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パブリック・アクセス

メディア文化論④
エンツェンスベルガー

「メディアの装置をたんなる消費手段と
みなすのは誤りである。メディアは原理
的につねに生産手段でもあり,しかもそ
れは大衆の手中にあるのだから,社会化
された生産手段である。生産者と消費者
はエレクトロニック・メディア固有のも
のではない。むしろ,経済的並びに行政
的な予防策として,そうした対立がわざ
と口にされているに違いない」(『メディ
ア論のための積木箱』1970年)
「言論の自由」の本旨
少数意見や平凡な出来事がメ
ディアから排除されると,言論
の自由市場で,思想と思想のぶ
つかる確率が低くなる
何か言いたいことを持つ者は誰
でもメディアを使う権利があり,
メディアはそのことを保証する
社会的責任がある
ウィルバー=シュラム(1957年)
『マス・コミュニケーションの社会的責任』
理念
民主主義の保証である
「言論の自由」とは,言論を人々に聞
いてもらえる手段へのアクセスも含ん
で完結する。
聞いてもらえる機会が保証されない限
り,「言論の自由」が担保されたこと
にならない
オルタ
ナティ
ブ・メ
マスメディア
ディア



セ 報

市民
パブリック・アクセス(PA)とは?
一般市民が一定のルールによって
自主的に企画・制作したコンテン
ツを,新聞社・放送局を通して提
供できる権利(アクセス権の一つ)
自由・公平にパブリック・フォー
ラムに参加できる権利(アクセス権)
の回復
メディア・リテラシーはPAを含む
パブリック・フォーラム―言論の公共圏
アクセス権の6類型

①批判・抗議・要求
②公正な価格での「意見広告」枠
③反論権(訂正要求が前提)
④紙面・番組参加(狭義のPA)
⑤運営参加
⑥編集・編成参加
堀部政男(1978)『アクセス権とは何か』(岩波書店)
石鹸箱民主主義
石鹸箱を即席の演説台
にして,駅や公園など人
が集まる場所で,市民が
自由に街頭で意見を主張
し,それを聴き,議論す
ること=言論の自由の〈街頭演
説モデル〉
現在は選挙でみられるようなビールケースと
ハンドマイク?
警察による恣意的排除が横行
知る権利

知る権利=(メディアを通じて)知ら
される権利(受信)+知らせる権利(発
信)の二つの権利で構成されている
メディアは,市民の「知らされる権
利」の委任・代行には熱心だが,発
信には冷淡(知っていながら知らん
ぷり?)。受信に受け手の意向がど
こまで反映しているのか?
市民共有の財産

放送:市民共有の財産である電波(周波
数帯域)を一企業(法人)が専有して事
業を展開する。放送はビジネスであると
同時に公共財でもある→市民の要望に応
じてスペースを提供する義務
新聞:民間企業の営利事業ではあるが,
再販制が認められるなど公共性も。購読
料が事業を支える。知る権利を付託
②パブリック・アクセ
スの歴史と海外に
おける事例
パブリック・アクセスの歴史
60年代アメリカの公民権運動
ミシシッピー州「WLBT事件」(‘69):ア
フリカ系アメリカ人への差別攻撃番組(ヘ
イト・ショー)を理由にした免許取消し
マイノリティーなど視聴者(市民)団体に
放送運営当事者としての資格
1971年:ボストンの公共放送「WGBH」
が『キャッチ44』という市民制作番組
レッドライオン判決
1969年・アメリカ・反論権の判決
表現の自由とは,「放送の自由」で
ある前に視聴者の知る権利である
最も大切なのは視聴者の権利なので
あって,放送事業者の権利ではない

ケーブルテレビにPAch.設置を義務化
違憲判決を受けて

1979年,連邦最高裁が連邦レベルで
のケーブルテレビへのPAch.設置強制
規定を違憲と判決
免許付与主体(地方自治体)当局の権限
としてPAch.の可否が残される
市民運動家が免許付与(更新)時に,地
方議会などを通じてPAch.を設置
全米で約2500のPAセンター
PAC運営の仕組み
ヨーロッパの事情
フランス。「OSF:国境のない電
波」公認の自由テレビ(1日3時間
の放送)
イギリス。BBC「コミュニティ番
組部」(75年開始の『オープンド
ア』)
ドイツ。州単位でオープン・チャ
ンネル制度。公共放送受信料の
2%を資金として提供
韓国の『開かれたチャンネル』

