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二木会 2017/12/23

困難事例に立ち向かえ!
複雑性と不定性
の考え方
北海道勤医協/総合診療/家庭医療/医学教育センター(GPMEC)
家庭医療専門医(医師7年目)

向坊 賢二
我々の業界は
困難事例だらけ…
PCAM:Patient Centered Assessment Method
1. 健康問題

2. 住居・社会環境

3. ヘルス・リテラシー&コミュニケーション
(病状理解・意思決定能力)

4. サービスの調整
PCAMと入院期間の論文

PMID: 28490567
PCAMはすばらしい
が頭に入らない!

BPS
で考えてみた
困難事例のキーワード
生物
診断困難/不明熱 心理
終末期ケア
Multimorbidity 認知症
Difficult Patient Encounter
MUS(不定愁訴)
DSM-4(多軸評定:Ⅰ-Ⅴ軸)
※うつ/統失/依存症/人格障害/発達障害など
社会
Social Determinants of Health
(健康の社会的決定要因)
困難事例の
全体像を把握する
総論の話をします
困難事例①
70歳台、男性。
発達障害/先天性聾唖、糖尿病、慢性腎臓病、往診圏
外に独居、身寄りなし。
繰り返す周期性発熱(後にFMF疑い)を起こすようにな
り、その度に高血糖、ネフローゼ増悪による全身性浮
腫で救急搬送。毎回対症療法で軽快して退院。
インスリン注射も必要なったため札幌市内に住み替え
し、何とか訪看導入。地元に帰ろうとして放浪するよ
うになり川で倒れているところを警察に発見され搬送。

モヤモヤ…
困難事例②
86歳 男性、認知症、虚弱高齢者、胆石があり胆嚢炎
繰り返していた。初回の発作は「年だし手術はね…」
ということで保存治療。しかし、半年後に2回目の胆
嚢炎、その1ヶ月後に3回目の胆嚢炎を発症した。
将来、胆嚢炎で亡くなるかもしれないし、
胆嚢炎を発症せずに天寿を全うするかもしれない。
外科治療をすれば治るかもしれないけれど、
術後廃用や手術合併症で亡くなるかもしれない。
現在、本人はニコニコ過ごしている。

モヤモヤ…
①と②の
困難の違いを
言語化できますか?
複雑性
×
不定性
複雑性と不定性のイメージ

複雑性=グチャグチャ度
”現在”捉えられている問題が、
どれくらい入り組んでいて理解が面倒かの指標

不定性=先の見えない度
”将来”起こりうる事象の発生率について、
見通しがどれくらい不透明かの指標
今日の目標

困難事例の
複雑性と不定性を評価し、
対応方法を選択できる
ようになる。
タイムテーブル
1.導入 10分

2.前半レクチャー&ワーク 25分

3.後半レクチャー&ワーク 25分

4.まとめ 5分
1.複雑性
複雑性のイメージ
• 複雑性=グチャグチャ度
”現在”捉えられている問題が、
どれくらい入り組んでいて理解が面倒かの指標
問題の複雑さ
1.単純(Simple)

2.複合(Complicated)

3.複雑(Complex)

4.混沌(Chaotic)
Sturmbergの分類
1. 単純(Simple)
原因と結果が1対1 30歳女性
#マイコプラズマ肺炎

40歳男性
#潰瘍性大腸炎
・教科書
・ガイドライン →疾患の重症度、レア度
・専門科で完結 とは別ですごく単純
困難事例のキーワード
生物
診断困難/不明熱 心理
終末期ケア
Multimorbidity 認知症
Difficult Patient Encounter
MUS(不定愁訴)
DSM-4(多軸評定:Ⅰ-Ⅴ軸)
※うつ/統失/依存症/人格障害/発達障害など
社会
Social Determinants of Health
(健康の社会的決定要因)
2. 複合(Complicated)
単純の足し算 60歳男性
#糖尿病+高血圧
#慢性心不全
#慢性腎臓病
#慢性心房細動

病態の分解・読み取りにく
さはあるが、努力で可能
・ある程度一般化可能
・複数科にコンサルト 相互に関連があるが、1つず
つ叩けば全体として改善
困難事例のキーワード
生物
診断困難/不明熱 心理
終末期ケア
Multimorbidity 認知症
Difficult Patient Encounter
MUS(不定愁訴)
DSM-4(多軸評定:Ⅰ-Ⅴ軸)
※うつ/統失/依存症/人格障害/発達障害など
社会
Social Determinants of Health
(健康の社会的決定要因)
3. 複雑(Complex)
70歳台、男性。
複合の掛け算 発達障害/先天性聾唖、糖尿病、
慢性腎臓病、当院の診療圏外(石
狩市)に独居、身寄りなし。

