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ジャーナリズムの倫理Ⅱ

①個人の私的領域(住居など)へ
の侵入
②他人の私生活上の事実(私事)
の公表
③他人の氏名あるいは肖像の不
正な使用(氏名・肖像権の侵害)
「逆転」事件の高裁判決(前科等に
関わる事実を公表されない法的利
益)は,公共性および公益性が認め
られる場合は,プライバシーを侵
害する報道であっても免責される
としたが,最高裁はこれを退けた
(平成6.2.8)。事後的措置では侵害
による権利の回復が不可能な特殊
事情による
犯人視報道
①捜査段階の供述の報道にあ
たっては,その内容のすべてが
そのまま真実であるとの印象を
読者・視聴者に与えないように
すること
②被疑者の対人関係や生育歴な
どのプロフィールは,その事件
の本質や背景を理解する上で必
要な範囲内で報じること
③事件に関する識者のコメント
や分析は,被疑者が犯人である
との印象を読者・視聴者に植え
付けることのないよう注意する
こと
被疑者の逮捕,あるいはその以
前の段階で,被疑者(容疑者)を
「犯人」であると断定し,ある
いはそれを前提として行われる
報道
被疑者・被告人はまだ「犯人」
ではなく,それに対して不必要
な権利の制限・侵害を行っては
ならないとする近代法の大原則
一定の限度を超えれば,当事者
や関係者の名誉・プライバシー
を侵害するのみならず,読者・
視聴者が社会問題としての犯罪
に向き合う際のあるべき姿勢や
目線を歪めてしまう
『報道ステーション』2018年5月15日
『NEWS ZERO』2018年5月16日
エンタテインメント性
犯罪に直面した時に誰もが感じ
る欲求・感情に根ざしている
被疑者が逮捕された時点で,短絡的な
犯行理由の推測に惹き付けられがち
犯罪を憎む心(正義感)や被害者への同
情から,被疑者に対する憎悪・復讐心
にすり替えられている
読者・視聴者の「素朴すぎる正
義感」とは距離を置き,ときに
は「知る権利」も横に置き,犯
罪報道の在り方を抜本的に見直
しを図る必要があるのではない
か。
権力犯罪以外の一般刑事事件に
ついては,被疑者・被告人の実
名は原則として公表しないとす
る報道スタイル
愛媛県八幡浜市の地域紙「南海
日日新聞」が1986年11月から実

警察発表(警察的真実)だけに依
存するのではなく,とくに(当
番)弁護士を通じて被疑者に接
触し,複数の主観的事実によっ
て構成(併記)する
「西日本新聞」が1992年12月か
ら「被疑者の言い分掲載」
内容の真実性は究極,事件の当
事者の実名の提示で担保される
事件取材が甘くなり,最悪は警
察などによる事実の捏造・変造
も可能になる
記者が,犯罪を主体的に追求す
る本質が軽視されている
「裏付け取材」のため,記者が
被疑者周辺をかぎまわり,人権
侵害はいっそう拡大する
事件の真相を明らかにするのは
司法であり,ジャーナリズムは
類似行為を行う必要がなく,捜
査機関の発表を覆す力もない
容疑者逮捕時の犯罪報道の削減
検察・警察の権力行使の監視・
批判という観点からの取材・報
道体制の構築と記者教育
ドキュメンタリー・ルポルター
ジュによる犯罪事件の「全容」
追跡への力点移動
「公共性感覚」の内蔵
名誉毀損・プライバシー侵害で
もなお正当性が認められる
プロとして「眼前の事実」は
「社会の議論に付すべき事実」
であるか否かを瞬時に判断する
力量を培う必要がある
SNSなどで犯罪“報道”に,多
くのアマチュアが関わるように
なった際,当初は混乱もみられ
るだろうが,究極は市民一人ひ
とりに「公共性感覚」の内蔵が
求められる
取材源の秘匿
ジャーナリストは,取材に応じ
情報を提供した人物(取材源:
ニュースソース)について,そ
れが誰かということを,原則と
してあらゆる場面で明らかにし
てはならない
取材源を秘匿することは,報道
機関の何より優先すべき責務で
あり,個々の記者にとっては,
取材活動の根幹をなす究極の職
業倫理である。

http://www.pressnet.or.jp/statement/report/030319_43.html
海外のジャーナリズムは,取材源
は“特定/明示”が原則。秘匿す
るのは,取材源を明示することが
取材源を危機あるいは不利益に追
い込むおそれがあるときに限る
「例外的措置」であり,秘匿の理
由を明示するなど,読者の信頼を
繋ぎ止める努力が大切
ジャーナリストは,取材によっ
て収集した映像・音声・メモな
どの資料について,報道目的以
外で使用してはならない
とくに,当該取材にかかわる者
に見せたり,聞かせたり,渡し
たりしてはならない
取材対象者(取材源)が,ジャー
ナリストによる不用意な情報開
示により,身体的・経済的・精
神的不利益―身の危険,職場に
おける待遇の悪化・解雇,およ
びこれら「復讐」への恐怖―を
蒙らないように
ジャーナリストやメディアが情
報提供先として信頼できる存在
である,という一般人の認識・
評価を保持することで,その取
材力を維持し,向上させること
を目的とする
読者・視聴者への責任という点
では取材源や資料を積極的に開
示すると,報道全体の信憑性も
向上できるはずなのに
メディアと権力との“癒着”の
隠れ蓑として利用される危険性
を秘めている(オフレコと同様)
取材対象が権力者か否か
目前の取材源との信頼関係を含
む「情報提供先としてのメディ
アの信頼感」よりも,読者・視
聴者への情報提供責任を重視す
べき状況であるか否か
「秘匿」と決めたら,司法権力
との間でも非開示を貫くべき
民事裁判においては「職業の秘
密」の一つとして承認しているが,
刑事裁判においては証言拒否権を
一切求めていない
「事案の全容を解明し,犯罪の成
否を判断する上で重要な証拠価値
を持つ」取材資料は,捜査当局に
よる差押えも是認される
TBSがオウム真理教幹部に未放映
ビデオを見せ(坂本堤弁護士のイ
ンタビュー含む),その中身に危
機感を抱いた教団は「そのビデ
オを放映しないこと」をクルー
に約束させ,その1週間後に坂本
弁護士一家3人を殺害し,死体を
遺棄した(1989年10月)
1996年4月,TBS幹部が参院逓信
委員会に参考人として招致
5月,放送法に基づき,文書で
の厳重注意
世論のTBS批判に便乗して,突
如,倫理の検断者として振る
舞った国家権力の姿
https://www.youtube.com/watch?v=-8ZWuo8bDGw
取材対象者に報酬を支払い,情報
を提供してもらう方法
金銭を介在させると,虚報の危険
を孕んでいる
個人がその功名心や演技癖に突き
動かされてメディアに虚偽の,あ
るいは誇大な事実を持ち込む場合
もありうる
一方で,取材者が取材源から餞
別や祝い金などを受領し,濃密
な人間関係を形成するケースも,
「醒めた目」を保つジャーナリ
ストの職業倫理からすると,問
題となり,事件化されたケース
もある

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