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ジャーナリズムの倫理Ⅳ

記者クラブ制度
官庁,自治体,警察署,政党な
ど,主要な取材先で主要メディ
アに属する記者たちによって組
織されている前進基地,または
取材拠点。毎日定期的に取材す
る「常駐社」と大きなニュース
があったときだけ取材にくる
「非常駐社」に分けられる
しばしば取材拠点となる建物の一
角に「記者室」を用意してもらい,
そのスペースを専有している。組
織としての「記者クラブ」と場所
としての「記者室」は概念的には
別物である。記者クラブは,加盟
者からクラブ費を徴収し,自主的
に運営している
情報源(公的機関)の側は,市民
に広く周知させたい情報を効率
よく広報でき,取材対応も効率
化できる。財務省通達では「国
の事務,事業の遂行のため,国
が当該施設を提供するものであ
る」として,「記者室」の提供
を法律上認めている
①記者が結集して情報開示や記
者会見を要求することが容易に
なり,結果的により多くの情報
を得られる
②誘拐事件の際の「報道協定」
など,人命・人権に関わる取
材・報道上の調整機能を果たす
ことができる
③記者会見を記者クラブが主催
することによって,記者会見を
権力者側からの一方的広報の場
にさせない
④記者が公的機関に常駐するこ
とによって,公務員側は「不正
をできない」という意識が高ま

①加盟できる報道機関は一般に
は大手新聞・放送局のみで,雑
誌メディア・海外メディアの取
材活動を制限している
②公的機関が記者室を特定メ
ディアのみに利用させているの
は税金の不正な支出にあたる?
③記者クラブ記者は便宜供与を
受けているので,情報源に逆ら
えなくなる
④権力への批判的視点が薄れる
⑤情報源から大量の情報提供が
あるので,記者が取材を怠りが
ちになり,発表ジャーナリズム
に陥る
歴史
明治23年,帝国議会は記者向け
に20枚の議会傍聴券を配布
在京各社の議会出入り記者が
「議会出入記者団」を組織。傍
聴券配布・議事録作成で協力し
た。全国の新聞が合流し「共同
新聞記者倶楽部」が結成。現在
の「国会記者会」の起源
明治30年代になると,各省庁,
日本銀行など主な公共機関に記
者クラブが設けられた
大正時代には地方にも拡がり,
やがて治外法権的な自治の論理
を持ち,取材の中心的な役割を
担う機関として制度化された
昭和17年「日本新聞会」が結成。
記者クラブへの加盟は記者個人
から会社単位となり,さらに記
者登録制が敷かれ,選ばれた記
者だけが登録・取材を許された
政府公認の取材組織となり,国
家体制に組込まれた御用クラブ

記者クラブの解体を目指し,欧
米で一般的な親睦・社交団体へ
の転換を図った。取材には関与
しない形式がGHQが求めた姿
だが,実態は変わらず,記者室
を専有し,記者会見への出席資
格を制限するなど,排他的な面
が残った
49(昭和24)年に「見解」を発表
「記者クラブは各公共機関に配
属された記者の有志が集まり,
親睦社交を目的として組織する
ものとし,取材上の問題には一
切関与せぬこととする」
GHQ向けのタテマエであること
は歴然としていた
78年,取材活動を通じて「相互
の啓発と親睦をはかる」「調整
的役割を果たすことが認められ
る」と明記した
取材の前線基地でありつつ,調
整的機関としての記者クラブ像
が生まれた
1965年,内閣記者会がオブザー
バー会員制度を導入
92年,外務省霞クラブが外国人記
者を正式会員として受け入れ
93年,新聞協会見解改定―外務省
発行の外国記者証を持ち,加盟社
と同様の報道業務を営む外国報道
機関にはクラブ加盟を認めるべき
とした
EUは「日本の記者クラブは情報
を独占しているので,非関税の
貿易保護政策に当たる閉鎖的な
組織」だとして,非難決議採択
を毎年のように連発している
「取材・報道のための自主的な
組織」と改めた
記者室は広く開放されるのが望
ましいとし,その設備使用に際
しては,応分の負担をすべきと
した
田中康夫・長野県知事「脱・記
者クラブ宣言」(2001年5月)
鎌倉市が記者クラブ加盟社以外
にも記者会見と記者室(*)を開
放(1996年4月)
石原慎太郎・東京都知事「記者
室有料化方針」(01年,のちに
撤回)
* 広報メディアセンター
問題点
情報源から出される情報は,そ
の日に報道されない場合がある。
幹事が情報源の広報担当と相談,
各社の意向を聞いて,その情報
をいつ報道するかを決め,それ
がクラブの協定となる。記者室
のボードに書くので,「黒板協
定」とか「クラブ協定」と呼ば
れる
記者会見(オモテ)
懇談(オンレコ)
懇談(オフレコ)―政府首脳・党
首脳など匿名報道のケース
ウラ懇(完全オフレコ)
レクチャー(担当部局)
記者クラブの決まり事は,1社
でも反対があれば決まらないこ
とになっている場合が多い
黒板協定・オフレコ懇談などを
破れば,記者クラブからの除名
や一定期間のクラブ立入禁止な
どの処分が下される
2002年見解では,記者室を設置
するのは公的機関の責務と指摘
し,諸費用に関しては報道側が
“応分の負担”をすべきとする
公的機関の一角に記者室をほぼ
専有し,便宜を図ってもらい,
情報源とその発信物の利用に関
し,カルテルを結んでいるのと
同様
記者たちが使う電話代,情報源
との懇親会会費などを公的機関
が負担するのは違法な公金支出
ではないかと市民側が提訴した
裁判
1996年,最高裁で敗訴
ただし,こうした経費は加盟社
の自己負担の流れへ
「記者クラブ会員でもなく,オブ
ザーバーでもないニューヨーク・
タイムズの単独インタビューは認
められない。インタビューをした
いのならば,記者クラブに登録申
請してほしい」

