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Abstract /口頭発表抄録(3.

11)
O-28

アルタイ=カザフ牧畜社会における鷹匠と
騎馬鷹狩猟の現在
Contemporary Horseriding-Falconry and Falconers in Altai-Kazakh Nomadic Society
相馬 拓也

早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程史学(考古学)専攻満期退学

Takuya SOMA

Doctoral Course in Archaeology, the Graduate School of Letters, Arts and Sciences, Waseda University

 本研究発表は、モンゴル西部バヤン・ウルギー県のアルタ
イ=カザフ人の牧畜社会で現在も行われる、
イヌワシを用いた

も特に要請度の高い 3 つの課題に焦点を当てている。

【方法】

鷹狩技法・鷹匠文化の文化人類学調査と、民族誌記録・保存

 上記の課題・目的を踏まえ 2011 年 7 月 29 日から 2012 年 1

活動に関する成果報告である。申請者は 2006 年より同地域で

月 24 日の期間、モンゴル、バヤン・ウルギー県サグサイ村の鷹

の調査研究・記録活動を継続的に行っており、2011 年度は財

匠家庭に住み込み滞在を行い、近隣に生活する鷹匠に対して

団法人梨学術奨励基金「平成 23 年度調査研究助成」の資金的

文化人類学調査(参与観察・インタビュー)を行った。また県

サポートを受け、調査研究を進めている。

内各村への巡検を実施し、横断調査として鷹匠の現存数・生

 バヤン・ウルギー県には、およそ 400 名の鷹匠が現存すると

活実態の把握、イヌワシの飼養技術と鷹狩技法の記録、民族資

推測されている。アルタイ=カザフの鷹匠は、鷹狩で一般的

料収集、などを実施した。また縦断調査として熟練の鷹匠30名

なハヤブサやタカなどの猛禽は用いず、メスのイヌワシ(Aquila

へのインタビュー(記録活動)を実施した。

chrysaetos daphanea )のみを馴化・訓練して狩猟に用いる。鷹

【結果】
:集中的な民族誌調査によって、(1)社会的側面とし

匠の主な捕獲対象はキツネとカルサックであり、鷹狩は捕獲

てサグサイ村周辺の鷹匠の生活形態(定住型/移牧型)とその

獣の毛皮とその加工工芸品の販売を目的とした「生業実猟」
「経

実態、および狩猟技術が明らかとなった。また鷹狩と牧畜が季

済活動」として、牧畜社会に定着してきた背景がある。また狩

節毎に生業を補助しあう、季節サイクルの相互生業依存とい

猟行為は必ず騎馬によって行われる騎馬猟である。この世界的

う社会的役割が明らかとなりつつある。
(2)さらに生態的側面

にも類まれな「騎馬鷹狩猟」の知と技法は現在、アルタイ=カザ

としては、一度馴化したイヌワシを 5 歳に達したときに再び野

フ社会の鷹匠のみによって伝承・継続されている。牧畜を主

生へと帰す文化的慣例により、アルタイ全域でのイヌワシの個

体とした生業世界のなかで独自の役割と文化を育んだ鷹匠の

体数の維持・増加への貢献が推察された。(3)加えて文化遺

知恵と技術は、
「無形文化遺産」として定義される十分な可能

産保護の課題としては、イヌワシを飼養・馴化する伝統は維持

性を有している。

されているにもかかわらず、冬季の実猟活動(キツネ狩り)の実

【課題】
 しかし、きわめて独自性の高い特殊行為と文化形態を育んだ

践者の減少が明らかとなった。

【考察】

にもかかわらず、同地域とテーマの研究事例は寡少であり、鷹

 アルタイ=カザフ牧畜社会における鷹狩と鷹匠の文化は、こ

匠と鷹狩の基本的な実態もいまだに把握されていない。アルタ

れまで知られていなかったイヌワシとヒトの文化的深層での有

イ=カザフの鷹匠と鷹狩の伝統、とくに古法については、カザ

機的・調和的関係観を提示している。騎馬鷹狩猟の成立は、

フスタン本国ではほぼ消滅してしまっている。現地社会でも鷹

「イヌワシの生息」「移牧型牧畜社会の維持」「鷹匠の知と技

匠文化や鷹狩技術の希少性への認識が芽生え始めているにも

法」の、普段の相互作用によって維持成立されている。そして

かかわらず、民族誌情報・記録資料などの不足から、「無形文

その生態基盤の解明は、全世界の「鷹狩文化」の持続可能性と

化遺産」として学術的・科学的見地から十分に認識・定義さ

保護計画の模索にとって普遍性を有している。この意味でアル

れているとは言い難い。

タイ=カザフの騎馬鷹狩猟とは、鷹匠とイヌワシが数千年に

【目的】
 そのため本研究では、①鷹匠の生活実態と鷹狩文化の網羅

わたり共生の道を模索してきた、知恵と技術の無形文化遺産
(=「人獣調和遺産」)と定義することが可能である。

的・民族学的把握、②民族誌記録活動の展開と民具資料の収
集、③無形文化遺産としての学術的定義および持続可能な保
護計画の方向性・マスタープラン策定の模索、の現地社会で
Japanese Journal of Human Animal Relations 2012.3

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