繰り返す周期性発熱(後にFMF疑
い)を起こすようになり、その度
に高血糖、ネフローゼ増悪による
全身性浮腫で救急搬送。毎回対症
療法で軽快して退院。

インスリン注射も必要なったため
• 分解、一般化不能 札幌市内に住み替えし、何とか訪
• 個別性が高い 看導入。地元に帰ろうとして放浪
するようになり川で倒れていると
ころを警察に発見され搬送。
困難事例のキーワード
生物
診断困難/不明熱 心理
終末期ケア
Multimorbidity 認知症
Difficult Patient Encounter
MUS(不定愁訴)
DSM-4(多軸評定:Ⅰ-Ⅴ軸)
※うつ/統失/依存症/人格障害/発達障害など
社会
Social Determinants of Health
(健康の社会的決定要因)
4. 混沌(Chaotic)
70代女性 ゴミ屋敷+ネコ屋敷
解析不能 介護サービス拒否・往診拒否
家族連絡拒否・死亡後連絡先のみ

認知症なし、重度難聴、電話なし
生来の世話され嫌い、質素な生活
足腰が弱く外出不能、食材宅配

高血糖性昏睡で他院入院。
• メンテナンスで事態に インスリン導入して帰宅したが、
備える うつ病の息子がインスリンで自殺。
• 中腰で耐える
息子の忘れ形見のネコのために施設
には入れない。
困難事例のキーワード
生物
診断困難/不明熱 心理
終末期ケア
Multimorbidity 認知症
Difficult Patient Encounter
MUS(不定愁訴)
DSM-4(多軸評定:Ⅰ-Ⅴ軸)
※うつ/統失/依存症/人格障害/発達障害など
社会
Social Determinants of Health
(健康の社会的決定要因)
複雑性のまとめ
1.単純
問題解決
(Problem solving)
2.複合

3.複雑
安定化
(Stabilizing)
4.混沌
複雑性のまとめ
1.単純 教科書
コンサルト
2.複合 Drカンファ

3.複雑
安定化
多職種カンファ
患者中心の医療
(Stabilizing)
4.混沌
グループワーク
今回のために、指導医の先生方から
珠玉の複雑困難事例を集めました!

みなさんには、各指導医の先生方の
困難事例をワークシートにそって分析、
ディスカッションしてもらいます。
ワーク事例①
~認知症のBPSDによる患者家族関係の悪化、
高血糖緊急症の危機の事例~

88歳 女性

生物:#2型糖尿病(インスリン使用中)
#認知症(BPSD強い) #冠動脈硬化症(PCI後)
心理:#病識の欠如 #易怒性
#介護サービスへの拒絶
社会:#家族関係の悪化 #その他の家族は遠方

嫁に対し、物盗られ妄想を抱くようになり家族関係悪化!
ワーク事例②
~繰り返す妊娠によりDKAを繰り返した
1型糖尿病の若年女性の事例~
25歳 女性
生物:#1型糖尿病(低血糖頻回) #繰り返す妊娠(ピルあり)
#白内障(網膜症なし、腎症なし)
心理:#発達障害(学習障害疑い)
#発達遅滞(中卒)
#不眠症(彼氏の不規則仕事で夜更かし)
社会:#両親と疎遠、彼氏と二人の世界
#失職(バイト続かず、求職活動中)
#彼氏も仕事不安定で日雇い深夜肉体労働多め
#生活保護利用、身体障害、難病指定などなし。
グループワーク
問1.困難事例のキーワードは
どんなものが上がるか?

問2.複雑性は?

制限時間:5分
2.不定性
不定性のイメージ
• 不定性=先の見えない度
”将来”起こりうる事象の発生について、
見通しがどれくらい不透明かの指標
不定性の4類型
1.リスク(risk)

2.不確実性(uncertainly)

3.多義性(ambiguity)

4.無知(ignorance)
不定性の4類型
有害事象
の内容 定まって 定まって
有害事象
いる いない
の発生率

定まって
いる
リスク 多義性
定まって
いない
不確実性 無知
不定性の4類型
有害事象
の内容
有害事象 論争なし 論争あり
の発生率

論争なし リスク 多義性

論争あり 不確実性 無知
不定性の4類型
有害事象
の内容
有害事象 論争なし 論争あり
の発生率

論争なし リスク 多義性

論争あり 不確実性 無知
リスク
有害事象の内容 → 論争なし
発生率 → 論争なし

EBMの世界

事前に対策を立てて
具体的に患者に説明・指導できる
心房細動と脳梗塞
冠動脈疾患と死亡率
不定性の4類型
有害事象
の内容
有害事象 論争なし 論争あり
の発生率

