You are on page 1of 8

アルタイ=カザフ牧畜社会における騎馬鷹狩猟の民族考古学

~無形文化遺産としての持続性に向けた複合研究~
Research Fellow, Watercope Project, University of Kassel, Germany
(助成当時:早稲田大学 大学院文学研究科博士後期課程史学(考古学)専攻 満期退学)

相馬 拓也

■1.本調査研究の内容・目的・期間・方法

査分析・解釈の手法が有効であり、以下の課題を実践した。
①鷹匠によるイヌワシ飼養・訓練、実猟技法について参与

【内容】 本研究は、モンゴル最西端アルタイ山脈北部に位

観察を行った(実務面)。また社会面ではイヌワシの捕獲・入

置する、バヤン・ウルギー県(Баян-Өлгий/Bayan-Ölgii)(図

手方法、保持のコスト、継承時期などを特定した(社会面)。
②県内 47 世帯の鷹匠家庭を含む牧畜活動従事者(以下、

1)の牧畜社会で継承される、イヌワシを用いた鷹狩の技法と
継承性についての民族考古学・生態人類学研究である。

マルチン)約100 世帯を訪問し、家畜の種別構成率、子畜再

「鷹狩」の技法は、おそらく 4000 年程度前にアルタイ山脈お

生産率、放牧面積、乗用馬保有数、夏冬営地の場所・移動

よび天山山脈など中央ユーラシア山岳地域の人々によって

路などを特定した。鷹狩猟と「季節移動型牧畜活動」との相

考案された[Soma 2012a]。世界各地で実践される「鷹狩文

互生産性について生態調査を実施した。

化」はその広範性や多様性から 2010 年 11 月、UNESCO の

【方法】 集中的な現地滞在型フィールドワークの展開により、

「Conservation for the Safeguarding of the Intangible Cultural

鷹狩猟の現状と鷹匠の生活実態について、網羅的な記録を

Heritage 」 ( 無 形 文 化 遺 産 ) と し て 正 式 に 登 録 さ れ た

行った。

[UNESCO 2010a, 2010b]。

(1)半構成的インタビュー/参与観察

特にアルタイ系カザフ人(以下、アルタイ=カザフ人)によ

サグサイ村の若い鷹匠ジンスベク氏宅で、約 100 日間の

り継承される鷹狩では、猛禽類最大のイヌワシ(Golden

住み込み滞在を行った。滞在中、近隣の鷹匠およびマルチ

Eagle;Aquila chrysaetos daphanea)のみを飼養・馴化し、狩

ンからコンセントを取得し、半構成的インタビューを広範囲

猟も騎馬により行われる(図 2)。その主な狩猟対象はキツネ

に実施した(横断調査)。また、イヌワシの飼養・訓練、社会

(Vulpes vulpes)、コサックギツネ(Vulpes corsac)などの中型

的役割、実猟活動などの参与観察・実見・記録を行った。加

獣にほぼ限定されており、日本や西欧のように水鳥や小動

えて熟練した古老へのインタビューを行い、狩猟・飼養技術

物を積極的に捕獲するものではない[相馬 2012, Soma

の古式について特定した(縦断調査)。

2012b]。

(2)家畜頭数と種別構成率の把握/家畜の行動分析
き ば た か が り り ょ う

各家庭における家畜所有頭数、種別構成率、子畜再生産

いわばこの「騎馬鷹狩猟」は、冬季にカザフの民族衣装に
不可欠な毛皮材の獲得を、その主目的に実践されてきた。

率、年間消費数を、聞き取り調査と統計局の内部資料にもと

伝統的なカザフ・コミュニティでは、毛皮は慶弔事における

づき特定した。また季節移動の生態要件と社会要件につい

贈呈品としても価値を持った。さらに、かつてイヌワシを自ら

ても、その現状を把握した。家畜の行動分析は、ヒツジもしく

手なずけキツネを捕獲することは、「カザフ男児」としてのイ

はヤギの種オス(群内高順位)を選定し、その首に GPS 発信

ニシエーションでもあった。それは単なる「狩猟行為」ではな

機(Gamin 社製品 Map62s、Astro220)を取り付け、一日の移

く、民族固有文化の「社会実践」であったことから、時代を超

動距離、行動範囲、歩行・静止比率などを追跡した。

えて長らく継承されてきた。近年はアルタイ地域のカザフ人

(3)共同調査

にとって「民族文化の誇り」という象徴性を帯び、「無形文化

ウルギーの行政政府と関係諸機関、地域の有力牧夫など

遺産」として確立され、現在にいたっている。

からの情報収集の必要から、モンゴル国立大学 S. バトトル

【目的】 本年度調査では無形文化遺産としての文化の持続

ガ教授(専門:文化人類学)と、各種情報および資料収集を

性および未来への継承をその見通しに据え、①騎馬鷹狩猟

共同で行った(共同調査の経費は会計報告書に計上、成果

の成立に不可欠な社会・文化的背景は何か、②騎馬鷹狩猟

は共同論文として文末に記載した)。この共同調査により、

に不可欠な生態基盤は何か、という 2 つの問題提起をした。

バヤン・ウルギー県の各行政諸機関・組織(以下記載)への

研究テーマの遂行上、生態人類学および民族考古学の調

インタビューが実現した。

- 327 -

