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ジャーナリズムの倫理Ⅲ

メディアスクラム
大きな事件・事故の取材に際し,
その当事者・関係者のもとに多く
の報道機関や取材陣が殺到し,取
材対象のプライバシーを侵害し,
社会生活を妨げ,さらには近隣に
も大きな苦痛を与えること
1990年代以降,テレビが報道に
力を入れ始め,朝・昼のワイド
ショウ,夕方・夜の報道番組か
らそれぞれ最低3~4人の取材
チームを送り込み,新聞,通信
社,週刊誌のスタッフら他の取
材陣で溢れて,混乱を招く
いやがる当事者や関係者を集団
で強引に包囲した状態での取材
は行うべきではない。相手が小
学生や幼児の場合は,取材に特
段の配慮を要する。
通夜葬儀,遺体搬送などを取材
する場合,遺族や関係者の心情
を踏みにじらないよう十分配慮
するとともに,服装や態度など
にも留意する
住宅街や学校,病院など,静穏
が求められる場所における取材
では,取材者の駐車方法も含め,
近隣の交通や静穏を阻害しない
よう留意する
容疑は公務執行妨害
決められた取材位置を突破して
ビデオ撮影しようとした
当初は取り決め通りに整然と取
材は行われていたが,この記者
の行動を機に秩序は崩壊し,怒
号が飛び交う混乱状態になった
1984年3月までは,逮捕時点で
「呼び捨て」が原則だった
逮捕された場合の有罪率が高い
こと,犯罪に対する国民感情と
を配慮して「呼び捨て」が原則
となっていた
1984年4月,NHKは逮捕時に「容
疑者」または肩書き,被告人に
は「被告」の呼称を付けた
89年にフジテレビと毎日新聞社
が追随して以降,“呼称導入”
がすべての報道社に拡がった
呼び捨て=犯人扱いそのもの
実名か仮名か難しい選択になる
刑法第39条で「心神喪失者の行
為は罰しない。心神耗弱者の行
為は刑を軽減する」と規定
刑事責任能力の有無が裁判での
重要な争点になるから,実名報
道の例外的措置として匿名
犯罪が起きた時点で責任能力の
有無は即断できない。ゆえに,
発生時点では実名で報道したが,
その後の捜査過程で匿名に変わ
るケースがある。また,逆もあ
る。二転三転したケースもある
精神科への通院・入院歴の有無
が判断基準になることもある。
そのことを報じる病歴報道には
批判も多い
病歴と責任能力の有無は因果関
係で結ばれるものではないから

「病歴をもって機械的に匿名と
するのは,差別と偏見を固定化
し,助長する」との主張
病歴報道をしないと決めた社も
ある。だが,実名報道原則を守
りながら,ケースバイケースで
試行錯誤を繰り返している社が
多いのが実態
個人情報保護法が施
行されて以降,警察
が被害者の名前を伏せる傾向が
強まった。2005年4月の福知山
線脱線事故では,発表に同意し
た被害者の氏名しか警察は公表
せず,全面開示を求めたメディ
ア側と対峙する形となった
2005年10月,「事件や事故に際
して,被害者の氏名を報じるか
否かは報道機関が独自に判断す
るので,警察は氏名をすべて開
示すべきだ」との意見書を内閣
府に提示した
社会の雰囲気は,この新聞協会
の見解に対して全面的には同意
しなかった。大きな事件・事故
では被害者やその家族に対して
報道が過熱し,被害者をことさ
ら貶めるような報道が現に存在
したからにほかならない
少年法
少年法第61条は「少年又は少年
のときに犯した罪により公訴を
提起されたものについては,氏
名,年齢,職業,住居,容ぼう
等によって,本人であることを
推知できるような記事又は写真
を掲載してはならない」と規定
している
犯罪少年の審判および裁判では
実名報道はなされていない
さらに,少年法は規定していな
いが,審判前の逮捕・補導の段
階でも,少年法の精神を尊重し
て,匿名で報道されている
雑誌「FOCUS」(新潮社)
が顔写真と実名を掲載し
たが,大半の大手
業者は販売を自粛
決定し,実売は10
%にみたなかった
すべての図書館資料は,原則とし
て国民の自由な利用に供されるべ
きであるが,提供の自由が制限さ
れることがあるとする「図書館の
自由に関する宣言」第2-1-(1)
「人権またはプライバシーを侵害
するもの」に該当すると考えられ

