原子力発電所近辺での小児がんを説明する仮説  

イアン・フェアリー  
 
英語原文はこちら(有料)、英語原文 PDF はこちら  
 
   
ハイライト  
 
• 原子力発電所近辺でのがんの増加について、世界中で 60 以上の調査が行
われてきており、そのほとんどで白血病の増加をしめしている。  
• ドイツ政府の KiKK 調査研究は、非常に有力な証拠を提供している。  
• 本仮説は、がんは原発近辺に居住する妊婦への放射線被ばくによって発生
すると提案する。  
• 燃料棒交換時の放射性核種の大気中への放出スパイク(急上昇)が被ばく
の増加に繋がる可能性がある。  
• 公式の線量推計値とリスク増加との間の食い違いについての説明がされて
いる。  
 
アブストラクト  
 
世界中の 60 以上の疫学研究により、原発近辺での小児がん発症率が調査されて
きた。ほとんどの研究で白血病の増加が示されている。このうちのひとつ、ドイ
ツ政府から委託された 2008 年 KiKK 調査研究では、ドイツのすべての原発で、5  
km 以内に居住している乳幼児においての相対リスク(RR)が、全がんで 1.6、
白血病で 2.2 であることが判明した。KiKK 調査研究は、これらのがんの増加の
理由についての議論を再燃させた。本稿で提案されている仮説は、がんの増加は、
原発近くに居住する妊婦への放射線被ばくにより引き起こされるとしている。し
かし、どのような理論でも、原発からの放出物による公式線量推計値と観察され
たリスク増加の間に1万倍以上の食い違いがあることを説明できねばならない。
ひとつの説明としては、原発からの放射性核種の大気放出スパイクによる線量が、
年間平均を用いることにより希釈されてしまっている公式モデルの線量推計値よ
りも、大幅に上回る可能性が考えられる。さらに、胎芽と胎児へのリスクは、成
人へのリスクよりも大きく、造血組織の放射線感受性は、新生児よりも胎芽と胎
児でもっと大きいと思われる。被ばく線量の増加の可能性と線量あたりのリスク
の増加の可能性を掛け合わせた積が、説明となるかもしれない。  
 
 
1.はじめに  
 
1950 年代初めに、Folley ら(1952)により、原爆被爆者において白血病リスク
の増加が観察された。1950 年末には、Stewart ら(1958)が放射線被ばくによ
り白血病発症率が上昇するのを観察した。それ以来、多くの研究(BEIR,  1990;  

Preston ら,  1994;  IARC,  1999)が、医療・職業・環境由来の放射線被ばくが白血
病のリスク要因だと示してきた。さらに、それ以前のエコロジカル研究とケース
コントロール研究(Forman ら,  1987;  Gardner,  1991;  Pobel  and  Viel,  1997)が、
原子力発電所とその近辺での小児白血病との関連性を明らかにした。  
 
1980 年代後半から 1990 年代初期に、英国のいくつかの原子力施設近辺で小児
白血病の発症率の増加が報告され、これに対して色々な説明が提示されたが、英
国政府の「環境における放射線の医学的側面に関する委員会(COMARE)」は、
一連の報告書(1986;  1988;  1989;  1996)で、理由は不明であるが、放射線被ば
くが関連しているとは考えにくいと結論づけた。これは主に、これらの施設から
放出された放射線量の公式推計値が、白血病増加の原因となるには桁違いに低過
ぎたからである。実際、どの理論であっても、原発から放出される放射能からの
線量の公式推計値と観察されたリスク増加の間の、10,000 倍以上にもなる大き
な食い違いを説明する必要がある。  
 
世界中での疫学的証拠のパターンは、現在、明らかに、原子力発電所近辺での白
血病リスクの増加を示している。Laurier と Bard(1999)と、Laurier ら(2008)
は、世界中の原発近辺での小児白血病に関する文献を考察した。これらの 2 つ
の研究では、60 以上の研究が確認された。これらの研究の独立したレビュー
(Fairlie と Körblein,  2010)では、ほとんどの研究で、小児白血病のわずかな増
加が明らかになったが、多くの場合は統計的に有為ではなかったことが示された。
Laurier と Bard と、Laurier らのほとんどは、フランスの放射線防護・原子力安
全研究所(IRSN)に所属しており、  ほとんどの原発の近くで小児白血病のクラ
スターが存在したことを確認したが、それより広範な結論を出すことは避けた。
Fairlie と Körblein(2010)のレビュー論文は、原子力施設近辺での、特に小さ
な子どもにおける白血病発症率増加を示す証拠は大量にあり、かなり説得力があ
るものだと結論づけた。  
 
