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車載型排気熱回収スターリングエンジンの開発*
片山 正章 1) 吉松 昭夫 2) 立野 学 3) 小森 聡 4) 澤田 大作 5)
Masaaki Katayama Akio Yoshimatsu Manabu Tateno Satoshi Komori Daisaku Sawada
In this paper, we describe the design and evaluation of vehicle-mounted stirling engine. Output target is 1 kW net
power from the exhaust gas of driving at 100 km/h in a small hybrid car. The α-type four-cylinder stirling engine
arranged in tandem two units to aim compact and low vibration were designed. In addition, from the evaluation
results of the previous model(3), the new heater was designed. The net power output of 472W was obtained from the
equivalent load at the speed of 100 km/h. Recovery rate was 5.1%, and fuel consumption increased 3.4%. It was
shown that this stirling engine was effective means of waste heat recovery system. In order to achieve the target
power, it is necessary to reduce heat loss of stirling engine.
KEY WORDS:heat engine, Stirling engine, efficiency heat recovery, vehicle exhaust gas (A1)
2.車載型スターリングエンジン(SE)の製作
2.1.狙いと SE 本体設計
小型乗用ハイブリッド車(1.8L エンジン)の 100km/h 走行時
の排気損失(10kW)から 1kW の出力回収を目標とした.
*2014 年 6 月 2 日受理.
2013 年 5 月 24 日自動車技術会春季学術講演会において発表.
1)・2)・3)・4)・5) トヨタ自動車(株) 東富士研究所(410-1193 Fig.1 Vehicle-mounted stirling engine (Cross section)
静岡県裾野市御宿 1200)
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車載型排気熱回収スターリングエンジンの開発
2.3.搭載検討 3.実験結果および考察
回収した動力はエンジン軸動力に足し合わせる,あるいは 3.1.実験方法
補機動力として使うことが望ましく,伝達機構簡素化のため 今回の評価は,軸トルク計を使用しての正味出力計測が困
に,エンジンとの平行配置が望ましいと考えた. 難であり,また負荷と回転数を任意に設定するために,エン
また,SE に供給される排出ガス温度は高いほど好ましく, ジンとの伝達を切り離した状態で行った.図 8 に計測系の構
エンジン排気出口に近接配置することが望ましい.ハイブリ 成を示す.SE の回収動力は,図 9 に示すように SE 出力軸に
ッド車では,エンジンの頻繁な再起動があるため,前置触媒 ベルトを介して繋いだ発電機に吸収させた.図 10 に実験装置
の暖機性を重視し,SE は前置触媒後に近接しての搭載を検討 の写真を示す.
した.また,後置触媒の浄化能力確保のために,SE 出口での 各部の圧力は ENDEVCO 製 8540-500-240 を使用し,SE の
排出ガス温度は 350℃以上となるように検討した.また,エン 作動ガス圧力は,上流側,下流側 SE それぞれの高温側気筒上
ジン出口から SE までの排気管長さが,排出ガス温度低下に及 部各 1 箇所,低温側気筒上部各 1 箇所,バッファ圧はクラン
ぼす影響が非常に大きいため,可能なだけ短くする設計を行 クケース 1 箇所で測定した.各部のガス温度は豊通テクノ製
い,エンジンから前置触媒までの排気管は図 5 に示すように K 型シース径 φ1.0 を使用し,計測部の熱的外乱を抑制するた
変更し,SE 本体は図 6 に示すように,クランクシャフトの位 めに,固定位置から計測部までシース径の 2 倍の孔径の中を
置がピストン位置よりも高くなるように配置(倒立搭載)した. 周囲に接触させずに通し,固定位置から計測部までの距離は
その結果,前置触媒出口から SE ヒーター部までの距離を 直径の 10 倍以上を確保した.高温側作動ガス温度は,ヒータ
70mm 以内に収めることができた. なお,この倒立搭載はピ ー両端部で各 2 箇所(Th1~Th4),低温側作動ガス温度は,クー
ストン摺動部に潤滑油を用いておらず,姿勢を問わないので, ラー直上各 1 箇所(Tc1,Tc2),低温側気筒上部各 1 箇所(Tc3,Tc4)
このような搭載が可能となる. を測定した.また,高温熱源である排出ガス温度は,上流側
SE ヒーター部の入口(Tin),上流,下流側 SE ヒーター部の中
間(Tmid),下流側 SE ヒーター部の出口(Tout),低温熱源である
冷却水温度は,クーラー入口(Twin)と出口(Twout)を測定した.
SE 回転数はオプトファイバ検出器で測定し,ピストン位置
を把握するために SE クランク位置はロータリーエンコーダ
(1pulse/deg.)により測定し,PV 線図を求めた.
また,ピストンを浮上させるために必要な空気(ピストン静
Fig.5 Modification of exhaust system 圧)はクランクケース内の一部の空気を圧縮することで,その
仕事を抑えることができる(数 W 程度と試算)が,今回の試験
ではピストン静圧を正確に計測するために,クランクケース
外部で大気の空気を圧縮したものを用いた.