この対応にあたっては,「宣
言」第2-2(資料を保存する責
任)に留意する。当該誌の損
壊・紛失等のないよう配慮が必
要である。また,受入・保存を
差し控えるような対応或いは原
資料に図書館が手を加えること
については,首肯しがたい
会津若松母殺し事件(2007)
高校生が生首を持って出頭
マスメディアの事情
少年法の精神を尊重
少年の特定につながる情報(氏名・顔写真な
ど)の報道は自粛する
警察の捜査本部から公式発表される情報を
根拠とする
スクープは捜査関係者のリーク(情報漏洩)か
ら生まれる(ときには周辺の独自取材で)
少年法の精神? ①
少年法の精神? ②
少年法の精神? ③
少年法の精神? ④
少年法の精神? ⑤
少年法の精神? ⑥
少年法の精神? ⑦

「サンデー毎日」
少年法の精神? ⑧

「週刊朝日」
少年法の精神 まとめ
既存メディアは,少年の個人情報を
大量に垂れ流している
高校・中学などの校名特定につながる情報
居住地・出身地(実家)に関する情報
家族関係・人間関係などの情報
個人の嗜好(影響を受けたもの)の情報
超えていない一線は,実名と顔写真
(モザイク・目線・ぼかしがないもの)
1998年1月,堺市で,シンナー
中毒の19歳少年が包丁で幼稚園
児を刺殺。その母親と女子高生
に重傷を負わせた
作家・高山文彦が
「新潮45」98年3月号
で容疑者に関するルポ
を掲載。実名・写真
も明らかにした。少年
が原告で民事・刑事両
面で訴えた
1999年6月
実名報道に公益上の必要性があ
ることを報道側が立証しきれて
いないとして,実名報道は違法
と認定し,新潮社と高山の両者
に計250万円の賠償を命じた
2000年2月。逆転無罪
「表現行為が社会の正当な関心
事であり,その表現内容,方法
が不当なものでない場合は,違
法性を欠き,違法なプライバ
シー侵害とはならないと解する
のが相当である」
表現の自由が,実名報道を禁じた少
年法に優越するという判断が下され
た。少年法に罰則を規定していない
ことなどから,表現の自由に常に優
先するものではなく,社会の自主規
制に委ねたものと解される。原告側
は上告を準備したが,原告本人が上
告取下げを申し出て,判決が確定し
た。刑事告訴も取り下げられた
少年犯罪という微妙なテーマを取
り上げる以上,誠意を持って丁寧
に取材し,興味本位に走らない真
摯な報道を展開すると,司法も,
そして社会全体も認めてくれる可
能性がある
ただし,SNSなどでのスキャンダ
ラスな私刑“報道”は容認されな
いだろう
草薙厚子『僕はパパを殺
すことに決めた』(2007年)
奈良家庭裁判所,東京法務局か
ら抗議と非難の文書が寄せられ
た。非公開法廷だから本来は知
り得ない少年と家族の供述調書
がそのまま使われていたからだ
少年の精神鑑定の鑑定医
刑法134条(秘密漏示罪)違反容疑
で逮捕・起訴・有罪
コピー/直接引用禁止,原稿の事
前確認を条件に漏示したが,著者
側は医師が留守の間に供述調書を
すべて写真撮影した。他の約束も
顧みられることはなかった
「広範性発達障害」について,
世間の理解を深めるために取材
に協力し,著者もそれにほぼ同
意したのだが,著書は大半が供
述調書の引用で,少年の犯意を
前面に出したもので,鑑定医が
期待した内容にはほど遠かった
取材源を秘匿できず,有罪判決
を受ける事態に至らせた。著者
も出版社も無傷なのに
結果的に取材源を欺したこと
公権力(法務局)の介入を招いて
しまったこと。推知報道禁止に
罰則がないことを濫用していた
少年は保護観察処分
無断録音の禁止

取材上の最低限のマナー
取材相手に録音の許可を申し出
て録音すべきだし,許可が得ら
れない場合は,録音すべきでは
ない。無断で録音したものは,
その後のトラブルになった時に
でも表に出せない
財務省事務次官と(おそらくオ
フレコの縛りがかかった)取材
の場で,許諾を得ずに録音した
さらに,その録音物を自社で報
道せず,週刊誌に持ち込んだ
(取材資料の目的外使用)
と非難されるべきなのか?

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