韓国放送公社(KBS)が2001年から開
始(基本的に毎週・30分・全国向け)
KBSは番組内容には容喙せず責任も
負わず,制作費も負担しない(約100
万円を放送発展基金から助成可)
運営主体はKBS視聴者委員会の「視
聴者番組運営協議会」
損害補償保険への加入義務あり
MediACT
ソウルに開設されたPAのためのメ
ディアリテラシー訓練施設
パブリック・アクセスの「負」
質の低い(稚拙な),下品な,極端にアート
志向で独善的な番組が多い?
利己主義・地域エゴ・偏執的な思想に基づ
いた番組
宗教・政治などのプロパガンダに利用
→日本では,放送法第四条の2の「番組
編集準則」に抵触する危険性
逆に,毒にも薬にもならない風物詩的なリ
ポート番組
③日本におけるパ
ブリック・アクセス
の事例
ケーブルテレビ自主制作52年
1963年9月2日,郡上八幡
テレビが自主放送チャンネル(GHK-
7ch)で,「町民芸能大会」を生中継し
たのが,日本
における「市
民放送」のは
じまり
中海テレビ放送(ケーブル)
Ch.14 PAch. (パブリック・アクセ
ス・チャンネル)。1992年開始
「P・A・Cはまるごと市民のみなさ
んのチャンネルです! 地元の文化団
体や青年団体など33団体のP・A・
C番組運営協議会を中心として,公
民館や学校の放送部,個人の投稿作
品を放送しています」
年間150本程度の番組が放送される
中海テレビP・A・C
PAC番組運営協議会
PAC番組
『月刊わがまちジャーナル』
2001年から。JCOM武蔵野三鷹(東
京)で
NPO「むさしのみたか市民テレビ
局」が局側と「パートナーシップ協
定」を締結し,編集権を委譲される
市民団体の責任で,市民から企画を
募り,番組を制作。オフィスはメ
ディア・アクセス・センターに
『月刊わがまちジャーナル』2018年5月号
チャンネルDaichi
碧海・西尾幡豆市民放送局(刈谷)
NPO法人。ケーブルテレビ
「キャッチネットワーク」を利用
わが町ビデオで拝見(投稿型)
じゃんじゃんPR(参加型)
マガジンDaichi(情報番組)
なつかしフィルム(アーカイブ)
ケーブルネット鈴鹿
『チョット言わせて!―テレビ掲示板
―』(15分番組,1組当たり1分)
「イベント告知や彼氏・彼女の募集、
子犬・子猫もらってくださ~いなど、
あなたの言いたいことをテレビで言っ
てみませんか?この番組は、あなたの胸
の内に秘めた(!?)想いを、み~んな
に伝えられる、市民参加型番組です」
『新発見伝くまもと』
熊本朝日放送(KAB)。2000年
4月~2017年9月
企画・取材・編集・出演のすべてを住
民ディレクターを中心に製作する10分
番組(金曜14時30分~)
プロのディレクターとともに「何を伝
えたいか」「そのためにはどうすれば
よいか」を話あいつつVTRをまとめ,
発信したい情報をスタジオで直接伝え

くまもと未来

『新発見伝くまもと』を支える
NPO
地域情報の発信者である「住民
ディレクター」の養成を核に総合
的なまちづくりを応援する
ビデオ制作講座(地域情報を文章や
映像、音声、活字で制作、発信す
る技術をもった人材を養成)
『新発見伝くまもと』 地域で運営 児童育成クラブ 2017年4月21日放映分
『新発見伝くまもと』 仮設住宅で迎える新年 2017年1月20日放映分
市民ディレクター
テレビ局の社員ディレクターと
同等のリポートが製作できればよい?
当事者なのか/観察者なのか――境界
が不鮮明な場合がある
製作を始めてから完成するまでの期間
はどうしても長くなる
「告発(問題提起)型」のリポートを実
施する覚悟の有無(社員ディレクターは
会社が防波堤になってくれる)
NHKの「PA的な番組」
公共放送であるNHKはPAの“受け皿”
となる枠を本来は用意すべき
少なくとも,英BBCや韓国KBSは
全国ネットで用意している
名古屋局で一時期試行されたものの
撤退
「とれたてマイビデオ」など「PA
的」番組が提供される。制作はNHK
で撮影者は素材提供者の位置付け
コミュニティーFM(放送)
1992年12月24日開局の「FMいるか」
(函館)を皮切りに265局が放送中
20W・半径15-20km。「市区町村ごとに
1局」という原則は崩れている。既存民
放・外国籍・個人の参入不可。第三セク
ターで地方自治体の出資比率も規制緩和さ
れている
経営主体は第三セクターが多いが,同様な
地域性があるケーブルテレビ会社の子会社,
地方紙やタウン情報誌の子会社,特定非営
利活動法人が運営するものなどがある
NPO 京都コミュニティ放送

http://radiocafe.jp/
京都コミュニティ放送

NPOが運営主体。(広告)営業担当の
株式会社も併設
「京都まちなか」のコミュニティ再
活性化が目的
低料金で放送時間枠を市民に販売し,
パブリック・アクセスの媒体として
も機能する
100605OA 「雑穀 椿家」――京の台所 錦でお買いもの-プロのお薦め-
利用料金
おおすみ半島コミュニティ放送ネットワーク