2012 年 6 月 1 日~15 日/ 7 月 31 日~9 月 8 日(56 日間) サグサイ村(図 3)を拠点に、近隣の鷹匠宅およびマルチ 2003]、2013 年1 月現在で推定150 名以下に減少していると ン家族への訪問を通じて、イヌワシの飼育、給餌、訓練に加 考えられる。2011 年度の調査を通じて、「社会総体としての え、冬営地・夏営地での生活誌全般、についての参与観察、 保護・保全」の必要性という新たな課題が浮き彫りとなった。 半構成的インタビューを行った。バトトルガ教授との第 1 回 共同調査(8 月 21 日~26 日)を行った。 上記の現状から、本年度調査では無形文化遺産としての 持続可能性に向けた複合研究を実施した。 ◎第 2 回フィールドワーク調査 ■3.臨地調査の結果① 2012 年 9 月 29 日~10 月 27 日(29 日間) サグサイ村を拠点に、第 1 回フィールドワークを継続し、 鷹狩文化をめぐる社会的持続性 アルタイ村、トルボ村、ボヤント村、ウランフス村などに巡検 を行った。また鷹具・民具の調査・収集も合わせて行った。 3-1.【インタビュー協力者】 ウルギー県検察庁長官、モンゴル なった[Soma 2007. 鷹狩文化継承の多様性と地域差 ◎第 3 回フィールドワーク調査 鷹狩および鷹匠の詳細な民族誌については、昨年度報 告書および、文末に記載した成果一覧の論文中にて詳述し 2012 年 12 月 17 日~2013 年月 1 日 11 日(26 日間) サグサイ村の滞在先における家畜行動分析、さらにジン スベク氏の狩猟活動に同行し、参与観察を行った。またバト たため、本報告では騎馬鷹狩猟その存続に重要と思われる 社会・文化的側面について要約した。 トルガ教授との第 2 回共同調査(2012 年 12 月 30 日~2013 県内には現在も 150 名程度の鷹匠がいると推測されるが、 年 1 月 4 日)を行った。 その多くが狩猟行為を行わなくなっており、全く出猟経験の 【期待される成果】 本研究の達成により、学術面として①騎 ない鷹匠が大部分を占めるようになっている。本年度の調 馬鷹狩猟の文化形成的側面、②アルタイ=カザフ鷹匠の生 査では、47 名の鷹匠からイヌワシ保持・継承の時期を聞き取 活実態と現状、③鷹狩猟と牧畜活動の生業複合性とその生 り、地域別にその継承時期を特定した(表 1)。 態基盤、などの解明が期待される。これらは古代世界にお サグサイ村では以前から鷹匠が多く存在し、その継承が ける鷹狩猟の広まりや、遊牧社会の生業形態を類推する際 行われてきた。現在も 28 名の鷹匠が確認された。しかし昨 の実証的事例として分野を横断した汎用性がある。また社 今、年に 2 度開催される「イヌワシ祭」(図 3)への参加と、観 会面として、無形文化遺産としての保護とその計画策定に向 光客へのデモンストレーションを主目的として鷹狩文化が継 けた生態人類学的・学術的根拠としての役割が期待される。 続している背景がある。そのため出猟の伝統は廃れ、狩猟 経験がまったくない鷹匠がその大部分を占めている。さらに ■2.当該研究の状況:先学および自身の研究により既に解 イヌワシ飼養についての知識がほとんどない「イヌワシ保持 明されていること、いないこと 者」が多数を占めるようになり、イヌワシの健康状態の低下 や後述する死亡例などが確認された。牧畜活動に従事しな アルタイ=カザフの鷹狩文化は、その基礎研究やアセス い定住者の鷹匠は、全県でもサグサイ村に集中している。 メントが急がれる一方、当該分野・地域についての先行研究 トルボ村では鷹匠の現存数は 13 名のみだが、他地域で はほとんどなく、また学術的・科学的に統合された調査報告 は行われなくなった出猟の伝統が継続されている。猟銃、 もない。唯一Бикумар[1994a. 1994b]が90年代に鷹匠の「民 自動車、携帯電話等を動員し、イヌワシや騎馬に頼らない新 俗」全般を記録しているが、人々が参照できる状態としてほ しい狩猟方法が継承発展した。また 8 名のうち 3 名が独自に とんど残されていない。 鷹狩を始めており、鷹匠家系以外の人が鷹狩を継続する伝 関連分野として、申請者自身によるキルギス共和国イシ 統が、かなり以前から定着していた。しかし 2000 年以降、新 ク・クル湖岸での鷹狩・鷹匠の調査から、鷹狩猟は牧畜社会 たに鷹匠となる若い世代は 1 人もいない。そのため、鷹狩文 をその文化成立の前提(生態基盤)としている事が明らかと 化と出猟の伝統の存続がもっとも危ぶまれる地域でもある。 .328 - . 相馬2008]。また 2011 年度から当該地 =カザフ鷹匠協会会長および副会長、アルタイ・ツアー社 域サグサイ村における継続的な調査により、アルタイ=カザ 長、モンゴル=イスラーム協会会長、ムスリム同盟会長、社 フ騎馬鷹狩猟の歴史的深淵性、生態環境に依存した文化性 会経済研究所所長、県立博物館館長ほか。 質、イヌワシ飼養と馴化方法、給餌における経済的負担など に加え、イヌワシ飼養と鷹狩猟の遂行のためには、同地の 【期間】 牧畜活動と出猟実践の維持継続が不可欠であることが明ら ◎第 1 回フィールドワーク調査 かとなりつつある[Soma 2012a~d]。さらに、2000 年初めに は 400 名程度とされた鷹匠の現存数は[Баян-Өлгий Аймаг.

