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イヌワシと鷲使いにみる「ヒトと動物の調和遺産」の可能性

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モンゴル西部アルタイ系カザフ鷹狩文化の伝統知とその持続性の現場から

“The Human-Animal Harmonious Heritage” between
the Master and Golden Eagle
Traditional Arts and its Sustainability of Altaic Kazakh Falconry in Western Mongolia
相馬拓也(カッセル大)
相馬拓也(カッセル大)
SOMA Takuya (University of Kassel)
キーワード:騎馬鷹狩猟、鷹匠、牧畜社会、無形文化遺産、生態人類学
Keywords: Horse Riding Falconry, Eagle Falconer, Animal Herding Society,
Intangible Cultural Heritage, Ecological Anthropology
1. はじめに
モンゴル西部バヤン・ウルギー県の少数民族アルタイ系カザフ
人の牧畜社会では、イヌワシ(Aquila chrysaetos daphanea)を用い

に生活する鷹匠との生活・参与観察、日常の会話、半構成インタビ
ューにより行った。
3. 結果と考察

た鷹狩技法がいまも存続し、同県内には 150 名程度の鷹匠(鷲使

集中的な民族誌調査により、(1)アルタイ、サグサイ、トルボ、ウ

い)が現存すると考えられる。発表者は 2006 年9 月より同地域で調

ランフス各村域内の鷹匠の実数、サグサイ村周辺の鷹匠たちの具

査研究に携わっており、2011~2011 年度の 2 カ年は、長期滞在型

体的な生活形態(定住型/移牧型)、イヌワシの飼養方法が明らか

の民族誌記録、生態人類学、民族鳥類学の各領域でフィールドワ

となった。また冬季の狩猟技術(キツネ狩り)の手法および実猟活

ークを行った。鷹狩は冬季のみに行われ、キツネ(Vulpes sp.)がお

動の実践者の減少が判明した。(2)生態面として、鷹狩(冬季)と牧

もな捕獲対象とされている。また出猟は必ず騎馬によって行われる

畜活動(夏季)が相互の活動を補助しあう相業依存の成立基盤が

騎馬猟である。この「騎馬鷹狩猟」の伝統知と技法はかつて、キル

明らかとなった。また、一度馴化したイヌワシを4~5 歳で再び野生

ギス、中国・新疆などの牧畜社会で広く見られたと考えられるが、

へと帰す文化的慣例により、人的介入がもたらすイヌワシ個体数維

現在も「生きた伝統」として継承されるのはアルタイ地域のみで確

持への貢献が推察された。(3)文化保護面の課題としては、イヌワ

認されている。その独自性は 2010 年 11 月、UNESCO の「世界無

シ飼養・馴化の伝統知と出猟活動は失われつつあり、馴致過程で

形文化遺産」に正式に登記され、近年国内外の注目を集めるよう

のイヌワシ死亡率の増加、観光客相手のデモンストレーションへの

にもなっている。しかし、数世紀にわたる特殊な狩猟技法やイヌワ

特化など、脱文脈化の著しい傾向が判明した。

シとの共生観、伝統知の体系を育んだにもかかわらず、同地域と

4. おわりに

テーマの先行研究は寡少であり、鷹匠と鷹狩についての基本的な
知見もほとんど把握されていない現状がある。

以上の知見から、アルタイ系カザフ人の鷹狩文化は(I)天然資
源の保全、(II)牧畜経済の生産活動、(III)伝統知の継承、の 3 領

そのため本研究では、無形文化遺産でもある同地の鷹狩技法

域に依存的に成立しており、これらの持続的発展が文化遺産とし

に科学的知見を確立するとともに、その文化持続性・継承性に向

ての本質的な存続につながると定義される。はじめに(I)天然資源

けて生態人類学および民族鳥類学の立場から、以下の貢献を試

の保全では、捕獲対象獣であるキツネおよびイヌワシの生息数な

みるものである。①考古学資料を用いた広域アジアにおける鷹狩

ど、天然資源の保全はその前提条件である。続いて(II)季節移動

技法の文化的深度の特定、②民族誌記録活動、地元鷹匠たちの

型牧畜の持続的開発では、鷹狩文化の生態学的基盤は単純な金

現状、生活実態、イヌワシ飼養方法の網羅的・民族学的把握、③

銭・資源供与型の文化保護ではその文脈の維持・継承は難しく、

文化遺産として持続可能な文化保護計画の学術的定義、施策の

貧困世帯の経済状況の底上げに通ずるような、牧畜社会への間

方向性、マスタープラン策定の提言、の現地社会でも特に要請度

接的開発支援が求められる。さらに(III)鷹狩の伝統知と技法の保

の高い 3 つの調査対象を設定した。

護では、狩猟活動の継続にともなう「伝統的知と技法」の継承が、

2. 対象と方法

鷹狩文化の継承を安定化する直接的保護と考えられる。そしてア

本調査は 2011 年 7 月 29 日から 2013 年 1 月 10 日の期間でお

ルタイ系カザフ人の騎馬鷹狩猟とは、イヌワシと鷲使いたちが数世

よそ 310 日間、バヤン・ウルギー県サグサイ村の鷹匠家庭への住

紀にわたり共生を模索しながら伝承された、「ヒトと動物の調和遺産」

み込み滞在により実施した。情報収集はアンケートによらず、近隣

との可能性が見いだされる。