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札病の現場で実践する!
ACPの考え方入門
~いのちの終わりにどうかかわるか~
勤医協札幌病院 総合内科
病棟医⾧
向坊 賢二
事例① 事例②
80歳 男性 80歳 女性
• 75歳くらいから認知症が目立ってきて • 大動脈弁狭窄症(重症)、心筋梗塞で手術歴あり。
誤嚥性肺炎を2回起こし現在入院中 慢性心不全の急性増悪で2回入院した。
• 今日は定期外来。本人はニコニコ過ごしている
• 嚥下機能が落ちていて経口摂取は危険という ようだが、家族の話では、ちょっと動くだけで
医療者の判断 ゼーゼーしているらしい。
• 主治医は次の急性増悪では救命できないかも
しれないと考えている。
胃瘻を作りますか? 心臓が止まったら蘇生処置をしますか?
すんなりいくこともある
事例①
家族・(本人) 「じーちゃんは、食えなくなったら
「決められません…」 『何もしてくれるな』と言ってました」
事例②
「ばーちゃんは、ぽっくり逝ったら
『そのままにして』と言ってました」
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我々に求められること
• 家族の「決められません…」を支援する
→急性期におけるかかわり
• 事前に話し合っておくとうまくいく
Advance Care Planninng
こともある
アドバンス・ケア・プランニング
→慢性期におけるかかわり
Advance=事前の
✕ Advanced=進歩した、高度な
本日の内容
1. ACPの基本的な考え方
2. 急性期におけるACP
1. ACPの
3. 慢性期におけるACP
基本的な考え方
4. 小グループディスカッション
クイズ①:ACPとは…? クイズ②:ACPとは…?
食べられなくなったら 心臓が止まったら
胃瘻を作るか、 蘇生処置をするか、
事前に文書で確認しておくことで 事前に文書で確認しておくことで
ある ある
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事前指示
①、②はどちらも
(AD:Advence Directive)
事前指示 ①代理決定者
②内容指示
Advence Directive:AD の指名
アドバンス・ディレクティブ ・DNAR
・胃瘻
・中心静脈栄養
ですね ・人工透析
・人工呼吸器 …etc
事前指示の歴史的背景 事前指示のみでは不十分
1970-80年代 米国 1989年-1994年 SUPPORT study
医師が患者の意志を慮って治療を決定 9000名の患者の追跡調査
事前指示の問題点
• あらゆることを事前に決めておくことは不可能
• 「〇〇はしてほしくない」と事前指示していても
状況によって、その医療行為をしないことが
むしろ本人の価値観と異なる場合もある
• 特定の医療行為への誤解、ヘルスリテラシー
-石原氏「胃瘻はエイリアン」
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↓ 「きっとあの人ならこの状況で、こう
考えるだろう」
その人がどんな人生をあゆみ、
どんな価値観をもっているのか →柔軟な意思決定支援が可能になる
ACPはさらに広い考え方 ACPとは
これまでの人生を振り返り、
これからの人生を(最期のときまで)、
胃瘻
どう生きていくかを考えることである。
https://ganjoho.jp/data/med_pro/consultation/forum/h28/shutoken_20161112_kiroku01.pdf
ACPの効果
現場で
• より患者の意向が尊重されたケアが実践され
患者と家族の満足度が向上し、遺族の不安や
抑うつが減少。
• StageⅣの癌患者
BMJ. 2010 Mar 23;340 PMID: 20332506
どう実践するか?
死の直前の化学療法など、必要以上の治療が
50-60%減少し、緩和ケアを受ける頻度が増加
J Clin Oncol. 2010 Mar 1;28(7):1203-8 PMID: 20124172
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事例①
80歳 男性
2.急性期における • 75歳くらいから認知症が目立ってきて
誤嚥性肺炎を2回起こし現在入院中
かかわり • 嚥下機能が落ちていて経口摂取は危険という
医療者の判断
胃瘻を作りますか?