論争なし リスク 多義性

論争あり 不確実性 無知
無知
有害事象の内容 → 論争あり
発生率 → 論争あり
新しい未知のもの全般
→新薬、新術式、新医療機器

RCTで少数の患者で短期間の有効性評価

適応外使用の影響やまれな副作用は、市販後の
大規模コホート調査でやっと分かる
期待の新薬!SGLT2阻害薬
尿中に糖を排泄する薬
半年たらずで5人の死亡例
有名になった副作用
• 多尿による脱水 →脳梗塞
• 尿糖が頻発することによる尿路感染症
• 性器感染症(特に女性)
• 血糖値が正常でも尿糖が出る
• 1,5-AG値が極端に低くなる
• コレステロール、血圧、血清カリウムなどにも影響か?
• インスリン分泌不全の場合、ケトアシドーシスの注意が
必要
• 腎性糖尿:はじめから閾値が低い腎性糖尿の場合、栄養
障害の可能性も
無知の「無知」
本来「無知」に分類される状況を勘違い
→NEJMにのってましたよ!(ドヤ顔☆)
→今年の〇〇学会のランチョンで「鋭い効き目」って
言ってました!(弁当もおいしかったなあ♡)
→日経◯ディカルで…(日本語で読みやすいなあ♪)

「暗闇を歩いている状態」(地雷原かもしれない)

「そこに立ち入らない」(数年経つまで手を出さない)
「匍匐前進で石橋を撫でながら少しずつ進む」
不定性の4類型
有害事象
の内容
有害事象 論争なし 論争あり
の発生率

論争なし リスク 多義性

論争あり 不確実性 無知
不確実性
有害事象の内容 → 論争なし
発生率 → 論争あり

困難事例②:
86歳、認知症、虚弱高齢者、胆石があり胆嚢炎繰り返して
いる。いつか胆嚢炎で亡くなるかもしれないし、亡くなら
ないかもしれない。外科治療をすれば治るかもしれないし、
治っても術後廃用や手術合併症で亡くなるかもしれない。
不確実性のモヤモヤ
重く見積もり過ぎれば オーバートリアージ
→余剰な侵襲・コスト
「手術しなければよかったね…」

軽く見積もり過ぎれば アンダートリアージ
→予防可能だった事象が発生
「手術すればよかったのに…」
不確実性の対処法
個別性が高くエビデンスが存在しない世界

意思決定に患者が参加することが必須!
患者の価値観や背景を踏まえる
医療者が情報や見通しも説明
お互いに納得しうる落とし所を合議で決める

患者中心の医療の方法
多義性
有害事象の内容 → 論争あり
発生率 → 論争なし

困難事例①:
70歳台、男性。発達障害/先天性聾唖、糖尿病、慢性腎臓
病、往診圏外に独居、身寄りなし。繰り返す周期性発熱
(後にFMF疑い)を起こすようになり、その度に高血糖、
ネフローゼ増悪による全身性浮腫で救急搬送。インスリン
注射も必要なったため札幌市内に住み替えし、何とか訪看
導入。地元に帰ろうとして放浪するようになり川で倒れて
いるところを警察に発見され搬送。
多義性のモヤモヤ
何が起こるかわからないが、
必ず何かよからぬことが起きるだろう

「多義」=1つの事象に
複数の意味があるということ

ある事例には様々な視点があり、主治医
1人の考え方では不十分!
多義性の対処法
視点の異なる専門家・メンバーを集める。
→様々な視点で事象を監視する密度を
あげて危機に備える

「クラッシュ待ちだよね…」(マルキン用語)

患者の意向、周囲の状況、全体のQOL

多職種四分割カンファレンス
不定性のまとめ
有害事象
の内容
有害事象 論争なし 論争あり
の発生率

多職種
リスク
論争なし Drカンファ 多義性
カンファ

患者中心の 手を出すな
論争あり 不確実性
医療 無知
グループワーク
問3.不定性は?

問4.対処法は?

制限時間:5分
質問タイム
参考文献
• 宮田靖志,プライマリ・ケア現場の不確実性・複雑性に対処する
2014,Vol.37,no.2,p124-132

• 吉澤剛 他,科学技術の不定性と社会的意思決定支援
科学 2012,Vol.82,no.7

• 本堂毅 科学の不定性と社会 現代の科学リテラシー

• 長哲太郎 他,困難事例を乗り越える Gノート 2017,Vol.4,no.7


• 高木博 他,複雑困難事例集 治療 2017,Vol.99,no.7

• 藤沼康樹 他,複雑な臨床問題へのアプローチ
新・総合診療医学家庭医療学偏第2版 p90-94
• 草場鉄周 他,複雑系としての健康問題
家庭医療のエッセンス p98-105

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