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第1回 事後評価検討会

資料6

「高機能ファイバー創成ナノ加工技術開発」

評価用資料

平成19年11月16日

経済産業省製造産業局繊維課

帝人株式会社

帝人ファイバー株式会社

東レ株式会社
目 次

1.事業の目的・政策的位置付け…………………………………………………1
1-1 事業の目的………………………………………………………………1
1-2 国の関与の必要性………………………………………………………3
1-3 政策的位置付け…………………………………………………………3

2.研究開発目標……………………………………………………………………5
2-1 研究開発目標……………………………………………………………5
2-1-1 全体の目標設定…………………………………………………5
2-1-2 個別要素技術の目標設定………………………………………6

3.成果、目標の達成度……………………………………………………………9
3-1 成果………………………………………………………………………9
3-1-1 全体成果…………………………………………………………9
3-1-2 個別要素技術成果……………………………………………10
3-1-3 特許出願状況等………………………………………………21
3-2 目標の達成度…………………………………………………………22

4.事業化、波及効果……………………………………………………………25
4-1 事業化の見通し………………………………………………………25
4-2 波及効果………………………………………………………………28

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等……………………31
5-1 研究開発計画…………………………………………………………31
5-2 研究開発実施者の実施体制・運営…………………………………33
5-3 資金配分………………………………………………………………35
5-4 費用対効果……………………………………………………………36
5-5 変化への対応…………………………………………………………38

2
1.事業の目的・政策的位置付け

1-1 事業目的

【事業の科学的・技術的意義】
近年、衣料あるいは資材に求められる機能として「快適性」が大きく要求
されるようになってきている。繊維素材は強くて軽いという特徴を持ってい
るが、省エネルギー・省資源の観点から、雰囲気の湿度に対応して繊維の形
状が変化し通気性を調節するような高度のインテリジェント化や、車両内装
材など産業資材用途での更なる軽量化といった機能の高度化が求められてい
る。
(1) 環境対応自己調節機能繊維
ウールライクな繊維に対する国内外における技術開発は、単繊維の形態
および布帛に代表される集合体としての形態の模倣による、風合いや外観な
どの感性のみに注力されてきた。ウール布帛の有する優れた機能の一つであ
る環境に応じた調湿、調温などの自己調整機能については、技術的な難易度
が高いこともあり、十分な性能を有するものは実用化されていない。特許に
見られる国内外における従来の技術においても、上記の通り吸湿率の異なる
ポリマーを貼り合わせ型繊維に成型する事によって捲縮率や繊維径を増減
させるなど繊維形態の変化を利用しただけに過ぎず、それにおいても繊維形
成後の両成分の剥離の問題など課題が残されている。
本技術開発では繊維の原料となるポリマーから見直し、ナノブレンド技
術や精密複合化技術を開発する事により、上記課題を克服する事に加え、ウ
ールの環境対応自己調節機能を実現し、世界でも類のない機能を付与させた
繊維を得ようとするものである。

(2) 超軽量繊維
合成繊維に中空部を設ける中空繊維は一般的に軽量性に優れることから
軽量素材として広く用いられている。しかし以下のa、bに示すように、
既存の軽量化技術では発色性が悪く濃色が出ない、あるいは糸加工工程で
断面が潰れて実使用時に軽量化が達成できないという課題があり、展開用
途が大きく制限されているのが現状である。
a.中空糸・高異形断面糸
ミクロンオーダーの空隙(中空部や凹部)を単繊維内部に持っている
ため、光の乱反射が生じて発色性が悪い(濃色が出ない)。また、衣料用
や車両内装用織編物を製造するために一般的に行われる仮撚り糸や強撚
糸を作る糸加工工程で中空部や異形断面が潰れてしまう。
b.溶出型中空糸

1
ミクロンオーダーの空隙(中空部や凹部)を単繊維内部に持っている
ため、光の乱反射が生じて発色性が悪い(濃色が出ない)
。仮撚りや強撚
の糸加工工程で潰れることはないが、織編物段階でのアルカリ溶液によ
る溶出工程が必要であり、環境負荷が大きくなると共に溶出加工費の分
だけコスト高となる。
本技術開発により開発される軽量性付与技術は、素材設計をポリマーか
ら見直し、ナノ構造発現からアプローチされた発色性と潰れ抑制、および
低コスト化を達成するものである。

以上の課題を鑑み、これらを克服しうる新しい「快適性」繊維素材の開発
は、資材用途では省エネルギー、省資源、省人化に大きく貢献し、また衣料
用途のニーズとしても高いことから、市場に本格的に普及することで環境問
題にかかる省エネルギー、省資源化促進に大いに寄与することが期待される。
また高分子素材の特性制御のみならずナノ構造の制御技術が深化されること
により、繊維産業界に新素材の出を通じた活性化やさらなる要素技術の創出
に寄与することが期待される。従って、本事業を進める科学的・技術的意義
は大きい。

【事業の社会的・経済的意義】
本技術開発により提供される繊維素材の普及によって、温調機器に関わる
エネルギーの削減効果や素材使用量低減による省エネルギー効果が期待され
る。また従来から衣料用での「快適性」に関するニーズは明確であり、衣服
内環境の快適化、着用快適性という点で、また予測されている高齢化社会の
到来という観点からも環境対応自己調節機能や軽量性という繊維の特徴は、
要求度が高い。すなわち、従来にない、あるいは従来の機能をより高度化す
ることで、省人、省資源、省エネルギーに本格的に適用され、また同時に、
これらは従来の繊維素材の欠点を解消することで大きな市場が創出されると
考えられる。
また繊維製造技術の側面からも、例えば超軽量繊維においては、本技術開
発の繊維の比較対象となる溶出型軽量繊維に比較して、溶出工程を不要とす
るために、溶出成分の原料価格、複合紡糸加工費及び溶出工程加工費などの
低コスト化を図ることができる。なお本提案の繊維についても、設備、材料
面でのコストアップ要因が存在するものの、総製造コストは従来技術対比で
低くすることは十分可能と考えている。
以上のことから、本技術開発は、繊維高機能化という付加価値の向上、環
境負荷低減などの社会的利益、さらには本技術開発を実行する事により得ら
れる高度な技術開発の過程を通じ、我が国の繊維技術開発力の強化と、繊維
技術の発展に大きく貢献すると期待されるものであることから、本技術開発

2
の社会的・経済的意義は高い。

1-2 国の関与の必要性

日本の繊維産業は、国際的に見て高い労働コスト等のハンディを抱えなが
ら、中国や東南アジア等の追い上げを許さない、極めて付加価値の高い差別
化繊維素材・技術開発が必要とされている。平成15年度に産業構造審議会
繊維産業分科会で策定された「繊維ビジョン「日本の繊維産業が進むべき方
向ととるべき政策」」においても、国の役割として技術開発を強力に推進して
いくことが求められており、現状の日本の繊維製造業の技術的リードを維持
しつつ、ナノテクノロジーなどの最先端技術を駆使した差別糸・加工技術等
の研究開発が急務である。
また一方で、近年の原油価格高騰に象徴されるように、国内外における更
なる省エネルギー化、あるいはエネルギーの有効利用は喫緊の課題とされ、
繊維製品の分野においてもこれら省エネルギー化、あるいは環境負荷の低減
に資する繊維製品開発、製造技術の深化が重要である。しかしながらこの省
エネルギー化対策は、一般的に技術的難度が高く、かつ世の中の動向を見極
めるべく長期に渡りかつ多くの技術蓄積を必要とすることから、一研究機関
あるいは一企業で取り組むにはコストを含めリスクが高すぎ、民間の自主的
な取り組みは期待できない。また市場原理に任せるべき事業でもない。
本技術開発は、繊維の内部構造をナノレベルで制御するという、従来に無
い高度な環境対応機能を付与する技術を開発し、本技術により開発された素
材の普及を通じて省資源化、省エネルギー化など環境負荷の低減を促進する
とともに、中国や東南アジアなどの追い上げを許さない、極めて付加価値の
高い差別化繊維素材の開発に貢献することを目的としている。国が本技術開
発を実施することにより、上記問題の克服、本邦技術レベルの向上、および
新たな市場拡大の創出が期待され、日本の繊維産業は国内外で十分な国際競
争力を発揮することが可能となるほか、省エネルギー化の政策にも十分合致
するものである。
すなわち、高機能な繊維を世界に先駆けて提案し、我が国の優位性を確保
するためにも、研究リスクが高い本事業には国の関与が必要である。

