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カツオ 中西部太平洋
(Skipjack, Katsuwonus pelamis)
利用・用途
刺身・たたきでの生食のほか缶詰や節の原料となる。
漁業の概要
中西部太平洋のカツオの漁獲は、日本の竿釣り漁船による
南方漁場 ( 西部太平洋熱帯水域 ) の開発により 1970 年頃から
全域にわたり本格化し、1980 年代には各国のまき網船による
熱帯水域漁場の開発も始まり漁獲量急増期に入った。1970 年
代まで 40 万トン台であった中西部太平洋での漁獲量は 1990 図 1.中西部太平洋カツオの主要漁法別漁獲量の経年変化(万トン)
年代には 100 万トン前後に増大、さらに 1998 年以降には 120 (SPC 2009)
表 1. 中西部太平洋における竿釣りおよびまき網の主要漁獲国によ
るカツオの漁獲量 (SPC 2008 より集計 ) ( 単位:千トン ) 生物学的特性
フィリピンのリングネットによる漁獲もまき網に含めた。2007 年
【分類・系群】
の数値は暫定値。最近年の数値は図 1 のとは異なる場合がある。
カツオ (Katsuwonus pelamis) は 1 種のみでスズキ目サバ
科カツオ属を形成し、3 大洋すべての熱帯〜温帯水域、概ね
表面水温 15℃以上の水域に広く分布している (Matsumoto et
al. 1984)。これら 3 大洋の系群は別系群と考えられているが、
太平洋内については単一系群とする説と複数系群とする説が
ある。血清蛋白を用いた集団遺伝学的研究では、太平洋には
西部に 1 系群、中部および東部に 1 つ以上の系群が存在する
との研究結果 (Fujino 1996) もあるが、遺伝子頻度の差が遺
伝的な隔離によって生じ維持されているかの確証はないのが
現状である。一方で同様の手法から西部系群と東部系群の間
の中部太平洋ではそれらの中間的な特徴を示す魚群が見られ、
明確に区分された系群の存在に疑問を示す結果も示されてい
している。日本近海の中においては常磐・三陸沖漁場は一貫 る (South Pacific Commission 1981、以下 SPC)。標識放流か
して日本周辺海域の中心的漁場となっているが、漁獲量の変 らは西部太平洋と中部太平洋の交流および東部太平洋から中
動は大きく、1970 年代以降では 2 万〜 14 万トン(35°N 以 部太平洋への移動が見られており、フィリピン群島付近も中
北の竿釣りとまき網の合計)である。この常磐・三陸沖漁場 西部太平洋の魚群の移動範囲に含まれる ( 図 2)。少なくとも
でも、それまでの竿釣りに加え、1980 年代後半からまき網 魚群の交流が活発に行なわれていることは事実であり、遺伝
操業が増加している。2009 年の常磐・三陸沖漁場の水揚げ 的独立性を保つに充分な再生産時の分離が行なわれているか
量は竿釣り 2.0 万トン、まき網 2.0 万トンと、2004 年〜 2008 の点からも確認が必要であろう。資源管理上は、現状では分
年の 5 カ年平均値(竿釣り 4.1 万トン、まき網 3.3 万トン) 布の広範さに比べて移動拡散の速度が遅く常に資源全体が一
を下回った。 様に変動するとは考えられないため、漁業の分布にあわせて
各国のまき網漁業が熱帯水域に大きく展開するまでの 東部太平洋と中西部太平洋に分けて資源評価が行なわれる場
1980 年台以前の本海域におけるカツオの漁獲は、主に日本 合が多い。
により行なわれてきた ( この段落は主として、「かつお漁業
資源」水産庁研究部発行、昭和 57 年 3 月、63 p. による )。
無動力の竿釣り漁業は江戸時代から始まり、大正初期に漁船
の動力化が始まると漁場は急速に広がり、台湾北西部や小笠
原諸島近海まで出漁するようになった。さらに、南洋諸島が
日本の委任統治領となると、サイパン、トラック、ポナペ等
を基地とした現地操業も始まった。昭和に入ると漁獲魚の冷
凍も行なわれるようになり、漁場は東北海域では沖合 600 マ
イル、南方ではマリアナ諸島、スルー海まで広がり、もはや
日本近海への来遊資源を待つ季節的操業に限定されず、近海
から遠洋までほぼ周年にわたって操業するものも加え、戦前
のピーク時には 10 万トンを超える漁獲量に至った。戦後ま 図 2.標識カツオの移動(1,000 海里以上の移動例のみ)、
(Langley
もなく大戦による落ち込みから回復し、1952 年にマッカー et al. , 2005)
サーラインが撤廃されるとさらなる未開発資源を持つとされ
たカツオへの関心の高まりから、漁獲量は 1960 年前後には 【成熟・成長】
