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北海道勤医協 総合診療・家庭医療・医学教育センター(GPMEC)

総診スキルアップアップセミナー第2回 2018/07/28

臨床力が身につく!

ロジカルなカルテの書き方

佐藤 健太
dr.kenta.sato@gmail.com

総合内科専門医 + 家庭医療専門医
勤医協札幌病院 内科・総合診療科 科長
本日のプレゼンデータ
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今日のテーマ

カルテの書き方
上手なカルテ?
臨床力が伸びるカルテ!
Googleで「医学書院 型が身につくカルテの書き方」を検索すると出てきます
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02985_05
それでも残る課題

型だけはそれっぽいけど、
内容を読んでも意味がわからない

書くのに時間ばかりかかる
自分で診断を付けられない
一人では方針を決める自信がない
現代的、初期研修医のカルテの課題

A.主張は明確だが、
根拠が不明で説得力がない

B.患者情報からプランに至るまでの
アセスメント力が足りない
論理の三要素

出典サイト:トゥールミンの三角ロジック https://kogolearn.wordpress.com/studyskill/chap4/sec2/
参考文献 :高校生のための論理思考トレーニング
• 例
NEJMに「CRPは肺炎の診断に寄与しない」(Data)という
研究結果があり、
NEJMは権威ある医学雑誌(Warrant)なので、
肺炎を疑う患者ではCRPは取らない(Claim)という主張

• Data・Warrantに対して、“議論”可能
「その論文はその後の追試で否定されているよ」
「NEJMの論文のうち◯%は科学的に不適切なんだよ」

• Data・Warrantが欠けた主張は、指導対象外
「いいからCRPとれよ!」と主張そのものを否定か、
「よくわからないけど、いいんじゃない」と曖昧な肯定(放置)
日常臨床への置き換え
論理用語 医学用語 カルテ用語
Data 患者の症状 Subjective
(情報) 物語と文脈
身体所見 Objective
検査結果
Warrant 文献的エビデンス Aの根拠
(根拠) 専門医の意見

Claim 臨床診断 Aの診断


(主張) 治療・検査計画 Plan
現代的、初期研修医のカルテの課題

A.主張は明確だが、
根拠が不明で説得力がない

B.患者情報からプランに至るまでの
アセスメント力が足りない
アセスメントできない理由

0.情報が取れない→学生やり直し

1.情報を取れるが、整理できない

2.病名は付けられるが、浅い

3.病名が多いと、フリーズする
今日扱うテーマ

①患者情報からの
プロブレム抽出法

②治療方針に直結する
的確な病名の付け方

③Multimorbidity患者で
全体像のみえるまとめ方
今日扱うテーマ

①患者情報からの
プロブレム抽出法

②治療方針に直結する
的確な病名の付け方

③Multimorbidity患者で
全体像のみえるまとめ方
事例提示

丸山 清十郎
79歳男性
ホームレス、喫煙者

#1. COPD→急性経過の呼吸不全
※配布資料2・3ページ参照
①患者情報からのプロブレム抽出法

救急診療の慌ただしい現場で
無数の症状、バイタル・検査異常から
致命的な病態をもれなく拾い上げる
キーワードリスト→プロブレムリスト
病歴や身体所見から,キーワードを抽出し、「病気」がいくつあるか考える

#1. プロブレム①

#2. プロブレム②

#3. プロブレム③

16
キーワードリスト → プロブレムリスト
胸が苦しい メイン
胸部違和感・絞扼感、急激、7/10
#1. 胸部絞扼感
持続性、移動なし、肩放散痛?
不安 #2. ショック
#3. 糖尿病
息切れ(-)、咳・痰(-)。
冷汗(+)、嘔気(+)・嘔吐(-)
高血圧・糖尿病・CKD、喫煙・飲酒 その他
ビグアナイド・ACE-I内服中 #a. 不安
ショックインデックス>1 #b. 併存症管理
頻呼吸・頻脈、発汗・冷感
#c. 内服薬調整
貧血,S3(+),ラ音なし
トロポニンT陽性、V1-4でST上昇(+)
プロブレムリストに集約するコツ

どれをひろうか

どのくらいまとめるか

どの順番に並べるか
漏れのない
プロブレムリスト

臨床情報(S+O)