1-3 政策的位置付け

近年の国内外における環境問題の高まりに伴い、エネルギーの有効利用が
喫緊の課題とされていることから、繊維製品の分野においても、環境負荷の

3
低減に資する繊維素材が開発されることが重要である。一方、我が国繊維産
業は、繊維製品輸入の増加等により、空洞化が進んでおり、現状のまま推移
すれば、かかる開発にとって必要となる技術の基盤が失われる恐れがある。
このため、新たな技術手法として、繊維の内部構造をナノレベルで制御し、
従来にない高度な環境対応機能を付与する技術の開発を推進し、我が国繊維
産業の競争力の源泉である技術開発力の強化を図るとともに、これにより開
発された素材の普及を通じて、環境問題にかかる省資源化・省エネルギー化
の促進が提案されることとなり、省エネルギー化の政策に合致している。ま
た開発された素材の普及を通じて、我が国繊維産業の競争力の源泉である技
術開発力の強化にも資することとなる。

【上位施策における位置付け】
本事業は、「繊維産業施策」に属する。「繊維産業施策」では、「産業競
争力を強化するため、技術レベルの革新を可能とし、かつ相当規模の市場開
拓が期待される高付加価値品の実用化に直結する繊維創成技術や、コストダ
ウンを可能とする革新的な繊維製造関連技術を開発する」ことが挙げられて
いる。
また、本事業は、平成15年度に産業構造審議会繊維産業分科会で策定さ
れた「繊維ビジョン「日本の繊維産業が進むべき方向ととるべき政策」
」の中
で、強力に推進すべき新しい差別化糸・加工技術・染色技術等の技術開発で
あって「先行的に推進する5つの技術開発」の1つとして記載されている。

4
2.研究開発目標

2-1 研究開発目標
省資源化、省エネルギー化など環境負荷の低減の促進に資するため、繊維
の内部構造をナノレベルで制御し、従来に無い高度な機能(軽量化、湿度調
節機能、吸湿・撥水機能など)を付与する技術を確立することにより、高付
加価値な繊維素材を開発する。

2-1-1 全体の目標設定
上記目標達成のため、次のとおり「環境対応自己調節機能繊維」と「超軽
量繊維」について研究開発を行った。なお、それぞれの具体的な研究開発目
標については、「2-1-2 個別要素技術の目標設定」に記載した。

環境対応自己調節機能繊維
従来のウールライク繊維とは、外観・風合いのみの模倣であり、機能性が
付与されているものは存在しない。本開発は、このウールの機能発現機構(ナ
ノ制御構造)に着目し、衣料の快適性を大幅に向上させる優れた機能を発現さ
せることを目的とする。そのため、本開発では、上記個々の機能を有する原
料ポリマーの設計、およびそれらの機能を有する機能剤のポリマー中へのナ
ノブレンド/ナノアロイ技術、さらにそれらの機能を織物レベルで発現させる
ための精密コンジュゲート製糸技術と製布技術の確立を目標とする。
具体的には、吸水性と撥水性などの相反する機能を有するポリマーを複合化
し、湿度に対応して機能の形状を変化させ、織編物の通気性を調節する繊維を
開発する。

超軽量繊維
中空部を設ける従来の中空繊維は、軽量性に優れるものの、前述の通り、
既存技術では発色性が悪く濃色が出ない、あるいは糸加工工程で断面が潰れ
て実使用時に軽量化が達成できないという課題があった。従ってこれら課題
を解決すべく、繊維中に微細な空隙(ボイド)を多数有するボイド型軽量繊
維(ポリマーアロイ型、発泡型)を開発する。

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2-1-2 個別要素技術の目標設定

環境対応自己調節機能繊維
表:個別要素技術の目標
要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等
1.ポリマー設計
a)吸湿ポリマーの設 ・吸放湿性≧7% 1) ・ウールと同等以上の吸
計 吸湿性≧12% 2) 湿・撥水性を発現させる繊
b)撥水ポリマーの設 ・接触角>115°3) 維形成可能なポリマーが
計 ・溶融紡糸可能であること 必要であり、1)2)3)につい
てウールと同等以上とし
た。
c)ナノブレンド、ナ ・ポリマー中の添加剤/機能 ・添加剤、機能ポリマーの
ノアロイ技術 ポリマーがナノスケールで 比表面積を上げることに
分散していること より、ミクロスケールでの
ブレンド効果以上の化学
的・物理的な高次機能を発
現させる。
2.製糸技術
a)2 元サイドバイサ ・サイドバイサイド断面での ・外部の環境(湿度変化)
イド複合繊維製糸技 紡糸が可能であること による自己調節機能を、2
術 ・捲縮が発現し吸放湿により 種のポリマーで得ること
形態変化すること を確認するため。
b)3 元複合繊維製糸 ・3 元精密複合繊維断面が形 ・ウールと同等以上の吸湿
技術 成可能であること 性、撥水性、捲縮可逆性を
・吸放湿性≧7% 1) 繊維において発現させる
2)
吸湿性≧12% ため、ウール糸と同等以上
接触角>115°3) とした。
捲縮数 10 個/inch
3.製布技術 通気度変化率≧11% (編地) ・ウール織物と同等以上の
嵩高性≧1.9 機能を有し、環境対応自己
吸放湿性≧5% 調節機能を発現させるた
吸湿性≧12% め、ウール織物と同等以上
接触角>135° とした。
1):標準状態(20℃,65%RH),および高温湿度状態(35℃,95%RH)の吸湿率差。
2):標準状態での吸湿率(%)
3):水との接触角

6
超軽量繊維

要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等


1.ポリマーアロイ型 ・繊度 2-4dtex 衣料用繊維 2-4dtex と同
軽量繊維の製糸 ・繊維比重 0.85 以下 レベルの細繊度化、中空繊
基礎技術 ・必要中空率 40%以上 維と同レベルの軽量性(比
重 0.85)を目指した。
a)ポリマー設計とポ ・ボイド生成に最適なポリマ 量産レベルでの軽量化が
リマーアロイのメ ー(アロイ)設計とポリマー 達成可能なポリマーアロ
カニズム解析、高 アロイのメカニズム解析 イ組成および製糸技術(含
効率ボイド生成製 ・量産化技術を開発 む製糸設備設計)の開発を
糸プロセスの設計 ・高効率でボイドを生成させ 目指した。
と開発 る製糸プロセスの設計と開 軽量性以外の訴求ポイン
発 ト(物性)を探索した。
・新機能と用途の探索
b)繊維中のボイドを ・繊維中のボイドを潰さない 従来の物理切削(刃切削)
潰さない超軽量繊 で超軽量繊維の構造解析が による前処理はボイドを
維の新しい構造解 可能であること 潰してしまうため繊維中
析手法の開発 の構造解析が困難であり、
超軽量繊維の開発には、繊
維中のボイドを潰さない
構造解析手法が必要不可
欠。
2. 発泡型軽量繊維 ・繊度 2-4dtex ・衣料用繊維 2-4dtex と同
の製糸基礎技術 ・繊維比重 0.85 以下 レベルの細繊度化、中空繊
・必要中空率 40%以上 維と同レベルの軽量性(比
重 0.85)を目指した。
a) 化学発泡剤の適 ・新規発泡剤の開発 ・ポリマーの溶融温度以
用 (分解温度:250 度以上、不 上。人体・環境への安全性
活ガスを発生、繊維特性・物 を確保するため。
性を損なわないこと)
・発泡剤の着色防止技術開発 ・商品化に必要不可欠。
b)超臨界 CO2 添加で ・量産技術確立のため、超臨 ・溶融紡糸時に安定して発
の製糸技術 界 CO2 を注入することができ 泡可能な発泡製糸技術(発
る発泡製糸設備を設計・製作 泡条件および引き取り技
し発泡型軽量繊維の製糸技 術)の開発を検討した。
術を開発する

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表:本技術開発の位置付け
従来技術 本技術(ボイド型軽量繊維)

繊維断面形状

製造技術 直接紡糸 島成分溶脱 ポリマーアロイ or 微細発泡


単繊維繊度 ~2dtex ~10dtex 2~4dtex
中空部個数 数個 ~数十個 ~数万個
中空部直径 ~数十μm ~数μm ~数十nm
比重(空隙率) 0.98(30%) 0.85(40%) 目標:0.85(40%)
耐潰れ性 △ ○ ○
軽量性 △ ○ ○
環境負荷 ○ △ ○

