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道徳の時間で広がる、心の世界
∼子どもに沿った主題の立て方や
価値の自覚を深める活動の場の設定を通して∼
Ⅱ 主題について
1 21 世 紀 は 心 の 時 代
「報復」という言葉が、連日のようにテレビや新聞の紙面を飾っている現在。改め
て、人が生きることの複雑さ、深遠さを思わずにはいられない。現在のように価値観
が多様化し、物質的に恵まれた社会では、我々は、よりよく生きていく方向を見いだ
せなくなってきている。今や、心の教育が必要なことは、国民的合意である。
これからの時代は、何がよいことなのかを自分で判断し、それを目指して生きよう
とする姿勢を備えることが、さらに要求されてくるであろう。
ま さ に 、「 よ く 生 き よ う と す る 姿 勢 」 を 育 て る こ と は 、 学 校 に お け る す べ て の 教 育
活動で行う道徳教育であり、道徳の時間の使命でもある。子どもたちにとって、より
よく生きていくための心の拠り所となるような授業づくりが、我々教師に求められて
いる。
以下、昨年の研究から、研究主題設定に至るまでの考え方を述べてみたい。
2 主題設定の背景
( 1) 12 年 度 の 取 り 組 み か ら
道徳の時間における活動の位置づけと工夫
○資 料 →
○資料のねらい 価値の自覚の深まり
に沿った活動→ →道徳的なものの見方
考え方の広がり
○教師の支援 →
一単位時間の流れ
これまでの授業では、1時間の大部分を使って、資料を基に“話し合い”を進めて
いくといった展開が一般的であった。高度な指導技術が要求されるため、教師が道徳
の時間を敬遠する一因ともなっていた。また、座学を中心に進められる授業は、低学
年の子どもたちにとっては、問題意識や学習意欲を持続していくことが難しい面もあ
った。そこで、一単位時間のなかに「活動」を組み込んで、子どもたちが楽しみなが
ら、意欲的に道徳的価値を実感できるように取り組んだ。
大まかに、導入・展開・終末の3つに分けて、それぞれの学習過程の役割にあう活
動を開発し、実践してみた。その結果、次のような成果を得た。
①導入での活動について
学習の意外性を生み、興味・関心を高めることにつながった。また、子どもたち
に、問題意識を持たせるのに有効であることが検証できた。
②展開での活動について
資料の世界に浸り、イメージを広げることに効果があった。さらに、自分と重ね
合わせながら語らせるのに有効であった。
③展開後段・終末での活動について
実感を持って、これまでの自分を振り返ることができた。新しいものの見方や感
じ方を、授業後の生活に生かそうという意欲を高めることにつながった。
課題としては次のようなものが残った。
①資料や子どもの実態に応じた「活動」の開発。
②より「活動」を生かすための「主題」の再検討。
また、他の学年ではどのような効果をもたらすのか、実際に、実践を通して確かめ
てみたいという気持ちが残った。そこで今年度は、昨年度の課題の解決と、上学年で
の効果の検証という二つの問題意識を持って研究に取り組むことにした。
( 2) 道 徳 の 時 間 に お け る 「 主 題 」 の 再 検 討
道徳の時間の主題は、指導を行う
.に.当
.た.っ
.て.、
.何 を ね ら い と し 、 ど の よ
うに資料を活用するかを構想する指導のまとまりを示すもので、ねらいと
それを達成するための資料によって構成される 。 ( 道 徳 教 育 基 礎 辞 典)
① 内容項目は、生き方の範となっているか
授 業 を 構 想 す る 場 合 、従 来 、学 習 指 導 要 領 に お け る 内 容 項 目 を 念 頭 に 置 い て い た 。
例 え ば 、「 思 い や り 」「 誠 実 」「 勇 気 」・ ・ ・ と い っ た も の で あ る 。 そ し て 、 そ の 内
容項目の価値把握に向けての授業を順次繰り返していくことが道徳性を育み、ひい
ては望ましい人間性をかたちづくっていくと考えられていた。しかし、様々な個性
を持つ子どもたちの目標となる生き方は、画一的であってはならない。内容項目の
一つ一つは、望ましい人間が備えるべき要素ではある。ところが実際の生活では、
それらの要素が微妙に絡み合って生き方の範を要求してくる。誠実に生きることが
揶揄されたり、相手のことを思って忠告したことが意地悪だと曲解されたりといっ
た具合に。内容項目を手がかりとしつつも、よりそれぞれの子どもたちにあった形
で提示していくことが必要ではないだろうか。
② 心は育てるもの?
