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ICO についての一考察 1

森・濱田松本法律事務所
弁護士 増 島 雅 和
(Facebook ID:@startupinnovators)

1. ICO とは
ブロックチェーン上に生成されたトークンを一般に販売して資金を調達する ICO(ト
ークンセール)と呼ばれる資金調達手段がにわかに脚光を浴びている。トークンは、一
般的には、インターネット上に展開されるプロダクトを利用するにあたってのデジタル
通貨として用いられるものとして発行される。資金需要者は、自らが作りたいプロダク
トの仕様と機能性、開発スケジュール、開発陣などを「ホワイトペーパー」と呼ばれる
資料に取りまとめて公開、これを読んでそのプロダクトを利用したい、開発を支援した
いと考える者が支援者となって、仮想通貨の形で支援を拠出すると、その御礼としてト
ークンを受け取ることができる。トークンは、プロダクトが完成した暁には、このプロ
ダクトを利用するために用いることができる。
リアルの世界で、たとえば映画を作りたいが資金が不足している人が、どのような映
画を作りたいかを人々に訴えかけて支援金を募集し、その見返りに、映画が完成した暁
には映画に招待したり、テロップに名前を載せたりするクラウドファンディング(購入
型)という資金調達があることをご存知だろう。ICO もまさにこれと同じで、インター
ネット上に展開されるプロダクトを制作するための資金を調達するためのクラウドフ
ァンディング(購入型)の一種ということになる。

2.一般的な購入型クラウドファンディングとの違い
このように、ICO は購入型のクラウドファンディングの特殊な一類型として位置付け
られるが、いくつか一般的なクラウドファンディングと異なる特徴がある。

(1)仮想通貨で払込み
第一に、一般的な購入型クラウドファンディングは、クレジットカード決済等で金銭
を調達するのに対し、ICO における支援は金銭ではなく仮想通貨で行われるという点が
挙げられる。つまり、支援者は、ビットコインやイーサなどのメジャーな仮想通貨でプ
ロダクトの製作やマーケティング費用を支援し、その見返りとしてトークンをもらうこ
とになる。

1本論稿は 2017 年 10 月 19 日現在の日本とその他の国の ICO(トークンセールス)に関
する状況を踏まえて記載したものである。
支援の拠出を仮想通貨に限定しているのは、法令上の要請が第一の理由である。後述
するとおり、トークンはブロックチェーン上で発行されるため、発行後は簡単に売買が
できてしまう。取引が自由に行われてしまうようなトークンを金銭と引き換えに発行し
てしまうと、そのトークン自身が「仮想通貨」にあたってしまう。仮想通貨を不特定の
人に販売する行為は、資金決済法上、「仮想通貨交換業者」として地方財務(支)局に
登録しなければ行うことができない。無登録業者として処罰の対象とならないためにも、
支援は仮想通貨で行うことが必須と考えられている。
その背景には、ICO がマネーロンダリングの温床となることを防止しなければならな
いという、国際金融規制上の要請がある。現在の国際金融の世界では、金融インフラが
マネーロンダリングやテロ資金供与のために用いられることを防止するため、金融活動
作業部会(Financial Action Task Force, FATF)というイニシアチブが世界的に展開
されている。簡単に売買できてしまうトークンを通貨建てで販売することを許容すると、
違法に資金を入手した犯罪者やテロ資金の供与を目論む者が、これらの汚れた金銭をト
ークンに変えて、更にこのトークンを数次にわたって譲渡し、どこかで現金化すること
で、容易に資金洗浄を行うことができてしまう。各国政府は、それぞれ他国の政府に対
し、このようなことが起こらないように自国の法整備を行うことを約束しているから、
マネーロンダリングやテロ資金供与に利用されかねないトークン販売を許容するよう
な法制度は、すぐに規制されてしまう。日本を始めとする各国は、この FATF の要請を
遵守しなければならない。トークン販売による通貨建てによる資金調達に対して厳しい
目が向けられるのは、このような理由を背景としている。