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3.成果、目標の達成度

3-1 成果
3-1-1 全体成果

環境対応自己調節機能繊維
本技術開発において、従来にない衣料素材を得る為に、ポリマー技術、製糸
技術、製布技術といった原料から布帛に至るまでの全ての技術に亘って精密な
技術を開発し盛り込むことによって、次の通りの成果を得た。
a.溶融紡糸可能な吸湿ポリマーを開発し、吸放湿差でウールに匹敵する性能
を発現可能見通しを得た。
b.PET ポリマーへの撥水性モノマー共重合によって撥水性が発現可能であり、
溶融紡糸も可能なことを確認した。
c.上記ポリマーを組み合わせた精密複合製糸、および製布を実施して得られ
た布帛は、吸放湿性を具備しなから捲縮形態変化が起こりうることを確認
した。
残された課題は、耐久性、着用快適性など他の未評価項目を確認し、最適製
品設計を図ることの他、現行の 3 元複合断面形状により制限されている捲縮変
化制限を低減させること、織編物として染色する際の繊維表層部の剥離(鞘割
れ)を改善すること、および安定生産プロセス技術を確立させることである。

超軽量繊維
本技術開発において、繊維中に微細なボイドを有する超軽量繊維を得るた
めに、ポリマー設計技術、製糸プロセス技術、および製布技術といった検討
を鋭意行い、次の通りの成果を得た。
a.ポリマーアロイ型軽量繊維においては、ポリマー設計技術により細繊度
での低比重化の見通しを得た。またボイド型軽量繊維の繊維構造を初め
て明らかにした。
b.化学発泡剤の繊維への適用可能性について検討し、ポリマーの成形性に
適した着色のない発泡剤を新たに開発した。
c.超臨界 CO2 添加製糸技術について、高効率微細発泡の製糸技術開発におけ
る指針を得た。
残された課題は、ポリマーアロイ型軽量繊維における安定した軽量性(ボ
イド生成)が発現しうる製糸量産化技術の確立と製品設計である。

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3-1-2 個別要素技術成果

環境対応自己調節機能繊維
(1)ポリマー設計
高い吸湿性能を有し、かつ溶融紡糸性、およびポリエステル(PET)への分
散性にも優れたバランスの取れた機能ポリマーを種々検討の結果見出した。
また、このポリマーは吸湿したときに伸びるという興味深い性質を有してい
ることが判明した。このポリマーは、PETを改質することによりナノスケー
ルでの分散状態が制御可能であり、適切な混合状態でナノブレンドすること
により、吸湿率は未達ながら、製糸安定性と吸放湿性を両立可能であること
を確認した。
20%
18% Wool
16%
ΔMR
14% Ny+吸湿剤1
吸湿率 (%)

12%
10% 吸湿剤 Wool
Ny+吸湿剤2
8% c
6% Ny Ny
A : 20℃,65%RH
4%
B : 35℃,95%RH
2% A B A
絶乾→A B A B A
0%
0 100 200 300 400 500 600 0 100 200 300 400 500 600 700
経過時間 (分) 経過時間 (min)

(1) (2)
図:(1)ウール、吸湿剤、および(2)吸湿剤添加Nyの吸放湿特性

改質 PET1 改質 PET2 Ny
吸湿剤の分散
状態

100nm
吸湿性(%) 3 2 4
吸放湿性(%) 3 7 12

図:吸湿剤のポリマー中分散状態

また、信州大学への委託研究開発により、吸湿性繊維を溶融紡糸により作
成する為の方向性として、種々の知見を得た。
一方、従来技術において撥水性の付与は、後加工によるものがほとんど
であり、ポリマー改質という手法はあまりとられていない。また、ポリマー
改質にしてもフッ素系ポリマーのブレンドが主流である。本技術開発におい
ては撥水剤の脱落といった問題がなく耐久性を有し、フッ素系樹脂を使用せ

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ず環境にも配慮したポリマーの開発を目標とした。単繊維と水との接触角と
して撥水性を比較評価する方法を確立したうえで、撥水性を有する機能剤を
種々検討して選択し、PETへ導入することにより、ウールと同等の撥水性能
の繊維を得ることが可能であることを確認した。

Wool PET 開発品


図:単糸と水との撥水性比較
(2)製糸技術
上記の Ny/PET を基本ポリマーとする、2 元吸湿性サイドバイサイド型複
合繊維において、製糸条件の適正化と更なるポリマーの改質を行うことに
よって、捲縮の発現と従来技術以上の吸湿時の捲縮形態変化を発現させる
ことが可能であることを確認した。
3 元の精密複合繊維断面を形成可能とする為の口金設計を行い、サイド
バイサイド型繊維の外周部に鞘成分を有する 3 成分からなる断面の繊維が
形成可能であることを確認した。また、鞘部に上記撥水ポリマーを用い、
芯部がサイドバイサイド型で吸湿形態変化能を有する 2 種のポリマーを配
置することによっても断面形成、製糸が共に可能であることを確認した。
この繊維は吸湿率は目標未達であるが、吸湿による捲縮変化と撥水性を両
立し、捲縮性能および単糸接触角は目標レベルとなった。

図:3 元複合繊維断面
(3)製布技術
上記 2 元サイドバイサイド複合繊維を用いた布帛を用いて種々発現性能
の評価を実施したところ、吸湿時に編地の目の粗さが変化し、通気度が数
10%変化することを確認し、ポリマーおよび製糸条件を調整することにより、
吸湿時に通気度を向上できるものと通気度を低下できるもののどちらの構
造体も提供可能な基礎的知見を得た。

11
目が詰まる

乾燥時 湿潤時
図:乾湿における編地の形態変化

また、吸湿した水の脱着熱は、ウール対比約 70%と非常に高く、高親水性
であることが判明した。この高親水性を利用した冷却効果を期待し、接触冷
感性能を評価したところ、DRY および WET 状態どちらにおいても、ウール、
従来 PET 以上の冷却効果が認められた。また、編地構造体の一方向を引張っ
たときの応力-歪み曲線を評価したところ、DRY から WET への変化で、初期
弾性率が大きく低下し、さらに伸度が増加するという新しい機能を見出した。

400 0.030
Qmax (cal/cm2・sec)

20℃,65%RH
水脱着熱 (mJ/g)

300 0.025 35℃,95%RH

200 0.020

100 0.015

0 0.010
Wool 開発糸 Wool 開発糸 PET

図:水脱着熱(左)と接触冷感評価(右)
撥水性と吸湿形態変化能を有する 3 元複合繊維を布帛化し、性能を評価
した。吸湿性においては、PET 対比大きく向上しているが、目標であるウー
ルと比較すると、未だ不十分な性能となった。さらなる吸湿率向上には、PET
ポリマーへの新規吸湿性ポリマーのブレンドやイオン性官能基導入などの
改質が必要と考える。
厚さおよび嵩高性は、レギュラーPET 対比向上し、捲縮発現によりバルキ
ーな糸であり、接触冷感性能に関しては、2 元サイドバイサイド繊維と同様
に、非常に高い値を示し、吸着水を利用した冷却効果が発現していることが
確認された。剛軟性においては、吸湿することで柔らかくなっており、これ
も 2 元サイドバイサイド糸と同様に、吸湿したときの弾性率およびストレッ
チ性向上が反映されているものと思われる。
一方、防しわ性(しわ回復性)および磨耗変色性能に関しては、ウールお
よびレギュラーPET と比較して劣ることが分かった。しわ回復性に関しては、
吸湿させても回復しづらいことから、捲縮のパワーが少ないことが原因とし

12
て考えられる。磨耗変色では、前述の繊維表面のフィブリル化によって白化
していることが分かった。染め上がり状態でのフィブリル化抑制のための鞘
ポリマーと芯ポリマーの接着性向上技術が今後必要である。
ボイル後 ファイナルセット後

図:染色における織物表面変化
撥水性評価では、織物の接触角を測定したところ、目標であるウールは
135°であるが、染色処理後には、接触角が 35°まで低下した。染色直前の
プレセットでは、接触角は 126°と撥水性を示しているため、染色処理中の
鞘ポリマー剥離が一部発生し、親水性である Ny や改質 PET が露出している
と考えられる。
快適性の他の指標である保温性について比較すると、3 元複合繊維は通気
度が低いにも関わらず、最も低い保温率であった。ここで保温率測定中のサ
ーモグラフィーを比較すると、レギュラーPET 織物の表面温度は 29℃でほぼ
均一であるのに対して、3 元複合繊維やウールは数度程度低い部分が存在し、
不均一であった。これは、吸放湿を繰り返していることを示しており、現行
評価設備(吸湿率の低い PET 用)では、正確に測定できていないと考えられ
たため、吸湿率を一定化が可能な設備にて評価を行うことが今後の課題であ
る。 表面温度が不均一 表面温度が均一 表面温度が不均一