緊急度・重症度
との相関の高さ
現代カルテ=問題志向型システム
Problem Oriented System

医師の診断ありき=「疾患志向型」
主治医が立てた仮説にあう事柄を記載し,
仮説に合わないことや専門外のことは記載しない
※頭の中に「A・P」があり、それ以外はオマケ。

患者の問題ありき=「問題志向型」
患者の抱えている問題から「プロブレム」を立案し、
解決していく過程を記載する
※患者からの「S・O」を元にA・Pを考える。
緊急度・重症度の高い症候
• 救急で重視される生理学的異常
• ABCDE+III
• 対応が遅れると数時間~数日で死亡

• 致死的疾患が含まれる主訴
• 三大疼痛
• 安易に帰宅させると死亡
Airway 気道閉塞

Breathing 呼吸不全

Circulation ショック・心不全、腎不全

Dysfunction of CNS 意識障害、神経徴候

Environment 体温、ルート・環境

Insulin&Nutrition/Reha 血糖管理、栄養・安静

Ions&Fluid 体液管理

Infection&Drainage/Debri 感染制御

Headache 頭痛(出血、外傷)

Chest Pain 胸痛(AMI、PE、TAA)

Abdominal Pain 急性腹症


事例情報をまとめなおそう

臨床情報(ワークシート参照)
→キーワードリスト
→プロブレムリスト(ABCDE+III、三大疼痛)

目標:
1分で(今日は5分で)
致命的な病態を漏らさない
丸山さんのキーワードリスト例
COPD、喫煙、呼吸困難感、湿性咳嗽
頭痛、腰痛、近位部筋痛(関節炎なし)
食思不振・嘔吐・下痢

頚静脈圧上昇、肝腫大、下腿浮腫、ST-T低下
Wheeze、片側性Crackles、浸潤影・GPDC
SI0.8、1型呼吸不全、発熱・炎症反応

腎障害・高カリウム血症
高血糖、ATR減弱

齲歯・口腔内不潔、嚥下障害
ホームレス・無保険
低栄養・筋萎縮、貧血
丸山さんのキーワード並び替え例
A :なし
B :1型呼吸不全(肺炎±心不全・肺塞栓疑い)
C :ショックなし、心不全・虚血疑い、腎不全あり
D :JCSⅠ(せん妄注意)
E :発熱あり、異物類なし
I&N :高血糖(DM疑い)
I&F :鬱血、高K
I&D :呼吸器・口腔内感染→口腔・嚥下ケア
疼痛 :多発痛(CPPD、IE、SIRS疑い)
その他:COPD・喫煙、齲歯・嚥下障害
ホームレス・無保険
低栄養・筋萎縮、貧血
丸山さんのプロブレムリスト例
#a. 1型呼吸不全(肺炎±心不全・肺塞栓疑い)
#b. 肺うっ血・体うっ血(心不全>ARDS)
#c. ACS(NSTEMI)
#d. 急性腎障害・高K血症・貧血
#e. 意識障害(せん妄注意)
#f. 高血糖
#g. 頭/腰痛・肩/大腿部筋痛(SIRS>CPPD・IE疑い)
#h. 齲歯・嚥下障害、低栄養・サルコペニア
併存症:COPD・喫煙者
生活歴:ホームレス・無保険
プロブレムリストの抽出方法

S・Oから全部引き出し

ABCDE+IIIと三大疼痛で

緊急度・重症度順に
今日扱うテーマ

①患者情報からの
プロブレム抽出法

②治療方針に直結する
的確な病名の付け方

③Multimorbidity患者で
全体像のみえるまとめ方
②治療方針に直結する病名の付け方

時間の取れる総合診療病棟で
個々のプロブレムに対して
最適な病名を付けて標準治療につなぐ
問題リスト 作成・活用の手順
0.キーワードリスト作成
1.プロブレムに名前を付ける
2.「診断学的に有用な形容詞
(Semantic qualifier : SQ)」をつける
3.他疾患が除外されれば,
「確定診断名」を記載する

