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キャリア・アンカーについて             (参考図書)「キャリア・アンカー」エドガーH.シェイン著 金井嘉宏訳 白桃書

キャリア・アンカーとは:
 キャリア・アンカーとは、キャリアを形成する上で、どうしても犠牲にしたくないコンピタンスや動機、価値観のことです。これは、キャ
リアを決める際、指針にも制約にもなる自己イメージであり、本当にやりたいことを考えるための拠り所、あるいは自分自身を発見する拠
り所でもあります。したがって、お互いのキャリア・アンカーを理解することは、個人にとっても組織にとっても適材適所の視点から有益
なことです。また、自分と異なる価値観について知ることは人間理解を助け、本音レベルで改善が進む風通しの良い職場作りを助けます。

キャリア指向自己チェック表の使い方:
 1)回答欄に下記の1~6の数字を記入する。
   1(全く違う)、2(だいたい違う)、3(どちらかというと違う)、4(どちらかというとそう)、5(だいたいそう)、6(全く
そう)
 2)作業欄の説明を参考に、得点を計算する。
 3)もっとも得点の高かった分類の番号(①~⑧)で、「キャリア・アンカー確認表」を見て、自分のキャリア・アンカーを知る。
   (人は程度の差はありますが、すべてのキャリア・アンカーの型をもっています。大切 なことは、自分がどのタイプの傾向が強いかを知ることです。)

補足:
 ここでいうキャリアとは、専門の職業、職業生活の組み立てや進歩、仕事生活が時とともにどのように発達してきたのか、また本人がそ
れをどの程度自覚しているのかなどを含む内面的なキャリアです。ある職種に就き、昇進していく過程で、その職種や組織から要請される
具体的な段階である外面的なキャリアではありません。
 キャリア・アンカーという言葉は、スローン経営大学院(MIT のビジネス・スクール)のシャイン教授(Edgar H.Schein,Ph.D.)
が、修士課程の同窓生44人を対象に、在学中(2年生)、卒業後半年、卒業後1年、卒業後5年、卒業後 10~12年にキャリアの個人史を
詳しくインタビューし、「ひとつひとつの具体的な出来事はきわめてバラエティにとんでいたが、回答者が選 択を行った理由、出来事につ
いて考えたことは、驚くほど一貫性のあるパターンを示した。彼らは、自分に適していない仕事についたとき、自分にもっと適している何
かに『引き戻されている』というイメージを語った」ことから名づけたものです。なお、初期の研究では、5 つの型に分類していましたが、後
に3つ追加しています。
キャリア指向自己チェック表(1/3)
*回答欄に数字を記入: 1(全く違う)、2(だいたい違う)、3(どちらかというと違う)、4(どちらかというとそう)、5(だいたいそう)、6(全くそう)
番号 質問 回答欄 上位3 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
に4点
1 「この仕事ならあのひとに聞け」と絶えず専門家としてのアドバイスを求められ
る分野でうまくやっていくことをめざす。
2 他の人々のやる気をまとめあげ、チームをマネジメントすることによって大きな
成果を上げることができたときに、最も大きな充実感を仕事に感じる。
3 自分のやり方、自分のスケジュールどおりに、自由に仕事ができるようなキャリ
アを目指す。
4 自由や自律を勝ち取るよりも、将来の保障や安定を得ることが、自分にとっては
より重要なことだ。
5 常に自分の事業を起こすことができそうなアイデアを探している。

6 社会に本当に貢献できていると感じられるときにこそ、キャリアがうまくいきそ
うだと感じる。
7 難題を解決したり、とてつもない挑 戦課題にみまわれた状況を打破したりできる
ようなキャリアをめざす。
8 家族とともに楽しみにしていることが犠牲になってしまう仕事に異動させられ
るぐらいなら、その組織をやめた方がましだ。
9 キャリアを通じて専門技能や職能分野の技能をすごく高度に磨き上げることが
できるならキャリアがうまくいきそうだと感じる。
10 複雑な組織を率い、大勢の人びとを左右する意思決定を自分で下すような立場を
めざす。
11 どのような課題をどのような日程と手順で行うのか、について自分の思いどおり
になるとき、最も大きな充実感を仕事に感じる。
12 安定した職務保障もなしに仕事に配属させられるくらいなら、すっぱりとその組
織を離れるだろう。
13 他人の経営する組織でマネージャーとして高い職位につくよりも、むしろ自分の
事業を起こすことを重視する。
14 キャリアを通じて、他の人びとのために自分の才能を役立てることができたとき
に、最も大きな充実感を自分のキャリアに感じる。
15 非常に難しい挑 戦課題に直面し、それを克服できたときにこそ、キャリアがうま
くいきそうだと感じる。