開発品 PET Wool

図:保温性評価

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超軽量繊維
(1) ポリマーアロイ型軽量繊維の製糸基礎技術
a) ポリマー設計とポリマーアロイのメカニズム解析、高効率ボイド生成製
糸プロセスの設計と開発
①高効率ボイド生成についてのラボスケールでのポテンシャル把握
本技術検討では、ポリマーアロイ繊維を延伸することによって非相溶ポ
リマーの界面にボイドが生成するボイド繊維の製糸技術検討を行った。

未延伸糸
延伸

非相溶ポリマー

図 :ボイド生成の概念図

単繊維繊度を従来の半分以下(2~4dtex)とする開発目標において、製
糸性とボイド生成能を維持しつつ細繊度化を達成することが重要となる。
本技術開発においては非相溶系のポリマーアロイを扱うべく、ポリマー設
計に主眼を置き検討した。
ボイド生成能を向上させるにはポリマーアロイ界面が剥がれやすい(易
剥離性)こと、および島成分が変形しにくいこと(難変形性)が重要であ
ることが判った。ただし界面の剥がれやすい、すなわち非相溶性が高い2
種のポリマーアロイでは一般的に微分散化が困難とされ、紡糸時の繊維長
手方向の構造形成斑の起因となりやすいことが知られている。従ってこれ
ら易剥離性、難変形性、および微分散性を両立しうるポリマー設計を採用
し、さらに高張力延伸プロセスの適用により、低比重化を達成しうること
を見出した。特に球状微粒子の適用では、従来ボイド生成が不可能だと考
えられていた汎用性の高い熱ロール延伸プロセスでも容易に軽量化する
ことを見出した。

<表:少量検討でのポリマー設計、製糸プロセス検討>
ポリマー設計技術 製糸プロセス設計 検討結果(単繊維繊度 4d)
易剥離性 高張力延伸 1.難変形性ポリマー
→界面張力差制御 +温水中延伸
島変形抑制(球状化) ⇒比重 0.85(40%軽量化)
→難変形性ポリマー 2.球状微粒子
球状微粒子 +熱ロール延伸
⇒比重 1.05(25%軽量化)

14
②量産化技術開発
少量検討において優れた軽量性発現が見られた「難変形性ポリマーアロ
イ+温水中延伸プロセス」技術を用いて、量産化技術を検討した。スケー
ルアップに伴い、軽量性(ボイド生成効率)が低下することが分かったが、
分析の結果、高効率ボイド生成に必要な非相溶ポリマー分散性が悪化(島
成分の粗大化)していること、およびパイロット装置の延伸限界(延伸倍
率上限、高張力把持性能)の2点が問題であることが分かった。
<表:量産レベル(パイロット機)での製糸検討結果>
スケール ~100g ~数十kg ~数百kg
紡糸機 ラボ ラボ パイロット
延伸機 ラボ パイロット パイロット
延伸糸比重 0.85 1.05 1.25
延伸倍率 6.0 5.4 5.2

現在、紡糸時の非相溶ポリマー分散性の向上、およびパイロット装置の
性能向上の2点について検討を進めている。また「球状微粒子+熱ロール
延伸」技術についても更なる軽量化について製糸技術検討を進めている。

③非相溶ポリマーの極限ナノアロイ化検討、メカニズム解析
少量検討において優れた軽量性発現が見られた難変形性ポリマーアロ
イは、島成分の更なる微分散化(極限ナノアロイ化)によって、延伸時の
緻密なボイド生成・高軽量化が期待される。本技術開発では信州大学への
委託研究開発において、混練解析装置と顕微高速ビデオシステムを組み合
わせた新規ポリマーアロイ解析装置を開発し、種々の混練条件でアロイ化
検討を行い、アロイ化のメカニズム解析を行った。
アロイ化初期には粗大球状であった非相溶ポリマーは、混練中期には筋
状に変化、切断を繰り返し、微分散化が飽和する後期には微球状となるこ
とが分かった。また同時に、ポリマーアロイにおける微分散化の指導原理
として、
[a] 島成分が少なく、アロイ組成の粘度比を1に近づけること
[b] 界面張力差を小さくすること
が肝要であることが分かった。

15
図:混練時間と非相溶ポリマーの変形挙動

④軽量性以外の新規機能と用途探索
ボイド型軽量繊維は、布帛の評価において、従来にない白色性を有する
ことが開発当初から判明していた。新たな機能発現を予測し、布帛の光学
特性について評価を行った。
従来の市販中空繊維(繊維断面において穴が1つ開いている)と、従来
の市販遮光繊維(遮光剤が多量に添加されている)を用いて同様に布帛を
形成し、光透過特性を評価したところ、可視光域の広範な領域で優れた光
遮蔽性(光透過率3%以下)を有することが判明した。これは従来の中空
繊維の3倍の遮光性能、また従来の遮光繊維に対しても、比重半分で、同
等~2倍の遮光性能を有するものであり、用途展開を拡大する上で、非常
に訴求力のある機能である。

図:ボイド型軽量繊維(ポリマーアロイ型)の光透過性能

16
b) 繊維中のボイドを潰さない超軽量繊維の新しい構造解析手法の開発
従来にない軽量化を達成する本技術開発のボイド繊維は、繊維構造とし
て前例が無く、その繊維構造は非常に興味深いものであった。しかし従来
の観察前処理手法(刃切削)ではボイドが潰れ、観察が困難であった。従
ってボイド繊維の繊維構造を明確化し、また高効率ボイド生成技術の一助
とすべくボイド生成メカニズム解析を行うために、ボイドを潰さない繊維
構造の観察手法について検討した。
力を繊維に直接印加するのではない、非接触な切断手法について種々探
索したところ、イオンビームによる繊維切断(集束イオンビーム法;FI
B)が有効であることが分かり、これにより繊維中に無数のレンコン状ボ
イドを有するボイド繊維の繊維構造が初めて明らかとなった。

図:ポリマーアロイ型軽量繊維の繊維構造
(従来前処理手法とイオンビーム切削法との比較)

また該イオンビーム切削法を用いて延伸プロセスの延伸点(ボイド生成
点)の観察を行ったところ、非相溶ポリマー界面から亀裂が生成し、更に
マトリックス(海)成分が細化することで亀裂が成長してボイドとなるこ
とが分かった。

図:延伸点でのボイド生成挙動

(2) 発泡型軽量繊維の製糸基礎技術
a) 化学発泡剤の適用
①新規発泡剤の開発

17
化学発泡剤がポリエステルあるいはナイロンなどの合成繊維に汎用的
に用いられるために、以下の観点で探索を行った。
[a] ポリマーの溶融温度以上の分解温度(250℃以上)を有すること。
⇒高温発泡型の発泡剤
[b] 人体や環境影響上の安全性が確保されること。
⇒不活性ガスを発生する発泡剤
[c] 繊維物性、特性を損なわないこと。
これらを満たす発泡剤について有効な発泡剤の基本骨格を突き止めた
後、さらに有機合成により分解温度 270℃程度の発泡剤を開発し、繊維中
への添加、良好な製糸性および良好な発泡性能を確認した。しかし着色性
の問題があり、これは有機合成手法のみでは回避が困難であることが分か
ったため、次に着色防止技術について検討した。

図:発泡剤の基本骨格 図:発泡繊維(左)と通常の繊維(右)
(赤丸:脱離気体(N2))

②発泡剤の着色防止技術
発泡剤適用における着色は、化学構造解析の結果、発泡剤の分解残渣に
よるものであることが分かった。従って該残渣を隠蔽すべく、微多孔粒子
中への発泡剤封入手法を着想、開発した。

図:微多孔粒子への発泡剤の封入(概念図)

種々の微多孔粒子について最適なものを検討し、該微多孔粒子に発泡剤
を封入し、ポリエステルフィルムでの原理確認を行ったところ、微細多量
発泡しても全く着色しないことを確認し、化学発泡剤での発泡化の目処を
得た。