10 万〜 17 万トン、1970 年には 20 万トンを超え 1970 年代後 成熟は尾叉長 40 〜 45 cm で開始可能とされる。1 回の産
半には 30 万トン ( それぞれ日本船による漁獲量のみ ) を越え 卵数は魚体サイズに依存し 30 〜 100 万粒以上とされる。産
る水準へと増大した。この間の漁獲の伸びは主に竿釣り漁業 卵は、表面水温 24℃以上の水域で広く行われ、量の多少は
が中心となったが、漁場の拡大に伴う活餌保持の問題と共に あるものの特定の限定された産卵域は形成されない。産卵期
燃油高騰等の経済的要因から、特に遠洋竿釣り漁船の数の減 は、熱帯水域では周年、亜熱帯水域では春〜初秋が中心とな
少・漁獲量の伸びの停滞が生じ、その後各国の大規模なまき り、全体として年 2 回の産卵期のピークが見られる水域もあ
網漁業が重要な地位を占める時代へと進んでいった。 る。日本近海では沖縄周辺はもとより伊豆諸島から 35。 N
付近にも仔魚の出現が見られ、規模は小さいものの産卵が行
われていると考えられる ( 上柳ほか 1973)。卵は分離浮遊卵
で卵径約 1 mm、水温 27℃では約 25 時間でふ化する。なお、
図 4. 太平洋におけるカツオ分布および漁業分布
【食性・被食】
餌生物は魚類、甲殻類、頭足類で、餌生物に対する選択制
は弱く、その水域に最も多いものや捕食しやすいものを食べ
ていると考えられている。一方、カツオの捕食者はカツオ自
身を含めた高度回遊性魚類のまぐろ類・かじき類、カマスサ
ワラ、ウシサワラ、さめ類、海鳥が挙げられる。これらの種
の胃内容物に見出されたカツオのサイズ範囲は 3 〜 70 cm
におよぶが、20 cm 以下が最も多く観察されている。
図 3. 中西部太平洋のカツオの成長パターン(Tanabe et al. 2003、 【行動】
嘉山ほか 2003 より作成) 漁獲対象となるサイズのカツオについてはテレメトリー
や記録型標識による行動研究も行なわれている ( 小倉 2002)。
【分布・回遊】 夏季の常磐沖における北上群についての例ではあるが、カツ
太平洋における分布域は適水温帯の分布にあわせて西側で オは時には 250 m 近くまで潜りながら、夜は極表層近くに
南北に広く東側では狭くなる ( 図 4)。一般に大型魚ほど南北 滞在し時折 20 m 程度までを上下しながら泳いでおり、昼間
方向に分布範囲が狭くなり、熱帯水域のみに分布する傾向が には夜間より深い層を中心に泳ぎながら時々表面にまで浮上
あり、若齢ほど分布の南北範囲が広い。したがって、熱帯水 する行動が明らかにされている ( 図 5)。遊泳深度を昼夜別に
域には仔稚魚から 60 cm 以上の魚まですべてのサイズが分 まとめると、夜には 45%の時間、5 m より浅い極表面を遊泳
布しているが、分布の縁辺部である温帯域では主に 1 歳魚の し、昼間も 20%近くの時間が極表層を遊泳していた。昼間に
摂餌回遊群が季節的に分布する。本種は大洋の沖合域に広く 目視等による魚群発見が可能と思われる表層 (5 m 以浅で計
分布・回遊するものの沿岸域へも来遊し、日本周辺では定置 算 ) への浮上滞在時間は、全昼間時間の 1/5 程度であり、さ
網で漁獲される場合もある。
分布縁辺域である日本近海へは、主として尾叉長 30cm 台
後半 (1 歳弱 ) 以降の魚が北上来遊する。主要な北上ルートは、
黒潮沿い・紀南・伊豆諸島沿い・伊豆諸島東沖のルートがあ
り、また、三陸沖漁場では沖合から現れる魚群もあり、標識
放流魚の移動からも天皇海山漁場まで含めた東沖からの来遊
が示唆されている。特に量的に重要なのは伊豆諸島沿い・伊
豆諸島東沖ルートで、日本近海の主要漁場である常磐・三陸
沖へ北上してくる。黒潮沿いのルートは、南西諸島から薩南
海域に入り、一部は黒潮から分岐する対馬暖流沿いに九州西
岸・五島付近に達するが、多くは薩南海域から四国沖・紀伊
半島沖を通り遠州灘・伊豆諸島周辺に達する。その後、常磐・ 図 5.記録式標識によるカツオの鉛直遊泳行動(青線:遊泳深度)
三陸海域に北上する魚群も見られる。小笠原諸島から伊豆諸 と遊泳層の水温(赤線)、灰色部分は夜間を示す . 小倉 (2002)
等で決まると考えられている。仔稚魚期の鉛直分布は表層混
合層下部から水温躍層が中心で、これはマグロ類より深い。 (ただし海区 2 は例外)や、標識放流データはいくらかある
時間帯別の採集結果からは、夜になると表面近くへ浮上する ものの、各漁業の報告率に関する情報もなく、結局資源量推
日周鉛直移動を行っていると考えられており、さらに発生直 定に寄与できる標識データにはなっていないこと、CPUE の
後は水温躍層よりも浅い水深に分布するが、成長に伴ってよ 重みづけに用いる係数が相対的に大きいことなどによるもの