急性期における問題 臨床倫理四分割法
医学的適応 患者の意向
• 事前に話し合いがなされていないことの
方が多い。
情報が足りない
1.診断・予後 1.患者の判断能力
2.治療目標 2.病状理解
ことが多い
3.医学の効用とリスク 3.事前指示
4.無益性 4.代理決定者
• 具体的な話し合いをしなければならない
状況に迫っていることが多い。
QOL 周囲の状況
• 終末期を迎えた多くの患者は自分で意思 1.患者のQOL 1.家族の状況
決定ができない。 2.周囲のQOL
3.win-winを目指す
2.経済的な状況
3.利害関係
4.医療者のストレス
Next Step
ACPの三本柱 ACPの三本柱
過去 ・これまでの人生(ライフレビュー) ・これまでの人生(ライフレビュー)
・過去の発言/性格
過去 ・過去の発言/性格
・大切にしてきたこと
患者の意向
・大切にしてきたこと
・本人の言動、何気ない仕草などあら ・本人の言動、何気ない仕草などあら
現在 ゆる手段で本人の今の気持ちを推測する。 現在 ゆる手段で本人の今の気持ちを推測する。
→多職種、家族など関係者全員があらゆる →多職種、家族など関係者全員があらゆる
角度から確認するようにして情報を集める 角度から確認するようにして情報を集める
未来 ・本人が得ることができる最善の利益は? 未来 QOL
・本人が得ることができる最善の利益は?
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臨床倫理四分割法 事例①:過去
医学的適応 患者の意向
過去 ・これまでの人生(ライフレビュー)
1.診断・予後 1.患者の判断能力 ・過去の発言/性格
・大切にしてきたこと
2.治療目標
3.医学の効用とリスク 過去
2.病状理解
3.事前指示 現在
4.無益性 4.代理決定者 • 優しく家族思いで面倒見のよい人だった。
• ときに近くの居酒屋に行って、鶏の唐揚げを家
族みんなに振る舞うことを楽しみにしていた。
QOL 周囲の状況 • 塩辛いものが大好きで、「これ(唐揚げ)が食べ
1.患者のQOL 1.家族の状況 られなくなったら人生おしまいやな」という
2.周囲のQOL 2.経済的な状況
未来
3.win-winを目指す 3.利害関係
発言がよくあった。
4.医療者のストレス
Next Step
事例①:現在 事例①:未来
現在 ・本人の言動、何気ない仕草などあら
ゆる手段で本人の今の気持ちを推測する。 未来 ・本人が得ることができる最善の利益は
→多職種、家族など関係者全員があらゆる 何か →QOL
角度から確認するようにして情報を集める
• 結果的に、誤嚥や窒息で寿命が短くなった
• 「腹減った」「何か食べさせろ」という発言は としても、本人に好きなものを食べてもらう
あるがミキサー食は食事と認識していない様子 のが最善ではないかと推測。
で口に入れても、険しい様子ですぐに吐き出し
てしまう。
• 胃瘻は本人の生前の発言からもQOLからも
• 吸痰のとき以外は穏やかに過ごしている。 最善の選択ではないだろう。
事例①:転帰
• ST・管理栄養士などの協力の元、試行錯誤の末、
ミキサー食で鶏の唐揚げを再現。 胃瘻を作るか?ではなく、
• 本人に食べさせたところ、今までの拒否がウソ
のように手づかみで食べはじめ、「うまい!」
今をより良く生きる
と笑顔であった。 ために何ができるか
• その後、2週間程で亡くなられたが、家族の表情
も晴れやかであった。
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事例②
80歳 女性
3.慢性期における • 大動脈弁狭窄症(重症)、心筋梗塞で手術歴あり。
慢性心不全の急性増悪で2回入院した。
かかわり
• 今日は定期外来。本人はニコニコ過ごしている
ようだが、家族の話しでは、ちょっと動くだけ
でゼーゼーしているらしい。
• 主治医は次の急性増悪では救命できないかも
しれないと考えている。
心臓が止まったら蘇生処置をしますか?
慢性期における問題 通院患者全員に
• いつ命の終わりに向けての話し合いを
すればよいのかわからない ACPを実践するのは
• 外来・訪問診療など時間が限られている
現実的には不可能
• 延命処置と言われても理解できない →地域レベルでは万人に行うべきとされています。
→現場レベルではいつ・どんなタイミングで
• 社会的に孤立し、他に代理意志決定者が
ACPを始めるべきでしょうか?