18
着色なし 5μm

図:着色防止技術を適用した微細発泡フィルムの構造(走査型電子顕微鏡像)

b) 超臨界CO2添加での製糸技術
将来の量産技術を念頭に置き、2軸混練機メーカーと高圧炭酸ガス発生
装置メーカーの協力を仰ぎ、超臨界CO2 を注入しうる発泡製糸設備を設
計、導入した。
超臨界炭酸ガスは気体と液体との両方の特性を有することが知られ、ポ
リマー中への注入、混練および発泡における挙動は拡散理論が適用される。
初期検討段階において、繊維比重 1.05 を達成する安定製糸条件を見出
したものの、発泡制御の条件を詳細に検討すると、発泡が粗大化するほど
軽量化(高効率発泡)し、逆に微細発泡した場合には軽くならない(低効
率発泡;単にCO2がポリマー中に拡散するだけ)というトレードオフの
挙動を示した。そこで(a),(b)の課題を克服するため、ポリマー設計と製
糸プロセスの両面から、種々の検討を進めた。
[a] 発泡ボイドの生成量を増大させること
[b] 発生したボイドの破泡や合一を抑制すること

図:発泡の大きさと数(発泡効率)の関係

19
<表:超臨界CO2注入紡糸での有効な制御手法(パラメータ)>
課題\アプローチ ポリマー設計 製糸プロセス
[a]発泡ボイドの ・CO2 高溶解性ポリマー ・圧力開放速度制御
生成量増大 ・発泡核剤 ・口金細孔径化
[b]ボイドの破泡・
・高伸長粘度化 ・糸条の急冷
合一抑制

ポリマー設計においては、ベースポリマーの改質(CO2が高い溶解性
を有する、伸長粘度の高いポリマーとする)あるいは添加剤(発泡核剤)
により(a)、(b)を達成することが分かった。また製糸プロセスにおいては、
注入したCO2を単に拡散して繊維中から抜けてしまうことがないよう、
核剤添加で発泡数を増やしたり、急冷などで繊維の過度の変形を抑制する
ことが発泡粗大化に有効であることが分かった。
現在、これらポリマー設計手法、製糸プロセス条件での最適化について
検討を進めている。

20
3-1-3 特許出願状況等

環境対応自己調節機能繊維
表:特許・論文等件数
要素技術 論文数 論文の被 特許等件数 特許権の ライセン 取得ラ 国際標準

引用度数 (出願を含む) 実施件数 ス供与数 イセン への寄与

ス料

ポリマー設計 0 0 0 0 0 0 0

製糸技術 0 0 14 0 0 0 0

製布技術 0 0 0 0 0 0 0

計 0 0 14 0 0 0 0

超軽量繊維
表:特許・論文等件数
要素技術 論文数 論文の被 特許等件 特許権の ライセン 取得ライ 国際標準

引用度数 数(出願を 実施件数 ス供与数 センス料 への寄与

含む)
ポリマー
0 0 12 0 0 0 0
アロイ
発泡紡糸 0 0 4 0 0 0 0

計 0 0 16 0 0 0 0

21
3-2 目標の達成度

環境対応自己調節機能繊維
表:目標に対する成果・達成度の一覧表
要素技術 目標・指標 成果 達成度

1.ポリマー設計 ・吸放湿性≧7% 1) ・吸放湿性 19% 一部達


2)
a)吸湿ポリマー 吸湿性≧12% 吸湿性 3% 成
3)
の設計 ・接触角>115° ・接触角 111°
b)撥水ポリマー ・溶融紡糸可能であること ・溶融紡糸可能
の設計

c)ナノブレン ・ポリマー中の添加剤/機 ・10-30nm の分散制御 達成


ド、ナノアロイ 能ポリマーがナノスケー 可能
技術 ルで分散していること
2.製糸技術 ・サイドバイサイド断面で ・断面形成、製糸共に 達成
a)2 元サイドバ の紡糸が可能であること 可。
イサイド複合 ・捲縮が発現し吸放湿によ ・捲縮発現と吸放湿に
繊維製紙技術 り形態変化すること よるその可逆変化確
認。
b)3 元複合繊維 ・3 元精密複合繊維断面が ・断面形成可。 一部達
製糸技術 形成可能であること 成
・吸放湿性≧7% 1) ・吸放湿性 3%
吸湿性≧12% 2) 吸湿性 3%
・接触角>115° 3) ・接触角 114°
・捲縮数 10 個/inch ・捲縮数 9 個/inch
3.製布技術 ・通気度変化率≧11% ・通気度変化率 6% 未達成
・嵩高性≧1.9 ・嵩高性 1.8 (嵩高性、接
・吸放湿性≧5% ・吸放湿性 3% 触角はほぼ

吸湿性≧13% 吸湿性 2% クリア)

・接触角>135° ・接触角 35°


(染色前 129°)

注)「達成度」の欄には、達成、一部達成、未達成、を選択して記述。

吸湿率については、標準状態(20℃,65%RH)で、目標としているウール以上
の非常に高い吸湿率を有する剤、またはポリマーのうち、溶融成形可能なも

22
のを見出すことはできず、未達となった。吸放湿性についても、吸湿ポリマ
ー単独糸では十分達成可能であるものの、溶融成形性と工程安定性を考慮す
ると、汎用ポリマーへのブレンドをせざるを得ず、近い値は得られるが、目
標値の達成は困難となった。
撥水性レベルは、目標に近い値を得ることができたものの、3 元複合糸で
は内側の吸湿ポリマーの膨潤による鞘割れが染色時に発生し、布帛としては
低い値となった。それでも布帛での吸湿による通気度の可逆変化は見られる
ことから、自己調節機能は発現可能であるものと考える。
2 元複合糸を用いた布帛の場合は、吸湿による形態変化の他、ウールのよ
うな高度な吸湿率には及ばなくても、吸湿に由来する接触冷感は十分得られ
ており、また、吸湿時の弾性率変化など、可逆的に変化する新規な機能も発
現しており、撥水性を考慮しなければ、本来の目的である自己調節布帛とし
ての商品展開が十分可能と考える。撥水性を付与するには、3 元複合繊維形成
時の断面形状を内側のポリマーが膨潤しても鞘が割れない様な形状とする必
要がある。

超軽量繊維
表:目標に対する成果・達成度の一覧表
要素技術 目標・指標 成果 達成度
1.ポリマーアロイ型 ・繊度 2-4dtex 4dtex での比重 達成
軽量繊維の製糸基 ・繊維比重 0.85 以下 0.85(ラボ)を達成し
礎技術 ・必要中空率 40%以上 た。
a)ポリマー設計とポ ・ボイド生成に最適なポ ・最適なポリマー組成 一部
リマーアロイのメ リマー(アロイ)設計と を設計し、アロイ化メ 達成
カニズム解析、高効 ポリマーアロイのメカニ カニズムを解明した。
率ボイド生成製糸 ズム解析
プロセスの設計と ・量産化技術を開発 ・量産化技術において
開発 ポリマー設計と設備
性能向上に関する指
針を得た。
・高効率でボイドを生成 ・ポイド繊維の繊維構
させる製糸プロセスの設 造を解明した。
計と開発
・新機能と用途の探索 ・光透過率3%以下の
優れた遮光性を見出
し、遮光素材として有
用である。

23
b)繊維中のボイドを ・繊維中のボイドを潰さ イオンビームによる 達成
潰さない超軽量繊 ないで超軽量繊維の構造 繊維切削手法により、
維の新しい構造解 解析が可能であること 繊維中のボイドを潰
析手法の開発 さず観察しうること
を見出し、ボイド構造
が初めて明らかとな
った。
2. 発泡型軽量繊維の ・繊度 2-4dtex 繊度 4dtex で繊維比 一部
製糸基礎技術 ・繊維比重 0.85 以下 重 1.05(中空率 26%) 達成
・必要中空率 40%以上 を達成した。
a) 化学発泡剤の適用 ・新規発泡剤の開発 ・250℃以上で発泡す 達成
(分解温度:250℃以上、 る発泡剤を新規に開
不活ガスを発生、繊維特 発した。
性・物性を損なわないこ ・着色防止技術の目処
と) をつけた。
・発泡剤の着色防止技術
の開発
b)超臨界 CO2 添加で ・量産技術確立のため、 発泡紡糸設備を導入 達成
の製糸技術 超臨界 CO2 を注入するこ し、細繊度でも高効率
とができる発泡製糸設備 微細発泡が可能な製
を設計・製作し発泡型軽 糸技術の指針を得た。
量繊維の製糸技術を開発
する

