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メディア文化論③

市民ラジオ
ラジオは本来フリーダムな道具
アメリカではコミュニティFMが多局
化するなど,個人や仲間で“放送免許”
を取得しているケースは多い
フランス・イタリアなどヨーロッパ
では,1970年代からの「自由ラジ
オ」による対抗運動が実を結び,合法
化して,ラジオは市民のツールに
日本を含む東アジアだけはラジオに
国家的規制がかかり続け,“官のもの”
という意識が根強く残る
『パイレーツ・ロック』
イギリスで海賊ラジオが始まったの
は1963年ごろ。民放がなくBBCの
みで,音楽はクラシック中心で,ポッ
プスは1日に45分間に限定
イギリス国内法が及ばない北海に船
を停泊させ,AM大出力で全土をカ
バー。24時間ロックをかけるDJスタ
イル。’67年夏には政府の摘発,民放
の登場もあり,下火に
70年代の自由ラジオの浸透
1970年代に勃興した「新左翼(アウ
トノミア)運動」の中で,国家独占
だったラジオの解放を目指す運動
1976年にイタリア立法院は「自分の
意見をコミュニケートする自由は人間
の最も貴重な権利である」として,自
由ラジオの“合憲(合法)”を認定した
電波到達15km,聴取者10万人の範
囲ならば,届出だけで開設可能に
ラジオ・アリーチェ
大学街・ボローニャの自由ラジオ局。
76年2月9日から軍払下げの送信機で
放送開始
数人の若い詩人たちによって開設さ
れ,アーティスト,フェミニズム(性
解放)活動家,労働者,学生,ヒッ
ピーなどの若者が放送局に集い,様々
な番組が放送された。電話や“押しか
け”でいつでも番組に介入できた
アウトノミアの運動の中で
77年3月12日に国家治安警察隊により閉
鎖。キリスト教聖職者団体の集会で,抗議
活動をしていた学生グループに国防警察が
介入・攻撃した
一連の動きを放送で伝えたラジオアリー
チェを,暴動の煽動者であるとして,警察
が急襲し強制的に閉鎖し,関係者を逮捕
が,ラジオ・アリーチェはその後も2年間
再稼動し,今もラジオ・ラディカーレが放
送を継続している
映画『あくせく働くな:ラジオアリーチェ』

2004年公開,イタリア映画
グイド・キエーザ監督
"Lavorare Con Lentezza" (Work
Slowly)
http://radioalice.researchlab.jp/
深夜放送が「若者の解放区」
60年代末からAMラジオの深夜帯(25
~30時)が「若者の解放区」として利用
された
1959年『オールナイトジョッキー』→1967年
『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)
1967年『パックインミュージック』(TBS)。野
沢那智・白石冬美/伝説のDJの林美雄(’70~)
1969年『セイ! ヤング』(文化放送)。アイドル
としての落合恵子
ローカル局も深夜番組で追随した
市民ラジオ(CB無線)
Citizen’s Radio Service
子供でも,レジャーでも,どんな目
的でも使用できる近距離無線音声通信
システム。無線機を入手して面倒な審
査が不要でただちに使用を開始できる
米国では1960年代に普及。国土が広
く,郡部では公衆電話も少ないため,
トラック運転士などが購入して利用し

不法CB無線
米国で型式が変わったた
め,70年代に入ると米国
向けだったCB無線端末機
が日本国内に出回り,出力を
上げる改造なども盛んに。
1975年に第1作が製作された
『トラック野郎』シリーズで
は,登場する運転士の多くがデコトラにCB無
線機を装備し,互いに連絡を取り合うことで,
警察の追跡を振り払ったりするシーンが描か
れた(観るのは第1作『御意見無用』’75/10)
パーソナル無線
不法CB無線対策に,1982
年12月に導入された。RO
M書込で無線免許交付とな
る。900MHz帯のMCA無線を用い,
出力は5W。1回の送信時間が最大
5分。不特定多数へ(と)の交信も可
能。
映画『メイン・テーマ』(84/7)で
は,主人公の青年がパーソナル無
線機を車載し,エピソードを演出
する“小道具”として用いられた
アマチュア無線
アマチュア無線は指向性アンテナが
使用できたり,送信制限時間がなかっ
たり,パーソナル無線よりは使い勝手
が良い(免許は必要だが)。80年代は
IC回路化で小型のトランシーバー・タ
イプの無線機が増える
レジャー用途はアマチュア無線の目
的外使用で本来は“違法”だが,利用が
拡大した。
『私をスキーに連れてって』(87)