この結論は、各国の多施設研究のメタ分析 2 つにより裏付けられた。Baker と
Hoel(2007)は、英国、カナダ、フランス、米国、ドイツ、日本とスペインの
136 の原子力施設を考慮した 17 の研究論文のデータを評価したが、9 歳以下の
子どもで、白血病死亡率が 5−24%高く、白血病罹患率が 14−21%高かった。し
かし、この分析は、Spix と Blettner(2009)に批判された。  
 
Körblein(2009)による 2 つ目のメタ分析は、ドイツ、フランスと英国の原発を
考慮し、原発近辺での小児白血病リスクと白血病死の相対リスク(RR  =  1.33;  片
側 p 値  =  0.0246)の統計的に有意な増加を見つけた。さらに他の研究(Guizard
ら,  2001;  Hoffman ら,  2007)が、フランスとドイツでの白血病発症率増加を示し
た。しかし COMARE(2005;  2006)は、この結論を支持しなかった。  
 
後に、Bithell ら(2008)により英国の、Laurier ら(2008)によりフランスの原
発近くでの小児白血病の増加が見つかったが、どちらのケースでも症例数は少な

く、統計的有意さが見られなかった。すなわち、この増加が偶然であった可能性
が 5%以上あるということだった。しかし、これらの増加を報告するのではなく、
研究は、ただ統計的有意さが欠けていたためだけの理由で、英国とフランスの原
子炉近辺での白血病の増加は「証拠がない」(Bithell)や「示唆されない」
(Laurier)というような誤った結論に達した。これらの結論は間違っていた。
著者らは、観察された白血病増加を報告し、それが偶然起こった確率が 5%より
大きいと付け加えるべきだった。  
 
さらに詳細に説明すると、p 値(すなわち、観察された影響が偶然であるかもし
れない確率)は、影響の大きさと研究サイズの大きさに影響される(Whitley と
Ball,  2002)。これが意味するところは、統計的有意さのカットオフ値(普通は
p  =  5%)を恣意的に設定することは、統計的に有意ではないというだけで帰無仮
説(すなわち、影響なし)を間違って受け入れることになるために、統計的検定
の際には注意が必要だということである(Sterne と Smith,  2001)。これは、第
二種過誤の可能性を生む。これはしばしば小規模の研究で起こるが、その理由は、
影響がないというよりも、サンプルサイズが小さいためである。(Everett ら,  
1998)。Axelson(2004)は、多くの疫学研究で統計的に陰性の結果が見られる
場合、実際に存在するリスクが隠されているかもしれないために、それらの研究
の妥当性が疑問であると指摘している。  
 
2.  KiKK 調査研究  
 
KiKK 調査研究では、ドイツのすべての原発から 5  km 以内に居住する乳児と 5
歳以下の子どもの中で、白血病で 120%の増加、全がんで 60%の増加が見つか
った(Kaatsch ら,  2008b;  Spix ら,  2008)。原発への近さに伴うリスク増加は、距
離の逆数の傾向で検定された場合、全がん(p  =  0.0034,  片側)でも白血病(P  =  
0.0044)でも統計的に有意だった。  
 
KiKK 調査研究は、大規模かつ適切に実施された研究である。その調査結果は科
学的に正確で、証拠は特に強力である。そして研究を委託したドイツ政府の連邦
放射線防護庁は、その調査結果を確認している。連邦放射線防護庁に指名された
専門家グループは、「本研究では、ドイツ国内で、診断時の居住地から最寄りの
原発への距離と、5 歳の誕生日の前にがん(特に白血病)を発症するリスクに相
関性があることが確認された。本研究は、どの生物学的リスク要因がこの関係を
説明できるかを述べることはできない。電離放射線への被ばくは、測定もモデリ
ングもされなかった。この研究で以前の結果を再現はできるが、現在の放射線生
物学的および疫学的知見は、ドイツの原発から通常運転中に放出される電離放射
線が原因であると結論づけることを許容するものではない。本研究は、交絡因子、
選択あるいは無作為さが、観察された距離傾向に影響を与えているのかを、確証
的に明確にすることはできない」と述べた(BfS,  2008  )[訳註:このリンクは削
除されており、最新の専門家グループ報告書はこちらである]。  
 

ひとつの問題の可能性は、KiKK 調査研究が、妊娠初期の居住地でなく、白血病
診断時の居住地からの距離を考慮したということである。本仮説(下記参照)が
正しいのであれば、これは結果に不確実性を加えることになる。これに対処する
最善の方法は、妊娠初期時の居住地を把握する新研究である。  
 