ポリマーアロイ型軽量繊維の開発では、殆どの項目において目標を達成した
ものの、量産化技術開発においてスケールアップ時に得られた繊維の軽量性が
低下することが分かり、この点で未達となった。今後、量産化技術の課題であ
る、①スケールアップ時の非相溶ポリマー分散性向上、②パイロット装置の改
善、について取り組むことで目標を達成できると考えられる。
発泡型軽量繊維の製糸基礎技術においては、各個別目標において概ね目標を
達成したが、当初の目標である細繊度(2~4dtex)での軽量化(比重 0.85
以下)については、細繊度化のみを達成し軽量化は未達成という点で、一部達成
であった。今後個別の項目について、量産化を目指したスケールアップでの製
糸技術開発を進めていく。

24
4.事業化、波及効果

4-1 事業化の見通し

環境対応自己調節機能繊維
【事業性】
本技術開発で提供される繊維は、高度の吸湿性と撥水性という相反する機能
を有すると共に、雰囲気の湿度に対応して繊維の形状が変化し、ひいては織
編物の通気性を調節可能なものである。また、これらの機能が並行して発現
する高度のインテリジェント繊維・織編物が提供される。これらは衣料素材
として古くから用いられてきた天然ウールの一部機能の実現にしか過ぎない
が、合成繊維でその機能を発現させ実用化しているものはなく、従来にみら
れないこのような高い機能を有する繊維、織編物は省エネルギー素材として
非常に有用であり、着用時の調節機能を有する為、主に衣料用途に展開可能
なものである。
環境対応自己調節機能繊維については、帝人ファイバー株式会社が原糸の
製造、販売を行い、既存製品のルートにてテキスタイル、加工を実施する。
事業化に至る期間は、試作や市場評価、および生産設備の改良による生産
技術の構築、生産機への設備投資を含め、販売初年度に至るまで、規模にも
よるが試作開始から最低2年はかかる見通しである。
なお、事業化までの課題として、3元複合糸では繊維の鞘割れの問題がある
為、断面形状を見直すか、ポリマーを更に改良して鞘が割れない工夫を検討
する必要がある。さらに製糸、製布後の製品の耐久性、着用快適性など他の
未評価項目も確認検討を実施する必要がある。また、コストと性能とのバラ
ンスが市場に受け入れられるかの点も懸念事項である。

【市場の動向・競争力】
本技術開発による繊維製品は、下記の用途に展開可能であり、国内だけで
なく世界中で需要が見込めるものと考える。国内では7,600t/年の市場を見込
むことができ、これは年間に原糸として約100億円の規模を有する。

・衣料用途(ジャケット、スラックス、パンツ、タイツ、ソックス等)・3,000t
・スポーツウェア用途(ゴルフ、テニスウェア、アウトドア等)・・・・3,000t
・寝装インテリア用途(シートクロス、布団綿等)・・・・・・・・・・1,600t

また、本技術開発による繊維製品は、従来にない高付加価値素材でありな
がら温調機器に対する省エネルギー性も併せもつ素材であること、および現
行のウール綿が汎用で 800~2000\/kg 程度と幅広い価格帯をもつ事を考える

25
と、十分な価格競争力を有する価格ゾーンがある。

【売上見通し】
主として衣料用途における原糸の平均販売単価を当初 1500\/kg、反物とし
て 3500\/kg と設定する。
7,600t の市場に対し、本技術開発終了3年後から下記の通りシェア、売値が
変化すると見積もる。

原糸/反物販売単価 原糸/反物販売量 売上額


(\/kg) (t/年) (百万円)
3年後 (2009 年) 1,500/3500 95/5 160
4年後 (2010 年) 1,500/3500 350/50 700
5年後 (2011 年) 1,500/3500 950/50 1,600
6年後 (2012 年) 1,350/3500 1,900/100 2,915

超軽量繊維
【事業性】
(1) 本技術開発が事業化に成功すると考えた理由
本技術開発における超軽量繊維は、省資源化、省エネルギー化による環境
負荷低減の促進の観点、また従来にない画期的なメカニズムによる軽量性発
現による従来課題の克服や、後述の波及効果のもとでの広範な素材普及の観
点、あるいは事業性とその見通し、市場動向の観点などから、事業化が可能
と考える。
特に、軽量性や審美性といった感性面と、省エネルギーなどの経済・環境
面でともに優れた特徴を有していることが、超軽量繊維素材の事業化に向け
ての強みである。

(2) 事業化する際の研究開発を行う製品・サービス等の概要
繊維素材は強くて軽いという特徴を持っており、車両内装材などの産業資
材用途へ省エネルギー・省資源の特性に優れ、自動車燃費効率向上に寄与で
きる軽量繊維を提供する。
また、軽量性は衣料に求められる「快適性」を支配する大きな要因である
が、本開発により衣料製品に軽量性と保温性を付与することができる。衣料
用途としては、高齢化社会の到来という観点から、あるいはスポーツ、イン
ナーなどの高機能アメニティ素材という観点からも要求を満たすものとなる。
さらに、本提案により得られる超軽量繊維は、既存の軽量繊維に比較して、
発色性に特徴があり、糸加工工程での潰れがなく実使用時に軽量化が達成で

26
きるものとなる。さらに従来技術に比較して繊維製造の環境負荷低減に寄与
する。

(3) 研究開発を行う製品の用途
省エネルギー型車両内装材、高齢化に伴う軽量衣料、軽量保温スポーツウ
エアなど。

(4) 事業化において研究開発終了後にさらに必要な技術開発の内容とその技
術課題
以下の3点が挙げられる。
・安定した軽量性(ボイド生成)が発現しうる製糸量産化技術の確立
・コスト、メンテナンス性を考慮した量産設備の設計
・繊維製品として適用分野を拡大すること。

(5) 事業化のスケジュール
項目 平成 19 年度 平成 20 年度 平成 21 年度 平成 22 年度 平成 23 年度
市場評価 見極め▽
見極め▽
量産技術開発
量産設備設計
設備投資
△ 決裁
生産・販売・収益

【市場の動向・競争力】
(1) 市場規模(現状と将来の見通し)/産業創出効果
本技術開発の成果は全て実用化につながるものである。具体的な市場規模
は、下記の用途により 10,900t/年の市場を見込めると推定する。これは年間
に、原糸として 55 億円、織物として 165 億円、最終製品として 550 億円につ
ながることが期待される。
・省エネルギー型車両内装材(不織布、プレートトリム等)・・・6,500t
・高齢化に伴う軽量衣料(ワーキングウェア、スラックス等)・・・・・2,600t
・軽量・保温性スポーツウェア(スポーツウェア、インナー等)・・・・・・1,800t

(2) 競合が想定される他社の開発動向とそれに対する優位性の根拠
本提案に記載した超軽量繊維は、従来の軽量繊維に比較して、発色性に特
徴があり、糸加工工程での潰れがなく実使用時に軽量化が達成できるもので
ある。さらに従来技術に比較して繊維製造の際の環境負荷低減に寄与するこ
とができる。

27
(3) 価格競争力
本提案の繊維の比較対象となる溶出型軽量繊維に比較して、溶出工程を不
要とするために、溶出成分の原料価格、複合紡糸加工費及び溶出工程加工費
などの低コスト化を図ることができる。一方、本提案の繊維についても、設
備、材料面でのコストアップ要因が存在するが、総製造コストは従来技術対
比、低くすることは十分可能と考えている。
さらに、本提案の繊維の発色機能の向上などの付加価値の向上、環境負荷
低減などの社会的利益を加味すると、十分に価格競争力を有するものである。

【売上見通し】
(1) 売上見通し(単位:百万円)
非常にラフな計算であるが、原糸・原綿の平均販売価格 700 円/kg、織編物
として 2000 円/kg と設定すると、10,900t/年の市場に対して、本技術開発の
適用(量産技術確立後)から下記の通り販売量、売上額は増加すると見積も
る。
原糸・原綿/織編物販売単価 織編物販売量 売上額
(円/kg) (t/年) (百万円)
販売開始1年後 700/2000 100 200
〃 2年後 700/2000 200 400
〃 3年後 700/2000 500 1000