上杉隆『ジャーナリズム崩壊』幻冬舎新書,2008年
政治・経済の中枢である首相官
邸・財務省,検察・裁判所,警
視庁,宮内庁など主要記者クラ
ブで開放をすることが必要
これら記者クラブで閉鎖性が払
拭されなければ,記者クラブに
対する閉鎖性・排他性の批判は
止まないだろう
公的機関や企業団体などが発表
した情報を,そのまま客観的事
実として報道し,それで足れり
とするもの。それら組織が持つ
権威・信頼性に寄りかかった報
道で,公的機関の信頼性が崩れ
ると,報道の根拠も崩れる
公的機関の広報・発表の処理に追
われ,記者が書く記事が画一的に
なり,紙面・番組も似たりよった
りになる危険性がある
どの新聞を読んでも報道が“横並
び”で,問題を掘り下げた記事が
少ない問題の根底にも「記者クラ
ブ」制度の弊害がある
記者クラブなどが媒介となり,
取材源との癒着が生じる
2010年7月,大相撲の野球賭博
問題で警視庁が家宅捜査に乗り
出す前日に,NHK記者が捜査情
報を事前に知り合いの親方に
メールしていた
記者クラブが情報源の発表情報
を無批判的に伝達するだけの機
関になっていることへの警鐘。
同一の情報を素材とするため,
紙面や番組まで画一的になる。
記者一人ひとりの取材活動に向
けられた批判ではない
ニュースメディアと情報源が,
自主的な組織を取材システムと
して制度化する過程で,互いに
自らの利益を最大化するために
作り上げたシステムそれ自体の
問題性が指摘されている
日本のジャーナリズムに内在す
る基本的な性向が,そうしたシ
ステムの中に露出していると理
解すべきだろう。ただ,記者ク
ラブの行動原理―横並び意識が
強い自己規制で担保されている
こと―によって,そうした性向
は加速することは疑いない
情報開示に積極的でない公的機関
に対し,記者が結集して“公開”
を目指す
02年見解―公権力の行使を監視す
るとともに,公的機関に情報公開
を求めていく社会的責務を負って
いる
記者クラブ段階での情報の取扱
いに関するさまざまな約束事―
協定化は,結果として,人々の
知る権利を規制しているのでは
ないか
情報源と密接な関係を結ぶあま
り,その動向を監視するという
“番犬機能”は脆弱化,あるい
は失われてしまっているのでは
ないか
記者クラブに安住するあまり,
ジャーナリストが独自情報を発
掘する調査報道能力(取材力)が
低下しているのではないか
メディア経営者・編集幹部が「ク
ラブの開放性」に関する意識を持
つこと
システムによって少なからぬ便益
を享受しているジャーナリストの
職業意識が変わらない限り,記者
クラブシステムも変わらない
新聞人は閉鎖的な記者クラブの改革を進める。
(1)記者クラブには原則としてあらゆるメ
ディア・ジャーナリストが加盟できる。
(2)記者クラブに提供された情報は、取材者
だれもが利用できる。
クラブ員は記者室への市民の出入りの自
由を守る。
(3) 記者クラブは、取材・報道に関して談合
をしない。人命にかかわる場合などを除き、
報道協定を結ばない。
(4)権力側のいわゆる情報の「しばり」は、
市民の知る権利に照らし合わせて、合理的で
妥当なもの以外は受け入れない。
(5)報道機関の目的、役割を逸脱するサービ
スを受けない。
新聞労連「新聞人の良心宣言」(1997年2月)
従来は記者クラブ経由で発信され
た情報を,公的機関が一次情報を
ネットで発信する契機が増え,存
在価値が相対的に低下
メディアからすると,発信しない
情報,隠している情報こそが重要
になる。これを発掘して伝えるこ
とがメディアの役割
解説記事などは付け焼き刃の知
識では書けない。普段からその
公的機関を取材し,問題意識を
持っているから記事が書ける。
記者クラブの存在意義を過小評
価しすぎてもいけない
知る権利に応え,公共的な情報
を遅滞なく豊富に流通させ,あ
わせて権力機構の動向を監視す
る役割と責任が自らにあると考
え,その責任を果たす上で,記
者クラブ制度は必要不可欠であ

抜け道は多く,結果が出るまで
時間がかかるとはいえ,各公的
機関が用意した情報公開制度を
用いると,組織ジャーナリスト
でなくても,公的情報にアクセ
スできる可能性は高まった。
記者クラブ制度は必要か?
記者室がなくなればどうなるか?
記者クラブの開放性を担保する
にはどうすればよいか?
ネットジャーナリストを記者ク
ラブに加盟させるにはどうすれ
ばいいか?

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