4 頭(8.000~200.000 円)程度の相場で取引されている。そのため いるが、トルボ村だけは自動車やオートバイを移動に動員し 営巣地を見つけても、その販売を目的としている際は鷹匠 た「近代化」された狩猟方法が現在でも盛んに行われている に限らず他言することはない。 (デルーン村でも一部の鷹匠による実猟が行われている)。 サグサイ村を例とすると、調査年度中 6 月に K 氏(51 歳) こうした現状を概観すると、鷹狩文化はその本質からの変 が 2 羽の雌ヒナを捕獲し、9 月まで自らの自宅で飼養した。 容形態をいわば「民族の表象」として、文脈の喪失を認めな その後、成長した幼鳥 1 羽を B(35 歳)氏へ、さらに 1 羽を がらも今後も継続するように思われる。ただし脱文脈化は後 KY(38 歳)氏へ 100.アルタイ村では、鷹匠家系(故コマルカン氏一家)とその への返還という伝統が、イヌワシの幼鳥死亡率を低下させ、 親族による継承が一般的であり、鷹匠家系以外の鷹狩開始 繁殖率に良い効果をもたらすと推察[Soma 2012b]。しかし はほとんど行われなった。村と周辺の現存数は 9 名であり、 現状では、鷹狩用に捕獲されたイヌワシの一部はその飼養 その内コマルカン氏の親族が5名を占める(図4)。高名な鷹 中に死に至り、また転売等によって再び自然へ返されること 匠でもあったコマルカン氏宅には多くの観光客や写真家が はほぼなくなりつつある。こうした伝統の喪失は、将来的に 訪問し、イヌワシ祭への参加は例年の行事となっている。た イヌワシの生息環境と繁殖状況に悪影響を及ぼすと考えら だし出猟は行われなくなっており、その継承も特定家族に れるため、ガイドラインや鳥獣保護の施行・管理の必要性が 部分的といえる。 求められる。 以上のように、3 村における継承と実践には地域性が見出 され、その地域ごとの保全や維持が必要と思われる。 3-3.9 頭(51.6%)、ヒツジ 40. イヌワシとヒナの取引 が随所に見いだされ、地域によってその継承への動機も多 イヌワシとそのヒナの取引を通じた金銭的なやりとりは、地 様化している。「イヌワシ祭」の開催は、鷹狩文化の維持・存 域の鷹匠の間では頻繁に行われている(図 5)。カザフには 続に大きく関与していることは、ウルギー全域に共通してい かつて、ヒナを巣から直接捕えて飼養し、5 歳に達した春に る。しかし文化保存に肯定的な影響力を誇る一方で、伝統 山へと返す伝統があった。しかし現在は罠を用いた成鳥の 的な鷹狩文化の形骸化を加速ささせている。近年、その「脱 捕獲や、他者からの購入が一般化しており、イヌワシのヒナ 文脈化」の傾向は著しく、その性質的変容には正負ともに大 捕獲技術の伝統喪失や、動物資源管理の観点から正負両 きな影響力を持っている。特に祭への参加は、サグサイ村 方の側面がある。また山へと返還する伝統は全く実践されて やアルタイ村の鷹匠たちにとって、イヌワシ保持のモチベー おらず、役目を終えてもさらに他者へと売却されている。ヒ ションとなっている。しかし一方ではトルボ村のように、祭へ ナの捕獲と取引は、地域の鷹匠にとって現金収入の手段と の参加経験者が皆無で、その関心もきわめて低い地域もあ なりつつある。巣立ち前のヒナは、100.522 頭、全所有数 シを譲りうけ、EB 氏は成長を再び手に入れた。2011 年 8 月 の合計は 5.329 - .2%)であった。ラクダ所有家庭は 3 家族 4 頭 .5%)、ヤギ 筆者は昨年度の拙論で、ヒナの捕獲・養育と 5 歳での山 56.000~12.691 頭、子畜は計 1.000MNT る。また出猟行為自体はほとんどの地域で廃れてしまって (6.4 頭(36.1 羽、交代 5 羽、死亡による喪失 3 羽、売却 3 羽であった。 頭(3.213 頭であった(表5)。成獣と子畜を合わせた平 からの保有ワシの変更点をまとめると、イヌワシの新規取得2 均家畜所有総数はおよそ 110 頭となり、その内訳はウマ 4.6%)、ウシ 9. 考察:鷹狩文化継承の多様性について アルタイの鷹狩文化は、伝統的手法からの大幅な変更点 3-2.000 円)で売却した。また 述のように、鷹狩文化に不可欠な生態環境との相互依存の KE 氏(46 歳)宅でも 12 歳ワシが春に死んだため、5 月末に サイクルからの、あきらかな離脱であることは間違いない。 独自にヒナを捕獲した。OA 氏(61 歳)宅でも 5 月頃にヒナを 購入し、高齢になった 13 歳ワシと世代交代を行っている。新 ■4.臨地調査の結果② たなイヌワシ保有は ER 氏が成長(推定 3~4 歳)を罠で捕え、 生態基盤としての移動牧畜 D 氏親子が 6 歳ワシを購入した。飼養の負担から、イヌワシ を手放したMA氏(25 歳)も1 名確認された。こうしたやり取り 4-1. サグサイ村の家畜保有頭数の現状 の背景の一つに、イヌワシ保持による観光客誘致や、イヌワ サグサイ村と隣接する冬営地を中心に、125 家族の家畜 シ祭への参加が挙げられる。また、伝統的な飼養方法が実 保有頭数を特定した。資料はウルギー県統計局の行った春 践されておらず、イヌワシの飼養中の死亡喪失が頻発する の調査に同行してデータを参照し、加えて家庭訪問と聞き ようになったことも挙げられる。調査期間中、前述の KE 氏宅 取りによりその正確な実数を補正した(表 2~表 4)。 で 12 歳ワシが、S 氏(54 歳)宅では 5 歳ワシ、B 氏宅でも 2 ブテウ冬営地に限定して、47 世帯の家畜所有数を調査し 歳ワシが死に至った。S 氏は親戚の EB(34 歳)氏から 3 歳ワ たところ、成獣は計 3.000MNT(約 6.