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(参考)「キャリア・アンカー」エドガーH.シェイン著 金井嘉宏訳 白桃書房
キャリア指向自己チェック表(2/3)
*回答欄に数字を記入: 1(全く違う)、2(だいたい違う)、3(どちらかというと違う)、4(どちらかというとそう)、5(だいたいそう)、6(全くそう)
番号 質問 回答欄 上位3 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
に4点
16 自分が家族がらみで望んでいることと、仕事から要請されることとがうまく両立
できるキャリアをめざす。
17 ゼネラル・マネージャー(部門長)になるよりも、自分の専門職能分野で上級マ
ネージャーになる方が、より魅力的に感じられる。
18 何らかの組織でゼネラル・マネージャー(部門長)の立場で仕事をするときに
こそ、キャリアがうまくいきそうだと感じる。
19 完全な自律や自由を獲得したときにこそ、キャリアがうまくいきそうだと感じる。
20 将来が安定していて安心感のもてる会社での仕事を求めている。

21 自分自身のアイデアと努力だけによって何かを創り上げたときに、最も大きな充
実感を自分のキャリアに感じる。
22 マネージャーとして高い職位につくことよりも、自分の技能を生かして少しでも
世の中を住みやすく働きやすくする方が、もっと大切だと思う。
23 一見解決不可能と思われた問題を解決したり、どうにもならないような局面を打
開したとき、最も大きな充実感を自分のキャリアに感じる。
24 自分の個人的な要望、家族からの要望、キャリアに求められることをうまくバラ
ンスさせることができたときにこそ、キャリアがうまくいきそうだと感じる。
25 自分の専門領域からはずれてしまうような人事異動をローテーションとして受
入れるくらいなら、むしろその組織をやめる。
26 今の自分の専門職能領域で上級マネージャーになるよりも、ゼネラル・マネージ
ャー(部門長)として仕事をするほうが魅力的だと思う。
27 将来が保障された安心なことよりも、規則や規制にしばられず、自分のやりたい
ように仕事できるチャンスが大切だと思う。
28 収入面、雇用面で完全に保障されていると感じられるときに、もっとも大きな充
実感を仕事に感じる。
29 自分自身の生み出した製品やアイデアで何かを創り出し、軌道にのせたときこそ、
キャリアがうまくいきそうだと感じる。
30 人類や社会にほんとうの貢献ができるキャリアをめざす。

小計                                  2ページ目の小計 縦の和⇒
(参考)「キャリア・アンカー」エドガーH.シェイン著 金井嘉宏訳 白桃書房
キャリア指向自己チェック表(3/3)
*回答欄に数字を記入: 1(全く違う)、2(だいたい違う)、3(どちらかというと違う)、4(どちらかというとそう)、5(だいたいそう)、6(全くそう)
番号 質問 回答欄 上位3 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
に4点
31 自分の問題解決能力、競争に打ち勝つ能力をフルにいかせる挑戦機会を求めてい
る。
32 マネージャーとして高い地位につくことよりも、自分の個人的な生活と仕事生活
の両方をうまくバランスさせるほうが大切だと思う。
33 自分独特の技能や才能を活用できたときに、最も大きな充実感を仕事に感じる。

34 ゼネラル・マネージャー(部門長)になるコースから外れてしまいそうな仕事
をやらされるくらいなら、そんな組織はやめてしまう。
35 自律して自由に行動できないような仕事につくくらいなら、そんな組織はやめて
しまう。
36 将来が保障され安心感をもって仕事に取り組めるようなキャリアをめざす。