4.診断確定後も追加情報で深化させる
Semantic Qualifier
★ 関節痛 30個以上
多発 ↓
関節「炎」 20個以上

慢性 「急性」関節炎 10個程度
非炎症性

急性「単」関節炎 3個
=細菌性・結晶性・外傷性

鑑別診断数を隙なく絞るために有効な、
対義語や類義語で分類しやすい用語
問題リスト 深化例
#1. 貧血[14.4.20](キーワード)
→小球性貧血 (∵MCV70) [14.4.20](SQ)
→鉄欠乏性貧血(∵フェリチン5)[14.4.22](SQ)
→大腸腫瘍 (∵CF所見) [14.4.26](仮診断)
→大腸腺癌 (∵病理結果) [14.4.30](確定診断)
→進行大腸癌 (cStageⅣ:T3N2M1)[14.5.3](深化)
→大腸癌終末期(PS4・PPS↓) [14.8.24](進行)
問題リスト 深化例
#1. 胸部絞扼感(キーワード)
→心血管リスク多数と両肩放散・冷感を認め
30分持続する急性胸部絞扼感 (SQ)
→急性冠症候群(ACS) (症候群)
→急性心筋梗塞/STEMI (診断)
→急性前壁心筋梗塞
(#1.100%閉塞。Nohria:Warm&Wet,ショック合併) (深化)
→陳旧性心筋梗塞
(Post PCI[DES]、HFrEF、CHF stageC) (移行)

#2. ショック
→心原性ショック →#1へ (統合)
鑑別を絞り、診断を深めるコツ
★ SQをつけて
多発

診断がついたあとも
慢性
非炎症性
さらにもっと深める!
治療が決まる深さの
臨床分類付き病名
プロブレム名
+追加情報

エビデンスと教科書
病名は、Common disease群から探す
腎不全 2.0
COPD 1.4
グルーピングし直すと
肝疾患 1.3 1.悪性腫瘍
2.心血管救急
虚血性心疾患
脳血管疾患

3.感染症(加齢)
肺炎(誤嚥性)

4.その他
事故・自殺
ACS 老衰

5.慢性臓器障害
心不全
慢性心不全
COPD
肝硬変、腎不全
臨床分類の選択論拠
• ICD-10、DSM-5 →DPC報酬や研究とリンク
肺炎・病原体不詳、その他の急性下気道感染症

• 診療ガイドライン →標準治療とリンク
• HAP/NHCAPでは、敗血症・重症度(A-DROP/I-ROAD)、
誤嚥・終末期か、耐性菌リスクで分類
※成人肺炎診療ガイドライン2017 https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/pdf/7h29gyousekisyu.pdf

• UpToDate、DynaMed →特殊治療とリンク
• 治療抵抗性や再発性など特殊な病態の場合
• Rare diseaseでガイドラインがない場合
臨床分類まで掘り下げると
治療法も自ずと決まってくる!

肺癌
非小細胞・StageⅢB・切除不能 →放射線+CP療法
非扁平上皮癌、遺伝子変異あり →分子標的療法

肺炎
市中発症、GNDC陽性、中等症 →入院・ABPC/SBT点滴静注
NH-CAP、軽症、耐性菌リスクなし →在宅・CTRX皮下点滴
病名の深め方
1.Common Disease名
• 悪性腫瘍、心血管救急、感染症、慢性臓器障害
• なければRare disease病名を探す

2.状態像(臨床分類)
• 重症度・病期、病型、合併症etc.

3.原因診断
• 破裂・閉塞、虚血・壊死
• 感染(起炎菌・免疫不全)
• 炎症・変性(沈着物・自己抗体・メディエーター)
• 腫瘍(組織型・遺伝子変異)
プロブレム名を
「臨床分類付き病名」まで深化させよう

Step1. Common disease割り当て


Step2.臨床分類
Step3.原因診断

目標:
2分で(今日は5分で)
ガイドラインにある病名・分類名にして
根拠のある治療法を決めよう
丸山さんの病名例

#a. 1型呼吸不全

#1. 右下葉気管支肺炎
#2. 急性心不全
#3. 急性前壁心筋梗塞
#4. 慢性肺気腫(COPD-AEなし)
丸山さんの深化例
#1. 右下葉気管支肺炎
→市中肺炎(重症)
→重症肺炎球菌性肺炎
=ICUに準じる病棟で静注抗菌薬