(2) 支援の見返りが「トークン」
第二に、ICO では支援の見返りがブロックチェーン上で発行される「トークン」と呼
ばれるものである点が、通常のクラウドファンディングと異なるものであると受け止め
られる要因の一つとなっている。
この「トークン」と呼ばれるものが何なのか、を理解することが ICO を正しく理解す
るためのカギとなる。この点は項をあらためて説明しよう。

(3)その他
購入型クラウドファンディングと一般的に呼ばれているものと ICO が異なると人々
が感じるその他のポイントとしては、例えば以下のものが挙げられるだろう。
(a) プラットフォームの存在
「購入型クラウドファンディング」と人々が聞いて想起するのは、クラウドファン
ディングを実施するためのプラットフォーム、たとえば ReadyFor であってり
Makuake であったりといったサービスだろう。これらはクラウドファンディングを
行いたい資金需要者のために、クラウドファンディングのために必要な、案件掲載
のためのページを用意したり資金回収のための仕組みを提供したり、支援者とのコ
ミュニケーションのためのツールを用意したり、マーケティングを支援したりする、
バックエンドサービスの提供者である。
数年先行している一般的なクラウドファンディングは、すでにこれらのバックエ
ンドサービスをパッケージ化したプラットフォーム型サービスの形で人々に提供さ
れるのが一般的である。
これに対して、ICO では、まだこうしたプラットフォームは少なくとも国内には
立ち上がっておらず、基本的に個々のプロジェクトごとにオーダーメイドで案件を
作っている。より正確には、プロトコルレベルでは、ICO 向けのトークンを生成す
るツールとして、イサリウムをベースとした ERC20 と呼ばれるスマートコントラク
トが比較的スタンダードとなってきており、これはイサリウムが ICO にとってプロ
トコルレベルでのプラットフォームとしての地位を獲得しつつあるということを意
味している。
一般的な購入型クラウドファンディングと同様に、サービス(ないしアプリケー
ション)レベルで ICO のプラットフォームを生成しようというプロジェクトが日本
のブロックチェーン企業であるテックビューロ社が主導する COMSA プロジェクトで
ある。テックビューロ社は、ビットコイン、イサリウムに加え、同社が提携するパ
ブリックブロックチェーンのコンソーシアムである NEM の間を相互に行き来するこ
とができるプロダクト「COMSA」を開発するため、自ら ICO を実施している。COMSA
の ICO で発行される「CMS トークン」は、イサリウムプロトコルを用いた ERC20 ベ
ースのものと NEM のモザイクプロトコルを用いたものの二種類が存在し、COMSA 機
能の一つである COMSA CORE によって、両者は相互に行き来することができるよう
になることが予定されている。
この CMS トークンを、テックビューロ社の ICO プラットフォームにおける払い込
みのための仮想通貨の一つとすることで、ICO をプラットフォームサービス化し、
同社が提供するフォーマットの上で、様々な企業が仮想通貨による資金調達を行い
やすくしていこうというのが、COMSA プロジェクトの基本的な狙いと考えられる。