劇中で使用されるのはアイコム社
のトランシーバー“IC-μ2”
市民ラジオ
27MHz帯で8チャンネルが
使える,短距離無線。0.5W
以下(米国だと5~10W)
無線従事者資格も無線局免許も不要(端
末機が形式検定合格機器であることが
唯一の条件)
業務用が「特定小電力無線局」に移行
するなか,市民ラジオはほとんどが趣
味利用者。
無線システムの多元化
携帯電話が普及した今日では,無線
は趣味の領域に戻った。無線機自体も
中古(ジャンク)で取引されている
だが,携帯電話とは違い,基地局が
不要で,乾電池などで運用できる無線
局が多い。1対1だけではなく1対nも。
携帯が不通になったとき,最低限の
ライフラインとして機能しうる(行政
の防災無線も同様)
『波の数だけ抱きしめて』
1982年に湘南に存在したミニFM局を
舞台としたラブストーリー(‘91)
脚本:一色伸幸,監督:馬場康夫
日本ではミニFMは1985年前後にブー
ム現象があり,全国に2000局程度が存
在したとされる
だけど,ミニFM(免許不要の微弱無線
局)なので,到達範囲は100~150m
防災行政無線
各市町村が設置。行政で
活用するとともに,同報系
では拡声装置で住民に“放送”。制度的
には有線放送(電話)の発展型
緊急事態時の国民への情報伝達(J-
ALERT:全国瞬時警報システム)と
も自動接続
地震・火災などでは役場
から担当者が放送
意外と脆弱な防災行政無線