3.  KiKK 調査研究後の研究  
 
KiKK 調査研究は、小児白血病論争を再燃させ(Nussbaum,  2009)、その結果、
英国(COMARE,  2011)、フランス(Sermage-­‐Faure ら,  2012)とスイス
(Spycher ら,  2011)での研究が行われた。KiKK 調査研究の調査地域からのデー
タを用いたドイツでの地理的研究(Kaatsch ら,  2008a)を加えると、現在、デザ
インが似ており、エンドポイント、距離の定義と年齢カテゴリーが同じのデータ
セットが4組存在する。これらの 4 研究の結果は似ており、特に、原発から 5  
km 圏内での白血病の増加は、表 1(Table  1)に示されているように、ほぼ同じ
である。  
 
Körblein と Fairlie(2012)は、これらの 4 研究から、原発から 5  km 以内に居住
する 5 歳未満の子どもにおける急性白血病のデータを統合解析した。5  km 圏内
での標準化罹患比(SIR)は表 1 に示され、全体の SIR は、1.37(90%  CI:  1.13-­‐
1.66,  p  =  0.042,  片側)だった。  
 

 
また、白血病リスクの距離依存性の形を調査するために、Körblein と Fairlie
(2012)は、4 組のデータセットを合わせ、距離の逆数への線形および線形二
次的依存性を用いてポアソン回帰分析を行った。図 1(Figure  1)で示されてい
るように、線形二次モデルがデータにより適合した。  
 

 

 
 
赤池情報量規準で最も適合したのは、5  km 圏内での過剰発生率を  >5  km 圏での
発生率と比較して推計したモデルだった。著者らは、距離が r  ≥  5  km の場合の
SIR が 0.95(0.90-­‐1.00)であると発見した。この 2 つの SIR から、相対リスクの
1.37/0.95  =  1.44(p  =  0.0018)が得られた。片側検定では、この結果は非常に有
意であった(p  =  0.0009)。この統合解析は、原発近辺での白血病増加の統計的
に強力な証拠を提供し、これは、承前の著者らの統計的に有意でないという供述
と矛盾した。  
 
上記の証拠の優位を考慮すると、小児白血病発生率と原子力施設への近さとの関
連性に関する異議はない。議論の残りは、その原因および、エネルギー政策への
影響についてである。  
 
4.原発近辺でのがんの増加の理由は何なのか?  
 
KiKK 調査研究の著者らは、「報告された結果は(中略)放射線生物学的および
疫学的考察下では予期されるものではなかった」、そして、白血病の増加は「説
明ができないままである」と述べた。そして、「小児がんと、特に小児白血病に
関しては、この[KiKK 調査研究の]結果に対する必要強度であるリスク要因がな
いことが知られている。」と付け加えた(Kaatsch ら,  2008b)。  
 
原子力施設付近での白血病クラスターが、1984 年に英国のセラフィールド原子
力施設付近で初めて発見されて以来、これらのがんの増加の原因の可能性につい
て多くの議論がなされてきた。しかし、1980 年代よりも今の方が、原因を確か
めることに少し近づいている。  
 
人口混合によるウィルス仮説(Kinlen,  2004)、小児における感染症への異常な
反応(Greaves,  2006)、がんへの遺伝的素因、あるいは複合要素などの、様々
な案が提示されてきている。これらのどれも、KiKK 調査研究の中心的な結果で

 

ある、がんの増加が原発への近さと強く関連していたということに言及していな
い。また、Garder ら(1990)は、小児白血病とセラフィールドからの距離の有
意な関連性は、父親が受けた職業被ばくの線量で説明できると示唆したが、白血
病の発症率増加は、ひとつの村、シースケール、すなわち、母親ら全員が居住し
ていた場所のみに限定されており、一方、父親らは広範囲に居住していた。  
 
環境曝露間での相互作用で、まだ理解されていないものがあるかもしれないため、
この増加は、複合要因により引き起こされている可能性がある。例えば、放射線
と化学物質の相乗効果は、がんリスクを増加させる働きがあるかもしれない
(Koppe ら,  2006;  Wheldon ら,  1989)。この理由は、KiKK 研究調査では探究さ
れなかったが、原発からの微量の化学物質の放出によるリスクは非常に少ないと
推定される。ほとんどの観察者は、原発から放出される化学物質の影響を気にし
ておらず、それを考察した研究はあるにしても多くはない。その一方で、放射線
被ばくは白血病の増加をもたらす可能性があり、原発から放出される放射性物質
は大量である。  
 
Körblein(2008)は、また別の説明を提示した。線量−リスク関係は、線形では
なく、曲線(すなわち、超線形)であるというのだ。これは、なぜ影響が原発近
辺の 5  km 以内に留められているのか、そしてなぜ、毎年燃料棒が交換される際
に起こる放射性核種の大気放出スパイクが放射線リスクに矛盾した影響を持つか、
の説明になる。後者のポイントは、下記で議論されている。  
 