37 自分自身の事業を起こし、それを軌道にのせることをめざす。

38 他の人びとの役に立つために能力を発揮することができないような配属を拝受
するぐらいなら、その組織をやめたいと思う。
39 ほとんど解決できそうもない問題に挑戦できるということは、マネージャーとし
て高い地位につくことよりももっと大切である。
40 自分個人や家族の関心事にあまりマイナスの影響がないような仕事の機会をい
つも求めている。
作業 1)回答欄の点数を参考に、1~40番の項目から上位3位までを選び、点数を○で囲んで下さい。
2)点数を○で囲んだ項目の「上位3に4点」欄に数字4を記入してください。
3)回答欄の数字と「上位3に4点」欄の数字を足して、右側の白抜きの欄に記入してください。
4)①~⑧の列の数字を足して、各ページの小計を出してください。
                                3 ページ目の小計 縦の和 ⇒

5)1ページ目の小計を転記してください。             1 ページ目の小計(転記)⇒

6)2 ページ目の小計を転記してください。             2ページ目の小計(転記)⇒
7)1~3ページの合計を出してください。               合計(上の3行の和)⇒

8)合計を5で割ってください。これが得点です。        得点= 合計(上の行)÷5 ⇒
(参考)「キャリア・アンカー」エドガーH.シェイン著 金井嘉宏訳 白桃書房
キャリア・アンカー確認表    *自己チェック表で、もっとも点数の高かった列の番号(①~⑧)で、あなたのキャリア・アンカーを確認してください。
番号 重視する領域 どうしてもあきらめたくないこと 低収入でも幸せを感じる仕事 高収入でも避けたい仕事
① 専門・職能別コンピタンス その領域で自分の技能を活用し、そのような 専門領域で挑戦課題を課せら 複数の職能にまたがって全
(TF) Technical/Functional 技能をより高いレベルまで伸ばしていくこと れるような仕事 体を統括する仕事
のできる機会を手に入れること。
Competence
② 全般管理コンピタンス 組織の階段をできるだけ高いところまで上り ゼネラリストにつながる仕事 将来にわたり、職能分野が限
(GM General Managerial 詰めるチャンス。全体的な成果に責任を持て られる仕事
るようになること。
) Competence
③ 自律・独立 仕事の枠組みを自分で決め、仕事を自分のや いつどのように仕事をするか 規則や規制で厳格に縛られ
(AU) Autonomy/Independence り方で仕切っていくこと。 について自分の裁量で柔軟に ている仕事
決められる仕事
④ 保障・安定 会社の雇用保障、あるいはその職種や組織で 職務での終身雇用権が約束さ 不安定で将来の保障がない
(SE) Security/Stability の終身雇用権など。特に、退職年金プランなど れ、退職後の保障も充実してい 仕事
経済的な保障。 る仕事
⑤ 起業家的独創性 危険負担し、障害を乗り越える能力と意欲を 社会に 対 して事業を創造する 起業時にキャリアが役に立
(EC) Entrepreneurial Creativity もとに、自分自身の会社や事業を起こす機会。 仕事(創業者としての仕事) たないような仕事
⑥ 奉仕・社会貢献 環境保護や、平和活動、人類に貢献する製品の 社会に貢献していると実感で 環境汚染につながるなど、価
(SV) Service/Dedication to a Cause 開発など、何か価値のあることを成し遂げる きる仕事 値観に合わない仕事
仕事を追い求める機会。
⑦ 純粋な挑戦 困難な問題の解決に取り組んだり、手ごわい 目新しさや、変化、そして難し 簡単にできる仕事や、先の見
(CH) Pure Challenge 相手に打ち勝ったり、あるいは難しい障害を さを備えた仕事 える仕事
乗り越える、といった機会。
⑧ 生活様式 自分自身の個人としての欲求や家族の要望、 自分のトータルの人生を充実 人生全体のバランスを崩す
(LS) Lifestyle あるいは自分のキャリアの要件のバランスを させるような仕事 ような仕事
とり、それらの統合が図れる状態。
                                            (参考)「キャリア・アンカー」エドガーH.シェイン著 金井嘉宏訳 白桃書