(2) 売上見通し設定の考え方
単価については上述の通り。販売規模については生産設備の最小ロットを
ベースとし、市場ニーズが経年で倍増していくと考えた。

4-2 波及効果

環境対応自己調節機能繊維
事業化にはまだ解決するべき課題があり、時間を要するが、高度なポリマ
ー機能を創成し、精密複合紡糸技術の開発をかなりのレベルまで達成できた
点、および要素技術の繊維業界への波及効果は相当なものである。
特に、本技術開発を進めるに当たり検討を行った、吸湿・撥水ポリマー設
計、ナノブレンド、精密複合多元製糸といった各要素技術は、それぞれ製糸
やフィルム成形をはじめとする、主として高分子成型加工技術分野への応用
も可能であり、それらの深化に寄与することが期待できる。さらに、本技術
開発の環境対応自己調節機能繊維は、インテリジェント繊維・織編物として
新規であり、省エネルギー意識の浸透への貢献や、インテリジェント繊維・

28
織編物の魁としてこの分野の開拓のきっかけとなることが期待され、一方で
繊維消費市場の活性化を図ることもできる可能性がある。
【成果の高度化等による波及効果】
・耐水透湿性布帛
本技術開発の繊維をより細繊度化し、織編物構成を適正化することによ
り、耐水性の付与が期待できる。これは耐水型吸湿可逆変化布帛として、
衣料用途だけでなく建材用途やフィルター用途などへの展開が期待できる。
・高度インテリジェント繊維
本技術開発の繊維断面において、温度により伸長性の異なるポリマーを
用い、吸湿成分をブレンドすることによって温湿度双方により形態を可逆
変化させることも可能となる。これによりさらに高度な環境対応型自己調
整布帛を提供できる可能性がある。

【当初想定していなかった波及効果】
・新規デバイスへの応用
精密複合紡糸技術を利用し、例えば多芯型複合繊維を用いた細径導電性
光ファイバーなどの用途や、従来にない高異型度の繊維による偏光素子へ
の応用が期待される。

超軽量繊維
本技術開発における超軽量繊維は、繊維製造と素材利用の各々の観点での
省エネルギー化を達成するという方向性を示すとともに、従来の軽量繊維に
比べて潰れにくいあるいは可染性に優れるといった実用上優れる特性を有す
るものであり、軽量繊維素材の広範な応用可能性を提案するものである。
また本技術開発は、更に以下に示す、成果の高度化による波及効果、ある
いは想定していなかった波及効果の可能性を提供するものであり、これらを
鑑み、多岐に渡る波及効果が認められる。

【成果の高度化等による波及効果】
・光反射/断熱素材(布帛)
超軽量繊維に撚り形成された布帛は、繊維中に生成した無数のボイド
により、非常に広範な波長域での光の反射・遮蔽効果のほか、断熱効果
が認められる。これにより、遮光素材、透け防止素材、断熱/保温素材
といったより広範な応用展開できる可能性が開かれる。
・ポリマー混練状態のオンライン評価手法の開発
本技術開発において導入したポリマーアロイの混練状態解析装置(顕
微高速ビデオシステム)によって、これ迄殆ど知られていなかった混練

29
時のアロイ化挙動が初めて知られるところとなり、更なるポリマー混練
手法の深化の可能性が期待される。
・新たな発泡材料(発泡剤含有微多孔粒子)
本技術開発においては、高温発泡型の高効率発泡剤の着色性を封じる
新しいコンセプトを提案したが、これにより、樹脂成形分野をはじめと
する各種発泡体成型体への広範な応用が期待される。

【当初想定していなかった波及効果】
・タイヤ用途への展開
繊維中に微細なボイドを有する繊維を混入したタイヤは、タイヤのグ
リップ特性向上、あるいはタイヤ自体の軽量化が期待される。

30
5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等

5-1 研究開発計画

環境対応自己調節機能繊維
研究開発は、以下に示すように4年計画で実施した。

表:研究開発計画
実施年度 平成 15 年度 平成 16 年度 平成 17 年度 平成 18 年度
担当
研究開発項目 (2003 年度) (2004 年度) (2005 年度) (2006 年度)

1.ポリマー設計
(1)吸湿・撥水ポリマー設計 TFJ
(2)機能剤探索・検討 TFJ
(3)ナノブレンド、ナノアロイ技術 帝人
(4)委託研究開発管理 帝人

2.製糸技術
(1)3 元紡糸機設置(新規設置) TFJ
1 元設備
設備検討仕様検討 TFJ 3 元設備
(2)単独糸製糸技術(既存設備) TFJ 1(1)の開発ポリマー使用
(3)複合糸製糸技術(2 元)(既存) TFJ サイドバイサイド(S/S)断面
(4)複合糸製糸技術(3 元)(新規) 帝人 S/S/C 断面など

3.製布技術
(環境対応自己調節設計)
(1)布帛設計 TFJ
(2)仕上加工技術 TFJ
TFJ:帝人ファイバー株式会社

初年度は、原料となる吸湿、撥水ポリマーの開発を機能剤の探索を含めて
実施、2 年目以降で 2 元および 3 元で目的とする断面が形成され、曳糸性、吸
放湿性、吸湿捲縮形態変化を付与する為の開発を行った。3 年目から 4 年目で
主として 2 元、3 元製糸および得られた繊維を用いて製布検討を実施した。

31
超軽量繊維
研究開発は、以下に示すように4年計画で実施した。
表:研究開発計画
実施年度 平成 15 年度 平成 16 年度 平成 17 年度 平成 18 年度
研究開発項目 (2003 年度)(2004 年度)(2005 年度)(2006 年度)
1.ポリマーアロイ型軽量
繊維
a)①ラボスケール検討
②量産化技術開発
③極限ナノアロイ化、ア
ロイ化メカニズム解析
④新機能・用途探索
b)繊維構造・ボイド生成メ
カニズムの解析

2.発泡型軽量繊維
a)化学発泡剤の適用
①新規発泡剤開発
②発泡時着色防止技術
開発
b)超臨界 CO2 添加製糸
①試験機製作・設置
②製糸技術検討

ポリマーアロイ型軽量繊維の検討においては、1~2年目(15、16年
度)でラボスケールでの検討を行った後、3~4年目(15、16年度)で
量産技術検討を行った。アロイ化メカニズム解明やボイド生成メカニズム解
明は、解析装置を導入した2年目以降行う計画とした。
発泡型軽量繊維の検討においては、1年目(15年度)は、根幹技術とな
る超軽量繊維を製造する試験機の導入およびボイド生成原理確認を重点的に
研究し、2年目(16年度)以降は、高効率ボイド生成技術(ポリマー設計、
発泡剤・ガス注入技術)や実際の製糸技術(紡糸、延伸あるいは量産化)な
どの応用技術に注力する計画とした。

32
5-2 研究開発実施者の実施体制・運営

実施者:帝人株式会社
帝人ファイバー株式会社
東レ株式会社

本技術開発は、公募による選定審査手続きを経て、帝人株式会社、帝人フ
ァイバー株式会社、東レ株式会社が経済産業省からの補助金(補助率 1/2)を
受けて実施した。また、再委託先として信州大学が参加した。

環境対応自己調節機能繊維 (帝人株式会社、帝人ファイバー株式会社)
製糸技術やその原料となるポリマー技術の開発ついては、これらの技術知
見を有する帝人ファイバー株式会社が実施し、ナノブレンドやナノアロイ化、
精密複合技術、委託研究開発進捗管理については、樹脂やフィルムなどの高
分子製品製造会社をグループ会社に有する帝人株式会社が実施し、それぞれ
応用研究、基礎研究を担当して効率的に推進した。研究開発の推進に当たっ
ては 1 回/月の頻度で情報交換、進捗報告を実施し、帝人株式会社はポリエス
テル繊維事業グループの技術開発担当の部署、帝人ファイバー株式会社は同
社繊維技術開発部が本技術開発に取り組んだ。
委託研究開発は、繊維および高分子に関する幅広い学術的基礎知見を有す
る信州大学へ委託し、1~2 回/月の頻度で進捗管理を行った。

超軽量繊維 (東レ株式会社)
本技術開発は、超軽量繊維に関する技術的知見を有する東レ株式会社(以
下「東レ」)が実施することにより、効率的に本事業を推進した。東レは、研
究開発にあたり、繊維製造における技術開発あるいは技術動向・市場ニーズ
などを把握しつつ、基礎的な研究においても効率的な深耕、推進を行うため、
再委託先(後述)と連携し、2ヶ月に1回以上の頻度で研究の進捗会議を開
催し、情報共有しながら実施した。
繊維研究所は、研究開発を実行推進する立場で本事業に取組んだ。なお、
本事業の実施にあたっては、以下に示す体制で臨んだ。

