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1930 年代における為替レートと経済復興∗

バリー・アイケングリーン
ジェフリー・サックス†

1984 年 11 月

1 付論 A
この付論では金本位制のもとでの二国マクロ経済均衡モデルを提示する。このモデルはマンデル=フレミン
グモデル(Mundell 1964 および Bruno and Sachs 1985 を参照)を総供給行動および金と貨幣との関連に重
点を置いて修正したものである。単純化のために、同一の構造方程式の係数をもつ二つの対称的な経済を想定
する。
総供給は賃金の負の関数として与えられるものとする。q を GDP の対数、w を賃金の対数、p を国内生産
物の価格の対数としてそれらの関係を次のように表す。

q = −α(w − p). (1)

よって、α は賃金に対する産出の弾力性を表す。対称をなす方程式 q ∗ = −α(w∗ − p∗ ) は他国に適用される


(アスタリスクは他国の変数を表すものとする)。我々は本文では自国の方程式のみ示し、完全な二国モデルは
表 A.1. で示す。
ケインジアンの仮定である名目賃金の硬直性を導入する。

w = w̄. (2)

w̄ を定数として固定すると、(通貨の切り下げなどを通じた)名目需要の拡張は w に対する p を上昇させ、


w − p を圧縮させる。結果として総供給を増加させる。
自国は自国通貨を金に対して固定させる。G を自国通貨一単位に対する金の重量とする(よって 1/G は
金の一単位の価格を表す)。G の上昇は通貨の切り上げを意味し、G の減少は切り下げを意味する。さらに
g = log G とおく。他国では同様に G∗ で他国通貨の単位当たりの重量を表すものとし、g ∗ = log G∗ とおく。
自国通貨と他国通貨の交換比率である為替レート E は G/G∗ に等しい。繰り返しになるが、E の上昇は自国
通貨が切り上がったことを意味する。e = log E とおくと、e = g − g ∗ となる。
各国の総需要は生産物の相対価格と名目金利 i の減少関数とする(動学モデルで我々は名目金利と実質金利
とを区別する)。よって自国の生産物の価格(=物価)P と他国の自国通貨表示による価格 P ∗ /E を用いて自

∗ 原題は “Exchange Rates and Economic Recovary in the 1930s” NBER Working Paper No. 1498
† Barry Eichengreen and Jeffery Sachs

1
表1 金本位制のもとでの二国モデル

総供給
q = −α(w − p) (a = 1/α に注意)
q ∗ = −α(w∗ − p∗ )
w = w̄
w∗ = w̄∗
総需要
q = −δ(p + g − g ∗ − p∗ ) − σi
q ∗ = −δ(p∗ + g ∗ − g − p) − σi∗
資産市場
m − p = φq − βi
m∗ − p∗ = φq ∗ − βi∗
i = i∗
金準備
m=r−g−ψ
m∗ = r ∗ − g ∗ − ψ ∗
0 = γdr + (1 − γ)dr∗

国生産物の相対価格は P E/P ∗ もしくはその対数表示 p + g − g ∗ − p∗ と表すことができる。総需要は次のよ


うに表す。

q = −δ(p + g − g ∗ − p∗ )σi. (3)

さて、ここで資産市場を考える。貨幣需要は標準的な取引残高の形式をとるものとする。

m − p = φq − βi. (4)

ここで m は名目貨幣残高 M の対数を表す。金利の裁定により自国と他国の金利は等しくなることを仮定


する。よって

i = i∗ . (5)

より完全なモデルでは式 (5) は為替レートの変化に対する予想とポートフォリアバランスからのリスクプレミ


アムを反映させるべきである。
金本位制のもとでは金準備を自国通貨で測ることが便利である。R を中央銀行が保有する金準備の量としよ
う。金の価格は 1/G であるから、金準備の自国通貨で見た価値は単純に R/G である。Ψ = (R/G)/M を通
貨価値を裏付ける金準備の度合いを示すものと定義する。これを対数をとって書き直すと、

m = r − g − ψ, (6)

となる。なお、小文字の変数は対応する大文字の変数の対数である。式 (6) はここでは単に定義であることに

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注意して欲しいが、ψ を固定したり、r を固定することでこの式から政策提言を導くことができる。我々は以
下でこれらの二つのケースについて論じる。
世界全体の金のストックは RW で固定されているものと仮定する。そしてそれは自国と他国に RW =
R + R∗ と配分されているものとする。dr = d log R = dR/R であることから、初期の均衡において
γ = R/RW であるとすると、

γdr + (1 − γ)dr∗ = 0, (7)

