1 に世界のレアアース需給を示す。
ている一群の元素を総称して「レアアース(希土類)」
表1 世界のレアアース需給 レアアース酸化物量;推定、単位:t
1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
中国 53,300 65,000 70,000 73,000 73,000 88,000 92,000 95,000 119,000 120,000
〈生産シェア〉 66.9% 84.9% 85.4% 87.4% 87.4% 89.5% 92.8% 93.1% 96.7% 97.6%
インド 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700
マレーシア 220 350 350 450 450 450 250 250 750 200
CIS諸国 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 ― ―
タイ ― ― ― ― ― ― 2,200 2,200 ― ―
アメリカ 20,000 5,000 5,000 5,000 5,000 5,000 ― ― ― ―
ブラジル 1,400 1,400 1,400 200 200 ― ― ― ― ―
スリランカ 120 120 120 120 120 120 ― ― ― ―
その他 ― ― ― ― ― ― ― ― 400 400
供 給 合 計 79,700 76,600 82,000 83,500 83,500 98,300 99,100 102,000 123,000 123,000
需 要 合 計 66,000 ― ― 79,000 ― ― 84,000 ― 95,262 ―
需給バランス 13,700 ― ― 4,500 ― ― 15,100 ― 27,738 ―
(注)1997、2000、2003、2005年以外の需要量はデータ無し。
出典:Mineral Commodity Summaries(USGS)、The Economics of Rare Earths & Yttrium(Roskill)、
平成18年度レアメタルの備蓄検討調査報告書(日本メタル経済研究所)
2. 価格
レアアースに関する国際的な価格決定機構は存在し
ない。他の多くのレアメタルにおいてその掲載価格が
指 標 と し て 用 い ら れ て い る Metal Bulletin 誌 及 び
Metals Week 誌にも、レアアースの価格は掲載されて
いない。実際の取引価格は、需給動向を鑑みて需要側
と供給側の相対取引で決まっているものと思われる。
レアアースの価格は、1980 年代まで、限られた数の
生産者のもとで安定的に推移してきた。しかし、1980
年代に入ってから中国が参入、その中国では 1990 年代
まで乱立した鉱山企業や分離・製錬メーカーが無秩序
に乱売競争をくり返し、圧倒的な安値での輸出を続け、
700
テルビウム
600
シ
リ
ー 500
ズ
400
レ 300
ア 2004年 2005年 2006年 2007年
メ
タ
ル 110
2 ジスプロシウム
0 イットリウム
0
7 90
※ ジスプロシウム(Dy)の価格
(2) は、ジスプロシウム鉄(DyFe)
のDy純分ベースの価格
レ 70
ア
ア
ー 50
ス
︵
希
30
土 2004年 2005年 2006年 2007年
類
︶ 30
の
ネオジム
需
セリウム
要
ランタン
・
供 20
給
・
価
格
動 10
向
等
0
2004年 2005年 2006年 2007年
出典:レアメタルニュース(アルム出版社)、一部 JOGMEC 推定
図 1 金属レアアースの価格推移
2007.7
輸入量 8,387 RE成分調整原料 各種REメタル リサイクルなし
中国 8,386
その他 2 ミッシュメタル 水素吸蔵合金 Ni水素電池 電極工程くずのみリサイクル
生産量
製鋼原料 鉄鋼材料 鋼材くずとしてリサイクル
金属資源レポート
出典:財務省貿易統計、工業レアメタル2006(アルム出版社)、新金属協会、鉱物資源マテリアルフロー2006(JOGMEC)
図2 レアアースのマテリアルフロー図(日本)<2005年>
(231)
131
7
0
0
2
等
向
動
格
価
・
給
供
・
要
需
の
︶
類
土
希
︵
ス
ー
ア
ア
レ
ル
タ
メ
ア
レ
ズ
ー
リ
シ
(2)
レアアース各元素は様々に使用され、それらの用途 ダを用いて分離し、次にウランとトリウムを濃塩酸を
は多岐にわたっている(表3の主要用途も参照) 。 用いて分離、最後にレアアースを塩化物として回収す
現在、最も注目されている用途は、ここまでに幾度 る方法で、鉱石中の有用成分の全部と使用薬品のほと
も述べているように Nd-Fe-B 磁石である。Nd-Fe-B 磁 んどが回収できる経済性に富んだ方法である。分離は
石は、その名のとおりネオジム、鉄、ホウ素を主成分と 溶媒抽出法により行われる。有機溶媒を用いて、まず
シ しており、永久磁石のうちでは最も強力とされている 軽希土グループと中重希土グループに分離する。次い