#2. 急性心不全
→急性心不全(CS4+CS2的病態)
→急性心不全(NSTEMI+#1)
=酸素±NPPV、硝酸薬±利尿、
CAG±PCI・抗血栓薬
鑑別を絞り、診断を深めるコツ
★ SQで絞り込み
多発

慢性 Common Diseaseを探し
非炎症性
ガイドラインで深める
今日扱うテーマ

①患者情報からの
プロブレム抽出法

②治療方針に直結する
的確な病名の付け方

③Multimorbidity患者で
全体像のみえるまとめ方
③Multimorbidityのまとめかた

併存症や心理社会面も無視できない、家庭医外来で
膨大で多種多様な病名群を整理して、
全体的な見通しと、個々の疾病の優先順位をつける
問題点の少ない若年者
キーワードリスト → プロブレムリスト
胸が苦しい メイン
胸部違和感・絞扼感、急激、7/10
#1. 胸部絞扼感
持続性、移動なし、肩放散痛?
不安 #2. ショック
#3. 糖尿病
息切れ(-)、咳・痰(-)。
冷汗(+)、嘔気(+)・嘔吐(-)
高血圧・糖尿病・CKD、喫煙・飲酒 その他
ビグアナイド・ACE-I内服中 #a. 不安
ショックインデックス>1 #b. 併存症管理
頻呼吸・頻脈、発汗・冷感
#c. 内服薬調整
貧血,S3(+),ラ音なし
トロポニンT陽性、V1-4でST上昇(+)
山ほど問題のある高齢者
キーワードリスト→プロブレムリスト
あれやこれや #1. 高血圧
ぐちゃぐちゃ #2. 心筋梗塞
たくさん #3. うつ病
・ #4. 両膝OA
・ #5. 白内障
・ #6. 骨粗鬆症
・ #7. 慢性心不全
・ #8. 認知症
・ #9. アルコール多飲
#10. 独居
2015年6月14日
第6回日本プライマリ・ケア学会学術大会
一般演題(口演)18 O-124

小規模病院の総合診療医外来における
患者特性や扱う問題の量・複雑さの分析

問題リスト数、中央値6(最小1-最大23)
140

120

100 10個以上 31%


80

60

40

20

0
3 6 9 12 15 18 21 24
山ほど問題のある高齢者
プロブレムリスト→グルーピング

心血管…高血圧・糖尿病、心筋梗塞・慢性心不全
精神 …認知症・うつ病、独居
運動器…骨粗鬆症・膝OA、易転倒性、白内障

発症の時系列はわからなくても、
とりあえず「どんな問題群があるか」はわかり
対応の「大雑把な方針」も見えやすい。
全体像の見える
系統的問題リスト

網羅的な問題リスト

家庭医療学や複雑系科学
問題志向型システム(POS)の限界
POSは素晴らしい発想
SOAPの記載内容や、プロブレムの定義
プロブレムリストのまとめ方は適当だった

内科学研鑽会が「総合プロブレム方式」を開発
プロブレム/プロブレムリストが明確に定義され、
記載方法にもルールが定められています。
内科学研鑽会 http://kensankai.lolipop.jp/pukiwiki/
総合プロブレム方式にも限界が…
• プロブレム=患者の病気とその呼び名
利点:症状や検査以上も名前として登録できる
欠点:疾患しか入れられない
心理社会的問題は扱わない

• プロブレムリスト=登録日付順
利点:100年でも通用する
欠点:重要度のメリハリがない
10個越えたあたりで限界

総合診療を「内科学」で扱うことの限界!!
総合医のための「第3の型」が必要
• Problem Oriented System
医師中心から患者中心になった!
SOAP枠は出来たが、細かいところは曖昧

• 総合プロブレム形式
問題が複数あっても論理的に分析可能
学生・初期研修医指導はこれで十分

• 佐藤式 「型」に基づくカルテの書き方
病棟、救急、診療所別に「応用の型」がある
総合医のための「特殊な型」もある!
複雑系とは(by Wikipedia)
• 相互に関連する複数の要因が合わさって
全体として予測不能な振る舞いを見せる系
• 分解してしまうと本質が抜け落ちる