(b) グローバルな調達
一般的なクラウドファンディングは、提供される見返りが何らかの物理的な「モ
ノ」であったり、場所性が限定されるイベントや公演のチケット等であったりする
場合が多い。イベントや公演のチケット等であればその場所性の制約から、「モノ」
であれば物流コストや輸出入手続きに必要なコストがかかることから、ローカルな
資金調達としての手段にとどまっていた。
これに対して、ICO は、インターネット上に展開されるプロダクトの開発のため
の資金調達であるという特徴から、これらの制約が少ない。むしろ、後述するプロ
ジェクトのネットワーク効果を獲得する観点からは、グローバルに展開したほうが
プロダクトの価値が高まることになる。このような理由から、ICO は通常、グロー
バルな調達を指向することになる。
なお、一般的なクラウドファンディングでも、サービスの成熟につれて、海外進
出が指向されるようになってきている。たとえば、クラウドファンディングの老舗
とされる米国の Kickstarter は、ドイツ語圏、フランス語圏、スペイン語圏につい
で日本語圏にも進出を決めており、サービスのグローバル化が図られている。
また、他方において、ICO 側からはローカル性を高める動きが出始めている。た
とえば先述したテックビューロ社の COMSA Project は、同社のプライベートブロッ
クチェーン「mijin」を中央集権的なビジネスモデルを採用する既存企業に提供する
ことで、既存企業がブロックチェーン・ソリューションを導入することを支援する
COMSA HUB の開発も調達目的の一つとして掲げている。COMSA HUB の開発が目論見
通り進めば、これを用いることで、インターネット上のプロダクトを展開する企業
以外の企業も、社内のアセットをトークン化することができる。いったんアセット
をトークン化することができれば、そのトークンを別のトークンと連携させること
によって、外部販売可能な価値を持つトークンを設計することができる可能性があ
る。そのようなトークンの設計ができれば、そのトークンを COMSA プラットフォー
ム上で販売することによって、ネットワーク上のシステム開発と、リアルビジネス
におけるサプライチェーンやマーケティングを含めたビジネスモデルをより非中央
集権化させたものに変革するために必要な資金を調達することができる可能性があ
る。
また、テックビューロ社に続いて、国内インターネットサービス向けの ICO プラ
ットフォームを指向する動きも見え始めてきている。シェアリングエコノミーサー
ビスに代表されるように、インターネットサービスは現在、急速にリアルなビジネ
スとの融合を強めており、こうした潮流と歩調を合わせるように、トークンエコノ
ミーをローカル化し、リアルビジネスに近づけていこうという動きが進んでいく可
能性がある。

(c) 二次流通の可能性
購入型クラウドファンディングによって提供される見返りは、基本的にはモノであり、
それ自身の二次流通は予定されていない。イベントや公演のチケットのような類のもの
については、二次流通の可能性があるものの、その主たる目的はイベントの参加や公演
の鑑賞といった本来的な利用が想定されているといえる。
ICO において発行されるトークンも、もちろんその本来的な利用は、調達された資金
によって開発されたプロダクトに対してアクセスすることができる点にあるから、その
本質において購入型クラウドファンディングと異ならない。
しかしながら、トークンは、ブロックチェーンによって実装されていることによって、
いわば必然的に二次流通の可能性が拓けることになる。このような特性が、ICO の本質
を正しく理解しない者やマスコミ等によって過度に強調される結果、あたかも ICO の本
質がトークンの二次流通性にあるかのような誤解が生まれ、あまつさえトークンは投資
の手段であるとの極めて危険な誤解が流布されるようになっている。
トークンの二次流通性についての理解と評価は、「トークン」と呼ばれるものが何な
のか、という問いと不可分につながるものであるため、項をあらためて説明する。

3. ICO で発行される「トークン」とはなにか
これまで説明してきたとおり、ICO の本質は購入型クラウドファンディングであるが、
マネーロンダリングやテロ資金供与の防止の観点から、仮想通貨による払込みに限って
適法に行うことができる余地がある。
ICO は、
購入型クラウドファンディングと同じであるという事実に対して、
一般の人々
が感じる表面的な違和感の根拠は、ICO において拠出の見返りに得られる「トークン」
と呼ばれるものに対する人々の理解が限定的であることに起因している。
そこで、以下では ICO において発行される「トークン」と呼ばれるものが果たして何
であるのかを可能な限り読者と共有できるようにするため、トークンを複数の観点から
説明することを試みる。
(1) 技術的な側面
これまで述べてきたとおり、トークンは、ブロックチェーン上で発行される。ブ
ロックチェーンは、しばしば分散型台帳と称されるとおり、基本的には「誰がどれ
だけの残高を持っているか」を記録した帳簿である。ブロックチェーンとは、この
帳簿の残高の維持や更新を、帳簿の管理者がいなくても、改竄がない状態で、かつ
整合性を維持した形で管理することができる技術である。
ブロックチェーンの本質は帳簿であるから、帳簿に記録されるべきものはおよそ
何でもブロックチェーンにより実装することができることになる。たとえば株主名
簿とは、特定の会社の株式を誰が何株を保有しているかについて記録した帳簿であ
るから、これをブロックチェーンによって実装することができる。この場合、ブロ
ックチェーンは、株主がそれぞれ株式を何株保有しているかを改竄がない形で記録
するだけでなく、株主による株式の移転(帳簿の更新)も、発行会社や証券代行会
社の関与を要することなく完全性を維持したまま記録することができる。この場合、
「株式」とは、実質的にはブロックチェーン上の記録そのものを意味することにな
る。
ICO において「トークン」と呼ばれるものは、さらにこれを純化させた意味で、帳
簿の残高の記録そのものであるということができる。逆に、ブロックチェーン上の
記録のことを「トークン」
と呼んでいるにすぎないというのがその実態により近い。
紙やモノに化体された物理的なトークンというものが一切観念されないなかで、ICO
において「トークン」と呼ばれているものは、ブロックチェーン上の記録にのみそ
の根拠を持ち、またそれ以上でもそれ以下でもない。