000 頭以上の家畜が共同放牧されている[目視確認]。さら 間は湿地帯となり、良質な牧草が利用できるため、自然放牧 に EJ 氏-約 350 頭/JT 氏 450 頭/KJ 氏 300 頭前後を所有 の手法が一般化したと考えられる。 しており、裕福なマルチンに分類される。これらすべてを合 わせて概算すると、ブテウ冬営地全体の放牧頭数(成獣・子 4-3.1~3.330 - 平成 24 年度の調査研究では、特に(1)社会的側面として .1km で、気温と風量などによる顕著な影響を受け 貧困家族にとってイヌワシへの給餌肉確保はきわめて大き 2 た。この距離に対応した採食範囲は 17.8%であり、全体の 3 割程度を生 一方、翌日 28 日は良く晴れ渡り、一日の歩行距離も増加し 産性のない子畜が占めることが確認された。成獣と子畜の た。また 5 日間の追跡のなかで、混牧群は一度も同じ場所 構成率の差は、家畜種別毎に 0.000~13. 家畜の行動分析 大幅に落ち込む傾向がある。その実数は年間の平均的な消 GPS 機材を用いた家畜の行動分析により、家畜群の移動 費頭数と同等、もしくはやや下回る。そのため Mg/Lg 世帯 距離、行動範囲、静止・歩行比率などが部分的に明らかとな でない限り、家族を支えながらイヌワシを飼養することは生 った。酷寒状況の中で機材などに不備が生じたため、以下 活生計の面から困難を生じると考えられる。 2012 年 12 月 22~28 日の 4 日間分のみを暫定的な結果と ブテウ冬営地では、ほぼ全ての家庭でヒツジ・ヤギ群の して報告する(23~25 日は機材の不具合によりデータを紛 日々の放牧行動には人為的な管理をしておらず、人的介入 失した)(表 6)。 を伴わない「自然放牧」が行われている。この自然放牧では、 調査対象は 39 頭のヒツジ・ヤギの混牧群(ヒツジ 8 頭、ヤ 家畜群自らに採草地の選定や繁殖機会を任せているため、 ギ 31 頭)を対象とし、最高位にある種オスヤギ(図 9)を選定 毎年の家畜群の大幅な増産・増加は見込めない。こうした事 して GPS 機器をその首に取り付けた。一日の平均歩行距離 情に加え、出猟しないために獲物が確保できず、結果として は 1.7%以内の範囲となり、 での採食活動を行わなかった。これはヒツジ・ヤギ群が自ら 種別では構成率に有意な差は見られなかった。 採食地を日々選定しているためと考えられる。 ブテウ冬営地は良好な牧草環境が整っている反面、その こうした日々の放牧活動に、朝晩の厩舎からの追い出し 常在家畜数はそれほど多くはない。合計家畜所有数 200 頭 を除いて、家畜群保有者による人的介入は一切行われなか 以上のマルチンは、6 世帯のみ(n = 47 世帯中)であり、大多 った。冬営地全体でも、牧夫同伴の小家畜群放牧は、2 家族 数の 41 世帯は、200 頭以下の家畜所有者である。そのうち のみが確認された。家畜の自由選択にもとづく自然放牧で 半数以上の 27 世帯は、100 頭以下の小規模家畜所有者とな は、家畜群の効率的な肥育は期待できないと考えられる。し っている。ただし数量調査で協力を得られなかったブテウ西 かしブテウ冬営地は北と東を河川で分断されており、小家畜 端の 2 世帯(B 氏ほか 3 世帯/S 氏ほか 3 世帯)では、合計 群が自ら渡河を行うことはない。また 4 月~10 月までの半年 1.8%/29.643m と算 な負担となっていると考えられる。 出された。この数値からは、冬季は夏季に比べてきわめて 限定された範囲内しか採食歩行しないことが判明した。一日 ■5.本研究課題の社会的意義 の放牧時間内における移動活動時間は 12~28%であり、7 無形文化遺産としての持続性と保全 割以上の時間を移動せずに採草・反芻するか、外壁や物陰 に寄り添って不活動となる。とくに猛烈な強風が吹いた 27 日 .000 頭以上の成獣家畜保有者は 2 家族のみであり、Lg は 17 歳、男 10 歳、女 21 歳)では、2011 年 4 月~2012 年 3 月 6 世帯、Mg は 14 世帯であり、Sg は 27 世帯である。Lg では の年間家畜消費量はウマ 1 頭、ウシ 1 頭、ヒツジ 12 頭、ヤギ ヒツジの比率が有意に高くなるが、MgおよびSg世帯ではヤ 15 頭であった。イヌワシの 1 年間の給餌に必要な肉は、ヒツ ギの比率が高くなる(表 2)。貧困層はヤギ放牧に依存して ジ(もしくはヤギ)6~8 頭分にもなる。つまり自己消費とイヌワ おり、対象とした 47 家族中半数以上が家畜保有頭数 100 頭 シ給餌用で、ヒツジとヤギ合わせて少なくとも 35 頭程度の再 以下の貧困層に属すると考えられる。 生産が見込めなければ、イヌワシの保持は困難と考えられ る。子畜の出生率は、成獣の保有頭数が 100 頭を下回ると 4-2.6~0.000 頭程度と推定される。 家畜保有頭数調査と家畜行動学的分析から、イヌワシの 家畜の所有平均値「110頭」の近似値を基準とし、201頭以 上の所有者を「大規模家畜群保有者(Lg)」、200~101 頭を 保有は比較的裕福な Mg および Lg 世帯に限定される傾向 がある。 「中規模家畜群保有者(Mg)」、100 頭以下を「小規模家畜群 年間のヒツジ、ヤギの消費数はそれぞれ 12~20 頭前後 保有者(Sg)」の 3 グループを比較すると、ブテウ冬営地では が一般的である。典型的な Sg 世帯の KS 氏宅(男 20 歳、男 1. 考察:イヌワシ保持に必要な最低家畜保有頭数 畜)の概算は 12.1%)のみで、その利用方法は運搬目的であった。全成獣 は、厩舎外に出しても家屋の外壁から離れようとしなかった。 と子畜の比率は 70.925~67.(0.