5.仮説:環境放出からの胎内被ばく  
 
がんの増加は、原発近辺に居住する妊婦の胎内の胎芽や胎児への、原発からの気
体状および液体状の放射性放出物による放射線被ばくに起因する、という仮説が
立てられる。この仮説は以前にも討論されているが(Fairlie,  2010)、この論考
は、さらに理論を広げ、大気放出スパイクと統合解析結果に関する新たな情報も
入れており、推定被ばく線量と観察されたリスクの間の約 1 万から 10 万倍にも
なる隔たりの説明を試みている。  
 
この理論は、KiKK 調査研究では、増加した固形がんのほとんどが「胎児性」で
あった、すなわち、新生児が固形がん、あるいは生後に完全な腫瘍に発達した前
がん組織を持って生まれてきたという観察に起因する。図 4(Figure  4)で示さ
れているように、これは白血病でも起こる。  
 
この理論はまた、KiKK 調査研究の、乳児と子どもの白血病発症率の増加は原発
の排気筒への近さと綿密に関連していたという知見にも起因している。  
 
この仮説は、大体毎年起こる原発からの放出スパイクが、原発近辺に居住する妊
婦による放射性核種の取り込みに繋がり、結果として胎内の胎芽や胎児がラベリ
ングされるということである。これらの放射性核種濃度は、長期にわたって存在

し、胎芽や胎児の放射線感受性を持つ組織への高線量の被ばくに寄与し、その後、
がんをもたらす可能性がある。これは、30 年以上前に、カナダのトロント近辺
の原子力施設からのトリチウム[汚染水]の放出による健康影響の可能性を調査し
たオンタリオ水力問題特別委員会への証言(Provincial  Government  of  Ontario,  
1978)において、BEIR  III 委員会の前委員長の故・エドワード・ラッドフォード
教授によって初めて提案された。  
 
この仮説には 5 つの主な要素がある。まず1つ目は、がんの増加が原発からの
大気放出物による放射線被ばくに由来するかもしれないということ。2つ目は、
原発からの大気放出スパイクが、原発から 5  km 圏内に居住する住民への線量率
を大きく増加させるかもしれないということ。3つ目は、観察されたがんが胎内
で発生するかもしれないということ。4つ目は、胎芽と胎児への線量とリスクが
現在理解されているよりも大きいかもしれないということ。そして5つ目は、胎
児期の造血細胞の放射線感受性が非常に高いかもしれないということ。これらの
5つの要素を合わせると、原発からの放出による放射線被ばく量推定値と KiKK
研究調査で観察された影響との間の 1 万-10 万倍の食い違いについて、可能な
説明を提供することができる。  
 
5.1 原発からの放射性放出物  
 
原発からくる放射能の主なものは、その相対的に大きな放射性核種の放出である。
これについては、表 2(Table  2)を参照のこと。KiKK 調査研究の設定時に原発
からの放出物が想定されていたのは、原発の排気筒からの距離が測定され、モニ
ターされた地域は大多数が原発から風下だったことから分かる。  
 

 
 
原子炉の炉心からの直接的なガンマ線や中性子、炉心の中性子からのスカイシャ
インの地面への反射、電線からの電磁波放射線、例えば作業員の作業服による自
宅の放射能汚染なども考慮はされたが、どれも、原発からの比較的大きな放射性
核種の放出と比べると、詳細に検証されていない。  
 
原発からの放射能放出は、大気への放出と、ドイツでは川へ、他国では海洋への
放出を通して起こる。   人への集団線量のほとんどは、大気への放出に起因する。
原発の放出核種による放射線リスクは、ほとんど文献で議論されていない。
Evrard ら(2006)は、フランスの原子力施設近辺での白血病発症率を、ガス状

の放出物からの推定被ばく量に基づいた地理的区域を用いて推計した。この研究
では、被ばく線量が最大のグループで白血病リスクの増加は見つからなかったが、
年間μSv という非常に低線量の推定値に依存しており、これがどのように算出
されたのかの説明がなく、大きな不確かさを含むかもしれない。  
 
C−14(炭素 14)と H−3(トリチウム)の大気への放出は比較的多く、原発付近
の草木や食物での放射性核種濃度を高くする。トリチウム(H-­‐3)の半減期は
12.3 年、炭素 14 の半減期は 5730 年である。原発付近の草木や食物の水分内で
のトリチウム濃度のドイツのデータがないために、カナダのデータが示されてい
る(図 2、Figure  2)。カナダの重水炉からのトリチウムの放出は PWR 型や
BWR 型原子炉からよりもはるかに大きいが、どのタイプの原子炉の近くでも、
草木や食物内の放射性核種濃度の上昇は同じパターンで起こると予期される。他
のタイプの原子炉の近くでのトリチウム濃度は、英国政府の年次報告(RIFE,  
2011)から入手できる。  
 

 

