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相馬拓也（2012）アルタイ＝カザフ牧畜社会における鷹匠と騎馬鷹狩猟の現在『ヒトと動物の関係学会誌（2012年春大会抄録）』

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Takuya Soma (2012) Contemporary Horse-riding Falconry and Falconers in Altai-Kazakh Nomadic Society, HARs 《キーワード》アルタイ山脈, 遊牧民, バヤンウルギー,　イヌワシ, 無形文化遺産, 牧畜, HAI, サグサイ, 西部モンゴル, 鷹狩, 鷹匠 Keywords Altai Mountains, animal-herding economy, Bayan-Ölgii, ecology, ethnic identity, ethnic minority, golden eagle, heritage sociology, transhumance, human-animal interaction, Sagsai, zoo-anthropology, Mongolia　　本研究発表は、モンゴル西部バヤン・ウルギー県（Bayan-Ölgii）のアルタイ＝カザフ人の牧畜社会で現在も行われる、イヌワシを用いた鷹狩技法・鷹匠文化の文化人類学調査と、民族誌記録・保存活動に関する成果報告である。申請者は2006年より同地域での調査研究・記録活動を継続的に行っており、2011年度は財団法人梨学術奨励基金「平成23 年度調査研究助成」の資金的サポートを受け、調査研究を進めている。　バヤン・ウルギー県には、およそ400名の鷹匠が現存すると推測されている。アルタイ＝カザフの鷹匠（eagle masters/ eagle hunters）は、鷹狩で一般的なハヤブサやタカなどの猛禽は用いず、メスのイヌワシ（Aquila chrysaetos daphanea）のみを馴化・訓練して狩猟に用いる。鷹匠の主な捕獲対象はキツネとカルサックであり、鷹狩は捕獲獣の毛皮とその加工工芸品の販売を目的とした「生業実猟」「経済活動」として、牧畜社会に定着してきた背景がある。また狩猟行為は必ず騎馬によって行われる騎馬猟である。この世界的にも類まれな「騎馬鷹狩猟」の知と技法は現在、アルタイ＝カザフ社会の鷹匠のみによって伝承・継続されている。牧畜を主体とした生業世界のなかで独自の役割と文化を育んだ鷹匠の知恵と技術は、「無形文化遺産」として定義される十分な可能性を有している。【課題】しかし、きわめて独自性の高い特殊行為と文化形態を育んだにもかかわらず、同地域とテーマの研究事例は寡少であり、鷹匠と鷹狩の基本的な実態もいまだに把握されていない。アルタイ＝カザフの鷹匠と鷹狩の伝統、とくに古法については、カザフスタン本国ではほぼ消滅してしまっている。現地社会でも鷹匠文化や鷹狩技術の希少性への認識が芽生え始めているにもかかわらず、民族誌情報・記録資料などの不足から、「無形文化遺産」として学術的・科学的見地から十分に認識・定義されているとは言い難い。【目的】そのため本研究では、①鷹匠の生活実態と鷹狩文化の網羅的・民族学的把握、②民族誌記録活動の展開と民具資料の収集、③無形文化遺産としての学術的定義および持続可能な保護計画の方向性・マスタープラン策定の模索、の現地社会でも特に要請度の高い3つの課題に焦点を当てている。【方法】上記の課題・目的を踏まえ2011 年7 月29 日から2012 年1月24日の期間、モンゴル、ヤン・ウルギー県サグサイ村の鷹匠家庭に住み込み滞在を行い、近隣に生活する鷹匠に対して文化人類学調査（参与観察・インタビュー）を行った。また県内各村への巡検を実施し、横断調査として鷹匠の現存数・生活実態の把握、イヌワシの飼養技術と鷹狩技法の記録、民族資料収集、などを実施した。また縦断調査として熟練の鷹匠30名へのインタビュー（記録活動）を実施した。【結果】集中的な民族誌調査によって、（1）社会的側面としてサグサイ村周辺の鷹匠の生活形態（定住型／移牧型）とその実態、および狩猟技術が明らかとなった。また鷹狩と牧畜が季節毎に生業を補助しあう、季節サイクルの相互生業依存という社会的役割が明らかとなりつつある。（2）さらに生態的側面としては、一度馴化したイヌワシを5歳に達したときに再び野生へと帰す文化的慣例により、アルタイ全域でのイヌワシの個体数の維持・増加への貢献が推察された。（3）加えて文化遺産保護の課題としては、イヌワシを飼養・馴化する伝統は維持されているにもかかわらず、冬季の実猟活動（キツネ狩り）の実践者の減少が明らかとなった。【考察】アルタイ＝カザフ牧畜社会における鷹狩と鷹匠の文化は、これまで知られていなかったイヌワシとヒトの文化的深層での有機的・調和的関係観を提示している。騎馬鷹狩猟の成立は、「イヌワシの生息」「移牧型牧畜社会の維持」「鷹匠の知と技法」の、普段の相互作用によって維持成立されている。そしてその生態基盤の解明は、全世界の「鷹狩文化」の持続可能性と保護計画の模索にとって普遍性を有している。この意味でアルタイ＝カザフの騎馬鷹狩猟とは、鷹匠とイヌワシが数千年にわたり共生の道を模索してきた、知恵と技術の無形文化遺産（＝「人獣調和遺産」）と定義することが可能である。