(2) 機能的な側面
トークンは、調達された資金を用いて開発されるプロダクトに対するアクセスキ
ーとして機能する。このような性質のトークンは、近時「ユーティリティ・トーク
ン」と呼ばれるようになってきている。
典型的な ICO プロジェクトにおいては、開発の対象となるプロダクトは、ブロッ
クチェーン技術を用いた非中央集権的な色彩を色濃く持つプロダクトである。非中
央集権的なプロダクトとは、たとえば Google や Amazon、Facebook や Apple に見ら
れるようなプラットフォームの支配者が存在しないアーキテクチャをもったプロダ
クトのことをいう。シェアリングエコノミー型サービスのビジネスモデルは、リア
ルなサービスの提供者と利用者が直接に取引関係に入り、プラットフォーマーはバ
ックエンドで取引のための場を提供、両者のマッチングを効率化するというもので
あるが、ブロックチェーンによる非中央集権的なアーキテクチャを採用すると、プ
ラットフォーマーの役割を分散的に処理することができることが指摘されている。
そのようなサービスにおいては、リアルなサービスの提供者と利用者の間の取引
はもとより、中央集権的なモデルでプラットフォーマーが果たしてきた役割を、数
多くの他のサービス提供者がそれぞれ提供する自律分散型のサービスモデルとなる。
このようなサービス・エコシステムを実現するためのプロダクトを実際に動かすた
めには、各機能を果たすプレイヤーに対する報酬が必要であり、その報酬こそがこ
こにいう「トークン」であるということになる。
別の言い方をすると、
「トークン」とは、自律分散型のシステムを駆動させるため
のガソリン(燃料)に相当するものである。システムを構成する個別の仕組みは、
それがインターネット上で自動的に動くものであれば、自動販売機と同様に、トー
クンを投入することで、想定された役割を果たすために必要な動きをする。それが
人の力を介在するものなのであれば、トークンを支払うことで、想定された役割を
果たしてもらうことになる。
すなわち、ICO において仮想通貨の拠出の見返りとして提供されるトークンは、
拠出された仮想通貨を用いて開発されるプロダクトのうえに、様々なプレイヤーが
参集し、これらのプレイヤーがサービスをやりとりする際に用いられる「価値の媒
体」にほかならない。