リ (この分野では、代替として同じ性能を発現できる材料 で、中重希土をサマリウム、ユーロピウム、ガドリニ
ー は無い)。また、前述のとおり、ジスプロシウム及びテ ウム(中希土と呼ぶこともある)とそれ以外(重希土
ズ ルビウムも、添加されることによって Nd-Fe-B 磁石の と呼ぶこともある)に分離する。そして、それぞれか
高温域での保磁力・磁束密度を高める性質を有してい ら、分別沈殿法、溶媒抽出法、イオン交換法を組み合
るので重要度が増してきている。Nd-Fe-B 磁石の日本 わせて、各元素ごとに分離し酸化物を精製していく。
レ における需要で最も多いとされているのは HDD(ハー 金属レアアースの製造では、一般的に、軽希土グルー
ア
メ ドディスクドライヴ)向けで、磁気ヘッドの位置決め プには溶融塩電解法、サマリウムには蒸留還元法、テ
タ に用いる VCM(ボイスコイルモータ)磁気回路にレ ルビウム、ホルミウム等の少量生産には金属熱還元法
ル
2 アアース磁石を使用している。これは、日本製のほぼ が用いられている。
0 全ての HDD に使用されている。また、ハイブリッド なお、レアアースにおいては、放射性物質を含む鉱
0
7 電気自動車(HEV)のモータやエアコンの室外機の駆 物が生産される場合があるため、その場合レアアース
(2) 動素子にも用いられる。特に、ハイブリッド電気自動 を分離精製した後の残渣(廃棄物)をいかに貯蔵する
レ 車モータ向け需要は、日本で今後最も有望な分野と予 かが問題となってくる可能性がある。近年、世界各国
ア 測されている。他には、自動車パワーステアリング用 で環境規制はより厳しくなっており、環境対策を講じ
ア
ー のアシストモータ、小型の MRI(Magnetic Resonance ることがレアアース生産のコストアップにつながる可
ス Imaging :磁気共鳴画像診断装置(医療機器の一つ))、 能性は大きい。また、環境対策をクリアして政府等の
︵
希 CD-DVD 用ピックアップ、携帯電話のスピーカー、バ 承認を得るのに、多くの時間と労力を費やすこともあ
土 イブレーターの振動モータ等にも用いられている。な ると考えられる。さらに、近年では、環境問題に関す
類 お、携帯電話用途には、性能は劣るが安価な Sm-Co 磁 る関係団体の動きも活発になっており、その対応も重
︶
の 石、フェライト磁石が用いられることも多い。 要となっている。
需 その他の用途には、Sm-Co 磁石、ガラス研磨剤、紫
要
・ 外線吸収ガラス添加剤、水素吸蔵合金(ニッケル水素 5. 資源
供 二次電池向け)、自動車排ガス浄化触媒、石油精製用接 表 4 に世界のレアアース埋蔵量を示す。
給
・ 触分解触媒(FCC 触媒)、蛍光体、携帯電話・パソコ 表4 世界のレアアース埋蔵量
価 ン用コンデンサー、フィルター・センサー等のセラミ
格 国 名 埋蔵量(千t)
(レアアース酸化物量)
動 ック製品等がある。前述のとおり、中でも、フラット 中国 27,000 30.7%
向 パネルディスプレイに用いられるガラス研磨剤、蛍光 CIS諸国 19,000 21.6%
等 13,000 14.8%
体、環境分野で今後も重要な自動車排ガス浄化触媒、 アメリカ
オーストラリア 5,200 5.9%
ハイブリッド電気自動車ニッケル水素二次電池向けの
インド 1,100 1.3%
水素吸蔵合金等が今後需要の伸びが期待される分野と
マレーシア 30 0.0%
して挙げられている。 その他 22,000 25.0%
合 計 88,000
4. 生産・製錬 出典:Mineral Commodity
Summaries(USGS)
レアアースの生産は、まず鉱石を選鉱、レアアース
鉱物(バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム、イ
オン吸着型鉱等)の精鉱としてから、分解処理を行い レアアースの世界の埋蔵量は、レアアース酸化物に
混合希土の化合物(塩化希土等)を生成する。そして、 して 8,800 万tと推定されている。このうち、中国は
その化合物を分離・精製することにより各元素の酸化 全世界の 30.7 %を占めており、偏在性は比較的高いと
物が精製され、さらにはそこから金属レアアースが製 は言えるものの、生産量ほどの極端な偏りは見られな
造される、という方式で行われる。 い。このことにより、中国以外の供給源の開発の可能
選鉱においては、バストネサイトでは浮遊選鉱等、 性は決して少なくないと言える。
モナザイトでは湿式比重選鉱、磁力選鉱等が用いられ レアアースの鉱床タイプは、カーボナタイト鉱床、
る。分解処理には、硫酸法、アルカリ分解法がある。 鉄希土類鉱床、イオン吸着型鉱床、漂砂鉱床、アルカ
硫酸法は、熱濃硫酸で鉱石を分解する方法で、現在で リ岩鉱床の 5 種類である。これら鉱床は、主にアメリ
はほとんど使われていない。アルカリ分解法は、精鉱 カ、中国、オーストラリア等の大陸地域に分布してい
からまずレアアースに次いで多いリン成分を苛性ソー る。