2013. <http://www. (in press). Takuya. Takuya.org/acss2012_offprints/ACSS2012_offprint_0271.41): The Newsletter of the Middle East Falcon Strasbourg (France): Analytrics. Then and Now. Ұланбатыр. In Official を築いた。これは、文化保護・整備を進める際の学術的根拠 Proceedings of International Conference of Tourism and として、今後のその社会的役割が期待される。 the Shifting Values of Cultural Heritage: Visiting Pasts. いる。さらにイヌワシやそのヒナをめぐる取引が日常化して 2013. の存続の本質があるといえる。 2012a. ‘Kyrgyz Falconry & Falconers and its Transition’. In. In. Ulaanbaatar. 2011. ‘Ethnographic Study of Altaic Kazakh’. In HERITAGE 2012 (vol. ‘Ethnoarchaeology of Ancient Falconry in る一方で、伝統的な飼養・訓育の技術、出猟活動は行われ East Asia’. In Proceedings of International Congress of Humanities and Social (2) Soma. Research Group. 乗用馬の保持・育成、伝統的技術の継承者の育成など、単 130-139. Birds of Hustai National しかし現状では、小規模な牧畜家庭でのイヌワシ飼養は困 Park. 307-316. Tashkent: Academy of Uzbekistan/ UNESCO. 167-182. (in press).pdf> ■本助成にもとづく成果 Soma. edited by Guy Tchibozo. the University of Birmingham. (in press).analytrics. Osaka はいわば「ディスプレイ化」された民族表象の一部となって (Japan): The International Academic Forum (IAFOR). falco (no. Қазақтың Дәстүраи Аншылығы. 2013. Қазақтың Дәстүраи Аншылығы. 2012b. ‘The Art of Horse-Riding Falconry by Altai-Kazakh Falconers’. Nagoya 動」ではなく存立環境を「保全」してゆく事前対策にこそ、そ (Japan): The International Academic Forum (IAFOR). In The Asian Conference on the Social Sciences 2012 せない不可逆的な文脈である以上、鷹狩文化は「保護運 Official Conference Proceedings. ‘Intangible Cultural Heritage of Arts and Knowledge for Coexisting with Golden Eagles - (1)相馬拓也.「鷹狩文化の継承の地域性と多様性」、また(2)生態的側面 (3) Soma. Hustai National Park & Mongolian 難であり、毎年少なくとも 35 頭以上の子畜再生産、100 頭以 Ornithological Society: 55. 上の家畜保有数がない限り、その保持は困難と予想される。 Баян-Өлгий Аймаг. Бикұмар.2): . Suhee. Falconers’. Гамма: 3. Takuya.Аймагийн Гелер Зургийн こうした点から、家畜肥育と放牧管理の体系化、またイヌワシ Цомог. ‘Heritage Tourism and として「牧畜生産の継続による生態基盤の必要性」、に焦点 Altaic Kazakh Falconry in Western Mongolia: “The Golden を定め、無形文化遺産としての持続性に向けた論理的基礎 Eagle Festival” as an Axis of Cultural Alteration’. Takuya. 所有者への助成なども有効な施策になると考えられる。 平成23~24 年度の 2 ヵ年の調査期間を通じて本研究は、 アルタイ=カザフの鷹狩文化が自然環境や動物資源との共 生の上に不安定に成り立つ無形文化、いわば「自然遺産」 であることを複合的に追及した。その意味するところは、イヌ Өлгий: 1994b. In Proceedings of Great Silk Road ワシの生息環境の保護や、牧畜管理による給餌肉の確保と Conference. ヒトと動物の関係学会誌 35. UK: International Wildlife Abu Dabi). Soma. Takuya. 性が多様化しており、その地域の文化継承に対応し、かつ Taipei: Ironbridge International Institute for Cultural 補完するような施策が必要であることが明らかとなった。とく Heritage. に「イヌワシ祭」への参加を視野としたイヌワシ保有者が増え (4) Soma. Consultants Ltd (sponsored by The Environmental Agency. 2013. Баян-Өлгий . & Usukhjargal. the Sciences Research. Takuya. (in press). 純な「文化遺産保護」「伝統復興」のような文化保存運動だけ では、本来の文脈を維持しながら持続的に継続することは 難しい環境と相互依存的に成立し、一度失われると元に戻 2007. <http://iafor.org/Pages/HSSSubmittingforPublication. (1)社会・文化的側面では、地域によって鷹狩文化の継承 Developing Futures: edited by Mike Robinson. Conference Proceeding of 3rd Asian なくっている。そのため脱文脈化の傾向が著しく、鷹狩文化 Conference on Asian Studies (ACAS). ‘Ethnoarchaeology of Horse-Riding Falconry’. おり、生物資源の管理も含めた対策が必要と思われる。 (2)生態的側面として、牧畜生産の文脈の中で鷹狩を位 ■参考文献 置づけると、牧畜活動による増産や子畜再生産の効率化は、 イヌワシ保持に要する給餌の負担を軽減すると考えられる。 Gombobaatar. Takuya and Battulga. S. Кәмәлашұлы.aspx> Soma. D. Бикұмар.331 - . Soma. 2003. ‘アルタイ=カザフ鷹匠たちの狩猟誌:モンゴ Ethnographic Studies in “Horseback Eagle-Hunting” of ル西部アグジャル山地における騎馬鷹狩猟の実践と技 Altai-Kazakh 法の現在’. Өлгий: 1994a. Кәмәлашұлы. Culture and Traditions.