鹿屋・肝付・志布志の3局(NPO)
が連合体を形成。面積で大隅半島の8割,
約20万人をカバーする
パブリック・アクセス番組を制度化

http://www.0033fm.net/
パブリック・アクセス料金
パブリックアクセス枠
はるみ&かずこの昭和話(土曜19:45 - 20:00)
Music Box~音楽の箱~(第2・4(金)21:00~21:
30)
宇宙浪漫紀行(月曜20:00 - 20:15)
日曜島(日曜21:00 - 21:30)
チャーリーと乾杯(月曜20:30 - 21:00)
さつま狂句(土曜19:30 - 19:45)
たんねんみろかい(土曜19:15 - 19:30)
心のメモ帖(金曜20:20 - 20:30)
志布志の民話(土曜10:15 - 10:30)
ママトーク(木曜10:00 - 10:15)
Music feature(水曜20:00 - 20:30)
おはなしの部屋(水曜20:30 - 20:44)
トム&チャーリーのよもやま話(土曜18:00 - 19:00)
大隅半島の夜明け(木曜20:30 - 21:00)
新聞投稿欄は?
取捨選択・修正
を含む編集権は新
聞社側にある
投稿すれば必ず
採用されるという保証がない
擬似的なパブリック・アクセス
と言えるが,システムとして不
十分
「上越タイムス」
新聞分野では新潟
県の地域紙「上越
タイムス」の実践
がある
1999年からNPO
「くびき野NPOサ
ポートセンター」
に月曜紙面4面の編
集を委託している。
編集権はNPO側に
ある
軋轢
最初は「ノウハウがない素人に紙面が
作れるのか」「ジャーナリストとして
訓練を受けていない市民団体に記事が
書けるのか」という反発(危惧)が編集
部には多かったという
ページ単価20万円を無償でNPOに提
供する反発
実態的には「編集権の“一部委譲”」
(相互不可侵)の関係となる
NPO PRESS
地域そして全国
のNPO活動,ボ
ランティア活動の
動向が「です・ま
す」体で紹介され,
従来の新聞とは異
なるパブリック・
ジャーナリズムの
展開を見せている
→くびき野SCは中間支援組織
新聞社(株式会社) 組織の形態 非営利組織(NPO)
日々の事象の報 活動内容 共(公)益的活動
道・解説・批評 NPOの育成・支
新聞
公衆への情報伝達 援・啓蒙
政策提言
社会問題の解決
ジャーナリズム 活動原理 ミッションと社会
自由主義・民主主 変革
義 市民社会理論
ジャーナリスト 紙面製作者 活動家・問題の当
事者
客観的・中立的 表現形式 主観的・異議申立

観察者 立場 当事者・行為者
特殊事例を超えられない事情

上越タイムス社長はくびき野SCの理
事長として市民活動家の顔もある
新聞社内・NPO内の異見を調整でき
たとしても,社長のリーダーシップに
よる部分は否定できない
当事者が特定の思想を掲げるアドボ
カシー・ジャーナリズムも,NPO側
に全権を委任したからだ
「いしのまきNPO日和」
2016年4月から地域紙
「石巻日日新聞」に週1回
1面,石巻市NPO連絡会議(参加:68団
体)が責任編集するページが開始。NPO
の活動内容やイベント開催情報を,本紙
とは独立した編集権で伝達。「上越タイ
ムス」に次ぐケース。広域で商業性がま
さる県紙レベルでは,同種の試みは困難
か?
今後に向けて
パブリック・アクセスは“自由市場”
では実現する可能性が低い(当事者
の“情熱”に依存する)
言論・表現の自由や公平は政策・制
度的な枠組みによってしか現実化し
ない?
市民(NPO)が議会・政府に働きか
けを強め,新たな枠組みを作るべき
カフェ放送
市民が映像作品を作って持ち込めば,
約20ヶ所のカフェなどで放送してくれる
(他の作品と1時間程度のパックにして)
参加している店舗から1上映3000円
見る人と制作者とがじかに話し合うこと
も可能な点。ビジネスではなく,映像作
品を媒介とした人的交流・意見交換の場
http://www.terere.jp/
OurPlanet-TV

http://www.ourplanet-tv.org/
インターネット放送局
2001年10月に立ち上げたNPO
「組織メディアが取り上げにくい作品
を市民(少数者)の視点で映像化し,メ
ディアを変えることで社会を変えよ
う」というプロジェクト企画を募集し
制作援助(トーチプロジェクト)
市民に機材・スペースを貸す「メディ
アカフェ」,「PRサポート」なども
展開
メディアアクティビズム
①当事者が発信する
②タブーや自主検閲がない
③さまざまな発表形態がありうる(一つ
のコンテンツを多様なメディアで発表し
うる)
④社会性・公共性・公益性を有する

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