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勤医協中央病院⿇酔科 初期研修マニュアル

⼩児⿇酔の⼿引き

1. 術前診察
問診のポイント:出⽣体重、出⽣時の状況(満期産か、問題はなかったか)。
既往歴、⼿術歴。1 ヶ⽉以内の予防接種の有無。1 ヶ⽉以内の感冒症状の有
無。兄弟のほか、幼稚園や学校で 2 週間以内のウィルス性疾患との接触の有
無(ただし、⼊院後同室者に⼩児がいなければあまり重要ではないかも)。
⺟⼦分離の程度。
他は、成⼈と同様である。

2. 看護師術前訪問
幼児以上の場合は、⼿術室への⼊室の仕⽅、⼿術室内で⾏うことなど(⼊室
から⼊眠するまで)を、実際にぬいぐるみにマスクを当てて⾒せたり、エッ
センスの臭いを嗅いでもらったりして、患児へある程度の予備知識を与えて
おく。紙芝居などで説明できると、興味も持たせやすく、良いだろう。
家族へは、とくに⺟⼦同伴⼊室の場合は、導⼊時興奮などしっかり説明が必
要。⿇酔科で⼀度説明はされているはずなので、わからなかった点、⼼配な
どをしっかり聞いてきてください。

3. 絶飲⾷
1)午前⼊室の場合
固形物は当⽇0時まで
透明⽔分は朝6時までフリー
⼊室2〜3時間前に透明⽔分10ml/kg まで投与(最⼤200ml)
2)午後⼊室の場合
朝7時に⽜乳200ml とビスケット2〜3枚
⼊室3時間前まで透明⽔分フリー

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⼊室2〜3時間前に透明⽔分10ml/kg まで投与(最⼤200ml)

4. 前投薬
1)適応
⽣後 6〜10 ヶ⽉以上で、⺟⼦分離不安のある児に処⽅。学童以降で理解があ
れば不要。
2)⽤量
⼊室30分〜1時間前 にセルシンシロップまたはセレナミンを粉砕して
0.7mg/kg、
最⼤ 15mgまで。
学童では錠剤でも良い。錠剤の場合は、ジアゼパムのほうが飲みやすいかも
しれない。飲める量を考えて、セレナミンなら 1〜2錠、ジアゼパムなら2
〜3錠までが適切。
粉、錠剤の場合は⽔ 30〜50mlで飲んで可。
3)同伴⼊室の場合
予定⼿術で、親が⼿術・⿇酔について理解できており、不安が少ない場合に
選択。この場合は、児への前投薬は必要ない。同伴⼊室を選択する場合は、
前⽇までに、⿇酔導⼊の⽅法、児が暴れる可能性など⼗分な説明が必要であ
る。親に不安があるとかえって児の不安が増すため、同伴⼊室は避ける。

5. ⿇酔準備
1)チューブサイズの⽬安
4+年齢/4 (mm) 新⽣児 3mm、1 歳 4mm、5 歳 5mm
ただし、最近の⼦供は体格がよいのか、計算式より太めのチューブがフィッ
トすることがよくある。⼩指の太さは、今でもよい⽬安として使⽤できる。

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例;
4〜6 ヶ⽉以降: 3.5mm カフなし
1 歳: 4.0mm カフなし
1〜3 歳: 4.5mm カフなし
3〜6 歳: 5.0mmカフなし
6〜8 歳: 5.0mm カフ付
8〜11 歳: 5.5mm カフ付
11〜15 歳: 6.0mm カフ付
15 歳〜: 6.5mm カフ付
*前後 1 サイズの径 3 本は最低準備する。

2)経⼝挿管で固定する深さ
5+⾝⻑/10 (cm)
3)気管サクションカテーテルの太さの⽬安
挿管チューブ径×2(Fr)
例;4.5mm挿管チューブなら 8〜9Fr
5.0mmなら 10Fr
吸引の効率を考えると、⽤意できるScチューブのうち最も太いもので。
4)⿇酔回路、バッグ、喉頭鏡ブレードなどの準備の⽬安
回路 バッグ 喉頭鏡 エアウェイ 点滴セット MaZ★★
1 歳まで ⼩児⽤ 1L 直1 50〜60mm ビューレット付 8Fr
1〜6歳 ⼩児⽤ 2L 曲2★ 60〜70mm ⼩児⽤ 10Fr
7 歳〜
30kgまで ⼩児⽤ 2L 曲 2★ 80mm ⼩児⽤ 10Fr
30kg 以上 成⼈⽤ 3L 曲3 90mm 成⼈⽤ 12Fr