pdf> 相馬拓也. 2012c. 2012.ac.ijih. UNESCO: 1-28. 2010a. Falconry. Porto (Portugal): Green Line Institute for (Fifth session.jp/chiri/PDF/2008No16. 00442. Takuya. Nairobi. For ■図表 ロ シ ア ウルギー市 モ ン ゴ ル ウランフス村 サグサイ村 トルボ村 アルタイ村 中 国 0 100km ©Google Earth 図 1 モンゴル、バヤン・ウルギー県、調査対象地域 図 3 「イヌワシ祭 2012」の様子 図 2 狩場での騎馬鷹狩猟の風景 図 4 アルタイ村の鷹匠たち . Seoul: The National Folk Museum of Korea. 形象なき文化遺産としての狩猟技術:キルギス共 103-111. <E-Book ISBN: 978-989-95671-8-4>. Sérgio Lira. Soma.ijih?cmd=volumeView&volNo=7&manu < http://bungakubu. Nomination File NO. UNESCO.unesco. ヒトと動 UNESCO.kokushikan. Cultural Heritage.332 - . November 2010). for the Safeguarding of the Intangible Cultural Heritage 1499-1506. 2013) Intangible Heritage vol.org/volumeMgr.php?lg=en&pg= Western Mongolia’ In The International Journal of 00011&RL=00732> (Accessed: 28th February. Sustainable Development.Proceedings of the 3rd International Conference on Inscription on the Representative List of the Intangible Heritage and Sustainable Development. Kenya.7. 和国イシク・クル湖岸における鷹狩猟のエスノグラフィ. <http://www. a Living Human Heritage. アルタイ=カザフ鷹匠による騎馬鷹狩猟:イヌワ Type=02> シと鷹匠の夏季生活誌についての基礎調査. 相馬拓也. Convention for the Safeguarding of the Intangible 物の関係学会誌 32: 38-47. 2010b. edited by Alissandra Cummins. 2008. 2012d. ‘Contemporary Falconry in Altai-Kazakh in <http://www. Intergovernmental Committee Rogério Amoêda. 国士舘大学地理学報告 16: 99-106. edited by Cultural Heritage in 2010.org/culture/ich/index. & Cristina Pinheiro.