いない人も増えてきている
「余命」と「予後」
ACPを始めるとき 余命=残された時間
• 残された時間を正確に予測することはできない。
→神のみぞ知る
↓ 予後=これから辿る経過
人生の終わりがそう遠く
• 今後の経過については、ある程度予測できる
モデルがある。
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• 脳卒中、心筋梗塞など
• 終末期はほぼ存在しない
• 看取り期のケア、
臓器不全パターン グリーフケアが中心となる
認知症/老衰パターン
(心・腎不全、COPD)
がんパターン 臓器不全パターン
ACP
• 全身の機能は比較的良好 • 慢性心不全・腎不全、
に保たれた期間が続く 肝硬変、COPDなど
• 急性増悪による入退院を繰り
• 死亡前1-2ヶ月で、急速に ACP 返すようになってから1-2年
状態が悪化する。 で亡くなる事が多い。
• 急性増悪時にそれが改善可能
• 予後予測はしやすい な病態かの判断が難しい
• 死亡時は突然死の様相
の化
再 中学
発 止療
法
認知症/老衰パターン
• 全身の機能が低下した時間が
⾧く続く
• 全体的に緩やかな低下が続き、
死亡まで機能が低下していく
ACP
• そもそもいつからが終末期
なのかが不明確
誕 施
生 設
日 入
所
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ACPを尋ねるタイミング
• 誕生日 では何をすべきか?
• 年末年始
• 年度末
• 人生の節目(孫イベント、◯寿の祝、施設入所)
•
•
身近な人が病気になった
退院後初回の外来 etc DNAR 胃瘻
こじつければ、
年に何回もチャンスはある!
認知症/虚弱パターン
ACPの三本柱、 過去 「若い頃はどんな生活だったんですか?」
「何歳の頃が一番楽しかったですか?」
過去-現在-未来を
「何歳まで目指したいですか?」
意識して患者さんとの対話 現在 「それはなぜですか?」
を大事にしよう!
「これから先、大切にしたいものは
未来 ありますか?」
「今後の生活で心配なことはありますか?」
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臓器不全パターン がんパターン
「若い頃はどんな生活だったんですか?」
過去 「何歳の頃が一番楽しかったですか?」 過去
「入院生活で辛かったことはありますか?」
現在 「今の病気で心配なことはありますか?」 現在
「これから先、大切にしたいものは かわさきOncology
未来 ありますか?」 未来 &Palliative Care
http://tonishi0610.blogspot
「今後の生活で心配なことはありますか?」 .jp/2017/08/blog-post.html
土台を固める関わりを グループディスカッション
テーマ
もしものときの希望 「札病で取り組めそうなACPの実践
DNAR、胃瘻、人工透析など
について」
最期まで 4-6名の小グループを作って下さい。
過ごしたい場所
まずは今日の講演を聞いて感じたことを中心に盛り上がっ
大切にしたいこと ていただき、その中で札病で実践できそうなことがあれば
大切にしていること 自由に討論してみてください☆
これまでの人生・生き方 約10分間
まとめ 参考文献
• 木澤義之 他,いのちの終わりにどうかかわるか
• ACPは胃瘻、蘇生処置をするかしないか →ACPの三本柱「過去-現在-未来」の記載あり。
決めることではない。 • 西 智浩,「残された時間」を告げるとき
→余命と予後の違いについての話、癌患者さんとのコミュニケーション
についてマンガを交えて説明もあり読みやすい。
• ACPとは患者・家族の人生、価値観を知り、
一緒にこれからの人生を考えること。 • 宇井睦人 編,多角的に考えるアドバンス・ケア・プランニング
治療 2017,Vol.99,no.6
• E-FIELD 講演会資料
• 在宅-外来-病棟、あらゆる職種で http://www.ncgg.go.jp/zaitaku1/eol/kensyu/soudan26/siryo.html
患者や家族と人生の物語を紡ぎましょう。
• 川口篤也先生,
北海道勤医協看護師⾧会 講演会資料 2017/12/8
函館ジェネラリストカレッジ 講演会資料 2015/12/16
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