①(TF) 専門・職能別コンピタンス Technical/Functional Competence の特徴
概要 何事も専門的な立場を重視して判断し行動する。専門家タイプ
価値 観の形成 自分のキャリアが開花していくにつれ、特定の仕事に対する才能と高い意欲をもつに
至ったということを発見します。自分の専門分野をとことん追及できる場合に限れば、
職能担当のマネージャーになろうという気持ちがないわけではありませんが、自分と
しては専門分野に特化する道を志向し、ゼネラル・マネージャーになることに価値を
置いていません。
適した仕事  いかに才能を発揮できるかによって自尊心が左右されるので、才能の生かされる仕
事を好みます。また、このアンカー以外の人たちの関心が、どちらかといえば仕事をと
りまく脈絡(コンテキスト)に向かうのに対して、このアンカーの人たちは仕事の内容 (コ
ンテンツ)に向かいます。
 組織に所属している場合は、目標設定に進んで参画し、いったん目標の合意が得ら
れ実行の段階になると、最大限の自律性を望みます。そして、実行に必要な設備、予算、
その他の資源の制約を嫌うのが普通です。
 しかし、このアンカーの人たちにとって、やりがいのある仕事を見つけ続けること
は、個人、組織のどちら側にとっても意外と難しいものです。その場合は、教育する立
場になるとか、ゼネラリストとして職務を再設計することで対処します。
給与と福利厚生  自分の技能水準に見合った報酬を望みます。広く社外までみすえての公平性を指向
し、ボーナスやストック・オプションなどの一時的な誘引よりも、絶対的な給与水準
をはっきり決めることを求めます。福利厚生では個人に付帯して移動できるシステム
を望みます。彼らはg olden handcuffs(金の手錠/お金と引き換えに自分らしさ
や自由を束縛することのたとえ)につながれることを恐れます。それは、挑戦的でな
い仕事への罠かもしれないと感じるからです。
昇進制度  管理職の昇進経路と並行して、専門職の昇進経路があることを望みます。これは、研
究開発関係や、エンジニアリング関係のみならず、財務、マーケッティング、製造、販売
など、全ての職能専門分野で適用可能なはずですが、まだ、この要求に本当に応えられ
るキャリア・ラダー(昇進のはしご)を実現している組織は少数でしょう。
承認の仕方  プロの仲間からの高い評価に価値を置いているので、わけのわかっていないマネー
ジャー層から単に承認されても喜びません。
 彼らが喜ばれる承認の方法は、自己啓発の充電期間(sabbatical)、専門職団体の
会合への出席、書物や設備の購入予算などです。自分が年をとるとともに陳腐化して
しまうことが、この人たちにとって致命傷なのです。
 ここにアンカーのある人たちは、組織の管理のあり方がまずいと最もダメージを受
け易いのです。というのは、多くの社内キャリアが、全般管理コンピタンスにアンカー
を置く人によって作られる傾向にあり、社内での公正感、組織への忠誠心、協調性など
を重視しています。しかし、これらは、このアンカーのひとたちにとっては、どうでも
よいことのように思えるのです。もし、組織がこのひとたちの存在を重視するならば、
キャリア発達の仕組を設計し直すことも必要でしょう。

②(GM) 全般管理コンピタンス General Managerial Competence の特徴


概要 組織の中で出世し組織や集団を管理・統制しようとする。経営者タイプ
価値観の形成  キャリアを歩むにつれて、ゼネラル・マネージャーに本当になりたがっている自分
に気付きます。また、経営管理そのものに関心を持ち、求められる能力も身に付けてい
ることに気付きます。責任ある立場で、自分の努力で組織の成果を左右したいと思っ
ているのです。
 この人たちは、専門的な仕事に特化しすぎるのは良くないと見るのです。そして、や
る気まんまんだけでなく、次の3つの基礎領域で能力が求められることをわきまえて
います。
(1)分析力…不完全な情報しかない不確実性の中で総合的に分析して解決する能