もしくは、曲Sサイズ
★★
MaZはSc⽤カテーテルでよい
5)マスクのサイズ
1 歳までは乳児⽤、1〜6 歳までは幼児⽤、6〜12 歳までは学童⽤、
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12 歳以降は成⼈⽤、がひとつの⽬安。
⾹り:現在 バニラ・いちご・メロン・オレンジ の 4 種類。
6)輸液
製剤はソルラクトまたはソルアセトを使⽤。乳児で代謝異常の有無がわ
からない場合は、ソルアセトが適当か。
10kg までは、輸液ポンプ⽤のチャンバー付点滴回路を⽤いる。
10〜20kg は通常の⼩児点滴セット。
20kg 以上は成⼈セットでよい。

投与速度は 5〜10mL/kg/h 程度。37 度以上の体温の上昇があれば、輸液


量を増やし、発汗を促し、うつ熱を予防する。うつ熱が疑われる場合(体
温は⾼いが、末梢がしまっている場合)は、コントミン 0.1mg/kg を静注
し、末梢⾎管を拡張させた上で輸液負荷を⾏う(コントミンの影響で⾎圧
はいったん下がる)。

6. ⿇酔導⼊
1)点滴を取らせてくれる児では、通常の IV 導⼊。マスクを嫌がる場合は、
無理に導⼊前の酸素化をしなくても良い。点滴穿刺予定部位に、あらかじめ
ペンレステープを貼っておくと局⿇をしなくても痛くない。
2)それ以外は、GOS slow 導⼊。以下、Slow 導⼊の⽅法について。導⼊
前に最低限必要なモニターは SpO2 モニター。
3)まず、マスクを患児に⾒せてから顔に当てるが、このとき頭の上からマ
スクを差し出すと、視界に⼊りづらく、恐怖を与えることがある。胸のほう
から患児に全体像がよく⾒える形で顔へ持っていく。
4)最初は GO のみとし、患児に⾹りをよく嗅いでもらう。⾵船をふくら
ませるように「ふーっふーっ」と⼤きく息をしてもらう。幼児で、実際に⿇
酔回路のバックを⾒てもらい、「この⾵船を⼀⽣懸命膨らまそう!」と⾔っ
て⾵船膨らませゲームをしながら⼊眠させていた Dr もいた。
5)笑気を 1〜2 分も吸⼊しているとだんだんぼんやりしてくる。この頃か

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ら Sevo を 0.5%から開始し、3〜4 呼吸ごとに 0.5〜1%ずつ濃度を上げてい
く。学童では、臭いに敏感で、のちのちまで記憶が残ることがあるので、よ
り慎重に、ゆっくり上げていく。笑気の吸⼊と、低濃度 Sevo の吸⼊に時間
をかければ、1.5〜3%で⼊眠する。⼊眠、または興奮期が出現したら、Sevo
濃度を⼀気に 5〜8%に上げ、⿇酔深度を深くする。
6)まったく協⼒が得られない児の場合は、⿇酔回路にマスクをつけ、ポッ
プオフ弁を閉じ、マスクの開⼝部を⼿のひらや腹で閉鎖した状態で GOS、
Sevo5~7%のガスを回路内に溜め、看護師が患児をベッドに寝かせた瞬間に
マスクを当てる。両腕で患児の顔をはさむようにすると、マスクから逃げら
れることは少ない。看護師は患児の体をしっかり押さえ込む。これは⾮常に
乱暴な⽅法なので、最終⼿段。

7. 挿管まで
1)⿇酔深度が⼗分に深くなるまでは、不⽤意に患児に触れたり、処置を開
始すると、喉頭痙攣を誘発することがある。⼊眠前にモニターを装着できな
かった場合は、⿇酔科医に確認してから、装着する。点滴や、体温計挿⼊も
同様。
2)留置針が⼊ったら、接続部に空気が残ることがあるので、点滴ラインの
接続部を留置針より⾼い位置に持ち、ゆっくり滴下して留置針内に⽔を満た
し、留置針内の空気を抜いてから、接続する。
3)ルート確保が終わったら、必要に応じて筋弛緩薬を投与し(エスラック
ス 0.3-0.6mg/kg 成⼈と同量)、挿管を⾏う。挿管チューブは、
20〜30cmH2O
でリークがあるものが適切であるが、50cmH2O でリークがあれば短時間⼿
術なら問題ない。挿管時に抵抗があったチューブは不適切であるが、抵抗が
なく⼊ってもリークがないこともある。この場合は、頭部を後屈するなど、
体位を換えるとリークが出現することが多く、リークありと判定できる。
4)マスク換気時に胃内に空気が⼊ってしまった場合は、Sc チューブを MaZ
として経⼝で挿⼊する。挿⼊⻑を体表から測り、その⻑さだけ挿⼊すればよ
い。⼝腔内⼿術の場合は、吸引した後、抜去する。下腹部⼿術などでは、抜
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管まで⼊れておいてよい。