のは難しく、他の手
2017年7月5日18:30ごろ

段と 複合したい」

災害時に故障を防ぐ
目立った。「大規模
政無線機器の故障が
他の地区でも防災行
に,日田市小野地区で,防
災行政無線の宅内受信機
が機能停止していたことが
判明
避難指示は18:45
市がダウンを把握したのは
19:20ごろ。情報の空白
端末の機能の停止は情報
配信ケーブルが土砂崩れ
によって切れたことが原因
臨時災害放送局(コミュニティFM)
被災後2012年8月
までに30局の臨時災
害放送局が設立(総務
省統計で除外の取手
臨時災害放送局含む)
既設のコミュニティ
FMからの移行 10局
新たに立ち上がった
臨時災害放送局 20局
防災行政無線の代替
コミュニティFMのえふえむ花巻(FM・ONE)は
3月11日午後4時に災害臨時局に移行
地元自治体との防災協定に基づき,自治体の
災害対策本部から直接情報を出す
コミュニティFMの出力が約20Wなのに,災害
臨時は他局に影響を与えない範囲で暫定措置
で増力でき,100~150Wで対象自治体全域に
災害関連情報を伝えることができる
「臨時災害放送であってもCMを入れることは
問題ない」という総務省通達
新たに開設
3月15日に宮城県大崎町,19日に宮古市,21
日に山元町「りんごラジオ」,22日に気仙沼市
などが臨時災害放送局を新たに立ち上げた
「コミュニティFMを作ろう」という市民組織が
あったことで,開局が迅速に進んだ
震災後3ヶ月以内に開局した臨時災害放送局は
16局に達し,災害情報,避難所情報,ライフラ
イン情報,生活物資の入手・流通に関する情報,
行政・民間の支援情報を伝える手段として期待
された
臨時災害放送局を可能にした要因
テレビ・ラジオ・新聞など「県域単位」のメディ
アでは取材・報道が面的に広がるため,地域住
民にとって十分なものではなかった
生活圏の情報,人の消息,話題の提供など,生
活圏(といっても行政区単位だが)の情報が不
足する
日本財団による助成―新規開局の場合50万円
+運営補助月額150万円×最大4ヶ月。その他
と合わせて計800万円。既存局の場合も同程
度の助成。赤い羽根募金会も人の派遣・共同番
組(『声の便り』)の制作/配給などで協力
臨時災害放送局の性質
免許人は「自治体」
公聴広報課・防災管理課直営
市民が作る任意団体(市民グルー
プ)やNPOが実際の管理運営にあたる
「震災で基地局が破壊され防災行政無線が使
えなくなった。分散して避難している住民に広
報紙(誌)を配付するのもままならず,行政から
住民への情報提供は滞る。災害臨時放送局は
それを補う意義がある」(被災地自治体関係者)
臨時災害放送局のネクスト
臨時災害放送局の免許期限は延長されてきた
2013年度末に期限を迎えたが再延長
15局中3局がコミュニティー
FMへ移行(高萩・大船渡・大崎)。
「自立」に際してはコストが問題。
音楽著作権料など。寄付・広告な
ど企業からの資金援助が不可欠
宮古,大槌町,釜石,名取,山元町,亘
理町,相馬,南相馬,富岡町(郡山市生活
復興支援センター内のミニFM)の9局が災
害臨時を延長(赤字はcFM以降模索中)
質の違い
「臨時災害放送局による情報提供が有効なこと
が証明された。コミュニティ放送局として住民
に親しまれる放送を展開していれば,非常時に
はもっと有効な情報伝達手段になる」
まさにその通り。だが,コミュニティFMを維持
し,安定的に運営するのはそう容易なことでは
ない。一日数回「自治体からのお知らせ」を流
す臨時災害放送局のレベルと,「基幹メディア」
と位置付けられる「コミュニティFM」とでは根
本的に質が違うからだ。1~2名の常勤スタッフ
で運営できるレベルではない
大船渡のコミュニティFM計画
開局資金7600万円(2500万円:補助金(*),
5100万円:復興支援金)の「公設民営」
運営は「NPO 防災市民メディア推進協議会」。
サテライトスタジオを本社に設ける東海新報社
など地元の有力企業が協力企業に名を連ねる

* ICT 地域のきずな再生・強化事業
インターネットラジオ
送信コストがかからない利点はある(個人や
NPOでも容易に開始できる)
広告・寄付など収益モデルの構築が難しい
情報の信頼性を得るまでに時間を要する
FMラジオと違って,誰もが簡単に聴取できる
わけではない(後期高齢者には一般的にハード
ルが高い)。PC・スマートホン・タブレットが必
要なので,電源が安定供給されないと聴取でき
ない
本日のメディア文化
まず「ラジオ放送」のための組織を作る(ハブ
リックアクセス:次回のための枠組みでもいい)
災害臨時放送局への転用を睨みつつ(送信設
備の手配はしつつ),インターネット経由で地域
向けラジオ放送を開始する
地域でインターネット・ラジオを聴く習慣を根付
かせ,パーソナリティを育成する
災害が起きた時点で,スムーズに災害臨時放
送局に移行する
総務省の変化
総務省はこれまでコミュニティFMの役割にか
んし,「コミュニティに役立つ情報伝達や地域
活性化を目的とする放送」で「防災目的ではな
い」としてきた
東日本大震災以降,一転して,防災目的を明確
な免許理念として掲げ,既存のコミュニティFM
に対しても対応を求めるようになった(難視聴地
域解消のための中継局設置の補助金制度:13
年7月から)
これはチャンスなんだよ!!
質の違いをぶっ飛ばせ
アメリカ・ヨーロッパなどではラジオは星の数ほ
どある。大学生が運営する「コミュニティFM」
がキャンパスの垣根を越えて地域に放送されて
いる。しかもクダラナイ中身で。さらに,1局だ
けでなく20局以上も(!)。地域のいろんなクラス
ターがラジオ局を持っていたりする。
ラジオって最もカジュアルでイージーなメディ
アである。「質の違い」? それがどうしたという
のか。ラジオをもっと市民の手に渡そう! 話は
それからだ。

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