(2)リーダーシップ…対人関係およびグループ間をつなぐ能力
(3)情緒的能力…困難な場面でも責任を負い、罪や恥などを感じずに力を発揮でき
る能力
適した仕事  重い責任のある仕事を望みます。また、挑戦的で変化に富み、皆をまとめるような統
合的仕事を好みます。また、リーダーシップを発揮できる機会、所属する組織の成功に
貢献できる機会を求めます。
 彼らは、自分に割り当てられた仕事の魅力を、それが組織全体の成功にどの程度重
要なのかという視点から評価します。彼らは、組織に強く同化し、自分たちの仕事ぶり
を組織の成功または失敗で測ります。彼らは、ある意味において、真の「組織人」という
ことができるでしょう。まさに彼らは、経営管理の対象としての効率的な組織によっ
て自分のアイデンティティを表現するのです。
給与と福利厚生  高給を期待し、社内における相対的な所得水準によって自分を測ります。ボーナス
やストックオプションなど一時的な報酬も好みます。
 彼らは組織との一体感を大事にしていますので、喜んでg olden handcuffs につ
ながれるでしょう。特に、多めの退職金などは好まれます。なぜなら、この人たちのキ
ャリアは組織とのつながりが極めて強く、中年期以降、彼らの技能は社外で通用し難
くなる(portableでなくなる)からです。
 しかし、最近ゼネラル・マネージャーの転職が増える傾向にあります。それに伴っ
て、移動できる福利厚生のパッケージを求める傾向が出てきました。特定の業界や会
社についての知識が意思決定には重要なので、転職が有利かどうかは、今のところ定
かではありません。
昇進制度  実力や、具体的に測定できる業績や成果に基いて昇進が決まるかたちを強く希望し
ます。もちろん、ゼネラル・マネージャーは昇進の決定にいろいろな要素、たとえば性
格(personality)、仕事のスタイル、年功、社内政治、その他の要因がからむことを知
ってはいますが、成果を上げることができなければ、他のすべての要素には意味がな
いと考えるからです。
承認の仕方  最も重要な承認の仕方は、より責任の重い地位に昇進させることです。
 彼らは、自分の立場を、序列、肩書、給与、部下の数、そして予算の大きさによって総
合的に判断します。また、目には見えませんが、上司の頭の中に存在する要素も重要な
判断材料にします。たとえば、自分の任されているプロジェクトの意義とか、組織の将
来にとって自分の課や部がどの程度重要なのかといったことです。