である。
モデルの完全な記述は表 A.1. に示されている。12 の内生変数(q, w, p, i, m, r と q ∗ , w∗ , p∗ , i∗ , m∗ , r ∗ )と
12 の方程式がある。それぞれの国で二つの政策手段があることを仮定する。一つは金の価格 1/G であり、も
う一つは金準備の度合い Ψ である(対数ではそれぞれ g と ψ で表される)。この定式化では貨幣残高の水準
m と金準備 r は内生変数である。
さて、ここで我々は五つの変化について考察する。まず第一に、自国は通貨の切り下げ(dg < 0)を行
うが金準備 (gold reserve) が不変(dr = 0)となるように金準備率 (gold backing)ψ が変化することを許
容するケース。これは「不胎化」された切り下げと表現してよいだろう。このケースでは他国はいかなる
政策も発動しないこととする(dg ∗ = 0 = dψ ∗ )。第二のケースでは自国は通貨を切り下げるが金準備率は
変化させない(dg < 0, dψ = 0)。ここでも他国の政策は dg ∗ = 0 = dψ ∗ とする。第三のケースでは両国
が同程度に通貨の切り下げを行い、金準備率は変化させない(dg = dg ∗ < 0, dψ = dψ ∗ = 0) 。第四の
ケースでは両国が同程度の切り下げを行うが、金準備に生じるキャピタルゲインを不胎化するものとする
(dm = dm∗ = 0)。最後に第五のケースでは、両国の中央銀行が金準備率を引き上げ、平価を保つものとする
(dg = dg ∗ = 0, dψ = dψ ∗ > 0)。

1.1 第一のケース:不胎化された通貨切り下げ

このケースでは、自国の政策手段が r と g と考えるのが最もわかりやすい(m と ψ は内生変数)。dr = 0


であることから、dr∗ = 0 である。また、m∗ = r ∗ − g ∗ − ψ ∗ で、仮定より dψ ∗ = dg ∗ = 0 であることから
dm∗ = 0 であることがわかる。モデルを解くと次の結果を得る。

(∆ = − (1 + δa)[β(1 + δa) + σ(a + φ)] + δa[δaβ − σ(a + φ)] < 0 とおいて)


1
dq = [δβ + 2σδ(a + φ)]dg > 0,

∗ βδ
dq = dg < 0,

1
d(w − p) = − [δβ + 2σδ(a + φ)]dg < 0,
α∆
1
di = − [δ(a + φ)]dg < 0.

よって、通貨切り下げは自国の産出を増加させるが、他国の産出を 必ず 減少させることがわかる。予想さ
れたように通貨切り下げは自国の賃金を低下させ(結果として総供給を増加させる)、名目世界金利を低下さ
せる。

3
1.2 第二のケース:非不胎化された通貨切り下げ(dg < 0, dψ = 0)
このケースでは自国の金準備 r は通貨切り下げの結果に応じて増加することも減少することもあり得る。
dr∗ = −[γ/(1 − γ)]dr であることから、r の減少は r∗ の増加をもたらす。dψ ∗ = dg ∗ = 0 を仮定すると
dm∗ = dr∗ であるから、通貨切り下げは他国のマネーストックを増加させることがあり得るが、これは第一
のケースでは起こりえないことである。さて、r ∗ の増加が十分に大きければ dq ∗ > 0 となることが可能であ
る。具体的には、
( )
1−γ {β[1
1
dΩ = + 2aδ] + (a + φ)[2σaδ + σ]} > 0
γ とおいて
Γ = 1−γ
1
dq = − [β + 2φδ(a + φ) + Γβ + Γσ(1 + aδ) + 2Γaδ]dg > 0,

∗ 1 σdr∗
dq = ∗ [δβ(Γ + 1)]dg + ≶ 0,
Ω β + σ(a + φ)
1
dr∗ = [β + σ(a + φ)][2φδ − 1]Γdg ≶ 0,

1
di = [Γ(1 + aδ) + (1 − Γ)(a + φ)δ]dg ≶ 0.

dr∗ < 0 である時には dq ∗ は dg < 0 に対して必然的に負になることに注意して欲しい。言い換えると、
dr∗ > 0 は dq ∗ > 0 のための必要条件である。明らかに dr∗ > 0 は十分条件ではない。なぜならば dq ∗ は
dr∗ > 0 であっても負になり得るからである。通貨切り下げが他国に正の効果をもたらすのは δ と β が非常に
小さい時である。例えば δ = β = 0 ならば、dq ∗ = dr ∗ /(a + φ) > 0 かつ dr∗ = −γdg > 0 である。

1.3 第三のケース:協調的通貨切り下げ、金準備率一定(dg = dg ∗ < 0, dψ = dψ ∗ = 0)

このケースでは通貨切り下げは世界全体にとって拡張的効果をもたらし、賃金と名目金利の低下をもたら
す。対称性からどちらの国の金準備にも変化は起きない。具体的には、
(Λ =β + σ(a + φ) > 0 とおいて)
σ
dq = dq ∗ = − dg > 0,
Λ
1
di = dg < 0,
Λ
σ
d(w − p) = dg < 0.
αΛ

1.4 第四のケース;協調的通貨切り下げ、マネタリーベース一定(dg = dg ∗ < 0, dm =


dm∗ = 0)
このケースでは通貨の切り下げは産出にも金利にも全く影響がない。唯一の変化は各国のマネタリーベース
に対する金準備率の上昇である。
dg = dg ∗ = 0,
di = 0,
d(w − p) = 0.

4
1.5 第五のケース:金準備率の同時引き上げ(dg = dg ∗ = 0, dψ = dψ ∗ > 0)

Ψ と P si∗ の上昇はマネタリーベースの比例的な減少をもたらす(dm = dm∗ = dφ = −dφ∗ )。このマネタ


リーベースの縮小は第三のケースで取り上げた協調的通貨切り下げと全く逆の効果を生む。
σ
dq = dq ∗ = − dφ < 0,
Λ
1
di = dφ > 0,
Λ
σ
d(w − p) = dφ > 0.
αΛ

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