図 5 捕えられた 10 日齢前後のヒナ 表1 鷹匠の鷹狩開始年齢 Case* Age** Age of Beginning Unknown A1 75 A2 56 25 1981 A3 51 22 1983 A4 50 25 1987 A5 45 15 1982 A6 39 17 1990 A7 30 20 2002 A8 30 22 2004 B1 53 37 1996 S1 95 30 1951 S2 74 20 1958 S3 71 22 1963 S4 66 30 1976 S5 65 25 1972 S6 61 30 1981 S7 55 15 1972 S8 54 30 1988 S9 51 35 1996 S10 51 30 1991 S11 47 39 2003 S12 46 26 1992 S13 44 25 1993 S14 40 22 1994 S15 36 15 1991 S16 34 17 1995 S17 32 25 2005 S18 28 16 2000 S19 27 10 1995 S20 25 15 2002 S21 22 22 2012 S22 20 16 2008 S23 17 11 2006 T1 90 30 1952 T2 70 15 1957 T3 65 19 1966 T4 58 43 1997 T5 54 40 1998 T6 49 20 1983 T7 46 42 2008 T8 45 23 1990 U1 80 30 1962 Unknown U2 71 U3 63 46 1995 U4 56 15 1971 U5 52 20 1980 U6 46 32 1998 U7 35 25 2002 n= 47 (person) * In order of age at each region ** As of October 2012 図 6 追跡した 6 歳齢の種オスヤギ 1930’s 1940's 1950's 1960's 1970's 1980's 1990's 2000's Region Altai Bogot Sagsai Tolbo Ulaan-hus 4 3 .333 - 4 9 14 10 1 .