り深い水深帯にも分布するようになると考えられている。ま と考えられた。結論として、全海域モデルでは、信頼できる
た、消化管調査から、カツオ仔魚は朝から夕方にかけて摂餌 資源量レベルの推定値を得るに十分なデータはないと判断さ
活動を行い、夜間には摂餌を行わない典型的な視覚捕食者で れ、推定された全海域の資源量および MSY に関連する指標
あることが示されている。稚魚期においても仔魚期同様、夜 は不確実性が極めて高いと考えられた。一方、漁獲量の大部
間には摂餌を行わない。 分を占める水域のみから構成される熱帯域モデルでは、問題
の多い北側の海区に関する仮定が含まれないため頑健である
資源評価
ほか、その 2 つの海区においての非常に多くの標識放流デー
中西部太平洋のカツオの資源評価は WCPFC の科学委員 タおよび報告率に関する情報があり、熱帯域モデルを資源評
会 (Scientific Committee, SC) で行われており、最新の資源 価のモデルとして採用するものとした。よって今回示すこと
評価は 2008 年の第 4 回会合で、前回 2005 年から 3 年ぶり ができる資源評価結果は中西部太平洋のカツオの熱帯域につ
に行われた。その会合では統合モデル MULTIFAN-CL を いてのみに限定されたものとなる。
用いた資源評価結果(Langley and Hampton 2008)が提出 成長の推定においては、全般的にサイズデータと良く適合
され、結果の検討及び資源管理のための勧告が作成された しており、体長モデルとして適切に機能していると考えられ
(WCPFC 2008)。以下にその概要を示す。 た。推定された成長曲線は、標識放流再捕時の体長の変化と
資源解析に用いたデータは 1952 年〜 2007 年までの漁獲 は一致しないが、これは熱帯域のカツオ漁業は主に体長が小
量、努力量、サイズデータ、標識放流データであるが、この さく成長が遅いものを主として漁獲しているからであろうと
標識放流データには近年行われた大規模な標識放流調査の結 考えられた。年齢別の自然死亡係数は他の熱帯性まぐろ類と
果は含まれなかった。24 の漁業、16 四半期齢のモデルとした。 同様、四半期齢によってかなり異なり、若齢期に高いと推定
日本の竿釣りの CPUE は、いったん GLM で標準化し、海域 された。
間の相対的なノミナル CPUE の大きさおよび海域の大きさ 加入は、1980 年代に比較的高い水準となり、それ以来高
から計算された係数(regional scaling factor)で重みづけさ い水準が続いていると推定された(図 7)
。東側海区の加入
れたものを使用した。その他の漁業は標準化していないもの 量の推定値は、強いエルニーニョのあとに続く 1998 年およ
を使用した。 び 2004 〜 2005 年にピークがみられるほかは、かなりばら
資源評価は中西部太平洋全部の海域を使用する「全海域モ ついていた。これとは逆に、ラニーニャの後に続く 2001 〜
デル」と、2 つの熱帯域の海域(海区 5 と 6)のみを使用する
「熱 2003 年は低い加入となった。近年の加入は歴史的に最も高
帯域モデル」の二つモデルが用いられた(図 6)。いくつか い水準であると推定されたが、限られた漁業の情報からの
の感度テストは全海域モデルを用いて行われた。 推定値であるためあまり信頼できないと考えられた。1998
全海域モデルでは、資源量は海区 3 が全体の 12%、海区 4 〜 2001 年および 2005 〜 2007 年にみられた資源量の増加は、
が 24%と、相対的に資源量が大きく推定され、相対的な漁 東側海区において加入が良好であった年の直後に起こってい
獲量の大きさとは大きく異なる。また、これは感度テスト るように、資源量の変動は加入量の変動に大きく依存してい
でも大きな違い見られなかった。これは北側の 4 つ海区で、 ると考えられた。このモデルでの結果からは、近年の熱帯域
CPUE 時系列にコントラストがないか、もしくは小さいこと のカツオの資源量は歴史的な平均値と比べかなり高く(40%)
資 源 水 準 高 位
資 源 動 向 増 加
世 界 の 漁 獲 量 143 万〜 170 万トン
(2004 〜 2008 年) 平均:158 万トン
我が国の漁獲量 28 〜 36 万トン
(2004 〜 2008 年) 平均:34 万トン
MSY:128 万 ト ン、 た だ し 15 ° N
管 理 目 標
〜 20° N 水域のみ
メ バ チ の 保 存 管 理 措 置 と し て、
2009 年から 3 年間でメバチの漁獲
管 理 措 置 を 30%削減することが合意された
ため、メバチの小型魚を混獲して
いるまき網の努力量も削減する。
管理機関・関係機関 WCPFC