全体像を理解する
• 最初に、
• 次に、 部分の関係性を考える
• 最後に、部分の意味が見える
コツ1 グルーピング
• 縦に列挙している問題リストが5個を超えたら
同じ系統の疾患・問題点を横に並べて
“グルーピング”する

高血圧、白内障、うつ病、骨粗鬆症、認知症、心筋梗塞、
両膝OA、慢性心不全、アルコール多飲、独居、糖尿病

心血管 …高血圧・糖尿病、心筋梗塞・慢性心不全
老年 …独居、認知症・うつ病、骨粗鬆症・膝OA、白内障
グループ名の例
リスク 血圧・脂質・血糖・飲酒・喫煙など
臓器障害 慢性心不全、COPD、慢性腎臓病など
運動器 骨粗鬆症、易転倒性、変形性関節症、骨折など
精神神経 うつ・不安、認知症・統合失調症、発達障害など
老年 認知機能障害・運動機能障害・排泄障害など
家族 離婚、死別、娘家出
社会 孤立・失職・僻地など
経済 無収入・生活保護、年金十分、借金多額など
支援 同居介護者2名、ヘルパー3/週、要介護3など
症状 急性上気道炎、頭痛など
健康管理 疾病予防や健康増進の実施状況
ACP 生きがい・趣味、DNAR、死に方の希望など
コツ2 Brief title
• プレゼンの「Opning statement」の応用で
全体像を1行でまとめる
– 問題名一つ一つを読む前に全体像をつかめる

• 「複雑度」、「困難度」、「主問題」、「担当期間」
– Complex / hard、Frail + CVD、13年2月担当
複雑事例の問題リスト 作成例
#:Complex/moderate、Frail+Organ、13年2月から担当の82歳女性
老年 …独居、うつ病・認知症、両膝OA・骨粗鬆症、難聴・白内障
臓器 …心筋梗塞→CHF(虚血性・HFrEF・AHA stage2)
リスク …高血圧症・高LDL血症・糖尿病(二次予防)、
アルコール多飲(AUDIT未実施)
周囲 …家族・支援・経済状況未把握
ACP …未確認

「複雑度が高く少し気合がいる、臓器障害はあるが老年問題が目立つ高齢女性。
老年症候群が多発し引きこもりや骨折などが起きそうなハイリスク状態。
その中でも心筋梗塞再発や心不全急性増悪予防をしなければならない。
しかし、キーパーソンもACP確認もできていないので何かが起きたらまずい」
佐藤外来のよくある問題リスト

 Complicated/Medium、Organ/Frail、2013年8月~
その他:不明熱
悪性 :前立腺癌、直腸癌
臓器 :CHF/OMI、COPD
老年 :低栄養・サルコペニア、乾燥性皮膚炎、IADL障害・要介護2、
骨粗鬆症(圧迫骨折×2回)、膝OA

 Complex/Medium、Mallig./Mental/Family、2012年11月~
悪性 :子宮頸癌(子宮全摘)→失職・離婚
心理 :不幸な一年→適応障害、母子家庭(娘高2)→娘家出・放浪中
社会 :生活保護・独居→復職成功→職場ストレス
内科 :慢性片頭痛、気管支喘息、喫煙(関心期)
丸山さんの急性期問題リスト
#1. 右下葉気管支肺炎
→市中肺炎(肺炎球菌性、重症)
#2. 急性心不全
→急性心不全(AMI+感染、CS4+CS2的病態)
#3. 急性前壁心筋梗塞
#4. 慢性肺気腫(COPD-AEなし)
#5. 急性腎障害(CKD+Septic AKI)
#6. せん妄
#7. 高血糖(糖尿病+Sepsis)
丸山さんの慢性期問題リスト
#1. COPD(GOLDstageD・BODE4)
#2. 慢性心不全(StageC、HFrEF・OMI)
#3. 慢性腎臓病(G3bA1、糖尿病性)
#4. 糖尿病(PPDR、CKD3、神経障害+。OMI+)
#5. 高血圧症(本態性±腎性、2度、OCI-)
#6. 喫煙者
#7. 認知症(FAST4・HDS-R16/30、AD、BPSD-)
#8. 低栄養、サルコペニア・IADL/BADL障害
#9. 齲歯・嚥下障害
#10. 前立腺肥大症、排尿障害
#11. ホームレス・無保険・無収入
丸山さんの系統的問題リスト
Complex/Medium、呼吸・心血管+老年・社会
呼吸器…進行期COPD(GOLDstageD・BODE4)
心血管…中等度慢性心不全(StageC、HFrEF・OMI)
慢性腎臓病(G3bA1、糖尿病性)
糖尿病・高血圧症・喫煙者

