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鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山院長

Column 家庭医診療科
岡田 唯男
家庭医(米国家庭医療学会認定専門医)。 Faculty
(指導医養成者の育成)。公衆衛生学修士。
Developer
普段は家庭医の育成と家庭医療の実践、週末は指導
医の育成。東海大学客員准教授、東京医科歯科大学
臨床准教授。

今回はたとえ話から。 ことを明確に示している。
《中心部に川の流れる村があった。ある時、川に溺 目の前に病める人、困っている人がいるのに真摯に
れた人が流れて来たのを見かけた村人が、なんとか助 対応するのは医療者として当然のことだ。しかし、目
けようとしたが、命を救うことができなかった。そこで の前の問題だけにとらわれて、その対応だけをしてい
彼は BLS
(基本的心肺蘇生)
の講習会に参加し、次の溺 ると、確かに、相手には感謝され、報酬はもらえ、生
水者を無事救うことができた。しかし、その次の溺水 活は回っていくが、いつまでも本質的な問題は解決さ
者が発生したときは、近くにいなかったので救うこと れないままだ。
ができず、彼は村人を集めて、皆に BLS の講習会を受 「地域医療、救急医療に医師が足りないから増やす」

けてもらった。その後、数名は救うことができたが、 いうロジックは、当面の対応としては必要だろう。し
BLS では不十分なため、ACLS (高度心肺蘇生) を学び、 かし、なぜそこに医師が足りないのか、また、医師が
村人に広げた。それでも救命できない溺水者が発生す 足りない分野での医療ニーズを減らせるような方法
(地
るため、早く対応できるように、見張り小屋を作って 域の健康度が上がれば必要な医師の数は少なくて済むの
交代制で溺水者の発生を監視し、ついには川のそばに ではないか)
については、誰かが考えているのだろうか。
病院を作り、医師、看護師が確保できないので医学部 川の流れる村の話。橋が修復されたあと、病院や医
と看護学部までつくってしまった》 学部、看護大学、見張り小屋はどうなったと思われよ
美談でしょう? 本当にそうでしょうか? うか? 「根本原因の解決に取り組む 3」
ということは、
《ある時、1 人の住民が言いました。 「なんでこの川 reactive な医療のニーズを減らし、なくすことであり、
で溺水者がこんなに多いのか、誰か、川の上流で何が 今の診療報酬制度では医療機関の収入減を意味する。
起きているか見に行った人はいるの?」 自分の食い扶持がなくなることを覚悟で、本当に健
案の定、上流には、おんぼろの所々穴の空いた危な 康なコミュニティ作りに取り組む覚悟のある人は、ど
っかしい橋があり、その橋を安全なものに改修するこ れだけおられるだろうか 4 ?
とで、溺水者が発生することはほとんどなくなった》
現代の医療が 「reactive
(反応的) 」つまり何か問題、症
参考文献
状が起きて初めて重い腰を上げることについての反省
1. Institute of Medicine. Crossing the Quality Chasm:A New
と、これからのあり方としての 「proactive な
(先に手を Health System for the 21st Century. National Academy
打つ) 医療」 への変革が、2001 年には米国で 1、2004 年 Press;2001.
2. The Future of Family Medicine. Ann Fam Med 2004;2:S3-
には米国家庭医療の現場から、叫ばれている 2。また日
S32.
本のスポーツ医学の分野でも、障害が発生してから対 3. 岡田唯男. Column:本当の死亡原因(根本原因:Actual Cause
応するという整形外科的アプローチではなく、障害を of Death)とは? MMJ 2010; 6, 5: 275.
4. 岡田唯男. Column:自らの命を賭けた診療ができるか?. MMJ
発生させないフォームの確立、早い時期での障害の検 2010; 6, 3: 165.
出といった 「upstream 治療」 という考えが出始めている
が、健診(妊婦健診、健康診断、小児検診) や予防接種
などに保険が使える諸外国に対し、何らかの 「訴え」

なければ健康保険が使えないという日本の医療制度は、
いまだ 「reactive
(反応的) な医療」から脱却できていない

September 2010 Vol.6 No.7 391

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