(3) 法的な側面
前述の通り、ICO において仮想通貨の拠出の見返りとして提供されるトークンは、
単なるブロックチェーン上の記録以上のものではなく、何のアセットの価値も表章
しておらず、キャシュフローに対する権利を持つものでもない。それは、プロダク
トの上に作られた、一定のソリューションの実現に向けた人々のネットワークのな
かで、サービスを提供し合う際に価値の交換媒介として機能するのみである。
日本の資金決済法は、このようなものを「仮想通貨」として定義している。
海外の ICO の事例を見ていると、プロダクトによっては、トークンは単にプロダ
クトの開発者に対してのみ用いられるような設計になっていたり、開発者と取引関
係にあるサービス提供者に対する支払手段としてのみ利用されるような設計になっ
ていたりすることもある。このような限定的な利用が想定されたトークンは、日本
の資金決済法においては、前払式支払手段として取り扱われる。金融庁が出してい
るガイドラインやパブリックコメントに対する回答によると、前払式支払手段とし
て取り扱われるものは、資金決済法における「仮想通貨」には該当しない。
仮想通貨に該当するトークンを不特定の者に対して販売する場合には、仮想通貨
交換業の資格が必要になる。また、前払式支払手段を発行する者に対しては、前払
式支払手段の発行者として届出または登録が必要になる。
現在の日本の標準的な ICO の実務では、前払式支払手段に該当しないようにトー
クンをデザインすることによって、前払式支払手段の違法発行の問題が生じないよ
うに留意することになっている。
これによって、残る問題は、ICO トークンが仮想通貨に該当しないという根拠を
どこに求めるかという点に絞られることになる。
この点、日本の実務で明確な点は、先ほど説明したとおり、金銭を対価としてト
ークンを発行すると、それはマネーロンダリングの危険性もあいまって、当局にお
いて、仮想通貨の無登録販売として認定されるリスクが極めて高いという点である。
日本の資金決済法は、仮想通貨を2つに分類して定義しており、一つが何かの支払
いに使えることができて金銭で売買可能な財産的価値(1 号仮想通貨)、もう一つが
1 号仮想通貨と相互の交換可能な財産的価値(2 号仮想通貨)とされている。
トークンを金銭で販売してしまうと、このうち 1 号仮想通貨に該当する可能性が
高いと考えられる。
これに対して、ICO のトークンは、ビットコインやイーサなど、1 号仮想通貨の払
い込みを受けて販売するものである。しかし、トークンをビットコインやイーサな
どに交換することができる仕組みとはしないのが通常である(この点、Bancor をベ
ースとして生成するトークンについては留意を要する。)。これによって、トークン
は 1 号仮想通貨と「相互に」交換することができるものではないとして、いまだ仮
想通貨には該当していない、という整理を行っている。ICO の段階ではまだトーク
ンであるが、これが取引所によって取り扱われ、不特定の者の間で 1 号仮想通貨と
相互交換することができるようになった時点で、仮想通貨に該当することになる、
という考え方だ。
これに関連して一点注意しなければならないのが、いわゆる詐欺コイン(scam)
との境界である。日本の仮想通貨交換業の実務では、仮想通貨取引所が新たに仮想
通貨を取扱うに当たっては、これが取引所で取扱うに値する適切なものであること
を当局に説明し、審査を受けた上で届け出なければならない。すなわち、トークン
を発行する者が ICO の段階で、「自らのトークンは将来取引所で取り扱われること
になる」などと言うことはできない。それはトークン発行のアドバイザーであって
も、また仮想通貨取引所の運営者自身であっても、同様である。なにしろ、適切な
手続きを経て当局の実質的な審査を受けなければ、新たにトークンを仮想通貨とし
て取扱うことができないのであるから、トークンの一般の購入者に対して、将来そ
のトークンが取引所で取扱われるなどということを謳うことはできないし、そのよ
うなマーケティングでトークンを販売する者は詐欺に該当する。
取引所規制がない海外の取引所のなかには、一定の支払いをすればトークンを取
扱ってくれる先があるといわれている。これに目をつけて海外で取り扱わせようと
しても、今度は海外取引所の日本国の居住者に対するマーケティング規制が適用さ
れる。トークンの購入者に対して、海外の取引所で取り扱いを開始したことを告げ
れば、海外取引所による日本国居住者に対する違法なマーケティングとして、資金
決済法に違反することになる。
以上の結果、トークンの販売に当たっては、購入者に対して、将来このトークン
が取引所において取り扱われるかのような誤解を与える形で販売をしてはならない。
よしんばそのトークンが取引所において取り扱われたとしても、その後にどのよう
な値段がつくかは誰にも分からないのであるから、将来値が上がる等の宣伝文句は
言語道断である。トークンの販売において、正確ではない事項や誤解を招く事項を
伝えてこれを販売することは、不法行為に該当するおそれがある。
不法行為の立証は、少なくとも日本ではかなりのハードルがある。おかしなトー
クン販売が行われることを抑止するためにも、不適切なことを告げてトークンを販
売した場合に、販売者が購入者の被った損失について責任を持たなければならない
特別な仕組み(米国で言えば SEC の Rule 10b-5(17.C.F.R.240.10b-5)、日本で言え
ば金融商品取引法 157 条のようなルール)が備わっているとよいと思う。
なお、ICO におけるトークンは、将来取引所において取り扱われることを期して
販売しているとして、はじめからこれを仮想通貨であると認めた上で、トークン販
売の取扱いを登録を経た仮想通貨交換業者にのみ取り扱わせるという政策も考えら
れるところである。このような実務となれば、対価が金銭であろうと仮想通貨であ
ろうと本人確認を得ないとトークンを購入することができないことになり、マネー
ロンダリングの防止の観点からはありがたく、しかも自らの審査を経ない ICO が日
本で行われることを抑止したい金融当局としては、こうした実務は魅力的なものに
映るものと想像される。しかしながら、このような実務とした場合、海外の ICO プ
ロジェクトは間違いなく日本をオファリングの対象から除外することになる。日本
はもはや、イノベーションの領域では衰退国として扱われており、世界の分散型ビ
ジネスを率いる起業家は、日本を ICO の対象に加えることにより日本独自の手間を
掛けなければならないのであれば、端的に日本を ICO の対象から除外することを選
ぶ者が大半を占めるはずだ。かくして日本は、分散型ビジネスモデルのネットワー
クから隔絶される。
データを巡る戦いで、日本は GAFA や BATs に完敗した。経済産業省が本年 5 月末
に 公 表 し た 新 産 業 構 造 ビ ジ ョ ン
(http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530007/20170530007-2.pdf)に見ら
れるとおり、インターネットがリアルに染み出してくる第二幕の戦いで、日本は自
律分散戦略を採用することに決めた。自律分散型の産業アーキテクチャにとって、
分散型のビジネスモデルの採用は不可避であり、分散型ビジネスモデルにおける通
貨体系は、分散型の仮想通貨がその地位を占める可能性が相応に存在する。自律分
散型のアーキテクチャに産業復活を賭けた日本は、仮想通貨のビジネスモデルを推
進することを宿命付けられている。そのようなポジションを選び取った日本が、世
界の ICO に背を向けるような施策を講じることは、日本の産業史上に大きな禍根を
残す可能性がある。