 
図 1(Figure  1)によると、リスク−近さの関係性は、1/r2 に比例しており、傾き
(10  km までの距離では)は約マイナス 2 である。観察されたトリチウム濃度−
距離の関係性は、KiKK 調査研究の回帰分析で示された、5  km 圏内でのリスク−
距離の関係性と似ている。  
 
5.2 放射性核種の大気放出スパイク  
 
原発での放射性核種の大気放出スパイクは、一年に一度ほど、使用済み核燃料を
新しい核燃料と取り替えるために、原子炉が開けられ減圧された時に起こる。図
3(Figure  3)では、2011 年 9 月 19−25 日の第 38 週間目のドイツのグンドレミ
ンゲン原発 C 号機の排気筒内の 30 分ごとの希ガス濃度が示されている。トリチ
ウムと炭素 14 とその他の放射性核種は、希ガスと同時に放出されると予期され
る。  

 
 
このデータを入手した核戦争防止国際医師会議ドイツ支部(IPPNW,  2011)によ
ると、1 年の間の平時の希ガス濃度は、約 3  kBq/m3 である。2011 年 9 月 22-­‐23
日の点検時および燃料棒交換時には、これが 1470  kBq/m3、すなわち、平時の
濃度の約 500 倍に上昇した。この週の間の希ガス放出量は、年間推定放出量の
ほぼ半分だった(Körblein,  2008)。  
 
これらの大気放出スパイクが起こっている間の原子力発電所近辺と風下の住民ら
への被ばく量は、年間の他の放出時より、もっと大きいかもしれず、その推計値
は 20 倍から 100 倍の範囲である。その理由は、部分的には放出期間に関連して

いる。短期の放出は、細いプルームを発生させるからである。もっと長期の放出
の場合、プルームの幅が大きくなり(幅は、期間の分数冪として非線形的に異な
る)、結果として、放出された Bq ごとの個人線量が低下する。また理由の一部
は、大気放出スパイクが環境物質と人体により高濃度の汚染をもたらし、体内で
の滞留時間が長くなり、特に有機結合型トリチウムと有機炭素からの被ばく線量
が、結果として高くなるからである。  
 
英国の全国線量評価ワーキンググループ(NDAWG,  2011)は、大気への短期放
出に関する指針を発表した。これによると、年間放出量すべてが単一の短期間に
起こったと注意深く仮定すると、「(前略)一度の現実的な短期放出の評価によ
る線量は、継続した放出の評価による線量より 20 倍大きい」。それ以前の研究
(Hinrichsen,  2001)では、線量は最大 100 倍かもしれないと示されている。実
際の線量の増加は、原子炉への距離、プルームの幅、風速、風向きと地元住民の
食生活や習慣などを含む多くの要因に依存する。ここでは、吸入被ばく量が経口
摂取からの被ばく量よりも多いことは暗黙の了解である。原発近辺(2−3  km 圏
内)では、ほとんどの環境輸送モデルで吸入被ばく線量の方が経口摂取の被ばく
線量よりも大きいと予測するが、もっと遠くではその反対が真実である。  
 
現時点では、原発近辺の重要なグループへの線量は、いまだに継続放出評価法に
よって計算されている。  
 
5.3 観察されたがんは胎内で発生するかもしれない  
 
上記のように、この仮定は、KiKK 調査研究で増加した固形がんが胎児性だった、
すなわち、新生児ががんを持って生まれて来たという観察に起因している。
Rössig と Jürgens(2008)は、乳児白血病は胎内で発生し、出生後まで完全な白
血病に発展しないと示唆しており、これは図 4 に示されている。  
 

 

 

5.4 胎芽と胎児の胎内被ばくへの放射線感受性  
 
胎内被ばくによる放射線リスク、すなわち、胎芽と胎児の放射線感受性に関する
一番良いデータは、1950 年代から 1970 年代に Stewart ら(1956)によって行
われた、英国オックスフォード小児がん調査(OSCC)である。もっと最近では、
Wakeford(2008)が、オックスフォード小児がん調査および世界中の 30 以上
の同様の研究のデータを包括的に再考した。後の研究では、スチュアートにより
最初に発見された 15 歳未満の子どもにおける胎内被ばくのリスクの存在と規模
が確認された。Wakeford と Little(2003)は、その前に、OSCC と他のデータか
ら、(母体の)X 線への腹部照射に起因する、15 歳未満の小児における白血病
の相対リスク(RR)が 1 グレイあたり 52(95%  CI:  28,76)であると推定してい
た。  
 
このリスク推定値を提案された仮説に適用するには、3 つの訂正をしなければい
けない。まず最初に、白血病診断のピーク年齢は 2−3 歳なので、5 歳未満
(KiKK 調査研究での設定)での白血病リスクは、15 歳未満でよりも大きい。こ
れにより、相対リスクの平均は約 1.5 倍大きくなる。  
 