描画指導法で有名な酒井臣吾は、著書の中で次のように述べている。
「 心 」な ど 教 育 で き る も の な の で し ょ う か 。私 に で き る こ と は 、そ の「 心 」
を 「 表 現 」 す る 方 法 を 教 え る こ と で す 。・ ・ ・
この文章を読んで、道徳の時間の指導にも当てはまるのではないかと考えた。子
ど も の 生 活 の 外 に あ る 、「 思 い や り 」 な ど と い っ た 内 容 項 目 を 教 え 込 ん で も 子 ど も
の 心 に は 響 い て い か な い 。 道 徳 の 時 間 に 指 導 で き る こ と は 、「 思 い や り 」 と い う 窓
口 を 手 が か り に 、 子 ど も 自 身 の 生 活 を 振 り 返 る ( 接 点 を 探 す )、 新 し い 視 点 を 与 え
て い く こ と で は な い か 。 そ う す る こ と で 、「 思 い や り 」 と い う も の の 見 方 や 考 え 方
を広げていくことになると考える。
③ 心のかたちを広げる
子どもたちは、それぞれが様々な道徳性の萌芽を持って生まれてくる。その総体
としての「心」を広げていけるよう、道徳の時間が機能しなければならない。外側
か ら 価 値 を 教 え 込 む の で は な く 、子 ど も た ち の 中 に あ る 道 徳 性 の 芽 生 え を 見 い だ し 、
伸ばすという姿勢が必要ではなかろうか。子どもたちは、誰もがよりよく生きたい
という願いを持っている。内容項目が生き方を充実させるのではなく、子どもがそ
の内容項目によって生き方を充実させていけるよう指導方法を考えるべきである。
以上のように主題をとらえ、次のような仮説を設定した。
Ⅲ 研究仮説
子どもたちの目線で主題をとらえ直し、資料のねらいに沿った活動、体
験等を意図的に取り入れると、子どもたちは意欲的に価値を追求し、より
効果的に自らの生活を振り返ることができるのではないか
Ⅳ 研究の構想
1 研究の具体化(主題づくりから活動へ)
『具体的な場で、道徳的行為がなされる場合、一つの内容項目だけが単独に作用す
る と い う こ と は な い 。・ ・ ・ そ れ ぞ れ の 内 容 項 目 が 調 和 的 に か か わ り 合 い な が ら 、 児
童 の 道 徳 性 が 高 ま っ て い く よ う に 工 夫 す る 必 要 が あ る 。』( 指 導 要 領 解 説 小 学 校 編 )
児童の生活の場面で、学んだことが生きるような、深く広い「主題」のとらえ方が
必要になってくる。
『 指 導 内 容 を 構 成 す る 場 合 の 拠 り 所 は 、 基 本 的 に は 23 の 内 容 項 目 で あ る が 、 必 ず
しも各項目を一つずつ主題として設定しなければならないというのではない。生徒の
人間的な成長をどのように図るかという観点から、いくつかの内容を関連づけて指導
す る こ と が 考 え ら れ る 。』( 指 導 要 領 解 説 中 学 校 編 )
また、児童の生活に根ざした「主題」の開発も求められている。そこで、従来の、
教師側から「主題」を与えていくという発想から、児童の内面から「主題」を導き出
すという考え方で「主題」づくりを行う。併せて、各内容項目の統合、関連を図った
「 主 題 」 構 成 に も 取 り 組 む こ と に し た 。( 実 践 例 3 ) さ ら に 、「 主 題 」 と 資 料 の 内 容
に沿った「活動」をつくっていくことで、価値の自覚を深める授業を構想した。
2 実践に向けた諸計画の立案
( 1) 年 間 指 導 計 画
年 間 を 通 し て 、効 果 的 な 指 導 が 図 れ る よ う 、次 の よ う な 諸 計 画 を 立 て 実 践 を 行 っ た 。
月 主 題 名 内容項目 ね ら い 資 料
4 二年生になったら 明朗誠実 自 分 の こ と を 自 分 で し っ か り や 日本標準
月 ろうとする態度を育てる
すずりがいけ 思 い や り 身近にいる幼い子や高齢者に温 熊本市教育委員会
親切 かい心で接し、親切にしようと 実践例 2
する心情を育てる
5 かもうのクス 郷土愛 郷 土 の 文 化 や 生 活 に 親 し み を 持 日本標準
月 つ心を育てる
おちた子ツバメ 自 然 愛 動 植 物 の 世 話 を す る こ と を 通 し 日本標準
動物愛護 て、優しい心を育てる
6 にじいろのさかな 信頼友情 友だちとともに生活していくよ 講 談 社
月 さ に 気 づ き 、 心 を 合 わ せ 、 助 け 実践例 1
合っていこうとする態度を養う
ひかるえんがわ 勤勉努力 苦しいことがあっても、頑張っ く ま も と の こ こ
てやり遂げる態度を育てる ろ
10 二わのことり 信 頼 ・ 友 友達のことを考える大切さに気 学 研
月 情 づかせ、仲良く助け合っていこ
うとする心情を育てる
11 じてんしゃもクルマ 公共心 約 束 や き ま り を 守 ろ う と す る 心 日本標準
情を育てる
月 花びらのたび たくましさ 自らの学校生活の中にあった 昭和児童文学全集
「 た く ま し さ 」 を 見 い だ す こ と 実践例3
で、今後の生活への意欲を持つ
ドラえもん 勤勉努力 つ ら い こ と が あ っ て も 、 最 後 ま 日本標準
でやり遂げる態度を養う
ともだち先生 信 頼 ・ 友 友達と仲良くし助け会う 学 研
情
12 おつかいマン 家族愛 進 ん で 手 伝 い を す る 気 持 ち を 育 日本標準
月 て、家族や身近な人に対して感
謝の気持ちや親愛の情を育む
※4年生、5年生の年間指導計画については省略。
( 2) 学 級 に お け る 指 導 計 画
全体計画を受けて、次のような学級における指導計画を作成した。
平成13年度 道徳教育の学級(2年3組)における指導計画
道徳の時間
学級活動 教師の願い
他の学級・学年との連携にかかわる内容と方法 家庭・地域社会との連携
・仲良し学級(4年3組)との定期的な交流 ・学年通信、学級通信の発行・隣接する保育園との交流
・木の葉保育園の園児との交流 ・授業参観、学級懇談の充実・PTA活動の充実
・学年集会・登校班・生活科授業での1年生との交流 ・地域の行事への積極的参加等促す。