クーラー冷却水は,安定した温度を得るために工業用水(約
18℃)を使用した.
2.4.車載検討
図 7 に小型ハイブリッド車へ車載検討した図を示す.大き
な変更を行わず,配線,排管の簡単な変更のみで車載できる
ことを確認した.
3.2.正味出力と回収効率
図 11 にエンジン出力に対する排気損失,図 12 に SE 正味出
力,図 13 に回収率(SE 正味出力 / 排気損失)を示す.正味出力
は,高温側(正の仕事),低温側(負の仕事)それぞれの作動ガス Fig.13 Recovery rate
空間の PV 線図(図 14)から求めた図示出力から,分解法で求め
た機械損失,バッファ損失(クランクケース内の流動損失)を差
し引いて求めた.
100km/h 相当負荷で正味出力 0.472kW,
回収率 5.1%を得た.
また,エンジン回転数 3000rpm,エンジン出力 36kW のとき最
大正味出力 1.235kW を得た.
なお,単体ベンチ評価時には,平均作動ガス圧 1MPa での
シール性を確認していたが,搭載状態では熱環境の変化によ
り確実なシール性が確保できなかったため,今回はデータの
安定性を優先し,シール性の確認できた平均作動ガス圧
0.75MPa で評価を行った. Fig.14 PV diagram at equivalent load of 100km/h
3.3.作動ガス温度差と図示トルクの関係
図 15 に,高温側と低温側作動ガスの温度差に対する,図示
トルクを示す.図示トルクは,熱交換器の違いの影響を除く
ために流動損を除き,行程容積の違いを補正している.試作
機と本機で,作動ガス温度差と図示トルクの関係がよく一致
しており,所望の図示トルクを得るために必要な,高温側と
低温側の作動ガス温度差が分かる.
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車載型排気熱回収スターリングエンジンの開発
有の熱の流れの解析を行い,熱損失を低減し,作動ガス温度
差を大きく取る必要がある.
3.5.作動ガス温度差の拡大
これまで述べてきたように作動ガス温度差が出力,効率に
及ぼす影響は大きく,更なる出力向上のためには,作動ガス
温度差を大きく取る必要がある.
そこで,上流側 SE(図 8 中 SE1)と下流側 SE(図 8 中 SE2)を
切り分けて,高温側作動ガス温度がどのように決定されるか
を調査した.図 20 に SE 入口部排出ガス温度 Tin と SE1 出口
部排出ガス温度 Tmid(=SE2 入口部排出ガス温度)の平均温度,
SE2 入口部排出ガス温度 Tmid と SE2 出口部排出ガス温度 Tout
の平均温度と,高温側作動ガス温度 Th の関係を示す.
本 SE では高温側作動ガス温度 Th は,SE 前後の排出ガス平 Fig.22 Cole side working gas tempareture
均温度から約 150℃低い値であることが分かり,高温側作動ガ
ス温度向上のためには,ヒーターの効率向上および熱ロス低 4.ま と め
減により,この差を小さくする必要がある. 車載型 SE の製作,評価結果から,本システムは車載型の排
次に,低温側作動ガス温度と冷却水平均温度(図 21)および 気熱回収システムとして有効な手段と判断できた.
出入口温度差(図 22)の関係を調査したが,どちらも相関が取 (1) 熱歪対策,均質な温度の作動ガス流出を両立したコンパ
れなかった.このことからも,前節で述べたように,クーラ クトなヒーターにより,車載可能な SE を設計した.
ー冷却水には作動ガス以外からの伝熱があり,作動ガスを安 (2) 車載可能な排気熱回収 SE で,ハイブリッド車の排気損
定的に冷却できていないことが分かる.低温側作動ガス温度 失から動力回収可能なことを確認した.100km/h 走行時に正味
低下のためには,作動ガス以外からのクーラー冷却水への熱 出力 0.472kW,燃費 3.4%の向上が得られた.
の流れを抑制することが必須となる. (3) 気体潤滑ピストンの接触磨耗による不具合等なく,シス
テムとして成立することを確認した.
(4) 更なる熱効率向上には,熱損失低減が必要である.
参 考 文 献
(1) Raymond Freymann,Jorgen Ringler,Marco Seifert,Tilmann
Horst:The second generation turbosteamer,MTZ,Vol.73,
p.18-23(2012)
(2) 茨木茂,遠藤恒雄,小島洋一,高橋和也,馬場剛志,川尻
正吾:ランキンサイクルを用いた車載用廃熱回生システムの
研究,自動車技術会学術講演会前刷集,No.92-06,p.15-20(2006)
Fig.20 Hot side working gas temperature (3) 矢口寛,澤田大作,神山栄一,片山正章:排気熱回収スタ
ーリングエンジンの研究,自動車技術会論文集,Vol.42,No.2,
ーリングエンジンの研究,自動車技術会研究論文,Vol.42,
No.2,p.465-470 (2011)
p.465-470(2011)
(4) 山下巌,濱口和洋,香川澄,平田宏一,百瀬豊:スターリ
ングエンジンの理論と設計,山海堂(1999)
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