(4) 経済的な側面
トークンは、ICO の時点では、これをアクセスキーとして利用するためのプロダクト
がまだ完成していないため、経済的になにか有意な財産を獲得したというものではない。
そのようなものであるにもかかわらず、なぜ ICO に対して既存のベンチャーキャピタル
のみならず一般の人々までもがこれほど興味を持つのだろうか。
Airbnb などのネットワークの形成が企業価値を形作っていると見られている企業の
事例を観察する限り、トークンの経済的価値の推移については、以下のようなことが言
える可能性がある。
トークンの価値上昇についてのシナリオは、次のとおりである。プロダクトの開発に
先立ってトークンが販売されるが、この段階におけるトークンはまだ使用対象となるプ
ロダクトが完成しておらず、実質的に何らの利用価値もない。開発者の努力によりプロ
ダクトが完成され、ローンチされると、そのプロダクトを実際に利用してみたいと考え
るアーリーアダプターである ICO におけるトークン購入者がサービスを利用する。プロ
ダクトは多くの場合、より多くの人がそのプロダクトを利用すれば、その分だけそのサ
ービスは便利になるという性質を持つようにデザインされている(いわゆるネットワー
ク効果)。アーリーアダプターは、プロダクトが良いものである場合には、これがより
多くの人に利用されることを望むものであるが、ICO によってトークンを購入済みのア
ーリーアダプターは、プロダクトが提供するサービスが広まることに対し、より強いイ
ンセンティブを持つことになる。なぜなら、サービスを利用するためには、サービス内
の通貨であるトークンが必要であるから、多くの人がサービスを利用することは、単に
サービスがより便利に使えるということにとどまらず、トークンの需要の上昇によって、
トークンの市場価値が高まり、自らの経済的利益となる可能性がある。かくしてアーリ
ーアダプターが積極的にプロダクトを自らの持つソーシャルネットワークを駆使して
他の人々に広めていくという活動が期待できる。このような活動によって、アーリーマ
ジョリティが実際にサービスを利用することにつながり、アーリーマジョリティがサー
ビスを気に入れば、サービスがキャズムを越えていく可能性が出てくる。ネットワーク
による情報の伝播と人々の受容は、おそらくべき乗則に従うことになる。
ICO によってプロダクトの開発陣がアーリーアダプター層にアクセスし、更に彼らに
普及に対するインセンティブを付与することができることは、ICO が単にプロダクトの
開発資金を調達することに資するのみでなく、ソーシャルネットワークの力を活用した
プロダクトマーケティングを推進する上でも、強力な武器になると考えられる。