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【補助事業全体の進捗状況管理】

経済産業省

指導・監督 進捗報告

(共同提案者)
帝人株式会社、帝人ファイバー株式会社、
東レ株式会社

監督 進捗報告

(再委託先)
信州大学繊維学部

【研究計画および研究進捗状況の管理】
環境対応自己調節機能繊維
帝人株式会社 ポリエステル繊維事業グループCTO付技術開発担当 1名
帝人ファイバー株式会社 研究開発部門 繊維技術開発部 1名

超軽量繊維
東レ株式会社 繊維研究所 所長

【研究実施計画の検討・管理・実験担当など】
環境対応自己調節機能繊維
帝人株式会社 他 2 名、 帝人ファイバー株式会社 他9名

超軽量繊維
東レ株式会社 他7名

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5-3 資金配分
繊維産業では、新規な繊維を創造する際に、繊維を成形するための設備を
新たに設計・製作する必要があるほか、新たに発現する物理物性を定量的に
評価する評価設備が必要となる。本技術開発でも3元成分紡糸機、繊維中に
緻密な空隙構造(ボイド)を有する超軽量繊維の製糸設備、繊維物理物性の
評価設備など、設備費に重点を置いた資金配分とした。

【技術開発に要した予算】
技術開発に要した予算は、4年間総額 627.9 百万円(注:うち補助金総額 293.3
百万円)である。表に予算の支出内訳を示す。

環境対応自己調節機能繊維
<表:技術開発に要した予算の内訳(百万円)> 帝人株式会社
年度 H15 H16 H17 H18 合計
環境対応自己調節機能繊維
1.ポリマー設計 16.1 8.6 12.3 5.7 42.6
ナノブレンド、委託進捗管理
2.製糸技術 0 0 3.0 4.5 7.5
3 元製糸

合計 16.1 8.6 15.3 10.2 50.1


(注:うち補助金総額 24.3 百万円)

<表:技術開発に要した予算の内訳(百万円)>帝人ファイバー株式会社
年度 H15 H16 H17 H18 合計
環境対応自己調節機能繊維
1.ポリマー設計 2.9 7.4 8.9 12.9 32.1
吸湿・撥水ポリマー、機能剤
2.製糸技術 125.4 72.1 38.9 39.2 275.6
設備設置、単・2 元製糸
3.製布技術 0 0 8.9 12.9 21.8
布帛設計、仕上げ加工

合計 128.3 79.5 56.7 65.0 329.5


(注:うち補助金総額 148.0 百万円)

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超軽量繊維

<表:技術開発に要した予算の内訳(百万円)>東レ株式会社
H15 H16 H17 H18 合計
1. ポ リ マ ー ア 15.5 16.8 21.2 34.2 87.7
ロイ型軽量繊
維の製糸基礎
技術
2. 発 泡 型 軽 量 63.9 39.7 33.9 23.2 160.7
繊維の製糸基
礎技術
計 79.4 56.5 55.1 57.4 248.4
(注:うち補助金総額 121.0 百万円)

本技術開発において資金の過不足はなく、内部配分も妥当であった。

5-4 費用対効果

環境対応自己調節機能繊維
【成果適用のための具体的方法】
本技術開発により提供される環境対応自己調節機能を有する繊維素材の普
及によって、温調機器に関わるエネルギーの削減効果による省エネルギー効
果が期待される。以下にエネルギー削減量を示す。
本技術開発事業を実用化し、2020 年度に 20 世帯中 1 世帯に同繊維を用い
た布帛が普及し、エアコンの設定温度を冷房では 0.2 度高く、暖房では 0.2
度低くすることに成功したとすると、冷暖房の各設定温度 1 度当たりにおけ
る全世帯での年間原油削減量は 163 万 kl と見積もられる為、
163 万 kl × 0.2 × 1/20 = 16,300 kl/年 (2020 年度)
のエネルギー削減量が見込まれる。また、これを CO2 削減量に換算すると、
24,000t/年 の削減量となる。
このエネルギー削減量(原油換算量)を金額換算すると、原油価格1バレ
ル(約159リットル)=90US$(10,350円;H19年10月現在)の換算から
上記節約原油換算エネルギー量は、計25,000kl/年=10.6億円/年の削減に
相当する。
このことから、予算規模(補助金総額1.7億円)に対する本事業の成果は、
費用対効果の面からも十分なものであると考えられる。

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【市場創出効果】
本技術開発により提供される繊維素材は、快適性という点で、インナーや
アウター衣料、スポーツウェア用途、および寝装インテリア用途などへの新
素材としての展開が期待され、一方ではイージーケアや環境変化に対する特
に高齢者への潜在的な要求にも応えることができるものと考える。また、国
内だけでなく、世界中で需要が見込めるものと考える。これら新規な快適性
布帛によって、国内では7,600t/年の市場創出、原糸としては100億円規模の
市場につながることが期待される。

超軽量繊維
本技術開発により提供される繊維素材は超軽量であることから、素材使用
量低減や温調機器に関わるエネルギーの削減効果による省エネルギー効果が
期待されるものである。本技術開発において既に量産化技術検討のステージ
にあるポリマーアロイ型軽量繊維が実用化した場合を基にしたエネルギー削
減量を以下に示す。

【成果適用のための具体的方法】
(1) 成果適用での超軽量繊維製造におけるエネルギーの節約効果
繊維製造工程のうち同繊維の採用によってエネルギー投入量が節約される
のは、原料およびポリマー製造の段階である。超軽量繊維に使う繊維はポリ
エステルのみであるとの前提の下に、繊維比重4割削減と仮定して、当該工
程にかかる原油換算エネルギー量の総計を推計すれば、年間に節約される原
油換算エネルギー量は、15,700kl/年相当となる。

(2) 成果適用での用途における技術的・経済的効果、公害防止効果
自動車内装用素材のうち、直ちに超軽量繊維への代替が見込まれる部分の
繊維それぞれの品目毎の予想を積み上げると、市場に投入される内装材用繊
維の超軽量繊維への代替割合は4%と想定される。
本技術検討の適用においては、繊維比重を約4割削減するものであるため、
代替後は単位あたり4割の軽量化が図られるとする。これをもとに自動車内
装材用合成繊維の代替を、自動車のライフサイクルを10年とし、商品化10年
後に代替が完了すると仮定すると、代替完了後、1年間のエネルギー削減量
を原油換算すると14,000kl/年相当のエネルギー削減量が見込まれる。
また加えて、これら燃料消費量の削減に伴い、空気中のNOx、SOxお
よび炭酸ガス生成が抑制され、ひいては地球温暖化も抑制されるなど、公害
防止効果も奏功する。

37
以上(1)、(2)のエネルギー削減量(原油換算量)を金額換算すると、原油
価格1バレル(約159リットル)=90US$(10,350円;H19年10月現在)
の換算から上記節約原油換算エネルギー量は、計29,700kl/年=約19.3億円
/年の削減に相当する。一方で開発に要した費用は4年間で約2.5億円(うち
補助金は1.2億円)であることから、予算規模に対する本事業の成果は、費用
対効果の面からも省エネルギー効果の面からも十分なものであると考えられ
る。

【市場創出効果】
省資源化、省エネルギー化の観点で、素材の軽量化が必要とされる産業資材
用途、例えば車両内装材などへの適用により燃費効率向上に寄与できるため、
広範な車両用途での市場創出が期待される他、衣料用途においては軽量性や保
温性に基づく「快適性」を訴求しうるため、高機能アメニティ素材分野の市場
創出が考えられる。これらより、10,900t/年の軽量繊維素材需要の創出、最終
製品として550億円規模の軽量素材の市場につながることが期待され、市場創出
部分はそのうちの10%程度と想定される。

5-5 変化への対応

環境対応自己調節機能繊維
本技術開発においては、営業担当部署、企画管理部署と連携して、当該分
野の情報、市場ニーズ情報を収集し、毎年、年度当初に年度計画を確認し研
究開発を進めた。なお、当初の計画に影響を及ぼす変化はなかった。

超軽量繊維
本技術開発においては、営業部署とも連携して、約4半期に1回のペース
で市場ニーズ情報を集約、情報交換することで、具体的な用途および製糸技
術への適用性を探った。
また社会情勢の変化においては、原油価格の高騰により、より省エネルギ
ーに関しても市場ニーズの高まりを受け、安価な材料模索についても情報収
集を進めた。
さらに、本技術開発で開発した超軽量繊維は、当初予想していなかった光
反射繊維素材、あるいはタイヤ用繊維素材など、新たに発現した新規機能(物
理物性)を拠り所として、これまで関連の薄かった異業種に対しても素材提
案を行った。

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