③(AU) 自律・独立 Autonomy/Independence の特徴


概要 何事も自分の力でやろうとする。自立心が強く、企業家タイプ
価値観の形成  仕事についてまだ間もないうちに、ごく当たり前の規則や手順、作業時間、服装既定
や諸々の規範に束縛されることががまんならない、と思い始めます。この人たちが優
先させるのは、どんな仕事に従事しているときでも自分のやり方、自分のペース、自分
の納得する仕事の標準などです。彼らは、組織での生活を制約の多い非合理的なもの
と感じ、自分のプライベートな生活を侵害するものと認識するのです。
 人生行路のある時点をとれば、だれでもある程度、自律的でありたいと願う曲面が
あるでしょうが、自律への要求を何ものにも優先させるひとたちがいるわけです。教
育の仮定で、自立(self-reliant)することを教えられ、その中で高い教育水準と専門
的な考え方を身に付けた結果、極端に自立を望むようになることがあります。また、自
立を強調した教育の結果、ときには幼児期にこのような感情が生まれます。
 このような要求をめぐってキャリアに折り合いをつけ始めた人たちは、自律的な専
門職になびいていきます。組織に属している場合にも、研究開発とか、営業拠点とか、
データ処理、市場調査、財務分析、コンサルティング、教育関係など、比較的自律的に仕
事ができるところに落ちつこうとします。
適した仕事  自分の専門分野の範囲内で明確に線を引き、時間を切って仕事をすることを好みま
す。目標が明示され、それを成し遂げる手段は一任されるような仕事で力を発揮しま
す。
給与と福利厚生  Golden handcuffs で縛られることを恐れます。成果に見合う業績給、即座の利益
分配、ボーナス、その他、組織に縛られそうな特別な制限事項のついていない報酬を希
望します。福利厚生についても、自分に適したものを組み合わせるようなカフェテリ
ア方式を好みます。
昇進制度  過去の業績が昇進に反映されることを望みます。また、より自由度の高い新たな仕
事につくことを望みます。言い換えれば、彼らにとって昇進とは、自律性の幅が広がる
ことを意味します。自律的に行動している営業担当などは、営業マネージャーになれ
ば自由度を失いがちなことをよく知っていますから、そのような昇進を断ることはよ
くあることです。
承認の仕方  組織が変わっても持ち運べるような( Portable な)承認のしるしに最も強く反応
します。他の組織ではそのまま通用しない昇進、肩書きの変化、あるいは金銭的ボーナ
ス制度などよりも、メダル、記念品、賞状、賞品、賞金、その他ポータブルなものが好ま
れます。
 しかし、現在、ほとんどの組織でおこなわれている報酬制度は、うまくかみあってい
ません。そこで、このような人たちは、ややもすると、こうした組織の官僚制的手順に
嫌悪を感じ、不満を抱えて組織を去ることになりがちです。彼らは、同じ職場で働くと
しても、契約社員やパートタイムの方に魅力を感じるのです。
④(SE) 保障・安定 Security/Stability の特徴
概要 組織に所属し保障・安定を求める。真面目な組織人タイプ
価値観の形成  安全で確実と感じられ、将来の出来事を予測することができ、しかもうまくいって
いると知りつつゆったりとした気持ちで仕事ができ、そんなキャリアを送りたいとい
う要求を最優先します。もちろん、誰でもある程度は生活が保障され安定しているこ
とを望みますが、彼らは、人生の岐路において、必ずこれらへの関心が指針となり、制
約になります。
 彼らは、定年までの職務への終身雇用権(job tenure)がしっかりしている組織、
不況でもレイオフしないことで有名な組織、退職時の諸制度が整い、安定していて頼
りにできるというイメージのある組織で仕事を探すことが多いでしょう。行政機関や
公共的な機関にも魅力を感じることも多いでしょう。
Golden handcuffs で縛られることを苦にしません。また、通常、キャリア管理の責
任を、自ら進んで雇用者側に預け、進んで会社の指示に従います。
 彼らは求めている安全の保障が手に入れば、階層上の組織でたどりついた職位がど
んなレベルであったも満足できるのです。彼らは組織の高い地位に上り詰めた場合に
も、着実に出来栄えの読める仕事を好みます。また、才能が組織で十分に生かされてい
なくても、仕事以外の場でその才能を発揮できれば、満足できるのです。
適した仕事  将来の予想のつく仕事を好み、仕事そのものの性質よりも、仕事の周囲の状況の方
に関心が向かいます。つまり、仕事そのものよりも、給与や作業の条件、福利厚生の改
善などといったことにこだわります。組織は、彼らの仕事に大きく依存しているとい
えるでしょう。
給与と福利厚生  勤続年数の長さによって、確実に先が読める昇給制度を好みます。また、保険や退職