また、オックスフォード小児がん調査での被ばく例のほとんど(90%以上)が、
妊娠後期に起こっており、妊娠初期での被ばくであれば、リスクはおそらく 5
倍ほど大きくなると推定されている(Stewart ら,  1958)。  
 
さらに、これらのリスクは X 線外部照射によるものだが、本仮説で論じている
リスクは、内部被ばくに起因すると仮定されている。内部被ばくの推定値はあま
り存在しないが、Fucic ら(2008)によると、体内の放射性核種からの胎内リス
クは、ちなみにこれは白血病ではなくて自然流産の場合であるが、X 線からのリ
スクの 4−5 倍であると提案されている。これらの因子を掛け合わせると、妊娠
初期における放射性核種の内部被ばくからの、0−5 歳での白血病の相対リスクは
次のように計算される。  
 
RR  =  1 グレイあたり 52(オックスフォード小児がん調査)x  1.5(0−5 歳児)  
x  5(妊娠初期)x  5(内部被ばく)  
   =  1 グレイあたり 1,950  =  1 ミリグレイあたり約 2  
 
これが正しければ、ヒトの胎芽と胎児の放射線感受性は、現在認識されているよ
りもはるかに高いことが示唆される。また、年間約 1  mGy のガンマ線の平均自
然放射線量(ラドンを除く)が、自然発生の小児白血病の大きな原因である可能
性を持つことが示唆される。これは既に提案されている(Wakeford ら,  2009;  
Mobbs ら,  2009)。  
 
興味深いことに、上記の相対リスク推計値の 1  mGy あたり約 2 というのは、他
の研究からのリスク推定値と似ている。Stevenson(2001)は、妊娠初期での胎

内被ばく後の小児白血病の倍加線量が約 2  mSv であると観察した。そして、
Stewart ら(1956)は、英国オックスフォード小児がん調査での妊婦への X 線か
らの腹部照射量は 2−3  mGy であると推定した。  
 
KiKK 調査研究が原発近辺の小児での白血病リスクがほぼ倍であった(RR   =   2.19)
という発見をしたことが思い起こされる。上記の議論から、この倍増は、KiKK
調査研究での胎内被ばく線量が実際は数 mSv だったかもしれないことを示唆す
るが、これはドイツ政府による 1 歳児の公式線量推計値(Deutscher  Bundestag,  
2007)であり、年間数μSv とは 1000 倍違うことになる。この線量推計におけ
る矛盾の説明を下記で試みる。  
 
5.5 胎児期の造血細胞の放射線感受性の上昇  
 
最後に、胎児の造血系、すなわち、骨髄とリンパ組織内の造血細胞の放射線感受
性を考慮する必要がある。これらの組織には自己再生能力を持つ幹細胞が含まれ
る。細胞分裂の際に、娘細胞の一部は幹細胞のままであるために、幹細胞の数は
ほぼ同じに留まる。幹細胞の放射線誘発突然変異は、白血球の奇形率の増加をも
たらす可能性がある。  
 
骨髄には比較的多数の幹細胞が含まれており、胎芽と胎児の組織の中では放射線
感受性が最も高い組織のひとつだと思われ、これは最低でも 3 度の機会に示唆
されている。Gardner ら(1990)が父系性受胎前照射仮説を出版した後、BMJ 誌
はこの仮説の色々な側面を疑うレターをいくつも出版した。Morris(1990)か
らのレターでは、白血病発症率がガードナーらが観察したように 10 倍になった
原因が突然変異だと仮定して、生殖細胞に影響をもたらすのであれば、放射線誘
発性の突然変異率は 100−1000 倍に増加しなければいけないだろう、と述べた。
これが胎内での初期の時期にリンパ球に影響をもたらすのであれば 10 倍、胎内
期を通してリンパ球に影響するのであれば 1.8 倍のみの増加が必要となる。
Morris(1992)も参照のこと。Morris はその前(1989)に、被ばく経路は不明
ではあるが、後者が一番もっともらしいメカニズムに思えると述べていた。  
 
その 2−3 年後に、Lord ら(1992)が同じ事を示し、胎児期の造血細胞の放射線
感受性が、出生後の造血細胞の最大 1000 倍まで高いかもしれないと示唆し、こ
の損傷を誘発する様々なメカニズムは、胎芽・胎児期の様々な段階で起こると付
け加えた。  
 
もっと最近では、Ohtaki ら(2004)が、胎内被ばくした原爆被爆者の白血球に
おける染色体転位の頻度の研究で同じ事を示唆し、胎児の造血系のリンパ球前駆
細胞の放射線感受性は非常に高く、もしかして出生後のリンパ球の 100 倍ほど
かもしれないことを発見した。この研究から、Wakeford(2008)は、放射線感
受性を持ち突然変異により小児がんを引き起こす単細胞は、妊娠後期を含む妊娠

期間中ずっと活発さを維持し、出生後は活発でなくなると推測したが、現在、な
ぜそうであるかという理由は明らかでない。  
 
この、出生前の造血細胞の放射線感受性の明らかな上昇は、KiKK 調査研究での
公式推計線量と観察されたリスクレベルの間の矛盾を説明する大きな要因かもし
れない。  
 
6.線量とリスクの間の 1 万ー10 万倍の食い違いは説明可能なのか?  
 