4.ICO 実務の課題
現状の ICO 実務に対する批判は、大きく以下の 4 つに分けられるように思われる。
① 仮想通貨の本源的な価値に対するそもそもの批判
② 架空案件や実現性の低い案件、上場や価値上昇に対する不確かな将来について過度
に期待をもたせる詐欺案件に対する批判
③ リスクを正確に理解していない人に対してトークン勧誘が行われることに対する
批判
④ マネーロンダリングなどに用いられることにより社会の安全を危うくすることに
対する批判
このうち、②は詐欺という典型的な犯罪類型であり、刑法なり不法行為なり詐欺を防
止し詐欺からの救済を図る法令の執行を強めていくことが対策として考えられる。もし
既存の法令の適用範囲が限定されていて ICO に対応できないというものがあれば、対応
できるような措置を講ずる道はあるように思われる。
④については、FATF の枠組みを不断に見直し、それを国内法制に反映させていくこ
とを継続に行うことで、対応すべき問題である。
①は既存の枠組みに収まらないものに対するネガティブなリアクションであり、イノ
ベーションに対する既得権益層からの自己防御的な言説が混在する中で、その価値を見
極めていく類の問題である。
以上の 3 つはこれまで既にあったことであり、また対応の道筋も分かりやすい。これに
対して、③の対処は難しい。トークンを有価証券になぞらえて見るのであれば、対処の
方法は有価証券に関する既存のルールに則って機械的に対応を考えれば良いというこ
とになるが、トークンは有価証券ではない。ICO はグローバルな事象であり、場所性に
制約されないインターネット空間ならではの特徴を持つ。国別にバラバラに規定された
有価証券法制に載せて議論することが本当に正しいのか、よく考える必要がある。
また、ここにいうリスクというのが果たして何を指すのかについても、よく考える必要
がありそうだ。もともとトークンはユーティリティを持ち、サービスに使用することが
できる。プロダクトが完成しないことによってトークンを実際に用いることができない
可能性はあるが、これは通常の購入型クラウドファンディングにおけるリスクと同じで
あり、金融的に対処するべきリスクとは異なる。
他方で、非金融ビジネスに関する消費者保護法的なアプローチだけで対処することが
できるかというと、これも疑問である。トークンが実際に利用価値が出てくるかどうか
は、単にプロダクトの良し悪しの問題だけではなく、その後のネットワークの成長の成
否にもかかってくる。どれだけネットワークを成長させることができるかどうかについ
てのリスクは、単にプロダクトの良し悪しの問題だけではなく、エンタープライズリス
クの側面も強い。これは消費者保護法的なアプローチによってはアドレスすることが難
しい。
もっとも、既存の法制度の枠組みにおける境界領域に属する課題が発生するというの
は、イノベーションの世界ではしばしば起こることである。というよりは、こうした境
界領域の課題が出てくることは、ICO が価値のあるイノベーションであることの何より
の証左である。
こうしたイノベーションへの対処方法は、既に定式化されている。その全容がわから
ない中で現象面のみを捉えて拙速に制約的な行動に出ることを避け、新たな価値の実現
による社会的な便益の向上と利用者保護のバランスをとりながら、その両者の均衡点を
見極めていくというものである。
一部の新興国は、既に規制側に回っているが、こうした事態を過去に経験している先
進諸国は、概ねイノベーションへの対処方法に関するセオリーに従って行動していると
いえる。日本はアジアの先進国として、ICO というイノベーションに対する正しいアプ
ローチを他のアジア諸国に示していくことが求められている。