時の諸制度がはっきりとうたわれている福利厚生のパッケージを好みます。
昇進制度  年功昇進制度を好みます。また、昇給や序列がはっきり明言されている制度を好み
ます。個々の等級でどのくらいの年数仕事をすれば昇進が期待できるようになるのか
がはっきり明言されていることを好むのです。この主の人が学校や大学などに見られ
るのと同種の正式な終身雇用権(tenure)制度を好むのは明らかです。
承認の仕方  自分の忠誠心や確実で手堅い成果が認められ、できればそのことが、より安定的か
つ継続的な雇用保障につながることを望んでいます。なかでもとりわけこの種の人は、
忠誠心こそ組織の業績へ真に貢献すると信じたいところです。終身雇用 権が正式に認
められることは稀ですが、大方の人事制度はこの種のひとに適合するようにつくられ
ています。
⑤(EC) 起業家的独創性 Entrepreneurial Creativity の特徴
概要 何事も独自の考えや新しい発想で判断しようとする。発明家タイプ
価値観の形成  新しい製品や新しいサービスを開発したり、財務上の工夫で新しい組織をつくった
り、あるいは現存する事業を買収したりして新しい事業を起こす欲求を、人生のかな
り早い時期から他の何よりも強く意識し、10 代のころから、がむしゃらにこの夢を追
い求めます。
 彼らの創造的な衝動は、主として新しい組織、製品、あるいはサービスの創造に向か
います。それらが、自分の努力によるものであることがはっきり識別でき、自分が生み
出したものとして存続し、 経済的に成功することが彼らにとって重要なのです。
 彼らは、発明家や芸術家、研究開発、市場分析、広告宣伝の専門家などとは限りませ
んが、実際に起業家になる人もいます。
 たまたま古い体質を持つ組織で働いていたとしても、そこにはおそらく長くはとど
まらないでしょう。たとえ居続けたとしても、組織としてやらされる仕事は片手間で
すませて、自分の本当のエネルギーは自分の事業を起こすためにつぎ込んでいるもの
です。
 自律・独立のアンカーと、彼らを区別することは大切です。彼らの特徴は、ときには
自律を犠牲にしても、とにかく、自分が新しく事業を起こすことができるということ
を試してみたいという熱い思いに取り付かれている点です。
 創造的な事業の種を探すのにキャリアの大半を費やしながらも、これまでと同じ昔
ながらの仕事でキャリアをすごしてしまい、起業に失敗する人もいます。このような
人が起業家になるには、いったんベンチャーの対象を見つけたら、現在の仕事を思い
切って捨て去る勇気を持つことが求められるでしょう。
適した仕事  創造する欲求に強くかりたてられていますが、一方では飽きっぽい傾向があります。
彼らは、自分自身の会社において新製品や新サービスを開発し続けるかもしれません
が、興味がなくなればその会社を売却して、新しい事業を始めるといったこともある
かもしれません。彼らは休みなく、常に新しい創造に挑戦し続けることを望んでいる
のです。
給与と福利厚生  彼らにとって最も重要な課題は、オーナーになることです。オーナーになっても自
分に対しては大した報酬を支払わないといったこともよくあります。しかし、自分の
組織の株式を支配する手はゆるめません。また、新製品を開発した場合は特許権を取
得することを望みます。特許権や、株式の半分以上の保有を認めないと、彼らは組織に
とどまらないものです。
 起業家は、富を蓄積しようとします。しかし、富そのものが欲しいわけではなく、そ
れを通じて、彼らが成し遂げたことを世間に示すことを望んでいるのです。
 福利厚生も、彼らにとってはおそらくあまり意味をなさないでしょう。
昇進制度  自分の必要に応じて、いつでも、どこへでも移れるような制度を望みます。自分が鍵
を握ると思う役割を担うために移動し、自分の欲求を充たす権力と自由を欲しがりま
す。たとえば、研究開発関係のトップや取締役会の会長などを望みます。
承認の仕方  財を成す、または、大きな事業を築き上げたという実績で承認されたと感じます。ま
た、自己中心的なところがあり、個人的に目立ち世間から認められることをのぞむの
で、製品や会社に自分の名をつけることを望みます。
⑥(SV)  奉仕・社会貢献 Service/Dedication to a Cause の特徴
概要 自分の価値観を仕事で実現しようとする。信念の人タイプ
価値観の形成  なんらかのかたちで世の中をもっとよくしたいという強い欲求を持ち、それを仕事
の中で具現化しようとします。
 彼らは自分の実際の才能や有能な分野よりも、価値観でキャリアを選択します。医
療、看護、社会福祉事業、教育、聖職など、ひとを助ける専門職に多くみられます。
 人々と共に働く、人類のために身をなげうつ、民族を救うといった価値観は、キャリ
アの中でも力強いアンカーになる可能性があります。 
適した仕事  自分の所属している組織、あるいは社会における政策に対して、自分の価値観に合