原発からの放射性核種の放出物ががんの増加に至るかもしれないという説明は、
「原子力発電所により起こる放射線追加被ばくは、KiKK 調査研究で報告された
リスクを起こす放射線被ばくより 1000 倍以上低い。」とし、ドイツの放射線防
護委員会(SSK)(2008)により却下された。KiKK 調査研究の著者らは、「ド
イツでの自然バックグラウンド放射線量は年間 1.4  mSv で、医療検査からの被ば
く量は年間約 1.8  mSv であるが、ドイツの原子力発電所近辺での放射線被ばく量
は、その 1000 倍から 100,000 倍低い。」と述べた。  
 
これは、どのような説明がなされるにしても、4-­‐5 桁の違いを説明せねばならな
いことを意味する。公式線量とリスク推定がそんなに大きく異なることがあるだ
ろうか?最初は、これは有り得ないと思われたが、上記の KiKK 研究調査の線量
とリスクは、胎芽と胎児ではなく、小児に対してのものである。すなわち、この
2 つのグループの間には、線量や放射線感受性に関して大きな違いがある。  
 
原発由来の推定被ばく線量と KiKK 調査研究で観察されたリスクとの間の食い違
いを説明するには、推定されたリスク(1  mSv あたりのがん死数)を推定被ばく
線量(mSv)で掛け合わせる必要がある。これは、線量とリスクを別々に考察し
なければいけないということである。まず最初に、線量推計値を考察する。  
 
6.1 不正確な線量推計値  
 
現在の線量推計値は、下記の理由のために不正確な可能性がある。  
 
(i) 放射性核種の放出スパイクが、原発から風下の住民の線量を、年間平均線
量と比べて 20 倍(NDAWG,  2011)から 100 倍(Hinrichsen,  2001)に増加させ
るかもしれない。  
(ii) Stather ら(2002)は、妊娠中のトリチウム摂取後の胎児のトリチウム濃度
は、母親のトリチウム濃度より 60%多いと推定した。トリチウムは、主にトリ
チウム水蒸気(HTO)として、どの原発からも大量に放出される。トリチウムは、
近辺の住民の放射線量に大きく寄与するだろうと予期されている。英国健康防護
機関(HPA,  2008)は、トリチウム水蒸気の大気への放出後の被ばくによる胎芽
と胎児の組織への線量は、成人の組織へと比較して、1.5−2 倍増えると推定した。
これらの研究では、炭素 14 に対しても同様の結果が見られた。  

(iii) 残念ながら、公式なトリチウム線量測定は、筆者が過去に示した(Fairlie,  
2008)ように、問題と誤解だらけである。国際放射線防護委員会(ICRP)によ
って用いられているトリチウムの放射線荷重係数(WR)は、かなりの放射線生物
学的証拠がその 2 倍(AGIR,  2007)か 3 倍(Fairlie,  2007)であるべきだとして
いるのに、いまだに 1 である。その上、ICRP の公式トリチウムモデルは、有機
結合トリチウム(OBT)からの線量を過小評価し続けている。トリチウムへの慢
性被ばくを受けている人たちでは平衡状態での有機結合トリチウム(OBT)の線
量は、トリチウム水蒸気(HTO)の線量の約 4 倍である。慢性的だが被ばく量が
一定でない原発近辺の住民集団の場合、平衡状態まで達しないかもしれないため、
有機結合トリチウム(OBT)の線量を推定するのが難しい。有機結合トリチウム
(OBT)の発生を考慮するためには、トリチウム水蒸気(HTO)の線量を倍にす
るのが保守的な推定となる。  
 
(iv) Richardson(2009)は、様々な代謝的な理由のために(ICRP モデルが人体
の成長を考慮していないことを含めて)、乳児における放射性核種の線量係数
(Bq あたりの Sv)は、成人のおよそ 10 倍以上であると付け加えた。  
 
上記の線量因子(放射性核種放出スパイクからの 20  x  胎児内トリチウム濃度か
らの 2  x  生物学的効果比(RBE)からの 2  x  有機結合トリチウムからの 2  x  人体の
成長からの 10  =  〜1600)を掛け合わせると、承前の食い違いを部分的に説明す
ることができる。もちろん、これは非常に大雑把な推計であり、正確だというわ
けではないが、上記の因子は、公式線量推計値が不正確かもしれないという可能
性を示している。  
 