社会 …ホームレス・無保険・無収入
老年 …中等症認知症(FAST4、AD、BPSD-)
前立腺肥大・排尿障害
低栄養・サルコペニア、摂食嚥下障害
一番進行しているのは、実はCOPD
4年後に8割死亡 →予後延長よりQOL・介護度重視
死因は3等分 →肺炎・COPD増悪、心血管疾患、悪性腫瘍

CHF とCKDの影響
ToDo :ベータブロッカー・ACE-Iは必須
NotToDo:スピロノラクトンは超慎重に
SoSo :DM・HTの代替アウトカムに意味なし
方針を話し合いたいが…
本人は認知症
「ぽっくり逝きたい。タバコは死ぬまで吸う」

生命予後・QOL改善薬は入れたいが…
複雑な処方遵守は困難
HOTも、禁煙できないなら難しい

自宅もお金も家族もない
生活保護、施設入所はこぎつけた!
1日1回内服か貼付剤OK、自己注射や吸入薬は困難
Multimorbidityの対応策
かかりつけ主治医を決めてケアを調整・統合する

病気でなく「機能」に注目しリハ・栄養・老年ケア

ガイドライン通りに「しない」
ガイドラインは1疾患ごとのため、全てを守ると大変

標準治療からの外し方
De-intensification(HbA1cや血圧目標値をゆるくする)
機能ステージ別重み付け

参考:Managing patients with multimorbidity in primary care. BMJ. 2015。


地域医療ジャーナル(http://cmj.publishers.fm/)
機能別ステージでの介入重み付け
健康→有病→障害→終末

予防

治療
訓練
補助
緩和
治療の3本柱
根治療法(治療) 支持療法(訓練・補助) 対症療法(緩和)
できるに越したことはない 忘れられやすいが、 患者QOLのためには
合併症・副作用や 予後改善のために不可欠 常に必須かつ最重要!
治療関連死に注意 臓器障害サポートや
全身状態安定化

いわゆる内科・外科的治療 ABCDE+III+QRST 生活のバイタル


抗菌薬・抗癌剤 E:体表面・体温・管類管理 食:歯科・口渇・食思不振
デブリ・ドレナージ・手術 Ion & fluid:水分・電解質 便:頻尿・尿失禁、便秘
放射線 Insulin & nutrition:栄養 眠:不眠・不安・焦燥・うつ
Q:QOL、ADLの看護(生活) 動:倦怠感、胸痛、息切れ
R:リハビリテーション(障害) 他:痛み、しびれ、痒み
S:ソーシャルワーク(環境)
T:患者教育(知識・心)
丸山さんの具体的なプラン
緩やかな緩和ケアと考え、正しい治療よりも、
介護者のキャパ内で、本人の苦痛が少ないケア

息切れや倦怠感を減らす治療は動機づけする
肺炎や腎不全・透析、COPD進行・HOTは避ける
ワクチン、ACE-i内服や口腔ケア、電子タバコ
降圧する、DM無視、NSAIDs・利尿剤厳禁
Stroke・ACSの予防はほどほどに
PCI→DAPTで出血・腎障害・外傷は辛い
ピンピンコロリのぽっくり死が実現できる。
癌はスクリーニングしない
早期癌発見→侵襲的検査・治療でQOL低下、生存期間伸びない
進行癌発症→数ヶ月で苦痛なく死ねる、ホスピスも選べる
今日扱うテーマ

①患者情報からの
プロブレム抽出法

②治療方針に直結する
的確な病名の付け方

③Multimorbidity患者で
全体像のみえるまとめ方
参考文献
「型」が身につくカルテの書き方
医学書院、2015年4月
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02985_05

雑誌『治療』 南山堂、2016年2月号

「総合診療専門医らしいカルテの書き方」
http://www.nanzando.com/journals/chiryo/

日本内科学会誌
「Multimorbidity時代の
プロブレムリストの作り方」

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