4% 4.9 62.089 800 2.3 / 87.892 3 96 131 1.5 Camel 1 0.6% 45.5 14.780 head Goat Total Camel 0.592 3.3% 5.631 6.7km 17925sqm 2h05min 35min 1h29min (28.9 11.9% Goat 30.334 - 28th (fri) 3.5% 3.378 2.5% 57.5 / 87.表2 サグサイ村とその周辺世帯 (n=125)の家畜保有頭数(規模・世帯別)based on Statistic Department as of May 2012 Adult Juvenile Household Camel Horse Cattle Sheep Goat Total Camel Horse Cattle Sheep Lg 201 ~ 700 head (n=15) 13 266 326 3.0% Sg 0 ~ 100 head (n=71) 0.6) 0.263 1.7) 0.1% 49. 2012 Distance Sphere Range Total Grazing Time Stopping Time Moving Move/ Stop (%) Average Speed Speed Moving Avrage Max Speed Camel 4 0.9 3.9 11.728 2.9km/h 8km/h 26th (wed) 2.4km/h 3.0% 40.337 6.421 1.4% 4.1km 67643sqm 7h46min 58min 6h48min (12.1% 46.4 head 表5 ブテウ冬営地における家畜保有頭数(規模・世帯別) Livestocks* Avarage Proportion * total 47 households 表6 種オスヤギのGPS追跡記録 December.9% Adult Cattle Sheep 305 1.4km/h 3.526 5.5 Horse 6.7% 4.2% Total 2.2% 4.5 50.401 1 65 158 607 Total 58 702 980 7.5% 0.5% 10.9% 9.9 9.663 Mg 101 ~ 200 head (n=39) 36 249 304 2.2% Horse 3.1% 0.1% 0.7% 37.5km/h .1 0.0 1.2 8.1km/h 6km/h 27th (thu) 1.0% 49.5 28.691 78.7% 6.997 14.0% 5.902 40.2% 45.3% 37.2 147.4 Juvenile Cattle Sheep 8.1 3.5% 5.5% Total 3.5% 5.522 head 32.9% Goat 774 16.9% Mg 101 ~ 200 head (n=39) 0.112 Sg 0 ~ 100 head (n=71) 9 187 350 1.1 23.1km 1437 sqm 4h59min 13min 4h46min (4.382 Goat 835 1.9 head Goat 1.4 8.7km 17244sqm 6h56min 51min 6h05min (12.8% 61.1 0.5 / 95.7 110.8km/h 2.8% Avarage 0.2% 22th (sat) 1.7 27.8% 31.0 266.3% Juvenile Cattle Sheep 136 561 2.9 Total 181.6% 表4 サグサイ村とその周辺世帯 (n=125)の子畜の平均出生数 Adult Households Camel Horse Cattle Sheep Lg 201 ~ 700 head (n=15) Mg 101 ~ 200 head (n=39) Sg 0 ~ 100 head (n=71) Total Camel 0.1% Horse 143 3.0 0.724 表3 サグサイ村とその周辺世帯 (n=125)の家畜種別構成率(規模・世帯別) Adult Household Camel Horse Cattle Sheep Goat Lg 201 ~ 700 head (n=15) 0.2% 6.9 Goat 55.3 / 71.2km/h 5km/h .5 51.9% 36.408 1.5 2.4 1.786 15 244 415 3.3% 36.3 94.5) 0.9% Total 1.7) 0.0% 3.3% 46.0 3.2km/h 5km/h 2.879 5.6% 47.4 2.6% Juvenile Cattle Sheep 4.7% 40.2 28.049 5.9 8.1 0.493 11 83 126 1.5% 43.1% Horse 50 1.