8. ⿇酔維持
AOS、または GOS で維持する。
⼩⼿術の場合は、フェンタニル 1〜2μg/kg 程度を投与しておくと、Sevo2%
程度で維持でき、術後興奮も軽減できることが多い。フェンタニルは、
1A2mL+⽣⾷ 8mL で 10μg/mL としておくと使⽤しやすい(5 倍希釈)。
フェンタニル必要量は、児によって異なるので、バイタルを⾒ながら 5μg/kg
程度まで増量して良い。
筋弛緩薬は、挿管時の 1 回投与のみで、追加投与は必要ないことが多い。
アルチバを使⽤する場合は、導⼊、挿管後に 0.2μg/kg/min から開始し、適
宜増減する。併⽤する Sevo は 1.5〜2%で良い。術後痛みが強くなることが
多いので、覚醒前に NSAIDs、フェンタニル(1〜3μg/kg 程度)を投与し
ておく。IV 導⼊で、アルチバを挿管前から使⽤したい場合は、喉頭展開によ
り徐脈を引き起こすリスクが⾼くなるので、アトロピン 0.01mg/kg(最低
量 0.1mg)を予防的に投与しておくと良い。アトロピンは、1A+⽣⾷ 4mL
で 0.1mg/mL に希釈して使⽤する。
ベンチレーターの設定は、VT 8mL/kg、呼吸数は年齢に応じて 14〜25 回/
分程度。ETCO2、PI を⾒ながら調節する。

9. 抜管
リ バ ー ス は 成 ⼈ と 同 量 ( ア ト ロ ピ ン 0.02mg/kg + ワ ゴ ス チ グ ミ ン
0.04mg/kg またはアトロピン 0.01mg/kg→アンチレクス 0.6mg/kg)で⾏
なう。
抜管は深⿇酔下で⾏うか、完全覚醒下で⾏うか、2 つ⽅法がある。
1)深⿇酔下抜管では、Sevo2〜3%以上、Sc で反応がないこと、などが条
件。⾃発呼吸は出ていてかまわない。抜管後、マスクで気道を保持する。
⼝腔内⼿術、感冒罹患直後など、気道閉塞がおきやすい場合は、深⿇酔下抜
管は不適。

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中途半端な⿇酔深度での Sc、抜管は喉頭痙攣の原因となるので、やっては
いけない。
2)覚醒後抜管では、⾃発的に顔⾯をしかめる、⼿⾜を動かす、などの動き
が出てきたところで、気管内、⼝腔内をよく Sc し、息こらえがないことを
確かめた後、抜管する。刺激がなければ眠っているが、Sc などの刺激で体
動がおき、ほうっておくとまた眠る、と⾔うような状況では抜管はまだ早い。
Sc で息こらえをするばあいは、加圧して解除し、刺激で息こらえが起こら
なくなるまで待ってから抜管する。
3)抜管後、⾆根沈下がある場合は、肩枕を⼊れて様⼦をみる。⼊眠してい
ても、⾃⼒で気道が維持できるようになれば、帰室は可能である。
4)酸素投与がなければ SpO2 94%以上を保つことが出来ない場合は、酸
素投与の指⽰を出す。マスクを嫌がる場合は、⾸にペンダントのようにかけ、
吹き付けるだけでも維持できることが多い。

10. 術後鎮痛
坐薬:乳児、幼児では基本的にアンヒバを⽤いる。アンヒバ 20(〜30)mg/kg
を、2 時間以内の⼿術であれば術前に挿肛する。学童でウィルス感染がない
場合は、ボナフェック 0.8〜1mg/kg を術前に挿肛する。

仙⾻ブロック:T10 以下の⼿術で術後鎮痛に使⽤できる。0.2%アナペインを
⽤いる。
S 領域の⼿術;0.5mL/kg
L 領域の⼿術:0.8mL/kg
T10 までの⼿術;1mL/kg (最⼤ 20mL まで)
2 時間以内の⼿術では、術前に施⾏する。

腸⾻⿏径神経ブロック:⿏径ヘルニア⼿術で、閉創時に術者に施⾏してもら
う。外腹斜筋筋膜下に、0.25%マーカインを⼀側 1〜2mL 散布してもらう。
⿏径ヘルニア⼿術では、この他に坐薬を併⽤する。

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11. 術後指⽰
帰室 1〜2 時間後に、透明⽔分 10mL/kg(最⼤ 200mL まで)。嘔吐がなけれ
ば、以後フリーとする。

2008.07.26 Version1.0 Wakisaka

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