実際、原発からの放出物の取り込みによる内部被ばく線量の推計には、大きな不
確かさが存在しているかもしれない(Fairlie,  2005)。これは、英国政府の内部
被ばくリスクに関する CERRIE 委員会(2004)の報告書の主な結論であった。ほ
とんどの線量推計においては無条件に不確かさが存在する。特に矛盾した証拠
(たとえば白血病の多発など)が存在する際には、これらの不確かさが線量推計
値を信頼できないものにしているかもしれない。  
 
言い換えると、非常に少ない線量推計値と観察された高リスクの間の大きな隔た
りの理由を理解しようとする時、線量推計値が小さいからと言って、放射線が原
因である可能性を却下すべきではない。残念ながら、線量の不確かさは、ほとん
ど考察されておらず、上記の KiKK 調査研究に関するドイツ、英国とフランスの
研究、あるいは KiKK 調査研究そのものでも考察されていない。  
 
6.2 不正確なリスク推定  
 
胎芽と胎児への放射線リスク、特に胎芽と胎児による放射性核種の取り込みによ
るリスクは、あまり良く特徴づけられていない。Richardson(2009)は、内部
被ばくによる危険は、年齢が若い人で著しく増加すると観察した。原爆被爆者の

データから、乳児における線量単位あたりの放射線リスクは成人の約 10 倍であ
ると推定された。さらに、Ohtaki ら(2004)は、胎児の造血系のリンパ球前駆
細胞の放射線感受性が、乳児のリンパ球よりはるかに高く、おそらく 100 倍に
もなるかもしれないことを発見した。  
 
総括すると、上記で述べられたように、後述の約 100 倍のリスク増加を、線量
の不確かさによる因子の約 1000 で掛け合わせる必要がある。その積は、原発か
らの推定被ばく線量と KiKK 調査研究で観察されたリスクとの間の 1 万−10 万の
違いに達し得る。再度繰り返すが、これが正確だと言うわけではないが、説明と
なる可能性が提示されたことになる。例えばチェルノブイリ、テチャ川、そして
1950 年代と 1960 年代の大気圏内核実験からの被ばくの研究では、小児白血病
がそんなに増加しているわけではないことを認めねばならない。しかし、小児白
血病が見つかっていないことは、これらの研究ですべての白血病症例が見つけら
れたのかという確認バイアスを含む、いくつかの要因による可能性がある。  
 
さらに、最近の環境レビューによる証拠は、動物(そしておそらくヒト)の放射
線感受性についての現在の推定が低過ぎると示唆している(Garnier ら,   2012)。
このレビューでは、自然界で自由に暮らす動物の放射線感受性が、実験動物を用
いた従来のモデルで予測されるよりも 10 倍高いことが示された。  
 
7.結論  
 
KiKK 調査研究の観察を説明できるかもしれない生物学的メカニズムは、原発か
らの大気放出スパイクにより、近辺に居住する妊婦の胎内の胎芽や胎児の組織が
放射性核種によるラベリングをされるということである。そのような放射性核種
の濃度は、胎芽と胎児の造血組織を高線量に被ばくさせるかもしれない。妊娠期
の放射性核種取り込みによる胎芽と胎児の特定の臓器や組織への累積被ばく線量
およびリスクは、ICRP 文書で特に考察されていない。  
 
KiKK 研究調査や他の研究で観察された白血病の増加は、取り込まれた放射性核
種への胎児期での被ばくの結果、胎内で発生するのかもしれない。新生児が前白
血病状態で生まれ、出生後に初めて白血病と診断されるということが示唆されて
いる。放射能スパイクは、前白血病状態のクローンを生じるかもしれなく、出生
後の 2 度目の放射線の直撃で、これらのクローンの中のいくつかが完全に白血
病細胞化するのかもしれない。  
 
これらの懸念を考慮し、原発に関して下記の情報が公表されるべきであると推奨
する。  
 
・間欠的な原発からの放出物、つまり大気放出スパイクによる放射線被ばく  
・その結果としての、発達中の胎芽の骨髄への放射線被ばく量の推計値  
・それに伴う、乳児や幼児への白血病リスクの推定  

・これらの線量とリスク推定の信頼区間  
 
さらに、欧州の原発近辺での白血病のより広範囲のケースコントロール研究が、
できる限り KiKK 調査研究と同じ方法、特に白血病症例と原発排気筒の間の正確
な距離の測定を用いて設定されることが推奨される。  
 
 
和訳:@YuriHiranuma  
和訳校正:@iPatrioticmom、@wtr000  
 
 
 
 

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