う方向で影響を与えることが可能な仕事を望みます。
給与と福利厚生  組織への忠誠心をもっているわけではないので、貢献の度合いに応じて支払われる
公正な給与と、組織が変わってももちこせる(portable)な福利厚生を望みます。
 彼らにとって、金銭そのものは中心的なものではありません。
昇進制度  貢献度にしたがって、より影響力のある、しかも自律的に仕事ができる自由な職位
へ異動させてくれるような昇進制度を望みます。
承認の仕方  同じ専門職の仲間および上司の両方から認められ、支持されることを望みます。ま
た、自分の価値ができるだけ高いレベルの経営管理層に理解してもらえることも大切
にします。
 このような支持が得られない場合、コンサルティングのように、より自立的な専門
職業に移っていくこともあるかもしれません。
⑦(CH) 純粋な挑戦 Pure Challenge の特徴
概要 困難な仕事を通じて達成感を求める。挑戦の人タイプ
価値観の形成  不可能と思えるような障害を克服することや、解決不能と思われてきた問題を解決
すること、極めて手ごわい相手に勝つことで、 「成功」を実感します。そして、さらに難
しい挑戦の機会を求てゆきます。経営コンサルタントのような高度の戦略がらみの任
務を求める人や、スポーツマン、格闘家、戦士などに見られます。
 このようなひとたちが専門・職能をアンカーにもつひとたちと違うのは、問題がお
こる専門分野ならどこでもおかまいなく挑戦したいと思っているところです。
 彼らは、常に自己を試す機会がないと退屈し、いらいらしてしまうのです。彼らがよ
く口にするのは、変化に富んだキャリアを持つことが大切だということです。中には、
ゼネラル・マネージャーの仕事に惹かれる人もいますが、これは、マネージメントと
いう仕事が変化と強烈な挑戦の要素に富んでいると考えているからです。
適した仕事  仕事の分野、所属している組織の種類などは、二の次で、ともかく挑戦の機会のある
仕事を求めます。
給与と福利厚生  給与制度も二の次でしょう。
昇進制度  昇進制度も二の次でしょう。
承認の仕方  彼らのやる気を引出し、彼らを発達させるといった管理上の課題は複雑です。一方
で、彼らは既に相当のレベルまで動機付けられています。また、自己を試すすばらしい
機会にみちた組織に対してはけっこう忠誠を尽くします。他方で、彼らのものの見方
には極めていちずなところがありそうです。つまり、自分と比較してさほど野心を持
っていないと感じられる人たちとは必ずしもうまくやっていけないのです。 
⑧(LS) 生活様式 Lifestyle(CH) の特徴
概要 生活の中に仕事をバランスよく位置づける。バランス感覚の人タイプ
価値観の形成  生活様式全体を調和させることを重視します。これは、単に私生活と職業生活をバ
ランスさせるといっただけの意味ではありません。すなわち、個人のニーズ、家族のニ
ーズ、キャリアのニーズをうまく統合させる方法を見出したいという、それ以上の課
題を含んでいます。
このような統合は、本来、徐々に進化して少しずつ姿をあらさす機能と考えられます。
このタイプの人たちは、なによりも柔軟であることを望みます。
適した仕事  このアンカーは、当初女性に多く見られたのですが、最近は、経営や戦略のコンサル
タントなどの道に進んでいる人たちなどを中心に、多くの男性にも見られるようにな
りました。これは、夫婦が共にキャリアを歩む傾向が進む中で、必然的なトレンドかも
しれません。
給与と福利厚生  個々のケースで、特定の組織が具体的にどのように対処すれば良いかは明確になっ
ていませんが、組織の方針やキャリアにまつわる制度をもっと柔軟にすべきだという
ことができます。
昇進制度  ここに、具体的な課題が1つあります。それは、転勤に消極的な人が増えつつあると
いうことです。当初、これは安定にアンカーをおく人にかかわる課題と考えられてい
ましたが、そうではなく、理由が保障や安定のためよりも、個人と家族、そしてキャリ
アの問題をうまくまとめるためということがはっきりしてきました。
 多くの組織は、転勤を育成のためのキャリア・ステップとして積極的に活用してい
ますが、今後、生活様式にアンカーをおく人たちが増えていった場合、新たなキャリア
パスを 検討する必要が出てくる可能性があります。
承認の仕方  自律にアンカーを置く人たちとの違い、組織のために働くことに非常に前向きです。
ただし、自分の時間の都合に合わせた働き方が選択できるという条件を求めます。彼
らが求めるのは、特別の勤務形態よりも、むしろ組織が個人および家族を尊重してく
れることであり、個人と組織の間の心理的契約について腹を割って話し合える姿勢を
もっていることなのです。

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